アイスランドの不動産を買えるかどうかは、国籍ではなく「どの条約の下にいるか」と「どこに住んでいるか」で決まります。アイスランド政府が公開している説明を読むと、日本に住む日本人は法務大臣の許可を取らなければ所有権も利用権も取得できない側に分類されます。しかも許可には、面積と所有件数の上限が付きます。2026年10月30日に、アイスランド政府の公式サイトと法務省(Dómsmálaráðuneytið)の申請書を引いて、許可が要る人・要らない人と、許可の条件を条文の番号つきで整理しました。
先に要点
- 根拠は不動産の所有権および利用権に関する法律 第19/1966号(Act on the Right of Ownership and Use of Real Property, No. 19/1966)です。第74/2022号による改正もあります。
- 許可なしで所有できるのは、アイスランド国民と、アイスランドに住所(domicile)を持つ外国人です。
- EEA協定・EFTA条約・ホイヴィーク協定(アイスランドとフェロー諸島のあいだの協定)の権利を享受する者は、一定の条件を満たせば大臣の許可が要りません。日本はこのどれにも属しません。
- 許可が出るのは法第1条第2項の2つの類型だけです。1号は事業で直接使うために取得が必要な場合、2号はアイスランドと緊密なつながりがある個人などの場合です。
- 許可は特定の1物件に対して出され、面積は3.5ヘクタール以下。しかも申請者はアイスランドにほかの不動産を所有していないことが条件です。
- 事業用(1号)なら面積と件数の条件を免除されることがありますが、上限は25ヘクタールです。2号には「いかなる免除も認められない」と明記されています。
- 英国はEU離脱により、2020年12月31日以降は大臣の許可が必要になりました。日本人と同じ側へ移った実例です。
日本人は「許可が要る側」に分類される
アイスランド政府の説明は、所有できる人を3つに分けています。第一にアイスランド国民、第二にアイスランドに住所を持つ外国人、第三にEEA協定・EFTA条約・ホイヴィーク協定の下で権利を享受する者です。日本はEEAにもEFTAにも加わっておらず、フェロー諸島との協定とも関係がありません。したがって、日本に住む日本人がアイスランドの不動産を買おうとすると、残るのは法務大臣の許可を申請する道だけになります。
法務省の申請書は脚注で「foreign national」を定義しています。アイスランド国民ではなく、アイスランドに住所がなく、EEA協定・EFTA条約・ホイヴィーク協定の下の権利も享受しない個人、という定義です。日本に住む日本人はこの定義にそのまま当てはまります。

| 立場 | 大臣の許可 | 条件 |
|---|---|---|
| アイスランド国民 | 不要 | 条件なし |
| アイスランドに住所がある外国人 | 不要 | 住所(domicile)があること |
| EEA・EFTA・ホイヴィーク協定の権利を持つ者 | 原則不要 | 規則第702/2002号の第2条から第4条の要件を満たし、宣誓書を登記へ提出する |
| 日本に住む日本人 | 必要 | 法第1条第2項1号または2号に当てはまること |
| 英国民(2020年12月31日以降) | 必要 | 同上。それ以前に取得済みの権利は影響を受けない |
| 外国の国家・政府機関・国営企業 | 出せない | 大使館事務所・幹部職員の公邸・職員の住居は法第11条により取得できる |
北欧のほかの国でも、線引きの基準はそれぞれ違いました。ノルウェーは国籍ではなく面積で許可の要否が決まり、フィンランドは土地が国防省の許可制で住宅株式会社の株式なら許可が要りません。アイスランドは「住所と条約」で切り分ける方式です。
許可の入口は2つしかない
法第1条第2項は、大臣が第1項の条件から外れる許可を出せる場合を2つだけ挙げています。どちらにも当てはまらなければ、申請しても許可は出ません。
法第1条第2項が定める2つの入口
事業の運営で直接利用するために、不動産と付随する財産権を取得する必要がある自然人または法人。付随する権利には水利権や地熱権が含まれます。
