香港は、外国人が住宅を買うときの税負担が数年で大きく変わった市場です。2024年2月28日に需要抑制のための3つの印紙税がまとめて廃止され、香港永住民と同じ従価印紙税だけになりました。一方で2026年2月26日からは、1億香港ドルを超える住宅の税率が引き上げられています。購入制限の有無と、いま実際に掛かる税額を、香港政府と香港税務局の公表資料で確認しました。
先に結論
- 香港には外国人の住宅購入を禁じる制度がありません。許可も事前届出も要りません。
- 2012年から続いていた買家印紙税(BSD)・額外印紙税(SSD)・新住宅印紙税(NRSD)は、2024年2月28日に執行される証書から課されなくなりました。
- いま住宅にかかるのは従価印紙税(AVD)だけです。400万香港ドル以下は税額が一律100香港ドルで、日本円にして約2,000円しかかかりません。
- 2026年2月26日以降に執行される証書からは、1億香港ドルを超える住宅の税率が4.25%から6.5%へ上がりました。
- 土地はすべて政府からの借地で、買うのは所有権ではなく期限のある土地の権利です。残りの年数を必ず確認します。
外国人の購入制限はない。ただし買うのは「借地」である
香港には、オーストラリアの既存住宅購入禁止や韓国の首都圏の許可制のような、外国人を名指しで止める制度がありません。非永住民でも法人でも、住宅を自分の名義で取得できます。買主の国籍によって手続きが増えることもありません。
そのかわり、香港の土地制度そのものが日本と違います。香港の土地は政府が貸し出す形になっていて、買主が手にするのは期限のある土地の権利です。契約書に書かれている残存期間は物件ごとに違い、期限が近い古い物件ほど住宅ローンが付きにくくなります。表面利回りだけを見て決めると、出口で詰まります。
この記事が扱うのは住宅(residential property)です。事務所や店舗などの非住宅は、2026年2月26日から別の税率表(Scale 3)が適用されるようになりました。住宅の数字をそのまま当てはめないでください。
2024年2月28日に、需要抑制の印紙税が3つ同時に廃止された
香港政府は2024-25年度予算案の発表と同じ日に、住宅に対する需要抑制措置(demand-side management measures)をすべて廃止しました。対象は額外印紙税(Special Stamp Duty)、買家印紙税(Buyer’s Stamp Duty)、新住宅印紙税(New Residential Stamp Duty)の3つで、2024年2月28日以降に執行される取引には課されません。

買家印紙税は、香港永住民以外の買主に課されていた税です。香港税務局の案内によれば、この税が適用されたのは2012年10月27日から2024年2月27日までに取得した住宅で、それ以降の証書には掛かりません。廃止は2024年印紙税(改正)条例によって実施され、条例は2024年4月19日に官報で公布されています。
従価印紙税の側も同じ時期に動いています。住宅に適用される「Scale 1のPart 1」は、2016年11月5日から2023年10月24日までは一律15%、2023年10月25日から2024年2月27日までは一律7.5%でした。2024年2月28日以降は、香港永住民に適用されるScale 2と同じ税率に揃えられています。
| 時期 | 買家印紙税・額外印紙税・新住宅印紙税 | 住宅の従価印紙税(Part 1 of Scale 1) |
|---|---|---|
| 2016年11月5日〜2023年10月24日 | 課される | 一律15% |
| 2023年10月25日〜2024年2月27日 | 課される | 一律7.5% |
| 2024年2月28日以降 | 課されない | Scale 2と同じ税率 |
いま掛かるのは従価印紙税だけ。400万香港ドル以下は100香港ドル
2026年9月25日時点で住宅に適用される税率は、香港政府のStamp Duty Ratesのページに載っています。2026年2月26日以降に執行される証書からは、Part 1 of Scale 1とScale 2が次の税率になりました。

注目すべきは最上段です。400万香港ドル以下の住宅は、税率ではなく税額で100香港ドルと決められています。1香港ドルを20円前後として計算すると、物件価格が約8,000万円でも印紙税は約2,000円にしかなりません。日本の不動産取得税や登録免許税の感覚とはまったく違う水準です。
| 対価または価額 | 税率または税額 |
|---|---|
| 400万香港ドル以下 | 100香港ドル(定額) |
| 400万超〜432万3,780香港ドル | 100香港ドル+400万超過分の20% |
| 432万3,780超〜450万香港ドル | 1.5% |
| 493万5,480超〜600万香港ドル | 2.25% |
| 664万2,860超〜900万香港ドル | 3% |
| 1,008万超〜2,000万香港ドル | 3.75% |
| 2,173万9,120超〜1億香港ドル | 4.25% |
| 1億超〜1億957万4,470香港ドル | 425万香港ドル+1億超過分の30% |
| 1億957万4,470香港ドル超 | 6.5% |
境目には段階的な調整の区間が入ります。たとえば450万香港ドルを1香港ドルでも超えると、超過分に10%が乗る区間に移ります。買付の金額を刻むときは、この境目をまたぐかどうかで税額が変わることを前提に交渉してください。
1億香港ドル超は2026年2月26日から6.5%になった
引き上げは高額帯に限られています。香港税務局の2026-27年度予算の税務措置のページには、1億香港ドルを超える住宅の印紙税率を4.25%から6.5%へ引き上げること、そして新税率が2026年2月26日以降に執行される売買または移転の証書に適用されることが書かれています。

