ルクセンブルクの不動産を調べると、取得時の税率として7%という数字が出てきます。ところが現地の案内を読むと「ほとんどの買主は登録税を払っていない」という説明に行き当たります。どちらも正しく、間を埋めているのが Bëllegen Akt と呼ばれる税額控除です。これは税率を下げる制度ではなく、払うべき税から1人あたり定額を差し引く仕組みで、使えるかどうかは物件の用途と買主の居住地で決まります。政府の案内ポータル Guichet.lu と、登録税を扱う当局(AED)の間接税ポータル、そして2026年7月16日の政府発表を2026年10月27日に引いて、日本から買う場合に実際いくらかかるのかを整理しました。

公表資料で確認できた点

  1. 不動産の有償取得にかかる標準税率は7%です。内訳は登録税6%と転写税1%で、Guichet.lu と AED の両方が同じ数字を示しています。
  2. Bëllegen Akt は1人あたり40,000ユーロの税額控除です。AED の間接税ポータルは、2025年7月3日の法律でこの金額が固定されたと書いています。
  3. 控除の対象は自分が主として住む住宅だけです。セカンドハウス、週末用の家、賃貸用や商業用の建物は対象外と明記されています。
  4. EEA(欧州経済領域)の居住者はルクセンブルク居住者と同じ扱いで、公正証書の署名時に自動で控除が入ります。日本を含む第三国の居住者は、ルクセンブルクの居住証明を出せるようになってからでないと控除されません。
  5. 控除を受けると、2年以内(土地や建築中の物件は4年以内)に入居し、連続2年以上住む義務が付きます。途中で貸したり売ったりすると、法定利息を付けて全額返還です。
  6. 政府は2026年7月16日に、この控除を45,000ユーロへ引き上げると発表しました。同日から適用で、約640,000ユーロの物件まで登録税がかからない計算になるとしています。

国籍の条件は出てこない。効いてくるのは取得時の7%

ルクセンブルクの公的な案内を購入の入口から順に読んでも、買主の国籍や居住地を理由に取得を制限する記述は出てきません。売買契約(compromis de vente)の説明にも、公正証書の説明にも、国籍要件は書かれていません。出てくるのは、署名する書類の性質と、支払う税の話です。

実務上の入口は公証人です。売買は公証人の作成する公正証書(acte notarié)で確定し、登録税と転写税もその場で計算されます。買主が日本に住んでいても、この流れ自体は変わりません。変わるのは、次に説明する税額控除の受け取り方です。

7%の正体は登録税6%と転写税1%

Guichet.lu の税額控除のページには、取得時の税率が明快に書かれています。住宅・アパート・建築可能な土地のいずれを買う場合も標準税率は7%で、その内訳は登録税が6%、転写税が1%です。

ルクセンブルク政府の案内ポータルGuichet.luの税額控除のページのキャプチャ。標準税率が7%で、うち6%が登録税、1%が転写税であること、税額控除は1人あたり40,000ユーロが上限で物件に実際に本人が居住することが条件であること、当局は最低100ユーロの登録税と転写税を徴収することが英語で書かれている
Guichet.lu の税額控除のページ。7%の内訳と、控除の上限40,000ユーロ、最低徴収額100ユーロが並んでいる(2026年10月27日に表示)。

同じ段落には、控除を使い切った場合でも当局(Administration de l’enregistrement, des domaines et de la TVA、略称AED)が最低100ユーロの登録税と転写税を徴収する、という但し書きがあります。税額がゼロになる物件でも、支払いが完全に消えるわけではありません。

取得時にかかる税の内訳(Guichet.lu と AED の公表による。2026年10月27日時点)
区分 税率 性格
登録税(droits d’enregistrement) 6% 売買そのものに課される
転写税(droits de transcription) 1% 登記簿への移転の記録に課される
合計 7% 住宅・アパート・建築可能な土地に共通
最低徴収額 100ユーロ 控除で計算上ゼロになっても徴収される

Bëllegen Akt は税率ではなく、1人40,000ユーロの定額控除

Bëllegen Akt はルクセンブルク語で「安い証書」という意味の通称です。制度の中身は登録税と転写税から差し引く税額控除で、2026年10月27日時点の金額は1人あたり40,000ユーロです。税率を下げる制度ではないため、物件価格が上がるほど控除の効き目は相対的に小さくなります。

