地中海の真ん中にあるマルタは、英語が公用語で、EU加盟国で、ユーロ圏です。日本から見ると買いやすそうに映りますが、不動産の取得だけは話が別です。マルタには、EU市民でない個人が不動産を買うことを原則として禁じる単独の法律があります。日本国籍の個人がマルタで家を買うには、財務大臣の許可(AIP許可)を取るか、許可の要らない特定の地区を選ぶかのどちらかになります。2026年10月16日に、マルタ共和国の法令データベースとマルタ税関・税務庁の公式ページで、条文・最低価格・手数料・条件を確かめました。
日本人は「non-resident person」に当たり、原則として取得が禁止されている。根拠は1974年8月9日施行の法律第246章。
許可が下りる最低価格は、フラット・メゾネットが174,274ユーロ、それ以外の物件が300,619ユーロ。毎年改定される。
許可で買った物件は賃貸に出せない。持てるのは1件だけ。ただし特別指定地域(SDA)の27地区だけは、この制限がかからない。
禁じているのは1974年の法律第246章
根拠法は「Immovable Property (Acquisition by Non-Residents) Act」、マルタ法令集の第246章です。法令データベースの表示では、施行日は1974年8月9日、最終の公布は2026年1月16日で、現在も有効(In Force)です。制定以来、法律で17回、法律施行規則で30回以上の改正を受けています。

第4条の書き方は強烈です。1974年5月30日以降、non-resident person は生前の行為でも死因でも、時効取得でも占有でも付合でも、いかなる名義でも不動産を取得してはならない、と定めています。これに反する証書・遺言は「null and void」、つまり誰に対しても効力を持ちません。付随して行われた支払いも無効になり、返還や取消しの対象になります。
自分がどこに立っているかは「居住5年」で決まる
第2条の定義では、non-resident person に当たるのは、マルタまたは他のEU加盟国の市民でない個人(ただし入国管理法の長期居住者資格を持つ第三国国民を除く)と、取得日より前に通算5年以上マルタに居住したことのないEU市民です。日本国籍の個人は、長期居住者資格を持っていなければ前者に当たります。
この「通算5年」の数え方には条文上のただし書きがあります。1暦年のうち合計90日未満の不在は、居住の連続を切らさないものとして無視されます。ただし無視できるのは、その不在が1暦年で90日を超えない場合に限られます。
自分が許可を要るかどうかを順に当てる

最低価格はフラット174,274ユーロ、それ以外は300,619ユーロ
許可を申請できればよい、という話でもありません。マルタ税関・税務庁は、AIP許可が下りるための最低物件価格を公表しています。フラットまたはメゾネットが174,274ユーロ、それ以外のあらゆる不動産が300,619ユーロです。根拠として示されているのは2024年の法律施行規則第174号(不動産価格指数)で、この金額は毎年、分野の物価上昇率を反映して改定されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 最低価格(フラット・メゾネット) | 174,274ユーロ |
| 最低価格(それ以外の不動産) | 300,619ユーロ |
| 改定の仕組み | 2024年の法律施行規則第174号(不動産価格指数)に基づき、毎年改定 |
| 許可の手数料 | 233ユーロ(物件価格にかかわらず定額) |
| 標準処理期間 | 申請が完全かつ正確であることを条件に35日以内の発給を約束(Quality Service Charter) |
| 同時に持てる件数 | 1件のみ(SDAの物件を除く) |
| 賃貸に出すこと | できない(住宅用に限る) |
手数料については、法律の第二附則が232ユーロ、税関・税務庁のFAQが233ユーロと、1ユーロだけ食い違っています。第二附則には「または大臣が随時命令で定める手数料」と書かれているため、実際に支払う額は税関・税務庁が案内している233ユーロと読むのが自然です。

