地中海沿岸やマドリードの住宅を検討する日本人にとって、スペインは「買えるが、通り道が変わった」市場です。2025年4月に投資家向けの居住許可が廃止され、不動産を買って滞在資格を得るという入口は閉じました。一方で、購入そのものを国籍で止める仕組みはありません。ここではジェトロが公開している国・地域別情報をもとに、規制と税金の現在地を整理します。
購入は可能です。ただし1物件50万ユーロ超は投資登録簿への届出が要り、投資家向け居住許可は2025年4月に廃止されました。
スペインの外国投資は原則として自由で、非居住者であることを理由に不動産の取得を禁じる規定はありません。金額が50万ユーロを超えると、投資実行後1カ月以内に電子形式で届け出る義務が生じます。買えば滞在できる、という制度はもうありません。
購入そのものに国籍の壁はない
スペインの対内投資は、法19/2003号と外国投資に関する勅令571/2023号で枠組みが定められています。ジェトロの「外資に関する規制」は、この枠組みを「外国投資は原則として自由」と要約したうえで、例外として3つの場合を挙げています。投資登録簿への事後届出が必要な場合、事前届出が必要な場合、そして事前許可が必要な場合です。

事前許可が要るのは、公共の安全・秩序・公衆衛生、国防などに関係する投資です。住宅やリゾート物件の購入がこれに当たると読める記載はありません。つまり、一般的な住宅取得は届出の世界であって、許可の世界ではありません。
1物件50万ユーロ超は投資登録の届出が要る
投資登録の対象として列挙されている8項目のうち、個人の不動産購入に直接効いてくるのは8番目です。「非居住者による、1物件50万ユーロ超のスペイン国内不動産取得」と書かれています。判定は物件単位なので、40万ユーロの住戸を2つ買っても、それぞれが50万ユーロ以下なら対象外です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 非居住者による、1物件50万ユーロ超のスペイン国内不動産取得 |
| 期限 | 原則として投資実行後1カ月以内 |
| 方式 | 電子形式。電子登録システム「e-Aforix」を通じて申告 |
| 届出をする人 | 原則として非居住投資家本人 |
| 本人の届出が不要になる場合 | スペインの公証人が関与し、公証人が申告情報を投資登録簿に送信し、投資家が必要な情報を全て提供したとき |
| 届出先 | 経済・商業・企業省 通商政策・経済安全保障局 投資登録簿(マドリード) |
| 提出書類 | 所定の届出用紙、非居住者であることの証明書、投資の額面価額と実質価額を記した書類ほか |
実務では、スペインの不動産売買は公証人の面前で公正証書を作るのが通例です。公証人が申告情報を送る運用に乗れば、買主が自分で電子申告に向き合う場面は減ります。ただし「必要な情報を全て提供した場合」という条件が付いているので、公証人に任せきりにはできません。
投資家向け居住許可は2025年4月に廃止された
ここが直近で最も大きい変更です。ジェトロの「外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用」は、居住許可を扱う大企業・戦略的グループ担当(UGE-CE)の説明のなかで、投資家向け居住許可について「2025年4月に廃止され、現在は新規申請の対象となっていない」と記載しています。
廃止前の制度がどういうものだったかも、ジェトロのビジネス短信に残っています。2013年に導入され、国債などの有価証券は種類により100万または200万ユーロ以上、不動産は50万ユーロ以上という投資要件が置かれていました。2024年11月14日にスペイン議会下院が廃止法案を可決しています。
| 項目 | 廃止前の内容 | 現在 |
|---|---|---|
| 制度の導入 | 2013年 | 2025年4月に廃止 |
| 不動産による取得要件 | 50万ユーロ以上 | 新規申請の対象外 |
| 有価証券による取得要件 | 種類により100万または200万ユーロ以上 | 新規申請の対象外 |
| 発給の実績 | 制度導入以降の発給のうち94%にあたる1万4,576件が不動産購入によるもの | — |
| 購入物件の所在 | 90%がバルセロナ、マドリード、地中海沿岸のリゾート地 | — |
| 政府が挙げた理由 | 住宅市場での投機と価格高騰。住宅政策の一環として廃止 | — |
UGE-CEは今も、高度専門職、企業内転勤者、研究者、起業家、国際テレワーカー、映像・文化分野の専門職とその家族の居住許可を扱っています。スペインに住むこと自体を目指すなら、働き方や事業の実態に沿ったこれらの類型を検討することになります。不動産を買ったという事実は、そこでは要件になりません。
同じ流れは他の国でも起きています。ポルトガルは不動産をゴールデンビザの対象から外したうえで非居住者のIMTを一律7.5%にしましたし、オーストラリアは既存住宅の外国人購入禁止を2029年6月30日まで延長しています。
買うとき・持つときにかかる税
スペインの不動産にかかる税は、国・自治州・市町村の3層に分かれます。特に自治州の税率差が大きく、同じ価格の物件でも州によって初期費用が変わります。

| 税の名前 | 誰が決めるか | 税率・課税標準 | かかる場面 |
|---|---|---|---|
| 財産移転・法律行為文書税(ITP/AJD) | 自治州 | 不動産の一般税率は6〜13% | 取得時。納税義務者は取得者 |
| 固定資産税 | 市町村 | 課税標準は不動産の固定資産評価額。税率は市町村が定める | 保有期間中 |
| 地価増加税 | 市町村 | 都市部の土地の価値増加分 | 売買・贈与・相続による名義変更時 |
