シンガポールのコンドミニアムは、日本に住む日本人でも許可なく買えます。制度上のハードルは、実は「買えるかどうか」ではありません。買った瞬間にかかる印紙税が、物件価格の6割を超えるところにあります。ここでは、シンガポール土地庁(SLA)が公表している所有規制の区分と、内国歳入庁(IRAS)が公表している印紙税率だけを使って、外国人がどこまで買えるのか、いくら払うことになるのかを整理します。

先に押さえる要点

  • コンドミニアムとフラットは承認なしで買えます。SLAは承認不要の類型として、コンドミニアムの1住戸、フラット、承認済みコンドミニアム開発内のストラタ・ランデッド住宅などを挙げています。
  • 土地付き住宅(ランデッド)は承認が必要です。セントーサ・コーブも含みます。審査は個別で、SLAは判断材料として「シンガポールの永住権を5年以上保有していること」「シンガポールへの並外れた経済的貢献があること」を挙げています。
  • 承認の審査にはおおむね30営業日かかります。物件が決まっていなくても、原則承認(in-principle approval)の申請はできます。
  • 外国人が住宅を買うときの追加買主印紙税(ABSD)は60%。2023年4月27日以降に取得した住宅に適用され、1件目から一律です。
  • これに買主印紙税(BSD)が上乗せされます。S$2,000,000の住宅なら、BSDとABSDの合計はS$1,269,600になります。
  • 日本国籍はABSD免除の対象に入っていません。免除の対象はアイスランド・リヒテンシュタイン・ノルウェー・スイスの国民および永住者と、アメリカ合衆国の国民です。
  • 短期で売ると売主印紙税(SSD)がかかります。2025年7月4日以降に取得した住宅は保有4年までが対象で、1年以内の売却は16%です。

買えるもの、承認が要るものの線引き

シンガポールの住宅取得規制は Residential Property Act に基づいており、実務上の窓口はSLAのLand Dealings Approval Unit(LDAU)です。SLAは自サイトで「これは住宅の外国人所有とResidential Property Actに関する公式サイトである。他のサイトには最新でない情報が含まれることがあるため、この情報源を参照してほしい」と断ったうえで、承認が要る類型と要らない類型を列挙しています。

シンガポールで外国人が承認なしで買える物件と承認が必要な物件を、コンドミニアムと土地付き住宅などに分けて左右に並べた比較図
SLA「Foreign ownership of property」の区分をもとに作成。

「外国人」の定義は国籍だけで決まらない

SLAの定義では、foreign person(外国人)とはシンガポール市民、シンガポール法人、シンガポールの有限責任事業組合、シンガポールの団体のいずれでもない者を指します。裏を返すと、シンガポール永住権(PR)を持っていても、市民でなければ規制上は外国人です。PRであることは承認審査で有利に働く材料ではありますが、規制の対象外になるわけではありません。

分かれ目は「土地が付いているか」

承認不要の側に並ぶのは、コンドミニアムの1住戸、フラット、承認済みコンドミニアム開発内のストラタ・ランデッド住宅、ランデッド住宅の7年以下のリースホールド(更新オプションによる延長期間を含めて7年以下)、商業用途のショップハウス、工業用・商業用不動産、Hotels Actに基づき登録されたホテル、そしてエグゼクティブ・コンドミニアム/HDBフラット/HDBショップハウスです。

一方、承認が要るのは、更地の住宅用地、テラスハウス、セミデタッチドハウス、バンガロー(独立戸建て)、承認済みコンドミニアム開発内ではないストラタ・ランデッド住宅(タウンハウスやクラスターハウス)、セントーサ・コーブの土地付き住宅、非商業用途のショップハウス、団体の施設、礼拝所、労働者用宿舎およびサービスアパートメント、商業・住宅の複合物件です。

エグゼクティブ・コンドミニアムやHDBフラットは、Residential Property Actの承認が不要というだけです。SLAはこの類型について、HDBの資格要件を別途確認するよう案内しています。承認不要イコール誰でも買える、という意味ではありません。

