先に要点
- 日本はEUにもEEAにも入っていないため、日本国籍の個人や日本に本拠を置く法人がフィンランドの不動産(kiinteistö)を取得するには、国防省(puolustusministeriö)の許可が要る。根拠は 470/2019(Laki eräiden kiinteistönhankintojen luvanvaraisuudesta)第2条で、2020年1月1日に施行された。
- 許可が要るのは土地としての不動産を買うときだけで、フィンランドで住戸を売買する標準的な形である住宅株式会社(asunto-osakeyhtiö)の株式の取得は、この法律の対象ではない。同法第1条が「不動産の取得」を所有権の移転と定義しているためである。
- 申請は譲渡の前、または譲渡の確認から2か月以内(第4条)。許可が下りなければ、決定が確定してから6か月以内に手放さなければならない(第6条)。
- 2025年7月15日施行の改正で第5a条「絶対的拒否事由」が入り、ロシアとベラルーシの国籍者・法人には許可を出さないことになった。国名は政令で指定されている。
- オーランド諸島(Ahvenanmaa)には、この法律そのものが適用されない(第1条)。
北欧のなかでフィンランドは、外国人の不動産取得をはっきり「許可制」にしている国です。しかも所管するのは経済官庁ではなく国防省で、判断の軸は国家安全保障に置かれています。ここでは法令データベースFinlexに載っている現行条文と、国土測量局(Maanmittauslaitos)の案内だけを根拠に、どこまでが許可の対象で、何が対象外なのかを整理します。
許可が要るのは「不動産の取得」で、住戸の株式は対象外
最初に押さえるべきなのは、法律が何に掛かるかです。470/2019 の第2条は、第1条第1項に当たる自然人または法人は「国防省が許可を与えた場合にのみ」フィンランド国内の不動産を取得できると定めています。

Edellä 1 §:n 1 momentissa tarkoitettu luonnollinen henkilö tai yhteisö saa hankkia kiinteistön Suomen valtion alueelta vain, jos puolustusministeriö myöntää hankinnalle luvan.
470/2019 第2条第1項(Finlexの現行条文、2026年10月12日に表示を確認)
ここで使われている kiinteistö は、日本語でいう土地としての不動産です。同法第1条第4項は「不動産の取得」を、不動産またはその持分・区画の所有権を他者へ移転する法律行為と定義しています。つまり法律の射程は、登記簿に載る土地の所有権移転に限られます。
フィンランドで集合住宅の1戸を買うときの標準的な形は、住宅株式会社の株式を取得して特定の住戸を使う権利を得るというものです。これは不動産そのものの所有権移転ではないため、この法律の許可は要りません。フィンランド不動産連盟(Kiinteistöliitto)も、外国人が住宅株式会社の株式を取得する権利は禁じられておらず禁じることもできない、と解説しています。
| 買おうとしているもの | 470/2019の許可 | 理由 |
|---|---|---|
| 一戸建てとその敷地 | 要る | 土地としての不動産の所有権移転にあたる |
| 別荘・サマーコテージの敷地 | 要る | 同上。用途による除外は条文にない |
| 不動産の持分・区画 | 要る | 第1条第4項が持分と区画を明示している |
| 住宅株式会社の株式(集合住宅の1戸) | 要らない | 株式の取得であり、不動産の所有権移転ではない |
| オーランド諸島にある不動産 | この法律は適用されない | 第1条第5項が適用除外を定めている。別途オーランド自治法1144/1991第10条とオーランド土地取得法3/1975の制度が掛かる |
表の時点:2026年10月12日。Finlexの現行条文(470/2019、改正1098/2022および328/2025を反映)にもとづいて整理しました。
対象になるのは誰か。10分の1の議決権でも掛かる
第1条第1項は対象者を2つに分けています。1つは、EU加盟国またはEEA加盟国の域外に本拠を持つ法人と、その域外の国籍を持つ個人、そして無国籍者・国籍不明者・国籍が確実に確認できない者です。日本はここに入ります。
もう1つが見落とされやすいところで、EU・EEA域内に本拠を置く法人であっても、前者に当たる個人や法人が株式の議決権の10分の1以上、またはそれに相当する実質的な影響力を持っていれば対象になります。
図:470/2019 第1条が定める対象者の線引き
EU・EEA域外の個人
日本国籍の個人はここに当たります。居住地ではなく国籍で判断されます。
EU・EEA域外に本拠を置く法人
日本法人、日本に本拠を置く団体などが該当します。
無国籍・国籍不明・国籍を確実に確認できない人
条文が明示的に挙げている類型です。
