スイスは、外国人の不動産取得を用途で切り分けています。工場・倉庫・オフィス・店舗・ホテル・レストランといった事業用の不動産(Betriebsstätte-Grundstücke)は、許可なしで取得でき、第三者に賃貸する純粋な投資目的でもかまいません。
一方で住宅は原則として取得できません。住宅を建てる・貸す・売買することは「経済活動」にあたらないと定められており、許可が必要なうえに許可理由が存在しないためです。日本に住む日本人が買えるのは、州が観光地に指定した場所の休暇用住宅(Ferienwohnung)など、法律が例外として認めた枠だけです。
根拠は1983年12月16日の連邦法(BewG、通称Lex Koller)と、1984年10月1日の政令(BewV)です。さらに2026年4月15日、連邦参事会はこの法律をもっと厳しくする改正案の意見招請を始めました。
まず「Personen im Ausland」に当たるかを決める
Lex Kollerは国籍だけで線を引いていません。連邦司法局の案内では、次の人が「外国にいる者(Personen im Ausland)」にあたるとされています。
| 区分 | Lex Kollerの対象か |
|---|---|
| 国外に住所がある外国人 | 対象になる(日本在住の日本人はここ) |
| スイスに住所があるが、EU・EFTA加盟国の国籍でも定住許可Cでもない外国人 | 対象になる |
| スイス国民(国内・国外を問わず)と二重国籍者 | 対象外 |
| EU・EFTA加盟国の国籍で、スイスに適法かつ実際の住所がある人 | 対象外 |
| その他の国籍で、有効な定住許可Cを持ち実際にスイスに住所がある人 | 対象外 |
ここでいう住所は、民法23条以下の「定住の意思をもって滞在し、生活関係の重心がある場所」です。外国人登録の滞在許可や自治体への届出の証明だけでは足りず、実際の住所であることを自分で立証する必要があると明記されています。配偶者や未成年の子との同居、雇用関係、就学などが手がかりになります。

許可が要るかどうかは3つの条件で決まる
連邦司法局の案内は、許可義務の成立を3つの条件の積み重ねで説明しています。どれか1つでも欠ければ許可は要りません。
取得する人が「外国にいる者」にあたるか
上の表の判定です。主体の側の許可義務と呼ばれます。
その不動産が許可の対象になる用途か
事業用か住宅かで分かれます。客体の側の許可義務です。
取得する権利が法律上の「取得」にあたるか
所有権の移転だけでなく、買取権・先買権・買戻権の設定、取得資金の融資、抵当証券の取得なども含まれます。
その他の例外に当たらないか
3つを満たしても、法律が定める別の例外に該当すれば許可は不要です。
売買だけでなく、交換・贈与・相続・遺贈・会社の合併や分割による移転も同じ扱いです。すでに外国人の所有になっている物件かどうか、どんな原因で取得するかは、原則として関係ありません。
事業用の不動産は許可なしで買える
経済的な目的で使われる不動産は、許可なしで取得できます。連邦司法局が例として挙げているのは、工場、倉庫と資材置き場、事務所、ショッピングセンター、販売店舗、ホテル、レストラン、作業場、診療所です。
この不動産が取得者自身の事業に使われるか、第三者へ賃貸されるかは問われません。つまり純粋な資本投下としての取得も認められています。所有権の取得だけでなく、買取権・先買権・買戻権の設定、取得資金の融資、抵当証券の取得も許可なしで可能です。
ただし境目があります。住宅を建てる、賃貸する、貸し付ける、あるいは住宅で商売をすることは、ここでいう経済活動にあたらないと政令3条が定めています。そのため住宅目的の取得は許可が必要になり、しかも許可理由が用意されていないため実際には認められません。例外は社会住宅の建設だけです。ホテルとして運営される居住スペースは事業用として扱われます。
住宅は「どこに住んでいるか」で扱いが変わる
| 住宅の種類 | 誰が対象か | 許可 |
|---|---|---|
| 主たる住居(Hauptwohnung) | スイスに実際の住所がある外国人(通常は滞在許可B) | 不要。ただし自分で住み、一部でも賃貸してはならない |
| 第二住宅(Zweitwohnung)/国境通勤者 | EU・EFTA国籍で国境通勤許可Gを持つ人 | 勤務地の地域で1戸、自分で住むかぎり不要 |
