海外へ移るときに住民票をどうするかは、期間ではなく生活の本拠が日本から移るかどうかで決まります。多くの市区町村は「おおむね1年以上」を目安に国外への転出届を求めており、届け出るとその日から国民健康保険の資格がなくなり、国民年金は強制加入ではなくなります。住民税は1月1日時点の住所で決まるため、出るタイミングで負担が変わります。条文と、自治体・日本年金機構・外務省の案内で確認できたことを順に整理します。

国外への転出届は住民基本台帳法第24条にもとづく届出

根拠は住民基本台帳法第24条です。条文は「転出をする者は、あらかじめ、その氏名、転出先及び転出の予定年月日を市町村長に届け出なければならない」とだけ定めています。国内の引っ越しと海外への引っ越しを区別する文言はなく、「1年以上」という期間の基準も法律には書かれていません。

期間の目安を示しているのは自治体の側です。江東区の案内(2026年7月17日更新)は、対象を「一定期間(おおむね1年以上)国外に滞在する予定のある方」とし、「1年未満の旅行や出張、留学など、江東区に生活の本拠を置いたまま短期間、国外に滞在する場合は必ずしも国外への転出届をする必要はありません」と書いています。つまり判断の軸は滞在日数そのものではなく、生活の本拠がどこにあるかです。

届け出ると、住民票は消除され、戸籍の附票の側に記録が残ります。住民基本台帳法第17条は、国外転出届をした人について、住所欄に「国外転出者である旨」を、住所を定めた年月日の欄に「その国外転出届に記載された転出の予定年月日」を記載すると定めています。日本との縁が完全に切れるわけではなく、記録の置き場所が住民票から戸籍の附票へ移ると考えると分かりやすくなります。

国外への転出届に関係する条文(e-Gov法令検索で確認、2026年9月22日)
条文 定めている内容
住民基本台帳法 第24条 転出をする者は、あらかじめ氏名・転出先・転出の予定年月日を市町村長に届け出る
住民基本台帳法 第17条第3号・第4号 国外転出者は戸籍の附票にその旨と転出の予定年月日が記載される
地方税法 第318条 個人の市町村民税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の1月1日
地方税法 第300条 納税義務を負う市町村内に住所等を有しない場合は納税管理人を定めて申告する
国民健康保険法 第5条 都道府県の区域内に住所を有する者が被保険者になる
旅券法 第16条 外国に住所又は居所を定めて3か月以上滞在する旅券の名義人は領事官に届け出る

出せるのは出国の14日前から当日まで。さかのぼれない

江東区の案内では、届出期間は「国外へ出国する日のおおむね14日前から出国する日の当日まで」で、「国外への転出届の異動日は原則として遡って受付することができません」と明記されています。出国してから「1月1日より前の日付で抜いたことにしてほしい」と頼むことはできない、という意味になります。

ここが住民税と直結します。地方税法第318条は「個人の市町村民税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日とする」と定めています。1月1日に日本に住所があれば、その年度の住民税は前年の所得をもとに課税されます。年末に出国するつもりで手続きが年明けにずれ込むと、まるまる1年度分の扱いが変わります。

出国しても住民税が消えるわけではない

賦課期日にかかった住民税は、出国後も納める義務が残ります。地方税法第300条は、納税義務を負う市町村内に住所や居所を持たなくなった場合に、納税に関する一切の事項を処理させるため納税管理人を定めて市町村長に申告するよう求めています。第301条は、この申告について虚偽の申告をした場合などに30万円以下の罰金を定めています。出国前に納税管理人を決めておくか、出国前に一括で納めるかを、市区町村の税務担当に確認してから動くのが安全です。

住民票を抜くと変わる5つのこと

国外への転出届を出したあとの扱い
項目 届出後の扱い 根拠・出典
住民税 1月1日に住所がなければその年度は課されない。かかっている分は納税管理人を通じて納める 地方税法318条・300条
国民健康保険 住所がなくなるため資格を失う。海外での医療費は自己負担か民間保険 国民健康保険法5条
国民年金 強制加入被保険者ではなくなる。日本国籍なら任意加入を選べる 日本年金機構
マイナンバーカード 国外転出継続利用の手続きをすれば国外でも使える。しなければ廃止・返納 江東区の案内
選挙 国政選挙で投票するには在外選挙人名簿への登録が要る 江東区の案内

江東区は、国外転出継続利用の手続きをすればマイナポータルの利用、年金の現況届、e-Taxなどのオンライン手続きを国外でも続けられると案内しています。一方で、マイナンバーカードを使ったコンビニ交付サービスは使えなくなるとも書かれています。カードが手元に残っていても、できることが入れ替わる点に注意が要ります。

国民年金は「やめる」ではなく「任意加入するかを選ぶ」

日本年金機構「国民年金の任意加入の手続き(日本の年金制度への継続加入)」のページ。海外に居住すると強制加入被保険者ではなくなるが日本国籍なら任意加入できること、手続き窓口、保険料の納め方、将来の年金、帰国したときの手続きが並んでいる
出典:日本年金機構「国民年金の任意加入の手続き(日本の年金制度への継続加入)」2024年7月1日更新(2026年9月22日に表示を確認)。

日本年金機構のページは「海外に居住することになった方は、国民年金の強制加入被保険者ではなくなりますが、日本国籍の方であれば、国民年金に任意加入することができます」と書いています。窓口は状況で分かれます。