EU・EEA域内の法人でも、域外の者が議決権の10分の1以上を持つ場合
2022年12月の改正(1098/2022)で整理された部分です。同一グループの会社が持つ株式、家族や家族が支配する法人・財団が持つ株式、契約などで議決権を行使できる株式も合算して数えます。
議決権を合算する規定があるため、フィンランドや他のEU諸国に現地法人を置いて買えば対象から外れる、という考え方は通りません。株式会社以外の法人や事業体についても、同じ考え方で影響力を測ると第1条第3項が定めています。
許可が要らない場合は、家族関係とスイスに限られている
対象者であっても許可が要らない場合が第2条第2項以下に並んでいます。いずれも家族関係が中心で、投資目的の取得を救う例外ではありません。
| 許可が要らない場合 | 条文 | 条件 |
|---|---|---|
| 譲渡人が配偶者・事実婚の相手・登録パートナー | 第2条第2項1号 | 関係があればよい |
| 譲渡人が、取得者が相続人になり得る者 | 第2条第2項2号 | 相続法(40/1965)第2章の規定による |
| 夫婦・事実婚・登録パートナーが共同で取得 | 第2条第2項3号 | 一方が許可不要で、その人の持分が10分の1以上あること |
| 離別した元配偶者などからの譲渡 | 第2条第3項 | 取得者が既に持分を持ち、関係の解消から2か月以内に譲渡されること |
| スイス国籍者の一部 | 第2条第5項(328/2025で追加) | EC・スイス間の人の自由移動協定第7条と附属書I第25条に反する場合。国土測量局は、フィンランドに居住権があり主たる住居がフィンランドにある場合は許可が要らないと案内している |
表の時点:2026年10月12日。条文はFinlexの現行版、スイスの扱いの補足は国土測量局の案内によります。
申請は「譲渡の前」か「2か月以内」。事前に照会もできる
手続きの期限は第4条にあります。取得者は、譲渡の前、または譲渡の確認(あるいは土地法540/1995第9a章の電子取引システムで売買が成立したとき)から2か月以内に、国防省へ許可を申請しなければなりません。
図:フィンランドの不動産を買うときの手続きの順番
許可が要るかを国防省に照会する(第3条)
譲渡人・取得者のどちらからでも、事前に「この取得に許可が要るか」を国防省へ尋ねられます。申請書には当事者と対象不動産の情報を書きます。
許可を申請する(第4条)
譲渡の前か、譲渡の確認から2か月以内です。申請には当事者・不動産・予定している用途を書きます。国防省は取得資金とその出どころの説明、その他必要な情報の提出を求めることができます。
関係官庁の意見を集める(第4条第3項)
国防省は、その取得が影響し得る分野を所管する官庁へ意見を求めます。明らかに不要な場合を除いて必須です。
期限内に申請しなかった場合
国防省が申請義務を通知し、最長2か月の期限を定めます。他者のために取得したと評価できる場合にも、国防省は申請を求められます(328/2025で追加)。
申請書に用途を書かせ、資金の出どころまで尋ねられる点が、他のヨーロッパ諸国の許可制とは手触りが違うところです。土地付きの取得だけを許可制にしているポーランドや、住所と通算年数で線を引くデンマークと比べると、審査の関心が「誰が、何のために、どの資金で買うのか」に寄っています。
不許可の理由は国家安全保障。ロシアとベラルーシは絶対的に拒否される
第5条は、取得が国家安全保障を脅かす、または国防の運営・領域保全の監視と確保・国境管理・国境の安全・供給保障の確保を困難にすると評価される場合、許可を与えないと定めています。さらに、これらの利益を害するおそれがあって、かつ申請書に書かれた用途に明らかに適さない不動産である場合や、取得者が外国人法(301/2004)第149条にもとづく確定した退去強制決定を受けて不法に滞在している場合にも、申請を退けられます。
2025年6月13日の改正法328/2025で、これとは別に第5a条「許可の絶対的拒否事由」が加わりました。国土測量局はこの変更を次のように案内しています。

第5a条は、EU理事会が官報で公表した決定において他国の領域保全・主権・独立を侵害したと認定した国の国籍しか持たない人で、かつその国籍国がフィンランドの国家安全保障に脅威を与え、自国民を不適切に利用し得ると評価される場合に、許可を与えないと定めています。対象国は政令で指定され、政令は必要な期間しか効力を持ちません。国土測量局は、現時点で政令に挙がっているのはロシアとベラルーシだと明記しています。
例外は、取得と申請の時点でフィンランドの永住許可(外国人法第56条)または同国が発給した第三国国民の長期EU居住許可(同第56a条)を持っている場合だけです。
この絶対的拒否事由は国籍で決まるため、日本国籍の取得者には当たりません。日本の居住者にとって実務上の関門になるのは第5条、つまり対象不動産の場所と用途が安全保障上の懸念にあたるかどうかです。軍の施設や重要インフラ、国境地帯の近くでは、同じ条件でも判断が変わり得ます。
許可が下りなかったとき、何が起きるか