| 第二住宅(Zweitwohnung)/国外居住者 | その土地と例外的に密接で保護に値する関係がある人 | 許可が要る。親族関係や休暇・保養・留学は該当しない |
| 休暇用住宅・アパートホテルの住戸 | 許可義務のある外国人 | 許可が要る。州の年間割当を使う |
| 投資目的の住宅 | すべての許可義務者 | 許可理由が存在せず取得できない |
主たる住居は面積の制限がなく、戸数が1つであればよいとされています。土地の広さも本来は制限されませんが、登記所は原則として3,000平方メートルを超える取引を直接登記せず、許可庁へ回します。そこで単なる資本投下にあたらないかが判断されます。
取得後に住所を移した場合は売る必要がなく、第二住宅や休暇用住宅として使うことも第三者へ貸すこともできます。ただし、はじめから長く自分で住む意思がなかった場合は法律違反です。許可なしで複数の住宅を取得するためだけに住所を移すような行為は、後から許可義務が確認され、違法状態の解消を命じられることがあります。
休暇用住宅は州の割当を消費する
日本に住んだまま検討できる現実的な選択肢が、これです。条件は細かく決まっています。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 場所 | 州が指定した観光地にあること |
| 割当 | 連邦が州へ毎年配分する割当を消費する。売主が過去に取得の許可を得ていた住戸は例外 |
| 純居住面積 | 原則200平方メートルまで。必要性を示せば250平方メートルまでは問題なく許可される運用 |
| 敷地面積 | 原則1,000平方メートルまで。必要性を示せば1,500平方メートルまでは問題なく許可される運用 |
| 賃貸 | 通年の賃貸は不可。期間を区切った賃貸は可能で、主張した用途のためにいつでも自分で使える状態が必要 |
| 名義 | 自然人の個人名義のみ。会社を通じた間接取得は不可 |
| 重複 | 本人・配偶者・登録パートナー・18歳未満の子がすでに同種の住宅を持つ場合は、先に売却することが許可の条件 |
純居住面積には台所、玄関、浴室、トイレ、屋内プール、サウナ、趣味室など居住可能な部屋がすべて入り、バルコニー、階段室、地下室、屋根裏は入りません。休暇用住宅の許可理由を持つ州は、アッペンツェル・アウサーローデン、ベルン、フリブール、グラールス、グラウビュンデン、ジュラ、ルツェルン、ヌーシャテル、ニトヴァルデン、オプヴァルデン、ザンクト・ガレン、シャフハウゼン(アパートホテルの住戸のみ)、シュヴィーツ、ティチーノ、ウーリ、ヴォー、ヴァリスです。
州や観光地の自治体は、さらに独自の制限を置けます。ある場所では許可を全面的に停止する、区分所有の形でしか認めない、一定の割合までとする、年間の許可件数を制限する、すでに外国人所有になっている住戸の取得しか認めない、といった対応が可能です。国の条件を満たしても、その地域では買えないことがあります。
不動産を持っても滞在許可にはつながらない
連邦司法局の案内には、スイスに不動産を所有していても、外国籍の人に滞在許可を求める権利は生じないと2か所で書かれています。滞在許可については連邦移民事務局(SEM)または州の外国人警察に問い合わせるよう案内されています。
「不動産を買えば住める」という理解は、この国では成り立ちません。居住と不動産取得の話は完全に分かれています。海外不動産の規制とは?で扱った日本側の報告義務とあわせて、取得の前後でどんな手続きが要るかを国ごとに分けて考える必要があります。
2026年4月15日に、さらに厳しくする案が示された
ここまでが現行の制度です。そのうえで連邦参事会は2026年4月15日の会議で、Lex Kollerを厳格化する改正案の意見招請(Vernehmlassung)を開始しました。期間は2026年7月15日までです。住宅の不足が背景にあり、2025年1月に連邦司法警察省へ改正案の作成を指示していたものです。

| 項目 | 現行 | 改正案 |
|---|---|---|
| 第三国国籍者の主たる住居 | スイスに実際の住所があれば許可不要 | 許可制にする。転出する場合は2年以内に売却する義務を負わせる |