国民年金の任意加入の手続き窓口(日本年金機構の案内より)
状況 窓口
これから海外に転出する お住まいの市区町村窓口
すでに海外に居住・国内協力者がいる 日本における最後の住所地を管轄する市区町村窓口
すでに海外に居住・国内協力者がいない(日本に住んだことがある) 日本における最後の住所地を管轄する年金事務所
すでに海外に居住・国内協力者がいない(日本に住んだことがない) 千代田年金事務所

保険料は、国内にいる親族などの協力者が代わりに納める方法と、日本国内に開設している預貯金口座から引き落とす方法があります。任意加入すると、海外在住期間に死亡したときや障害が残ったときに遺族基礎年金・障害基礎年金の対象になる一方、免除・納付猶予や学生納付特例の申請はできなくなります。帰国して住民票を作ると強制加入に戻り、一時帰国で短期間だけ国内に住所を有した場合もその期間は強制加入になると案内されています。年金の受給資格期間との関係は海外移住すると年金はもらえない?で整理しています。

在留届は住民票とは別の、旅券法上の義務

外務省のオンライン在留届(ORRnet)のトップページ。3か月以上海外に滞在する場合は旅券法第16条により在留届の提出が義務付けられていること、日本出発の3か月前から提出できることが書かれている
出典:外務省「たびレジ・在留届共通」トップページ(2026年9月22日に表示を確認)。

住民票を抜いたかどうかとは関係なく、旅券法第16条は「旅券の名義人で外国に住所又は居所を定めて三月以上滞在するものは、外務省令で定めるところにより、当該地域に係る領事官に届け出なければならない」と定めています。外務省のオンライン在留届は日本出発の3か月前から提出できると案内しています。

基準となる期間が、住民票の「おおむね1年以上」と在留届の「3か月以上」でずれている点が混乱のもとになります。1年未満の駐在や留学で住民票を残す場合でも、3か月以上滞在するなら在留届は要る、という組み合わせが起こります。

住民票を残したまま出たときに起きること

図:住民票を残す選択をしたときに続くもの

住民税

1月1日に住所があるため、その年度の住民税が前年の所得をもとに課税されます。海外で所得が発生していても、賦課期日の判定は住所で行われます。

国民健康保険

国民健康保険法第5条の「住所を有する者」に当たるため被保険者のままで、保険料の負担も続きます。海外で受けた診療は海外療養費の申請という別の枠組みになります。

国民年金

第1号被保険者のままなので、保険料は強制加入として発生します。任意加入とは違い、免除や納付猶予の申請の対象にはなります。

行政からの通知

住民票の住所に通知が届き続けます。受け取る人がいない状態は、税や保険料の督促に気づけない原因になります。

どちらが得かは一概に決まりません。滞在が1年未満で、日本の住居を維持し、帰国後すぐに国民健康保険を使う予定があるなら残す判断もあります。滞在が長く、日本での収入も住居もないなら、抜いたほうが実態に合います。判断の軸は節約ではなく、生活の本拠がどこにあるかという事実です。事実と違う届出は、あとで課税や保険の扱いを訂正することになります。移住にともなう税の全体像は海外移住で税金はどう変わる?にまとめています。

出国前後にやることの順番

図:国外への転出届を出す場合の段取り

出国の3か月前〜

外務省のオンライン在留届を提出できる時期に入ります。滞在先の住所が決まった段階で先に出しておけます。

出国の14日前〜当日

市区町村の窓口で国外への転出届を出します。江東区は郵送でも受け付けると案内しています。異動日をさかのぼる受付は原則できません。

同じ窓口で続けて

国民健康保険の資格喪失、国民年金の任意加入の申出、マイナンバーカードの国外転出継続利用、在外選挙人名簿への登録申請を済ませます。

税務担当へ

住民税の残りをどう納めるかを決めます。納税管理人を定める場合は地方税法第300条にもとづく申告が要ります。

出国後

すでに出てしまった場合でも、国民年金の任意加入は最後の住所地の市区町村窓口か年金事務所で申し出られます。

よくある質問

1年未満の海外赴任でも住民票は抜くのですか

江東区の案内では、1年未満の旅行・出張・留学などで区内に生活の本拠を置いたまま短期間滞在する場合は必ずしも転出届は必要ないとされています。期間ではなく生活の本拠がどこにあるかで判断します。

住民票を抜くと年金は払えなくなりますか

払えなくなるのではなく、強制加入ではなくなります。日本国籍であれば任意加入を選べ、保険料は国内の協力者が納めるか、日本国内の口座から引き落とす方法があります。

出国後に「1月1日前に抜いたこと」にできますか

できません。江東区は国外への転出届の異動日を原則としてさかのぼって受け付けないと明記しています。住民税の賦課期日は地方税法第318条で1月1日と定められているため、手続きの日付がそのまま結果に出ます。

在留届と転出届はどちらか一方でよいですか

別の制度です。転出届は住民基本台帳法第24条にもとづく市区町村への届出、在留届は旅券法第16条にもとづく領事官への届出で、3か月以上滞在する場合に義務付けられています。

マイナンバーカードは使えなくなりますか

江東区は、国外転出継続利用の手続きをすればマイナポータル、年金の現況届、e-Taxなどを国外でも利用できると案内しています。手続きをしない場合は転出にともなって廃止となり、返納の扱いになります。なお、コンビニ交付サービスは国外への転出届を出すと利用できなくなります。

参照した公式情報

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