許可が得られなければ所有を続けられません。第6条は、拒否の決定が確定してから6か月以内に不動産を手放すことを求めています。期限内に売買が解除されず譲渡もされなければ、国防省は執行法(705/2007)第5章の定めに従って売却を命じなければなりません。
| 場面 | 条文 | 結果 |
|---|---|---|
| 許可が下りなかった | 第6条第1項 | 決定の確定から6か月以内に手放す |
| 期限内に申請しなかった | 第6条第1項 | 申請すべきだった日から6か月を数える |
| 6か月を過ぎても処分していない | 第6条第2項 | 国防省が執行法第5章による売却を命じる |
| 第5条で不許可になった | 第7条第1項 | 国が、融資などの合理的な費用と、保有・管理・維持に要した必要費を利息つきで補償する |
| 第5a条で不許可になった | 第7条第3項(328/2025) | 第7条の補償の規定を適用しない |
表の時点:2026年10月12日。Finlexの現行条文によります。補償からは取得者が不動産から得た収益とその他の経済的利益が差し引かれ、申請義務を怠ったことで生じた費用は補償されません。
不許可になっても費用が補償される点は、取得者の側から見れば他国の許可制より穏やかな設計です。ただし2025年の改正で、絶対的拒否事由による不許可にはこの補償を適用しないと定められました。拒否の理由によって扱いが分かれる仕組みになっています。
日本の居住者が、動く前に確かめておくこと
条文を踏まえると、実務の順番ははっきりしています。買おうとしている対象が土地なのか住戸の株式なのかで、そもそも許可の要否が変わるためです。
図:日本からフィンランドの物件を見るときの確認手順
物件が kiinteistö か asunto-osake かを売主に確認する
登記簿に載る土地なら許可が要ります。住宅株式会社の株式なら、この法律の対象ではありません。広告の表記だけで判断しないでください。
土地なら、契約の前に国防省へ事前照会する
第3条の照会は譲渡人からでもできます。買ってから2か月以内に申請する道もありますが、不許可なら6か月以内に手放すことになるため、先に確かめるほうが安全です。
用途と資金の出どころを説明できるようにしておく
第4条第2項が、用途の記載と、国防省が求めた場合の資金・資金の出どころの説明を定めています。審査の前提になる部分です。
オーランド諸島の物件は別の制度で見る
この法律は適用されません。代わりにオーランド自治法(1144/1991)第10条が、同諸島の不動産取得の制限はオーランド土地取得法(3/1975)で定めると規定し、郷土権(kotiseutuoikeus)を持つ人には制限が及ばないとしています。470/2019の話をそのまま当てはめられません。
条文を英語で読みたい場合は、Finlexに「Act on Transfers of Real Estate Requiring Special Permission」という公式の訳が置かれています。ただしこの訳が追いかけているのは470/2019までで、本文に出てきた1098/2022と328/2025の改正は反映されていません。第5a条の絶対的拒否事由は英訳では読めない、という点に注意してください。
ヨーロッパでは購入制限そのものを置かない国も多く、たとえばドイツは外国人の購入制限がなく、契約を公正証書で行う形を取っています。フィンランドのように国防省が審査に入る国は、むしろ例外的です。
この記事で参照した一次情報
- Finlex「Laki eräiden kiinteistönhankintojen luvanvaraisuudesta 470/2019」(現行条文):第1条から第7条までの対象者・許可要件・拒否事由・処分義務・費用補償。所管は Puolustusministeriö、公布2019年3月29日、施行2020年1月1日、改正1098/2022および328/2025を反映
- Finlex 公式英訳「Act on Transfers of Real Estate Requiring Special Permission」:英語の正式名称。訳が追っている改正は470/2019まで
- Maanmittauslaitos「Muutos lakiin kiinteistönhankintojen luvanvaraisuudesta 15.7.2025 alkaen」:2025年7月15日施行、政令が指定する国はロシアとベラルーシ、永住許可を持つ場合の例外、スイス国籍者の扱い、申請時期の考え方
- Finlex「Ahvenanmaan itsehallintolaki 1144/1991」第10条:オーランド諸島の不動産取得の制限はオーランド土地取得法(3/1975)で定め、郷土権を持つ者には制限が及ばないこと
- Kiinteistöliitto(フィンランド不動産連盟)の法律コラム:外国人が住宅株式会社の株式を取得する権利は禁じられておらず、禁じることもできないという解説