アイスランドと緊密なつながりがあると認められる自然人。例としてアイスランド国民との婚姻が挙げられています。または、市街地の賃借地上に住宅として登録された物件か、指定されたレジャー地域の賃借地上のレジャー用物件である場合。
許可は特定の1物件に対して出されます。面積は3.5ヘクタールを超えてはならず、申請者はアイスランドにほかの不動産を所有していてはいけません。
1号の事業用に限り、必要性を示せば面積と件数の条件を免除できます。ただし面積は25ヘクタールが上限です。2号には免除がありません。
この構造から読み取れるのは、アイスランドが「移住も事業もしない外国人が、投資目的で土地を積み上げること」を想定していないということです。2号で許可を得た個人は、その1件のほかにアイスランドの不動産を持てません。買い増しの余地が制度の側で閉じられています。
3.5ヘクタールと「ほかに持っていないこと」は免除されない
法務省が配布している申請書は、本文に入る前の注意書きでこの点を強調しています。緊密なつながりを理由に大臣へ申請する個人は、アイスランドにすでにほかの不動産を所有していてはならず、取得しようとする物件は3.5ヘクタールを超えてはならない。そして「この規則からの免除は一切認められない」と太字で書かれています。

| 条件 | 1号(事業で直接利用) | 2号(緊密なつながり等) |
|---|---|---|
| 面積の上限 | 原則3.5ヘクタール。必要性を示せば最大25ヘクタール | 3.5ヘクタール。免除なし |
| ほかの物件の所有 | 必要性を示せば追加取得が認められうる | 所有していてはならない。免除なし |
| 示すべきこと | 事業の実際の必要と物件の広さ・付随する権利が釣り合っていること | つながりの存在、または指定レジャー地域であることの確認書 |
| 法人の場合 | 直接・間接の所有関係と実質的支配者の特定が要る | 自然人の類型 |
見落としやすいのは、3.5ヘクタールという数字が「狭すぎて困る」種類の制限ではないことです。市街地の住戸や一般的な戸建てなら、この面積で足ります。効いてくるのは「ほかに1件も持てない」のほうで、複数物件を持つ投資の形が取れなくなります。
もうひとつは、取得そのものの可否が大臣の裁量に委ねられている点です。条件を満たせば必ず許可が出る、という書き方にはなっていません。
「緊密なつながり」は婚姻だけではない
2号の「close connection」をどう示すかは、政府の説明に具体的な記述があります。法文が挙げている「アイスランド国民との婚姻」はあくまで例示にすぎず、ほかの形も考慮されうるとされています。
「緊密なつながり」として考慮されうるもの
アイスランド国民との婚姻
法文が例として挙げている形。申請書にも配偶者を含む複数の申請者を書く欄がある。
その他の近親関係
アイスランド国民との家族としてのつながりも考慮されうる、と政府の説明に書かれている。
長期にわたる訪問と友人関係
相当の長さの期間にわたって何度も訪れ、長く続いた友人関係を築いた場合。数回の訪問や、1年の間に集中した訪問は含まれない。
指定レジャー地域の物件
つながりの証明の代わりに、その区域が指定レジャー地域であることの確認書を自治体の計画課から取る。
どの形を主張する場合でも、申請には検証できる資料を添えることが求められます。政府の説明は、省が追加の情報や資料を求めることがあり、申請者をよく知る人物による申述書を例として挙げています。資料や情報が不十分だと大臣は申請を却下します。不備を補う機会は与えられます。
許可が要らない取引と、法人の扱い
買うのではなく借りる場合には、別の線が引かれています。賃貸や利用権の設定で、期間が3年以下のもの、または1年未満の予告で解約できるものは、大臣の許可が要りません。短期の利用で土地を押さえることができない仕組みになっています。
法人については、許可が不要になる形が列挙されています。共通するのは「アイスランド国民か、5年以上継続してアイスランドに住所を持つ者」が実質を握っていることです。
| 法人の形 | 許可が不要になる条件 |
|---|---|
| 合名会社(sameignarfélag)など無限責任の会社 | 構成員の全員がアイスランド国民であるか、5年以上継続してアイスランドに住所を持っていること |