同じページには、この措置が立法上の改正を通じて実施されること、内容は立法過程で変わりうることも書き添えられています。契約の直前に確認し直すべき項目です。
円に直すといくらになるか
金額の感覚をつかむために、三菱UFJ銀行が2026年9月25日に公表した相場で換算しました。この日の香港ドルは、電信売相場(TTS)が20.67円、電信買相場(TTB)が19.81円です。以下の概算は、その中値である20.24円を使っています。実際の適用相場は取引のたびに変わります。
| 物件価格 | 円換算の物件価格 | 適用される税率・税額 | 印紙税の円換算 |
|---|---|---|---|
| 300万香港ドル | 約6,072万円 | 100香港ドル(定額) | 約2,024円 |
| 500万香港ドル | 約1億120万円 | 2.25%=11万2,500香港ドル | 約228万円 |
| 800万香港ドル | 約1億6,192万円 | 3%=24万香港ドル | 約486万円 |
| 1,500万香港ドル | 約3億360万円 | 3.75%=56万2,500香港ドル | 約1,139万円 |
| 1億2,000万香港ドル | 約24億2,880万円 | 6.5%=780万香港ドル | 約1億5,787万円 |
400万香港ドル以下と、それを超えた帯との落差がきわだちます。約8,000万円の物件で約2,000円、約1億円の物件で約228万円ですから、境目の直前と直後で100倍以上の差が出ます。予算が400万香港ドルの近くにあるなら、その線を意識して探すほうが合理的です。
契約の前に確認すること
香港の住宅を買うときに見る5点
- 土地の権利の残存期間。香港の土地は政府からの借地です。残り年数が短い物件は、融資も出口も条件が厳しくなります。
- 住宅か非住宅か。2026年2月26日から非住宅には別の税率表が適用されます。用途の登記上の区分を確認します。
- 証書の執行日。税率は契約日ではなく証書が執行された日で決まります。年度替わりをまたぐ取引では特に重要です。
- 管理費と差餉(政府への納付)。印紙税が安くても保有中の費用は別に発生します。
- 日本側の報告義務。取得後に日本で必要になる報告と調書は別建てです。海外不動産の規制をまとめた記事で4種類を整理しています。
税率は予算案のたびに動きます。この記事の数字は2026年9月25日に香港政府と香港税務局のページで確認したものです。契約の前に、必ず最新の税率表を自分で開いて確かめてください。税務の判断は現地の専門家に確認する必要があります。
近隣の制度と並べると、香港の位置づけが分かる
アジアの主要市場を並べると、香港が外国人にとって手続きの少ない市場であることがはっきりします。制度の型がそれぞれ違うので、税率だけでなく「何が制限されているか」で比べるのが実務的です。
| 市場 | 制限の型 | 外国人に固有の負担 |
|---|---|---|
| 香港 | 購入制限なし | 2024年2月28日以降は永住民と同じ従価印紙税だけ |
| シンガポール | 物件の種類による承認制 | 追加買主印紙税(ABSD)が上乗せされる |
| 韓国 | 首都圏の住宅は許可制 | 許可を取らないと契約が効力を持たない |
| 台湾 | 平等互恵の原則と用途ごとの許可 | 移転できない土地の種類がある |
制度の中身は各市場の記事にまとめてあります。シンガポールの承認とABSD、韓国の首都圏の許可制、台湾の土地法の仕組みを合わせて読むと、香港の手続きの少なさが相対的に見えます。
よくある質問
買うのに香港の居住資格は要りますか
要りません。香港には外国人の住宅購入を禁じる制度がなく、居住資格による許可制もありません。2024年2月28日に買家印紙税が廃止されて以降は、永住民かどうかで印紙税の税率も変わらなくなりました。
法人名義でも同じ税率ですか
買家印紙税・新住宅印紙税が廃止された以上、2024年2月28日以降に執行される住宅の証書には従価印紙税が適用されます。ただし法人取引にはグループ内移転の救済など別の規定があり、2026年2月25日以降に執行される証書については救済の要件が緩和されています。個別の判断は現地の専門家に確認してください。
400万香港ドル以下の物件は実在しますか
価格帯としては存在します。ただし面積の小さい住戸や築年数の経ったものが中心になります。土地の権利の残存期間と管理状態を確かめずに、税額の安さだけで選ぶのは危険です。
非住宅を買う場合はどうなりますか
2026年2月26日から、非住宅には新設されたScale 3が適用されます。住宅の税率表とは別物なので、事務所や店舗を検討しているなら住宅の数字を当てはめないでください。
売るときに税金はかかりますか
短期転売に課されていた額外印紙税(SSD)は2024年2月28日に廃止されています。売却益に対する課税や日本側での申告は別の話で、居住地と保有形態によって扱いが変わります。
まとめ
香港の住宅は、外国人でも制限なく買えます。2024年2月28日に買家印紙税・額外印紙税・新住宅印紙税が同時に廃止され、いま掛かるのは従価印紙税だけです。400万香港ドル以下は税額が定額の100香港ドルで、日本円にして約2,000円。そこを超えると1.5%から段階的に上がり、2026年2月26日以降は1億香港ドル超が6.5%になりました。税負担の軽さは魅力ですが、買うのは期限のある土地の権利であること、税率は予算案のたびに動くことの2点は外せません。契約の前に、香港政府の税率表と香港税務局の予算措置のページを自分で開いて確認してください。
この記事で参照した情報
- GovHK「Stamp Duty Rates」https://www.gov.hk/en/residents/taxes/stamp/stamp_duty_rates.htm
- 香港特別行政区政府「Abolition of demand-side management measures for residential properties」(2024年2月28日)https://www.info.gov.hk/gia/general/202402/28/P2024022800551.htm
- 香港税務局(Inland Revenue Department)「2026-27 Budget – Tax Measures」https://www.ird.gov.hk/eng/tax/budget.htm
- 香港税務局「FAQ on Buyer’s Stamp Duty (BSD)」https://www.ird.gov.hk/eng/faq/bsd.htm
- 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「外国為替相場」2026年9月25日https://www.murc-kawasesouba.jp/fx/index.php
