ギリシャの物件を調べていると、滞在許可に必要な投資額が「25万ユーロ」「50万ユーロ」「80万ユーロ」と、記事によってばらばらに書かれています。どれかが間違っているというより、2022年と2024年に2回の引き上げがあり、どの時点の制度を書いているかが違うのが原因です。しかも、ギリシャ政府自身の英語ページが古いままになっています。公的機関の資料をたどって、いまどの金額が効いているのかを整理します。
いまの基準額は3段に分かれています。アテネ周辺・テッサロニキ・ミコノス島・サントリーニ島・人口3,100人以上の島は80万ユーロ、その他の地域は40万ユーロ、保護対象建築物の住宅化などは25万ユーロです。
「25万ユーロ」は2012年の制度開始時の金額で、いまは例外の枠にだけ残っています。「50万ユーロ」は2022年12月の改正で特定地域に入った金額で、2024年の改正で置き換わりました。
金額のほかに物件そのものの条件がつきました。不動産1件につき総面積120平方メートル以上で、民泊など短期の賃貸には使えません。
ギリシャ移民・庇護省の英語の「Golden Visa」ページは、いまも旧法(法4251/14 第20条)の必要書類を載せたままです。25万ユーロの記述がそのまま残っています。
滞在許可は労働許可ではありません。ギリシャで働く権利は付いてきません。
基準額は80万・40万・25万の3段。地域で決まる
投資家向け滞在許可(ゴールデン・ビザ)の最低投資基準額は、物件がどこにあるかで変わります。ギリシャの投資誘致機関であるエンタープライズ・ギリシャは、2024年4月のニュースレターで次のように書いています。

| 区分 | 対象 | 最低投資基準額 |
|---|---|---|
| 高需要地域 | アテネ周辺地域、テッサロニキ、ミコノス島、サントリーニ島、人口3,100人以上の国内の全ての島々 | 80万ユーロ |
| その他の地域 | 上記以外 | 40万ユーロ |
| 例外 | 政府が指定する保護対象建築物を住宅としてリノベーションする場合、最低5年間稼働していない産業用物件 | 25万ユーロ |
ここでいう「人口3,100人以上の島」という線引きが、ギリシャらしいところです。エーゲ海の島の多くは人口が3,000人に届かないため、同じ島でも規模によって必要額が倍になります。物件を見る前に、その島の人口がどちら側かを確かめておく必要があります。
エンタープライズ・ギリシャは、この変更を「effective March 31」(3月31日から有効)と書いています。
金額が記事ごとに違うのは、引き上げが2回あったから
日本語で読める公的な情報としては、日本貿易振興機構(ジェトロ)のビジネス短信が2024年5月9日に経緯をまとめています。ここに、25万・50万・80万という3つの数字の関係がはっきり書かれています。

