ウィーンのアパートメントやザルツブルク近郊の山荘を、日本に住んだまま買えるのか。オーストリアの不動産取得は、EU圏のなかでも手続きが分かれている国です。国としての一本の法律ではなく、9つの州がそれぞれ外国人不動産取得法(Ausländergrunderwerbsgesetz)を持っているため、同じ日本人でも物件の所在地によって許可が要るか要らないかが変わります。
この記事では、オーストリア連邦政府のポータル oesterreich.gv.at、ウィーン市の手続きページ、ティロル州の不動産取引法のページを2026年10月15日に開き、日本人が取得する場合に何が必要になるかを整理しました。あわせて、取得にかかる税金と登記の料率も公式の表示で確認しています。
- 外国人が所有権や共有持分を取得するときは行政の許可(Genehmigung)が必要です。EU・EEA加盟国の国籍者は対象外で、オーストリア国民と同じ扱いになります。許可手続きが必要なのは原則として第三国の国籍者で、日本はこれにあたります。
- ただしウィーンでは、オーストリアの滞在許可を持つ日本国籍者は許可が不要です。根拠は1932年1月1日の日墺通商航海条約 第I条第5項(BGBl. Nr. 46/1932)で、ウィーン市はこの条約を理由に「Negativbestätigung(許可不要の確認書)を出せる人」として日本国籍者を名指ししています。
- 許可が下りるのは、取引に文化的・社会的・経済的な利益があり、国の安全保障上の利益を害さないと判断されたときです。ウィーンの基準では「社会的利益」は申請者の差し迫った住居の必要を満たす取得を指します。
- 細かい条件は州ごとに違います。連邦政府のポータルは例として、グラーツでは第三国の国籍者に許可が要らないこと、ウィーンでは夫婦の一方がオーストリア国籍なら許可が要らないことを挙げています。
- 購入費用は、不動産取得税3.5%、登記料1.1%(登記申請手数料81ユーロ)、仲介手数料は48,448.52ユーロ超の物件で価格の3%+付加価値税20%、弁護士・公証人が1〜3%です。
許可が要るのは「第三国の国籍者」。日本はここに入る
オーストリア連邦政府のポータル oesterreich.gv.at は、外国人の不動産取得について次のように説明しています。外国人が不動産の所有権または共有持分を取得する場合、行政の許可が必要である。ただしEUおよびEEA加盟国の国籍者はこの要件から外れ、オーストリア国民と同等に扱われる。原則として許可手続きが必要なのは第三国の国籍者だけである、という組み立てです。

同じページは、外国人として扱われる範囲も列挙しています。オーストリア国籍を持たない自然人、定款上の本店・本部・主たる営業所を外国に置く法人や人的会社、国内に本店を置いていても外国人が過半数を保有する法人、議決権を持つ構成員や執行機関の過半が外国人である団体、財産や収益が主として外国人に帰属する財団や基金。つまり日本法人や、日本人が過半を出資するオーストリア法人も「外国人」に入ります。
| 取得する人 | 許可(Genehmigung) | 根拠・備考 |
|---|---|---|
| オーストリア国籍者 | 不要 | 国内者として扱われる |
| EU・EEA加盟国の国籍者 | 不要 | 国内者と同等。申請すればNegativbestätigungの発行は受けられる |
| スイスの自然人 | 不要 | ウィーンでは許可もNegativbestätigungも不要 |
| 日本国籍者(オーストリアの滞在許可あり) | 不要 | 1932年1月1日の日墺通商航海条約 第I条第5項(BGBl. Nr. 46/1932)。ウィーンはNegativbestätigungを発行 |
| 日本国籍者(滞在許可なし) | 必要 | 第三国の国籍者として原則どおり許可手続き |
| 日本法人・日本人が過半を保有する法人 | 必要 | 外国人の定義に含まれる |
ウィーンは1932年の条約が効く。滞在許可があれば許可は要らない
この記事でいちばん伝えたいのはここです。ウィーン市の手続きページには、Negativbestätigung(許可義務の対象外であることの確認書)を発行できる人の一覧があり、EU・EEA市民、スイスの法人、ブレグジット離脱協定による「Art. 50 EUV」の滞在資格を持つ英国籍者に続いて、日本国籍者が名指しで載っています。

条件は「オーストリアの滞在許可(Aufenthaltstitel)を持っていること」です。日本に住んだまま投資目的でウィーンの住戸を買う人は、この例外には当てはまりません。留学・就労・家族帯同などでオーストリアに滞在許可を得ている人が、住む家を買うときに効く規定です。