| 建設設置工事税 | 市町村 | 実質的な施工費。上限4%(マドリード市は3.75%) | 改装・建築で許可や届出が要るとき |
| 相続・贈与税 | 国+自治州 | 国の基準税率は7.65〜34% | 相続・贈与・生命保険金の取得時 |
ITP/AJDの6〜13%という幅は無視できません。50万ユーロの物件なら、税率の違いだけで3万ユーロから6万5,000ユーロまで差が出ます。物件を選ぶ前に、候補地の自治州がどの水準にあるかを確認しておくほうが順序として正しいでしょう。
なお、VAT課税取引は原則として財産移転税の対象外です。新築の一次取得と中古の取得では、かかる税の種類が入れ替わる設計になっています。中古の事業用不動産などでは、一定の要件を満たせば売主がVAT免税を放棄してVAT課税にできる、という例外も置かれています。
相続まで見るなら自治州の軽減が効く
相続・贈与税は国の基準税率が7.65〜34%と幅広く、そのままなら重い税です。ただし実際の負担は自治州の減額・軽減で大きく変わります。ジェトロは例として、マドリード州とアンダルシア州では配偶者・直系親族間の相続・贈与について、原則として算定税額の99%が軽減されると挙げています。
取得時に効くもの
財産移転税の自治州税率。6〜13%の幅が初期費用を直接動かします。
保有中に効くもの
固定資産税。課税標準は固定資産評価額で、税率は市町村ごとです。
出口で効くもの
地価増加税と、相続・贈与税の自治州軽減。買う州を決める段階で見ておく話です。
日本とスペインのあいだでは、2021年5月に日西新租税条約が発効し、源泉所得税は2022年1月1日から適用されています。配当は議決権の10%以上を12カ月以上保有する場合は免税、その他は原則5%、ロイヤルティーと利子に対する源泉税率は免税です。法人を介して保有する設計を考える場合に効いてきます。
購入の手順はどう組み立てるか
制度面から逆算すると、順番は次のようになります。
候補地の自治州を先に絞る
財産移転税の税率も相続・贈与税の軽減も自治州単位です。物件よりも州の条件を先に見ます。
価格が50万ユーロを超えるかを確認する
超えるなら投資登録簿への届出が発生します。1物件あたりの判定です。
公証人が届出を送る運用かを確かめる
公証人が申告情報を投資登録簿へ送るなら本人の届出は不要になりますが、必要な情報を全て渡していることが条件です。
滞在の資格は別の類型で考える
投資家向け居住許可は使えません。高度専門職、企業内転勤、起業家、国際テレワーカーなどの枠組みを見ます。
実行後1カ月以内に届け出る
届出は電子形式で、e-Aforixを通じて行います。期限は投資実行後1カ月です。
この記事で確認できなかったこと
数字を出していない項目があります。断定できる一次情報を確認できなかったためです。
- 自治州ごとの財産移転税の具体的な税率。ジェトロは6〜13%という幅を示していますが、州別の一覧までは掲載していません。
- 非居住者が賃貸収入を得た場合の所得税率と、みなし所得の計算方法。スペイン税務当局の案内に当たる必要があります。
- 外国人身分番号(NIE)の取得に要する日数。在日スペイン大使館の案内で確認するのが確実です。
- 新築住宅に適用されるVATの税率。ジェトロの税制ページでは不動産取引とVATの関係が説明されていますが、住宅の税率そのものは本文からは読み取れませんでした。
いずれも見積もりに直結する項目なので、購入を具体的に進める段階では、スペインの税務当局と現地の専門家に当たってください。
よくある質問
日本に住んだままスペインの住宅を買えますか
外国投資は原則として自由とされており、非居住者であることを理由に取得を禁じる規定は確認できませんでした。金額が1物件50万ユーロを超える場合は、投資実行後1カ月以内の届出が必要です。
不動産を買えば滞在できますか
できません。投資家向け居住許可は2025年4月に廃止され、新規申請の対象外になっています。
50万ユーロ以下なら何も届け出なくてよいのですか
不動産取得としての投資登録の対象からは外れます。ただし届出の要否は投資の形態によって変わるため、法人を通じて取得する場合などは別の項目に当たる可能性があります。
税金はどこが一番重いですか
取得時の財産移転税です。自治州によって6〜13%の幅があり、価格が大きいほど差が金額として効いてきます。
他の国はどうなっていますか
外国人購入の扱いは国ごとに大きく違います。シンガポールは外国人に60%の追加印紙税を課しています。同じ「買える」でも条件はまったく別物です。
参照した一次情報
- ジェトロ「外資に関する規制(スペイン)」最終更新2026年8月3日https://www.jetro.go.jp/world/europe/es/invest_02.html
- ジェトロ「外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用(スペイン)」最終更新2026年8月3日https://www.jetro.go.jp/world/europe/es/invest_05.html
- ジェトロ「税制(スペイン)」最終更新2026年8月3日https://www.jetro.go.jp/world/europe/es/invest_04.html
- ジェトロ ビジネス短信「ゴールデンビザ廃止を下院で可決、年明けから発給停止の見通し(スペイン)」2024年11月21日https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/11/0b3480d2f86329f8.html
掲載した制度と税率は2026年9月17日に上記の各ページで表示を確認したものです。スペインの住宅政策は動きが速く、自治州の税率も毎年の州予算法で変わります。金額を伴う判断の前に、リンク先で現在の記載を確かめてください。