| 合資会社(samlagsfélag)・株式合資会社(samlagshlutafélag) | 無限責任を負う構成員の全員が上と同じ条件を満たすこと |
| 有限責任の会社・財団 | アイスランドに住所と裁判籍があり、取締役の全員がアイスランド国民であるか5年以上継続して住所を持っていること |
| 株式会社・非公開有限会社など | 株式の5分の4をアイスランド国民が保有し、株主総会で行使される議決権の過半数もアイスランド国民が保有していること |
日本の個人や法人が現地法人を作って回り道をする、という発想は、この条件を見るかぎり成立しにくいことが分かります。株式の5分の4と議決権の過半数という線が、実質的な支配を外国に置かせない仕組みになっています。
申請で何を書き、どこへ出すか
申請の実務も公開されています。オンラインで記入してスキャンし添付する方法と、郵送する方法があります。アイスランド語か英語でない書類には、国が認めた翻訳者による翻訳を付けます。
申請に書くこと・添えること
対象の物件を特定します。物件番号または土地登記番号、想定する用途、面積を書きます。
申請者と、必要に応じて関連当事者がアイスランドに所有するほかの不動産を申告します。関連当事者の範囲は年次会計法の用語によります。
2号ならつながりを明確に説明します。レジャー用物件なら、指定レジャー地域であることの確認書を添えます。1号なら事業で直接使う必要性を説明します。
3.5ヘクタールを超える場合(最大25ヘクタール)は、なぜその広さが事業に必要なのかを明確に示します。法人なら直接・間接の所有関係と実質的支配者を特定します。
契約書・譲渡証書などの原本を省へ提出します。これらの証書は、大臣が原本に署名して承認するまで効力を生じません。
最後の点は手続き上とても重要です。売買契約を結んだ時点では権利が移らず、大臣の署名があって初めて効力が生じます。資金の送り方や決済の順番を組むときは、この順序を前提にする必要があります。海外への送金そのものの手順は海外不動産の代金の送り方に整理しています。
英国の例が示していること
この制度が国籍ではなく条約で動いていることは、英国の扱いが示しています。英国のEU離脱は2020年1月31日に発効しました。政府の説明によれば、これは離脱前に法第1条の適用除外規定のもとでアイスランドの不動産を取得していた英国民の権利には影響しませんでした。根拠は第121/2019号法の第5条6号です。ただし2020年12月31日以降は、英国民も大臣の許可を取らなければならなくなりました。
条約の枠から外れた瞬間に、それまで許可不要だった国の人が許可の対象になる。日本人が最初から置かれているのは、この「枠の外」です。ここを押さえておくと、現地の仲介業者から聞く話が自分に当てはまるかどうかを判断しやすくなります。
この記事で確認できなかったこと
許可の標準処理期間、申請手数料の有無、年間の許可件数、却下の割合については、今回参照した公開資料では確認できませんでした。印紙税や登記費用の税率も、この記事では一次情報を取っていません。これらは実際に申請する段階で、法務省と登記当局へ直接確かめる必要があります。
また、農地や林地に固有の制限については、今回参照したページでは扱われていません。第19/1966号法とは別の法律が関わる可能性があるため、農地を検討する場合は対象の法律を改めて特定してください。
出典
- アイスランド政府「Foreign nationals’ real property rights」(2026年10月30日確認)
- アイスランド法務省「Application by a foreign national for permission to purchase real property in Iceland on the ground of a close connection with Iceland」(2026年10月30日確認)
- アイスランド政府「Act on the Right of Ownership and Use of Real Property, No. 19/1966」英訳(2026年10月30日確認)