ウィーン市のページは、許可が最初から不要になる場合も列挙しています。夫婦または登録パートナーが共同で取得し、一方がオーストリア国籍(EU市民はこれと同等)を持つ場合。オーストリア国籍者と第三国国籍者が共同で取得し、住宅所有権法2002年第13条の所有者パートナーシップを結ぶ場合で、かつ取得対象がすでに完成していて登記簿に独立した客体として現れている場合。相続など死因行為による取得。これらはNegativbestätigungも発行されません。
「完成しているかどうか」で結論が変わります。ウィーン市は、所有者パートナーシップを結んでいても、取得対象がまだ完成していない、あるいは登記簿に独立した客体として現れていない場合は、第三国国籍者の取得は許可が必要になると明記しています。
売買契約に「künftiges Wohnungseigentum(将来の住宅所有権)」「Einräumung von Wohnungseigentum nach § 40 Abs. 2 WEG 2002」と書かれている取引は、まさにこの類型です。未完成の新築を買う契約では、許可が必要になると考えて準備してください。
許可が下りる条件は「文化的・社会的・経済的な利益」
第三国の国籍者が許可を申請するとき、審査されるのは取引そのものの利益です。連邦政府のポータルは、取引の締結に文化的・社会的・経済的な利益があり、かつ国の安全保障上の利益が害されない場合に許可が与えられる、と説明しています。

| 観点 | 公式に挙げられている例 |
|---|---|
| 文化的な利益 | 申請者が市町村または州にとって文化的な利益をもたらす場合(例として指揮者が挙げられている) |
| 社会的な利益 | 取得が申請者自身の住居の必要を満たすことを目的としている場合。遺言の前倒しや近親者からの贈与による取得も該当しうる |
| 経済的な利益 | 取得が事業の設立・拡大に役立つ場合、または既存の事業を取得する意図がある場合 |
| 国の安全保障上の利益 | 許可の前に州警察局、場合により軍司令部の意見を聴く。マネーロンダリングの隠れみのとなる会社の設立は拒否理由になる |
ウィーン市はこれをさらに具体化しています。社会的利益は「住戸または家屋の取得が申請者の差し迫った住居の必要(dringendes Wohnbedürfnis)を満たす場合」に認められる。経済的利益は「事業の設立・拡大と雇用の創出に資する場合、または既存事業の維持に資する場合」で、特に規模が大きく例外的に高い経済的便益をもたらす投資でなければならない。これに加えてウィーンにはArrondierung(既存の自己所有地をよりよく使うための、規模の小さい隣接地の取得)という第3の経路があります。
裏返すと、日本に住んだまま値上がり益だけを狙って買う取引は、3つの利益のどれにも当てはめにくいということです。ウィーンで投資用の住戸を買うなら、許可が下りる見込みを先に当局へ確かめるのが現実的です。
州によって違う。グラーツは許可不要、ティロルはセカンドハウスの宣言
連邦政府のポータルは、詳細な規定が各州の外国人不動産取得法に置かれているため「大まかな概要にとどまる」と断ったうえで、州ごとの違いを2つ例示しています。グラーツでは第三国の国籍者に許可が要らないこと、ウィーンでは夫婦の一方がオーストリア国籍であれば許可が要らないことです。
加えて、山岳州では別系統の規制が重なります。ティロル州の不動産取引を所管する部署のページによれば、2022年9月1日からVorbehaltsgemeindenverordnung(LGBl. Nr. 71/2022)が施行され、留保市町村に指定された自治体では、2022年8月31日より後に行われたほぼすべての権利取得について「Freizeitwohnsitzerklärung(余暇用住居でないことの宣言)」の提出が義務づけられています。

| 州・都市 | 確認できた内容 | 出どころ |
|---|---|---|
| ウィーン | 第三国国籍者は原則許可制。日本国籍者は滞在許可があれば対象外(1932年の条約)。手続きは全面的に電子化され、来庁は不要 | ウィーン市 MA 35 |
| グラーツ(シュタイアーマルク州) | 第三国の国籍者に許可は不要 | 連邦ポータル oesterreich.gv.at |
| ティロル州 | 2022年9月1日から留保市町村で「余暇用住居でないことの宣言」が必要(ティロル州不動産取引法1996年第14a条)。近親者間の取得は宣言の対象外(同法第10条) | ティロル州 インスブルック郡庁 |