許可に付く条件は、買ったあとの自由を削る
第246章の第二附則は、大臣が許可に付す条件を物件の種類ごとに列挙しています。住宅の場合は4点です。申請者と家族の住居としてのみ使うこと、許可の発行日から6か月以内に取得を済ませること、証書の公布から3か月以内に認証謄本を税務長官の事務所へ届けること、そして一部を切り売りしたり2戸以上の住宅に分割したりしないこと。
| 買うもの | 付される条件 |
|---|---|
| 住宅 | 申請者と家族の住居としてのみ使う/発行日から6か月以内に取得/証書の公布から3か月以内に認証謄本を提出/分割・切り売り不可 |
| ガレージ・隣接物件 | ガレージとして、または既存住居と一体の増築部分としてのみ使う/6か月以内に取得/3か月以内に認証謄本を提出/元の住宅と一緒でなければ売却できない |
| 土地 | 許可の発行日から2年以内に、居住できる1戸の住宅を完成させる/完成後は住居としてのみ使う/6か月以内に取得/3か月以内に認証謄本を提出 |
ガレージについては、取得できる場所も限られています。第6条は、すでに取得した住居から500メートル以内のガレージ、または既存住居の増築として一体化する隣接地・建物であることを求めています。離れた場所の駐車場を投資目的で買う、という使い方は想定されていません。
申請に添えるのは、パスポート用サイズの写真2枚、売買の予約契約(promise of sale)の写し、有効なパスポートの情報ページのコピーの3点です。申請書は個人用と法人用の2種類が公開されており、どちらも公式サイトからダウンロードできます。
許可が要らない27の「特別指定地域」
第5条は、例外として「特別指定地域(Special Designated Area, SDA)」での取得を挙げています。この区域では居住地も国籍も問われず、件数の上限もありません。2件目、3件目を買うこともできます。SDAは法律の第一附則に列挙されており、現在27地区が指定されています。
法律第246章 第一附則に列挙されている特別指定地域(27地区)
- Fort Chambray(ゴゾ島)
- Portomaso Development
- Cottonera Development
- Manoel Island / Tignè Point
- Tas-Sellum Residence
- Madliena Village Complex
- SmartCity
- Fort Cambridge Zone, Tignè
- Ta’ Monita Residence
- Pender Place and Mercury House
- Kempinski Residences(ゴゾ島)
- Metropolis Plaza, Gżira
- Portomaso Extension I
- Pender Place and Mercury House 拡張I〜V
- Vista Point(ゴゾ島)
- Quad Business Towers, Mrieħel
- Southridge, Mellieħa
- Mistra Heights
- Quad Business Towers 拡張I
- Verdala Terraces
- Pender Place and Mercury House 拡張VI
- Portomaso Extension II
- Tarġa Square
- The ORA Residences
- Scirocco Heights Residences
- Trident Park, Mrieħel
- Eden Place, St Julians
一覧を見ると、ほとんどが特定の開発プロジェクトの名前であることが分かります。第一附則の記載は「この公証人のこの証書に添付された図面に赤線で囲まれた範囲」といった形で、区域の境界を個別の登記図面で特定しています。区域の追加は大臣が官報で告示する方式で、直近では2026年の法律施行規則第7号が附則を改正しています。
つまり日本人がマルタで複数の物件を持ちたい場合、現実的な道はSDAに絞ることになります。価格帯が高めの開発物件に集中するのは、この制度設計の結果です。
許可以外にも「買える」経路がある
第4条の禁止には、許可以外の抜け道がいくつか用意されています。第5条と第4条第2項が挙げているものを整理します。
| 場面 | 許可 | 条件 |
|---|---|---|
| 相続による承継 | 不要 | 被相続人がこの法律に従って取得していたこと |
| 特別指定地域での取得 | 不要 | 居住地・国籍・件数を問わない |
| すでに持分を持つ物件の追加持分 | 不要 | 先の持分を適法に取得していたこと |
| 共同相続人の間での移転 | 不要 | 相続財産の内部での移転であること |
| 共有物の分割 | 不要 | 共有者の間での分割であること |
| 配偶者・直系尊属卑属への贈与 | 不要 | 贈与する物件がこの法律に従って取得されていたこと |
| 墓地・墓所の取得 | 不要 | 第4条の禁止がそもそも及ばない |
| 地代等の負担の買戻し | 不要 | 適法に取得した不動産に付いた負担であること |
これらの例外を使うときは、取得者が証書の上で「この移転は例外に当たる」と申告する義務があります。公証人は申告が真実であることの重要性を警告し、警告した旨を証書に記録しなければなりません。
違反したときに動くのは、無効と罰金の両方
証書そのものが無効になる。第4条に反する取得は、誰に対しても効力を持たない。支払った代金も返還・取消しの対象になる
罰金は23,000ユーロか市場価値の2倍のいずれか高い額。継続中の違反には、最初の180日を除いて1日あたり230〜2,300ユーロが加算される
公証人にも罰がある。必要な申告を欠く証書を受理したり、警告を怠ったりすると、2,300〜23,000ユーロの罰金を科される
ただし、取得日から180日以内に是正するか、適法に物件を譲渡すれば訴追されない。許可が拒否された場合も、拒否から180日以内に譲渡すれば訴追されず、すでに始まった手続きも取り下げられる
もうひとつ押さえておきたいのが、許可の透明性です。大臣は3月・6月・9月・12月の各四半期が終わるごとに、その3か月間に発給したすべての許可の一覧を官報で公表します。一覧の写しはマルタとゴゾの公簿事務所に備え置かれ、誰でも閲覧できます。
日本人が動くときの順番
以上を実務の順に並べ直すと、確かめる順番は決まってきます。最初に見るのは物件の所在地がSDAかどうかです。SDAなら許可の手続きそのものが不要で、件数の制限もかかりません。
SDA以外を選ぶなら、次に見るのは価格です。フラット・メゾネットで174,274ユーロ、それ以外で300,619ユーロを下回る物件は、そもそも許可の対象になりません。そして許可で買った物件は賃貸に出せないため、家賃収入を前提にした投資計画は、SDA以外では成り立ちません。
最後に時間の制約です。許可が出てから6か月以内に取得を終え、証書の公布から3か月以内に認証謄本を提出する必要があります。土地を買って建てる場合は、さらに2年という期限が付きます。許可の発給自体は、申請が完全であれば35日以内と約束されています。
地中海の他の国と比べたい場合は、キプロス移住はあり?に同じ地域の制度をまとめています。EU圏で許可制を採っている国の例は、デンマークの不動産は日本人が買える?とフィンランドの不動産は日本人が買える?にあります。
Legislation Malta「Chapter 246 Immovable Property (Acquisition by Non-Residents) Act」(2026年10月16日取得)
Legislation Malta「S.L. 246.04 Immovable Property (Acquisition by Non-Residents) (Value of Immovables) Order」(2026年10月16日取得)
Malta Tax and Customs Administration「Conditions for buying immovable property」(2026年10月16日取得)
Malta Tax and Customs Administration「Acquisition of Immovable Property – FAQ」(2026年10月16日取得)
Malta Tax and Customs Administration「Applying for a Permit to Buy Immovable Property」(2026年10月16日取得)