承認が要る場合の審査基準と期間

SLAは「各申請者は個別に、以下を含むがこれに限られない要素を考慮して審査される」としたうえで、次の2点を挙げています。ひとつはシンガポールの永住者であること(5年以上)。もうひとつはシンガポールへの並外れた経済的貢献で、これはシンガポールで課税対象となる給与所得などを考慮して判断されるとしています。

審査期間は、必要書類と情報がすべて揃った日からおおむね30営業日。複雑な案件や追加情報が必要な案件では延びることがあるため、早めの申請が推奨されています。買う物件が決まっていない段階でも、原則承認の申請を出しておくことができます。

シンガポール土地庁の公式サイトForeign ownership of propertyのページ画面。審査期間や申請方法の注意書きが表示されている
出典:Singapore Land Authority「Foreign ownership of property」(Last updated 20 August 2025)。

買うときの税:BSDとABSDで6割を超える

規制よりも重いのが税負担です。シンガポールで住宅を取得すると、買主印紙税(Buyer’s Stamp Duty、BSD)と追加買主印紙税(Additional Buyer’s Stamp Duty、ABSD)の2つがかかります。

ABSDは買主の属性で決まる

買主の区分 2021年12月16日〜2023年4月26日 2023年4月27日以降
シンガポール市民(1件目) 適用なし 適用なし
シンガポール市民(2件目) 17% 20%
シンガポール市民(3件目以降) 25% 30%
永住者(1件目) 5% 5%
永住者(2件目) 25% 30%
永住者(3件目以降) 30% 35%
外国人(すべての住宅) 30% 60%
法人(すべての住宅) 35% 65%
受託者(すべての住宅) 35%(2022年5月9日〜) 65%

外国人の率が30%から60%へ倍になったのが2023年4月27日です。市民の1件目は依然としてABSDがかからないのに対し、外国人は1件目から60%。この差が、シンガポール住宅市場の外国人比率を大きく左右しています。

BSDは価格帯ごとの累進

価格帯(購入価格または市場価格の高いほう) 住宅のBSD率 非住宅のBSD率
最初のS$180,000 1% 1%
次のS$180,000 2% 2%
次のS$640,000 3% 3%
次のS$500,000 4% 4%
次のS$1,500,000 5% 5%
残額 6% 5%

この率は2023年2月15日以降の取得に適用されます。非住宅は上限が5%で頭打ちになるのに対し、住宅はS$3,000,000超の部分に6%がかかります。

実際にいくらになるか

物件価格100万・200万・300万シンガポールドルの3ケースについて、買主印紙税と追加買主印紙税の内訳を横棒で示したグラフ
IRASが公表しているBSDとABSDの率から計算した、購入時の印紙税額。
物件価格 BSD ABSD(60%) 印紙税の合計 物件価格に対する比率
S$1,000,000 S$24,600 S$600,000 S$624,600 約62.5%
S$2,000,000 S$69,600 S$1,200,000 S$1,269,600 約63.5%
S$3,000,000 S$119,600 S$1,800,000 S$1,919,600 約64.0%

S$2,000,000の住宅を買うと、物件代金のほかにS$1,269,600の印紙税が必要になります。仲介手数料や弁護士費用は別です。為替は日々動くため、この記事では円換算を載せていません。検討するときは、購入時点のレートで自分で計算してください。

ABSDは購入または取得の日から14日以内に納付します。BSDと合わせて、契約直後にまとまった資金が要る点は資金計画に直結します。

ABSDの免除対象に日本は入っていない

IRASは、自由貿易協定(FTA)に基づいて一部の国の国民・永住者にABSDの免除(remission)を認めています。対象は次のとおりで、これらに該当する人はシンガポール市民と同じ印紙税の扱いを受けます。

アイスランド

国民および永住者

リヒテンシュタイン

国民および永住者

ノルウェー

国民および永住者

スイス

国民および永住者

アメリカ合衆国

国民のみ(永住者は対象外)