| フォアアールベルク州 | 申請の提出先が州ではなく市町村になる場合がある | 連邦ポータル oesterreich.gv.at |
ティロルの宣言は、取得者が「新たな余暇用住居を作らない」と表明するもので、宣言した以上はその物件を自分でセカンドハウスとして使うことも、他人に使わせることもできなくなります。すでに余暇用住居としての利用が認められている物件(許可済みの余暇用住居、相応の用途地域指定がある物件)は、この義務の対象外です。アルプスの別荘を買って冬だけ使う、という計画は、この宣言と正面からぶつかります。
買うときにかかる費用|取得税3.5%・登記1.1%・仲介3%+20%
許可の話とは別に、取得そのものにかかる費用も見ておきます。連邦政府のポータルが「オーストリアで不動産または住戸を購入するすべての人に適用される」として示している内訳は次のとおりです。

| 費目 | 料率・金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 不動産取得税(Grunderwerbsteuer) | 購入価格の3.5% | 無償の移転や家族内の取得では課税標準が異なる場合がある |
| 登記料(Eintragungsgebühr) | 購入価格の1.1% | 所有権の登記。抵当権を設定する場合は担保価値の1.2%が別途 |
| 登記申請手数料 | 81ユーロ | 上記に加算 |
| 仲介手数料(48,448.52ユーロ超) | 価格の3%+付加価値税20% | 買主と売主の双方が支払う。料率は交渉可能 |
| 仲介手数料(36,336.42ユーロ以下) | 価格の4%+付加価値税20% | 36,336.43〜48,448.51ユーロは1,453.46ユーロの定額 |
| 弁護士・公証人報酬 | 購入価格の約1〜3% | 各会(Kammer)の報酬規程による。定額の合意も可能 |
| 署名の認証 | 別途 | 登記のために売買契約書の署名を裁判所または公証人が認証する必要がある |
許可申請そのものの手数料は州ごとに決められています。連邦ポータルがウィーンの例として挙げているのは、所有権(共有持分)取得の許可で申請者1人あたり行政手数料76.30ユーロ、人的役権(家族のための居住使用権など)の取得で47.23ユーロ。これに有効性確認の行政手数料3.27ユーロと連邦手数料21ユーロ、申請1件・登記番号1件あたり連邦手数料21ユーロ、写しの添付1枚につき6ユーロ(上限36ユーロ)が加わります。
仮に購入価格を30万ユーロとすると、取得税が10,500ユーロ、登記料が3,300ユーロ、仲介手数料が9,000ユーロに付加価値税1,800ユーロで10,800ユーロ、弁護士・公証人を2%として6,000ユーロ。許可申請の手数料を合わせても、付随費用はおおむね購入価格の8〜10%に収まる計算になります。
日本から買うときの進め方
手続きの順番は、日本の不動産取引とは違うところがあります。契約書の下書きではなく、署名して認証を受けた契約書が許可申請の前提になる点がいちばんの違いです。
オーストリアの不動産を取得するまでの流れ
- 物件の所在する州を確かめる
許可の要否は州法で決まります。ウィーンとグラーツでは結論が違い、ティロルでは余暇用住居の宣言が重なります。 - 管轄の不動産取引当局(Grundverkehrsbehörde)に先に問い合わせる
連邦ポータルは、申請前に当局へ直接連絡し、州ごとの許可条件と提出期限を確認するよう案内しています。ウィーンのように申請先が州庁ではなく市町村になる州(フォアアールベルク)もあります。 - 弁護士または公証人に売買契約書を作ってもらう
契約書は通常、弁護士か公証人が作成し、そのまま登記申請まで行います。報酬は購入価格の約1〜3%です。 - 署名して認証を受ける
登記のためには、売買契約書の署名を裁判所または公証人が認証する必要があります。ウィーン市は「契約書の下書きでは足りない」と明記しています。 - 許可またはNegativbestätigungを申請する
ウィーンでは全工程を電子的に行え、MA 35への来庁は不要です。ドイツ語以外の書類は法廷通訳人による翻訳が必要になります。 - 許可が出てから登記する
連邦ポータルは「許可を得たあとに登記へ進める」と書いています。競売では、外国人への落札は許可またはNegativbestätigungを提示した場合に限られます。
ウィーンなら滞在許可があれば許可は不要で、Negativbestätigungを申請できます。
