ベルギーで物件を買うときに効いてくるのは、国籍の条件ではなく登録税(droits d’enregistrement/registratiebelasting)です。これは連邦の税ではなく地域の税で、フランデレン・ワロン・ブリュッセル首都圏の3つで税率も軽減の仕組みも別々に決まっています。さらに軽減が使えるかどうかは「他に住宅を持っているか」で判定され、その判定はベルギー国内の物件だけを見るわけではありません。各地域政府と公証人連合の公表資料で、2026年10月26日時点の税率と条件を確かめました。
公表資料で確認できた点
- フランデレンの基本税率は12%です。唯一の自宅として買う個人だけが2%になります。保護建造物の自宅は1%、社会住宅は1.5%、認定社会住宅賃貸機関を通して貸す場合は7%、登録した不動産業者の仕入れは6%と、条件ごとに細かく分かれています。
- ワロンの基本税率は12.5%です。2025年1月1日から、自分が住む唯一の住宅だけが3%に下がりました。賃貸用・セカンドハウス・法人名義はいずれも12.5%のままです。
- ブリュッセル首都圏も12.5%で、自宅として買う場合に最初の20万ユーロが課税対象から外れる控除(abattement)があります。節約額は最大25,000ユーロです。
- 軽減の可否を決める「他に住宅を持っていないこと」は、ベルギー国内か国外かを問いません。ワロン地域政府のFAQは、国外の住宅を持っている場合も3%は使えないと明記しています。
- 結果として、日本に自宅を持ったまま投資目的で買う日本人には、フランデレンで12%、ワロンとブリュッセルで12.5%がそのままかかります。近隣のフランス(県により約5.81%か約6.32%)やドイツ(州により3.5%から)と比べると高い水準です。
- フランデレンの2%は、2027年1月1日の契約から3%へ引き上げられる見込みです。2027年予算の合意に含まれており、法制化はまだ終わっていません。
国籍で買えなくなる仕組みはなく、入口は公証人の本人確認
今回参照した3地域の税制と、ベルギー公証人連合(Fednot)の案内の中には、国籍を理由に取得を許可制にしたり相互主義を求めたりする規定が出てきませんでした。軽減税率の条件として並ぶのは、自然人であること、他に住宅を持っていないこと、一定期間そこに住むことで、どれも国籍とは無関係です。公証人による公開入札Bidditについては、ベルギーのIDカードを持たない外国人でも、売却を担当する公証人事務所に連絡してパスポートの確認を受ければ入札用のIDとパスワードを受け取れるとFednotが説明しています。外国人かどうかは、許可の問題ではなく本人確認の手順として扱われています。
売買そのものは公証人による公正証書で行い、その登記にあわせて登録税を納めます。フランデレン政府の説明では、買主が税の納付義務者で、公証人が先に預かって当局の賦課通知を受けて納めます。私署証書(compromis)を公正証書より先に登録した場合は、登録した人がその場で納めることになります。
つまりベルギーで迷うのは「買えるかどうか」ではなく「どの地域でいくら取られるか」です。この構造は、許可制を持たないドイツやフランスと似ていますが、税率の開き方はベルギーのほうが大きくなります。
登録税は地域税。同じ国の中で2系統に分かれる
ベルギーは連邦国家で、登録税は地域が決めます。物件の所在地がどの地域かで、適用される税率も軽減の名前も変わります。同じ国の中で制度が3つ並んでいると考えてください。
| 地域 | 基本税率 | 自宅の軽減 | 軽減の形 |
|---|---|---|---|
| フランデレン | 12% | 2% | 税率そのものを下げる |
| ワロン | 12.5% | 3% | 税率そのものを下げる(2025年1月1日から) |
| ブリュッセル首都圏 | 12.5% | 税率は据え置き | 課税標準から20万ユーロを控除する |
ワロンの税率は、買う目的ごとに公証人連合が表で公開しています。賃貸用、セカンドハウス、法人名義がいずれも12.5%に並んでいるのが、投資目的の買主にとっての答えです。

フランデレンは12%が基本で、2%は条件の束
フランデレン税務局(Vlaamse Belastingdienst)の説明によれば、基本税率は12%です。2%になるのは「唯一の自分の住まい(sole own dwelling)」を個人が買う場合に限られ、購入から3年以内にその住所で住民登録することが主な条件とされています。改修が必要な物件では、この3年という期限が効いてきます。

| 対象 | 税率 | 主な条件 |
|---|---|---|
| 上記以外のすべて | 12% | 唯一の自宅ではない購入はここに入る |
| 唯一の自分の住まい | 2% | 個人であること、3年以内に住民登録すること |
| 唯一の自分の住まいが保護建造物 | 1% | 5年以内に保存・改修工事へ投資すること |
| 社会住宅の購入 | 1.5% | 社会住宅会社・VMSWからの購入 |
| 認定社会住宅賃貸機関を通して貸す物件 | 7% | 一定の条件を満たす場合 |
| 登録した不動産業者の仕入れ | 6% | フランデレン税務局への登録が必要 |