ルクセンブルクの間接税ポータルpfi.public.luの税額控除のページのキャプチャ。2002年7月30日の法律とその改正の経緯が列挙され、2025年7月3日の法律によって控除額が1人あたり40,000ユーロに定められたとフランス語で書かれている
AED の間接税ポータル。2025年7月3日の法律(Mémorial A 第279号)で控除額が40,000ユーロに固定されたと書かれている(2026年10月27日に表示)。

この40,000ユーロという金額にたどり着くまでには、何度かの改正があります。経緯を押さえておくと、少し古い記事に出てくる30,000ユーロという数字が何を指しているのかが分かります。

控除額が動いてきた経緯(AED の間接税ポータルの記載による)

2002年7月30日の法律

建築用地と住宅の取得を促すための税制措置として、控除の仕組みが導入された。以後、2008年の「Pacte logement」、2012年の法律で改正されている。

2023年5月16日の法律

控除額が1人あたり30,000ユーロに定められた。2023年3月7日以降の公正証書については、差額を買主へ直接還付する手続きが用意された。

2024年5月22日の法律

住宅市場の立て直し策として、2024年中に署名された公正証書に限り40,000ユーロへ一時的に引き上げられた。

2025年4月4日の法律

一時措置が2025年6月30日まで延長された。2025年1月1日から4月7日までに署名した買主は、AEDへ還付申請する様式が用意された。

2025年7月3日の法律

控除額が1人あたり40,000ユーロに固定された。期限付きの引き上げではなく、これが現行の金額になっている。

一時措置が繰り返されたため、年によって30,000ユーロと40,000ユーロが混在する。現行は2025年7月3日の法律による40,000ユーロ。

控除は一度で使い切る必要がありません。Guichet.lu は、ある取得で発生した登録税・転写税が控除の総額に届かない場合、残りは使い切るまで別の取得に充てられると説明しています。つまり一生涯で使える枠として理解するのが正確です。

投資目的で買うと、この控除は使えない

海外不動産投資という観点でもっとも重要なのは、控除の対象範囲です。Guichet.lu は、控除が認められる物件と認められない物件を名指しで分けています。

Bëllegen Akt の対象になる物件とならない物件(Guichet.lu の記載による)
対象 内容
対象になる 所有者が主たる住居として実際に住む住宅(建築中のものを含む)/住宅地にあり建築規則上すぐ建てられる建築用地で、主たる住居に充てるもの/主たる建物に接するか近接する車庫・納屋・庭などの付属物
対象にならない セカンドハウス/週末用の家/賃貸用および商業用の建物
取得の形 売買、競売、共有解消のための公売、清算金の生じる分割・交換、長期賃借権や地上権の設定・譲渡
対象外の取得 贈与と相続による取得

賃貸に回す前提で買うなら、控除は最初から視野に入りません。7%がそのまま取得コストに乗ります。日本から利回りを計算する場合は、この7%を前提に置いてください。

控除を受けると、住む義務が付いてきます。公正証書の日から2年以内(建築用地や建築中の物件は4年以内)に実際に入居し、途切れずに2年以上住むことを約束します。この期間中に一部でも賃貸に出す、譲渡する、住むのをやめると、控除額を法定利息付きで全額返還することになります。

病気・強制売却・収用・配偶者の死亡・離婚などは、免除を申請できます。また職業上やむを得ず居住を中断する場合も、戻ったときに残りの期間を住むことを条件に免除を申請できるとされています。いずれも AED への申請が必要です。

日本に住んだまま買うと、控除は後払いになる

控除が受けられるとしても、受け取り方は居住地で変わります。Guichet.lu は買主を3つに分けて説明しています。

居住地によって変わる控除の受け取り方

ルクセンブルク居住者

公正証書の署名時に公証人が控除を申請する。市町村の住民登録がされていることが前提。

EEA居住者

ルクセンブルク居住者と同じ扱い。登録税と転写税を先に払って後から還付を求める必要はなく、署名時に申請すれば自動で控除される。

第三国の居住者

日本もここに入る。ルクセンブルクの居住証明を出せるようになってはじめて控除が認められる。

資産や所得の条件

買主の資産、建物の価格、地籍収益、所得のいずれも考慮されない。金額による足切りは無い。

EEA圏内と第三国で扱いが分かれる。日本の居住者は署名の時点では控除されない。

日本に住んだまま購入契約を結ぶ場合、署名の時点では7%を納めることになります。その後にルクセンブルクへ移って住民登録し、居住証明を取得してはじめて控除が認められる流れです。移住する予定が無いなら、そもそも控除の対象外(賃貸用)ですから、7%は確定コストと考えるほうが実態に合います。