日本

対象に含まれていない。外国人としての60%が適用される

免除を受ける場合は、myTax Portalで印紙税を申告して免除証明書を取得する流れになります。日本のパスポートしか持っていない個人がシンガポールの住宅を買うと、この免除は使えません。

シンガポール内国歳入庁の公式サイトの印紙税率ページ画面。買主印紙税の税率表が表示されている
出典:Inland Revenue Authority of Singapore「Stamp Duty」税率一覧。

売るときの税:保有期間が4年に延びた

出口も見ておく必要があります。住宅を短期で売却すると売主印紙税(Seller’s Stamp Duty、SSD)がかかります。ここは2025年に変更が入りました。

保有期間 2017年3月11日〜2025年7月3日に取得 2025年7月4日以降に取得
1年以内 12% 16%
1年超2年以内 8% 12%
2年超3年以内 4% 8%
3年超4年以内 課税なし 4%
4年超 課税なし 課税なし

2025年7月4日以降に取得した住宅は、課税対象の保有期間が3年から4年へ延び、率も各段階で4ポイント引き上げられました。短期転売を前提とした計画は成り立ちにくくなっています。SSDは実際の売却価格と市場価格の高いほうに対してかかります。

検討するときの手順

1. 買う物件の類型を確定する

コンドミニアムの1住戸なのか、ストラタ・ランデッドなのかで承認の要否が変わります。ストラタ・ランデッドは「承認済みコンドミニアム開発内かどうか」が分かれ目です。

2. 承認が要るなら先に申請する

審査はおおむね30営業日。物件未定でも原則承認を申請できるので、土地付き住宅を狙うなら物件探しと並行して動くのが現実的です。

3. 印紙税を含めた総額で判断する

物件価格の約6割が印紙税として上乗せされます。表面利回りの計算に、この初期コストを必ず入れてください。

4. 出口の保有期間を決める

2025年7月4日以降の取得はSSDが4年間かかります。4年超の保有を前提にするか、SSDを織り込むかを先に決めます。

5. 納付期限を資金計画に入れる

ABSDは購入・取得から14日以内。契約から短期間で大きな現金が要ります。

6. 日本側の課税も並行して確認する

日本の居住者は国外の不動産所得も申告の対象です。二重課税の調整は外国税額控除の枠組みで検討します。

よくある質問

日本に住んだままコンドミニアムを買えますか

Residential Property Actの観点では、コンドミニアムの1住戸は承認不要の類型に含まれています。居住地を理由とした承認要件はSLAのページに書かれていません。ただし印紙税は外国人としての扱いになり、ABSD60%が適用されます。

永住権があればABSDは下がりますか

下がります。永住者の1件目は5%、2件目は30%、3件目以降は35%です(2023年4月27日以降)。ただし永住者は市民ではないため、Residential Property Actの上では引き続き外国人であり、土地付き住宅には承認が必要です。

法人名義で買えば安くなりますか

逆です。IRASの表では、法人(Entities)が住宅を取得した場合のABSDは65%で、外国人個人の60%より高くなっています。受託者(Trustee)も65%です。

セントーサ・コーブなら外国人でも買いやすいと聞きました

SLAは、セントーサ・コーブを含めて土地付き住宅の購入には承認が必要だと明記しています。承認が要る類型の一覧にも「Landed residential property at Sentosa Cove」が入っています。承認不要という説明があれば、SLAの記載と照らして確認してください。

HDBフラットは買えますか

Residential Property Actの承認は不要な類型に含まれていますが、SLAはHDBの資格要件を別途確認するよう案内しています。この記事ではHDB側の要件までは扱っていません。

賃貸に出す場合の税金はどうなりますか

この記事で確認したのは、取得時のBSD・ABSDと売却時のSSDです。賃料収入にかかる所得税や固定資産税(property tax)については確認していません。保有期間中のコストは別途、IRASの該当ページで確認してください。

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