「海外不動産投資での節税はできなくなったの?」
「海外不動産の減価償却はどうなるの?」
海外不動産投資は、減価償却費の計上による節税目的で行われることが少なくありませんでした。しかし、税制改正によって、海外不動産の減価償却費計上ができなくなってしまいました。税制改正の内容、対応策について丁寧に解説します。
海外不動産の減価償却による従来の節税スキーム
日本で不動産を購入して、賃貸運用する場合、建物の減価償却費を計上することが可能です。
減価償却費とは
固定資産の取得にかかった費用の全額をその年の費用とせず、耐用年数に応じて配分しその期に相当する金額を費用に計上すること
を言いいます。
不動産の場合
土地の減価償却費は0円です。※土地は価値が減らないので減価償却ができません。
建物の耐用年数は
- 木造:22年
- 木造モルタル:20年
- 鉄骨造:19年~34年
- 鉄筋コンクリート造:47年
- 鉄筋鉄骨コンクリート造:47年
となっています。
つまり、木造の新築物件を4,400万円で購入した場合は
- 毎年の減価償却費 = 4,400万円 / 22年 = 200万円
となり、毎年200万円の経費計上が認められ、その分、収益を圧縮でき、節税できる計算になります。
これが耐用年数を超えている中古物件を購入した場合は
- 中古物件の耐用年数 = 法定耐用年数 ×20%
- 木造の中古物件の耐用年数 = 法定耐用年数22年 ×20% = 4年(端数切捨て)
ですから、耐用年数は4年となります。これを「簡便法」と言います。
つまり、木造の中古物件を4,400万円で購入した場合は
- 毎年の減価償却費 = 4400万円 / 4年 = 1,100万円
となり、毎年1,100万円の経費計上が認められるのです。新築物件よりも、耐用年数切れの中古物件を購入した方が節税効率が高いことになります。
中古物件を購入して発生した減価償却費は、所得(給与所得など)と損益通算することができるため、高額な中古物件を購入し、家賃収入を上回る減価償却で赤字を発生させることで日本での所得税額や所得税率を抑える節税
が可能になるのです。
この節税スキームは、日本の中古物件でも可能ですが、これを海外不動産でやるのが富裕層の間で流行していたのです。
なぜならば
日本で、築年数22年(耐用年数)超えの木造の中古一戸建てを購入した場合、物件にもよりますが
- 土地:8
- 建物:2
全体の8割は土地価格、2割は建物価格、というように建物には価値がなくなり、土地は価値があるという形での按分になることが多いのです。
建物の金額割合が少ない以上、支出する金額の割には節税額が少なくなってしまいます。
しかし、海外不動産の場合
- 土地:2
- 建物:8
というように、建物の按分の方が多く設定されることが多いのです。これは、海外では、建物の価値が高く査定され、築年数が数10年、100年を超えたとしても、大きく価値が落ちないことが大きな要因と言えます。
海外不動産で、築年数22年(耐用年数)超えの木造の中古一戸建てを購入すると、建物の減価償却費が多く計上できるため、給与所得の高額な税金を節税できるという考え方になるのです。
このスキームを受けて、賃貸需要が大きく、不動産価格も上昇していた、米国不動産などが人気となっていたのです。
とくに給与所得の大きい、富裕層にとっては、賃貸収入(インカムゲイン)も習いながら、キャピタルゲインも狙えて、かつ節税になることが、大きなメリットがある節税スキームとして人気がありました。
令和2年度の税制改正の内容
これだけ節税スキームとして、富裕層が海外不動産を購入しはじめると、国税庁も対策を行います。
No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算
国外中古建物の不動産所得の損益通算等の特例
令和3年以後の各年において、国外中古建物の不動産所得を有する場合において、その年分の不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額がある場合、そのうち、耐用年数を「簡便法」により計算した国外中古建物の減価償却費に相当する部分の金額については、生じなかったものとみなされます。
これにより、その損失の金額については、国内にある不動産から生じる不動産所得との内部通算(いわゆる所得内通算)および不動産所得以外の所得との損益通算はできません。
出典:国税庁
耐用年数を「簡便法」により計算した国外中古建物の減価償却費に相当する部分の金額については、生じなかったものとみなされます。
つまり、
海外不動産の中古物件を購入した場合は、減価償却費は発生しません。
という形で、減価償却費を無効にする税制改正をおこなったのです。
令和3年(2021年)以降の確定申告において、海外不動産の減価償却費計上による赤字申告ができなくなった。
ことを意味します。
つまり
海外不動産の中古物件購入に伴う節税スキームは機能しなくなった。
と言えます。
節税目的の海外不動産投資はできないの?
できないわけではありませんが、効果が薄くなったと言えます。
回避方法としては
- 法人による海外不動産投資
- 海外の新築物件の購入
- 日本国内の耐用年数切れ中古物件での節税
があります。
法人による海外不動産投資
法人による海外不動産投資の減価償却費は依然として認められています。
しかしながら、法人による海外不動産投資の減価償却費計上の場合、償却した分、売却時に不動産を売却する際には、減価償却をした価格を簿価として、売却価格との差分に対し譲渡所得税が発生するため、利益額が大きく計上されてしまい、結果として税金も高くなるのです。
つまり、大きな節税にはならず、あくまでも税金の繰り延べ効果しか持たないのです。
海外の新築物件の購入
前述した国税庁の記述には「「簡便法」により計算した国外中古建物の減価償却費に相当する部分の金額については、生じなかった」という記載があります。
つまり、新築物件は対象外なのです。
海外の新築物件の購入であれば、毎年の減価償却費の計上は少額ながらもできることになります。少しの節税であれば可能ということになります。
日本国内の耐用年数切れ中古物件での節税
日本国内の耐用年数切れ中古物件であれば、引き続き、簡便法による減価償却が可能です。
できるだけ建物価格が高い、築22年を超えた木造戸建て、木造アパートに投資することで、海外不動産ほどでなくても、減価償却費を計上して、節税することが可能です。
まとめ
海外不動産投資による節税スキームは、税制改正によって機能しなくなったのは事実です。
ただし、やり方によっては、多少なりとも節税効果を期待することができます。
また、海外不動産投資としては、節税を除いた、インカムゲイン、キャピタルゲインが日本国内の不動産よりも多くとれる魅力もあるため、違い魅力を重視した海外不動産投資を検討することも一つの考え方と言えます。