400,000ユーロの物件で、いくら残るのか

金額を当てはめてみます。控除が定額であるため、効き目は物件価格によって大きく変わります。以下は7%を単純に掛け、そこから控除を引いた計算です。

控除40,000ユーロを1人で使う場合の登録税・転写税(単純計算。最低徴収額100ユーロを反映)
物件価格 7%の税額 控除後 備考
300,000ユーロ 21,000ユーロ 100ユーロ 控除枠が19,000ユーロ残る
400,000ユーロ 28,000ユーロ 100ユーロ 控除枠が12,000ユーロ残る
571,400ユーロ 約40,000ユーロ 100ユーロ ここで控除枠を使い切る
700,000ユーロ 49,000ユーロ 9,000ユーロ 超えた分がそのまま負担になる
1,000,000ユーロ 70,000ユーロ 30,000ユーロ 実効の負担率は3.0%
400,000ユーロ(賃貸用) 28,000ユーロ 28,000ユーロ 控除の対象外なので全額

控除は買主1人につき40,000ユーロなので、夫婦2人の共同名義で主たる住居を買うなら枠は80,000ユーロになります。この場合、7%で80,000ユーロに達する価格、すなわちおよそ1,142,000ユーロまでは計算上の税額が控除で吸収されます。投資用で買う最終行との差が、この制度の性格をよく表しています。

2026年7月16日の発表では45,000ユーロへ

政府は2026年7月16日の住宅政策の発表「Booster fir de Wunnengsbau」で、Bëllegen Akt を1人あたり40,000ユーロから45,000ユーロへ引き上げると公表しました。発表では、この上限によって約640,000ユーロの物件まで登録税なしで取得できるとしています。適用は2026年7月16日からで、発表から法律の施行までの間に証書を結んだ買主は、AEDへ申請すれば増額分を受けられると説明されています。

ただし AED の間接税ポータルは、2026年10月7日の更新時点でも控除額を40,000ユーロ(2025年7月3日の法律による)と記載しています。当局の案内がまだ更新されていない状態なので、実際に署名する前には公証人と AED に適用額を確かめるのが安全です。

45,000ユーロになった場合に登録税が消える価格の目安(7%で逆算した単純計算)
買主 控除の合計 税額が控除で吸収される価格
1人(現行40,000ユーロ) 40,000ユーロ 約571,000ユーロまで
1人(発表後45,000ユーロ) 45,000ユーロ 約642,000ユーロまで
2人(現行40,000ユーロ) 80,000ユーロ 約1,142,000ユーロまで
2人(発表後45,000ユーロ) 90,000ユーロ 約1,285,000ユーロまで

売買契約に署名した時点で売買は成立する

税とは別に、契約の性質も押さえておく必要があります。Guichet.lu は売買契約(compromis de vente)について、署名した時点で両当事者を最終的に拘束し、所定の価格で売買を成立させる義務が生じると説明しています。「売買契約は売買である」という言い回しが現地でよく使われることも併記されていて、署名前の慎重さが求められます。

この性質は控除の2年要件とも関係します。所有権は売買契約の署名で移転するため、2年の居住期間が満了する前に次の売買契約へ署名すると、要件を満たさなくなります。所有権の移転時期を公正証書の署名日まで繰り延べる特約を入れておけば、2年を満たしたものとして扱われるとされています。

なお、商業媒体に掲載する売買・賃貸の広告には、2012年7月1日からエネルギー性能クラスと断熱クラスの表示が義務づけられています。物件情報を見るときの判断材料になります。

買う前に確かめること

ルクセンブルクで買う前の確認事項

用途を先に決める

自分で住むのか貸すのかで、7%が実質ゼロになるか全額残るかが分かれる。投資用なら控除は無いものとして計算する。

控除額は公証人に確認する

40,000ユーロか45,000ユーロかは、署名日と法律の施行状況で変わる。当局の案内の更新が遅れている場合がある。

居住証明の段取りを確認する

第三国の居住者は居住証明を出すまで控除されない。資金計画は7%を払う前提で組む。

2年の縛りを読む

控除を使うなら、入居期限と2年間の居住、途中で貸せないことを受け入れる必要がある。

税率そのものより、用途と居住要件のほうが最終的な負担を左右する。

近隣国と比べると、ルクセンブルクの7%という表示は高めに見えます。ただし自宅として買う場合の実効負担は控除で大きく変わるため、表示税率だけで比べると実態を取り違えます。同じく地域や用途で負担が変わる例としてはベルギーの登録税があり、取得税そのものを廃止した例としてはチェコがあります。許可制が残る国と比べたい場合はハンガリーやエストニアも参照してください。

出典

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