| 未開発の農地・自然資産 | 10% | Type2またはType3の管理計画があるもの |
軽減税率に加えて、購入価格20万ユーロ以下の「modest dwelling」には税額の控除が重ねられます。ブリュッセル周辺のフラームス・ランドや中核都市では、この上限が22万ユーロになります。また、10%の税率で買った住宅を2年以内に売り直した場合、納めた税の5分の3を取り戻せる制度も残っています。
ワロンは2025年に12.5%から3%へ一気に下げた
ワロン議会は2024年12月4日に、自分が住む唯一の住宅について登録税を引き下げる政令を可決しました。ワロン地域政府の告知によれば、2025年1月1日から税率は12.5%から3%になります。狙いは若い世代の住宅取得を支えることだと説明されています。
引き下げと引き換えに、それまで並行していた仕組みは廃止されました。初回取得者向けの控除(abattement primo-acquérant)、住宅手当(chèque-habitat)、小規模住宅向けの軽減税率(taux réduit pour habitation modeste)の3つです。制度の数を減らして税率1本にまとめた形です。
| 買い方 | 税率 |
|---|---|
| 自分の主たる住居を買う | 3%(条件つき) |
| 賃貸用の物件を買う | 12.5% |
| セカンドハウスを買う | 12.5% |
| 法人を通して買う | 12.5% |
| 主たる住居を建てる土地を買う | 3%(条件つき) |
3%を使うには、他に住宅用の不動産を持っていないこと、既存住宅なら3年以内(建築用地や建築中の住宅なら5年以内)に入居すること、入居から3年以上そこを主たる住居として維持することが求められます。すでに住宅を持っている場合でも、新しい物件の取得から3年以内に売ると約束すれば3%が使えます。
ブリュッセルは税率を下げず、20万ユーロを課税対象から外す
ブリュッセル首都圏の方式は他の2地域と違います。税率は12.5%のまま据え置き、自宅として買う人に限って最初の20万ユーロを課税対象から外します。建築用地の場合は10万ユーロです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 控除額 | 20万ユーロ(建築用地は10万ユーロ) |
| 節約できる額 | 最大25,000ユーロ |
| 物件価格の上限 | 60万ユーロ(建築用地は30万ユーロ) |
| 買主 | 自然人であること。法人は対象外 |
| 他の住宅の保有 | 売買予約の時点で、住宅用の他の不動産を完全所有していないこと。ベルギー国内か国外かを問わない |
| 居住の義務 | 3年以内に主たる住居とし、5年間とぎれずに維持すること |
| 省エネ改修の上乗せ | 5年以内にEPBの等級が2段階以上上がると、1段階ごとに25,000ユーロの追加控除 |
省エネ改修の上乗せは2023年4月1日からの仕組みで、4段階上げれば追加控除は10万ユーロ、税額では12,500ユーロの効果になります。工事に時間がかかることを見込んで、この上乗せを申請する場合は入居期限が3年から5年へ延びます。
日本に自宅があると、3地域のどれでも軽減は使えない
ここが日本人の買主にとっていちばん重要な点です。軽減の可否を決める「他に住宅を持っていないこと」という条件は、ベルギー国内の物件だけを見ているのではありません。ワロン地域政府が公開しているFAQには、次のように書かれています。
La possession de cette habitation, qu’elle soit située en Belgique ou à l’étranger, ne permet pas de bénéficier de l’application du taux de 3 % sur la nouvelle habitation acquise.(その住宅をベルギー国内に持っていようと国外に持っていようと、新しく取得する住宅に3%の税率を適用することはできない)
ブリュッセルの条件も同じ書き方です。notaire.beの説明では、売買予約の時点で住宅用の他の不動産を完全所有していないことが求められ、そこにも「ベルギー国内か国外かを問わず」と添えられています。日本に持ち家がある人は、この時点で控除の対象から外れます。
軽減を使えるかどうかの判定
軽減の条件は「取得した後」にも効き続けます。ブリュッセルは5年、ワロンは3年の居住継続が必要で、フランデレンは3年以内の住民登録が条件です。条件を満たせなくなると、軽減された分は追徴され、場合によっては加算もあります。
ベルギー以外に住む買主にとって、この居住義務は実務上かなり重い条件です。軽減が使える前提で利回りを計算しないでください。投資目的なら、はじめから12%または12.5%で試算するのが現実的です。
30万ユーロの物件で、地域ごとにいくら変わるか
税率の差を金額に直すと見通しが立ちます。物件価格30万ユーロで、日本に自宅がある人が投資用に買う場合と、ベルギーに移り住んで自宅として買う場合を並べます。公証人報酬や登記費用は別にかかるため、ここでは登録税だけの比較です。