他の州は州法によります。管轄の当局に先に確認してください。
第三国の国籍者として原則どおり許可が必要です。社会的利益(自分の住居の必要)は主張しにくく、経済的利益の説明が要ります。
未完成の新築は、共同取得でも許可が必要になります。
ティロル州の留保市町村では、2022年9月1日以降の取得に「余暇用住居を作らない」宣言が要ります。
宣言した以上、自分でも他人にもセカンドハウスとして使わせられません。
オーストリアの不動産取得についてよくある質問
日本人はオーストリアの不動産を買えますか
買えます。ただし原則として州の外国人不動産取得法による許可が必要です。EU・EEA加盟国の国籍者は許可が不要ですが、日本は第三国にあたります。例外として、オーストリアの滞在許可を持つ日本国籍者は、1932年1月1日の日墺通商航海条約第I条第5項(BGBl. Nr. 46/1932)により、ウィーンでは許可が不要とされています。
1932年の条約は今も有効なのですか
ウィーン市が2026年10月15日時点の公式ページで、Negativbestätigungを発行できる人の根拠としてこの条約を挙げています。条約の名称・条項・官報番号(BGBl. Nr. 46/1932)まで明記されているため、ウィーン市はこれを現行の根拠として運用しています。他の州が同じ扱いをしているかどうかは、この記事では確認できていません。物件の所在する州の当局に確認してください。
許可が下りないことはありますか
あります。連邦ポータルは、許可の前に州警察局、場合によっては軍司令部の意見を聴くと書いており、マネーロンダリングの隠れみのとなる会社の設立を拒否理由の例として挙げています。また、文化的・社会的・経済的な利益のいずれかが認められなければ許可の要件を満たしません。ウィーンは「特に規模が大きく、例外的に高い経済的便益をもたらす投資でなければ経済的利益にあたらない」としています。
日本の法人名義で買えますか
買えますが、外国人として許可の対象になります。連邦ポータルの定義では、定款上の本店・本部・主たる営業所を外国に置く法人は外国人にあたります。さらに、オーストリア国内に本店を置く法人でも、外国人が過半を保有していれば外国人として扱われます。法人が取得する場合は、商業登記簿の抄本、定款、営業許可の提出も求められます。
アルプスに別荘を買って冬だけ使えますか
ティロル州の留保市町村では難しくなっています。2022年9月1日施行の留保市町村条例により、2022年8月31日より後のほぼすべての権利取得で「新たな余暇用住居を作らない」という宣言が必要です。宣言すると、自分で余暇用住居として使うことも、他人に使わせることもできません。すでに余暇用住居としての利用が認められた物件(許可済みの余暇用住居、相応の用途地域指定)だけが対象外です。
手続きはオンラインで完結しますか
ウィーンについては、市の公式ページが「WrAuslGEGによる手続きはすべて電子的に行え、MA 35への個人的な接触や来庁は必要ない」と明記しています。ただし2025年10月8日のシステム移行後は、申請者が自分でシステムにアクセスして書類をアップロードすることはできなくなりました。不足書類は郵送またはメールで追送する運用です。
費用は全部でいくらくらいかかりますか
公式の料率から計算すると、不動産取得税3.5%、登記料1.1%、登記申請手数料81ユーロ、仲介手数料3%+付加価値税20%、弁護士・公証人報酬1〜3%で、合計はおおむね購入価格の8〜10%です。これに許可申請の手数料(ウィーンの例で申請者1人あたり76.30ユーロなど)が加わります。抵当権を設定する場合は担保価値の1.2%が別途かかります。
この記事で確認した一次情報(いずれも2026年10月15日に取得)
oesterreich.gv.at「General information on acquiring property as a foreign national」
oesterreich.gv.at「Authorisation procedure for nationals of third countries」
oesterreich.gv.at「Ancillary costs when purchasing apartments and property」
ウィーン市「Ausländergrunderwerb – Genehmigung und Negativbestätigung」
同じ「外国人が買えるか」を公式情報で確かめたものとして、ドイツ、スイス、イタリア、フランスの記事もあります。オーストリアと国境を接する国どうしでも、結論はかなり違います。