| 事業用不動産 | 賃貸目的でも許可不要 | 自社の事業に使う場合は今までどおり。賃貸・貸付けが目的なら取得を認めない |
| 休暇用住宅の州割当 | 連邦が州へ毎年配分 | 割当を削減する |
| 外国人どうしの転売 | 売主が許可を得ていれば割当を消費しない | 外国にいる者による取得はすべて州の割当を消費する |
| 上場不動産会社の株式・不動産ファンド | 制限の記載なし | 上場住宅不動産会社の株式、市場で常時取引される不動産ファンドと不動産SICAVの持分の取得を原則禁止 |
これらは「Lex Kollerの目的に立ち返る」ものだと説明されています。2025年1月の国民発議「Keine 10-Millionen-Schweiz」の否決に関連して決めた一連の随伴措置の一部という位置づけです。あわせて、議会からの委託(動議22.4413 Schmid)を受けて、ホテルによる従業員用住宅の取得要件を緩める内容も盛り込まれています。
意見招請は法案が確定する手続きではありません。2026年9月21日の時点で施行されているのは現行のBewGとBewVです。ただし、賃貸目的の事業用不動産まで対象に含める案が出ていることは、事業用なら自由という前提で長期の計画を立てる際の材料になります。
買う前に確かめる順番
物件を探す前に決着させておくべき点を、判断の順に並べます。
自分がLex Kollerの対象かを確定する
日本に住所がある日本人は対象です。スイスに住んでいる場合は、許可の種類(B・C)と実際の住所の立証ができるかで変わります。
用途を事業用か住宅かに振り分ける
ホテルとして運営される居住スペースは事業用です。住宅を貸す目的は経済活動に含まれません。
住宅なら、その州に休暇用住宅の許可理由があるかを見る
17州にしかありません。さらに州と自治体が独自の制限を置いている場合があります。
物件がある州の許可庁に直接照会する
許可義務の有無と許可の可否を決めるのは、物件の所在州が定めた官庁です。連邦司法局は個別の案件には答えず、州の窓口一覧を公開しています。
違反したときの結果を確認しておく
許可を要する取得は、許可が下りるまで登記できません。案内には行政上・民事上・刑事上の結果があると記されています。
国ごとに規制の形はかなり違います。シンガポールは承認制と税率、オーストラリアは既存住宅の購入禁止、ニュージーランドは同意制度という具合です。スイスは「用途で切り分けて、住宅だけを強く抑える」型にあたります。
この記事で確認できなかったこと
- 州ごとの年間割当の戸数。政令の附属書1に定められていますが、今回参照した案内には数値が載っていません。
- 観光地としてどの市町村が指定されているか。州が指定するため、州の一覧で確認する必要があります。
- 取得時の税や登記費用。州と自治体によって異なり、Lex Kollerの案内の範囲外です。
- 2026年4月の改正案が成立するかどうかと、施行の時期。意見招請は2026年7月15日で終わっていますが、その後の経過は今回参照した資料からは読み取れませんでした。
この記事が参照した一次情報
- スイス連邦司法局「Grundstückerwerb durch Personen im Ausland」(2026年2月12日公開、制度の概要と州の許可庁)
- スイス連邦司法局「Erwerb von Grundstücken durch Personen im Ausland(Merkblatt)」(2009年7月1日版、2026年7月20日現在。対象者の定義、用途別の許可義務、休暇用住宅の面積と条件)
- スイス連邦参事会「Bundesrat will den Grundstückerwerb für Personen im Ausland weiter beschränken」(2026年4月15日、改正案の内容と意見招請の期間)
- Fedlex「SR 211.412.41 Bundesgesetz über den Erwerb von Grundstücken durch Personen im Ausland」(1983年12月16日の連邦法の条文)
本記事は制度の整理であり、個別の取得可否や税務上の判断を示すものではありません。実際の取引では、物件が所在する州の許可庁と、スイスの法律実務に通じた専門家に確認してください。