| 地域 | 投資用(軽減なし) | 自宅として(軽減あり) | 差額 |
|---|---|---|---|
| フランデレン | 36,000ユーロ | 6,000ユーロ | 30,000ユーロ |
| ワロン | 37,500ユーロ | 9,000ユーロ | 28,500ユーロ |
| ブリュッセル首都圏 | 37,500ユーロ | 12,500ユーロ | 25,000ユーロ |
投資用なら、どの地域でも物件価格の1割を超える額が取得時に出ていきます。移転税が2026年に8%へ上がるオランダと比べても、ベルギーのほうが高い水準です。取得時の税が重い国では、短期で売り抜ける前提の計算が成立しにくくなります。
2027年にフランデレンの2%が3%へ上がる見込み
ベルギー公証人連合は、フランデレンの軽減税率が2027年1月1日に結ばれる売買契約から2%より上がる見込みだと伝えています。引き上げ後の水準は3%で、2027年の予算合意に含まれている一方、法令としての整備はまだ終わっていません。
自宅として買う予定があり、契約の時期を選べるなら、年をまたぐかどうかで税額が変わります。30万ユーロの物件なら、2%と3%の差は3,000ユーロです。ただし予算合意の段階であり、条件や施行日が変わる可能性は残ります。
買う前に地域と条件を確かめる
ベルギーで物件を見る前に押さえる4点
物件がどの地域にあるか
ブリュッセル首都圏は19の自治体で構成され、周囲はフランデレンです。隣り合っていても税率と軽減の仕組みが変わる。
自分が住むのか貸すのか
軽減はすべて「自分が住むこと」が前提。賃貸やセカンドハウスは基本税率。
日本を含めて住宅を持っているか
国外の持ち家も判定に入る。ワロンは3年以内に売る約束で例外があるが、他は例外が無い。
登録税以外の費用
公証人報酬、登記費用、必要に応じて抵当権設定の費用が別にかかる。公証人連合は費用の試算ツールを公開している。
ベルギーは購入の入口が開いている一方で、取得時の税が重く、軽減は居住を伴う人に向けて設計されています。日本に生活の拠点を残したまま投資として持つなら、取得税を1割強とみて利回りを引き直すところから始めてください。
出典
- フランデレン政府 Sales duty on real estate — 基本税率12%、唯一の自宅2%、保護建造物1%、社会住宅1.5%、社会住宅賃貸機関7%、不動産業者6%、未開発農地10%、modest dwellingの20万ユーロ(中核都市とフラームス・ランドは22万ユーロ)、2年以内の売り直しで5分の3を取り戻せる制度、買主が納税義務者で公証人が預かって納めること
- ワロン地域政府 Réduction des droits d’enregistrement, de succession et de donation — 2024年12月4日のワロン議会可決、2025年1月1日から12.5%が3%になること、初回取得者控除・chèque-habitat・小規模住宅の軽減税率が廃止されること、3年以内の売却を約束すれば既存の持ち家があっても3%を使えること
- ワロン地域 Réduction des droits d’enregistrement à 3% のFAQ — 住宅をベルギー国内に持っていても国外に持っていても3%を使えないこと、3年以内に売却した場合の例外
- ベルギー公証人連合 Droits d’enregistrement en Région wallonne — 主たる住居3%、賃貸用12.5%、セカンドハウス12.5%、法人経由12.5%、主たる住居を建てる土地3%という税率表と、3%の3つの条件
- ブリュッセル首都圏 Real estate: breaking down the new tax abatement — 2023年4月1日からの制度、12.5%の税率、20万ユーロの控除と建築用地の10万ユーロ、最大25,000ユーロの節約、60万ユーロ(建築用地30万ユーロ)の上限、3年以内の入居と5年の継続、EPB2等級改善で1等級ごと25,000ユーロの追加控除
- ベルギー公証人連合 Droits d’enregistrement, réduction et abattement à Bruxelles — ブリュッセルの12.5%と20万ユーロの控除、法人が対象外であること、他の住宅の保有をベルギー国内外を問わず判定すること、5年間の居住継続
- ベルギー公証人連合 Woning kopen? Vanaf 2027 stijgt het verlaagde verkooprecht mogelijk van 2% naar 3% — 2027年1月1日からの契約で軽減税率が2%から3%へ上がる見込みであること、2027年予算合意に含まれ法制化が残っていること
- ベルギー公証人連合 Biddit: la vente publique online en 11 questions et réponses concrètes — ベルギーのIDカードを持たない外国人が、売却を担当する公証人事務所に連絡してパスポートの確認を受ければ、公証人による公開入札Bidditの入札用IDとパスワードを受け取れること