図1 ギリシャのゴールデン・ビザが2回引き上げられるまで
- 2012年 制度が始まる
- 不動産の購入や観光客用宿泊施設のリースに最低25万ユーロ以上を投資するEU域外の外国人投資家へ、5年間の滞在許可を与える制度として施行されました。
- 2022年12月 1回目の引き上げ
- 法改正により、特定の地域・都市での最低投資基準額が50万ユーロに引き上げられました。いまも「50万ユーロ」と書いてある解説記事は、この時点の制度を指しています。
- 2024年4月5日 改正法が公布
- 2度目の改正法が公布されました。官報の表記は ΦΕΚ Α′ 49 / 5.4.2024 で、移民・庇護省のサイトに法5100/2024 の条文がPDFで置かれています。
- いま 3段構成に
- 高需要地域は80万ユーロ、その他の地域は25万ユーロから40万ユーロへ。例外として25万ユーロの枠が残りました。
つまり、見つけた記事が何年に書かれたかで金額が変わります。日付の入っていないまとめ記事は、どの時点の制度を写したものか判断できません。ポルトガルの不動産を調べたときにも、ゴールデンビザの類型が段階的に削られていて、同じ読み違いが起きやすい状態でした。
金額だけでは足りない。物件そのものにも条件がついた
2024年の改正は、金額を上げただけではありません。どんな物件を買うかにも線を引きました。
図2 2024年の改正で加わった物件側の条件
総面積120平方メートル以上
不動産購入による投資の場合、不動産1件につき総面積120平方メートル以上の物件に適用する、という基準が設けられました。
小さい部屋を複数買って金額を足す形は想定されていません。
短期の賃貸に使えない
このプログラムを通じて取得した不動産を、民泊サービスなど短期間の賃貸目的に使用することは許可されていません。
利回りを民泊で作る前提の試算は、そのままでは成り立ちません。
滞在許可=労働許可ではない
付与された滞在許可は、ギリシャでの労働許可を与えるものではありません。
現地で働いて暮らす計画なら、別の在留資格を調べる必要があります。
例外の25万ユーロ枠も、ただ安いわけではありません。対象は「政府が指定する保護対象建築物を住宅としてリノベーションする場合」と「最低5年間稼働していない産業用物件」です。どちらも工事を伴う案件で、取得してすぐ住める物件ではありません。
移行措置は2024年8月31日と12月末が区切りだった
改正法には移行期間が設けられていました。ジェトロの記事は、条件を次のように書いています。
2024年8月31日までに不動産契約額の前金10%相当を支払い、同年12月末までに全額の支払いを完了した場合には、改正前の基準額を適用できる。
この2つの期日はすでに過ぎています。いまから検討を始める場合、旧基準が使える余地はありません。売主や仲介が「25万ユーロで取れる」と説明してきたら、それが例外枠(保護対象建築物・産業用物件)の話なのか、過ぎた移行措置の話なのかを必ず分けて確認してください。
政府の英語ページは旧制度のまま。どこを見れば現行か
やっかいなのは、ギリシャ移民・庇護省の英語の「Golden Visa」ページが、いまも旧法の内容で止まっていることです。

このページの見出しは「Specifying documents for article 20 of Law 4251/14 (permanent residence permit investors)」で、節の番号は「2.4.3 Initial permanent residence permit for investors (art. 20B)」です。公証人の証明書に関する説明にも、支払額が25万ユーロを下回った場合の文言がそのまま残っています。現行の根拠法は移民法典(法5038/2023)で、2024年の改正はその第100条に入っています。
| 情報源 | 性格 | 書かれている制度 |
|---|---|---|
| 移民・庇護省 英語「Golden Visa」ページ | 省のウェブページ | 旧法(法4251/14 第20条B)。25万ユーロの記述が残る |
| 移民・庇護省 掲載の法5100/2024 条文PDF | 官報(ΦΕΚ Α′ 49 / 5.4.2024)の条文 | 現行。2024年の改正そのもの |
| 移民・庇護省 掲載のゴールデンビザ通達PDF | 2024年9月24日付の通達 | 現行。運用の細部 |
| エンタープライズ・ギリシャ | 政府の投資誘致機関 | 現行。80万・40万・25万を英語で明記 |
| ジェトロ ビジネス短信 | 日本の独立行政法人 | 現行。日本語で経緯と移行措置まで記載 |
読み方としては、金額と条件はエンタープライズ・ギリシャとジェトロで押さえ、手続きの根拠は省が置いている条文PDFと通達PDFに当たるのが早道です。英語のウェブページだけを見て判断しないでください。公的機関のページが改定に追いついていない例は珍しくなく、スペインの投資家向け居住許可を調べたときにも同じ問題が出ました。
基準額が上がった背景には、住宅価格の上昇がある
なぜ2年のあいだに2回も引き上げたのか。エンタープライズ・ギリシャは、ギリシャ中央銀行の年次報告を引きながら、住宅価格の上昇を理由に挙げています。
| 年 | 住宅価格の上昇率 |
|---|---|
| 2021年 | 7.6% |
| 2022年 | 11.9% |
| 2023年 | 13.4% |
3年続けて上がり、上げ幅そのものも大きくなっています。建築活動は13年ぶりの高水準で、アテネ周辺では四半期で13.5%の上昇も報告されました。中央銀行は見通しについて「Expectations for the Greek real estate market for the period ahead remain moderately positive, as uncertainties related to geopolitical instability at a global level remain significant」(今後のギリシャ不動産市場への期待は、世界的な地政学的不安定さに関する不確実性が依然として大きいものの、緩やかに前向きなまま)と述べています。
外国人需要が強いこと、観光が好調なこと、政府の支援を受けて初めての住宅を買う若年層がいること、新築の供給が少ないこと。この4つが価格を支える要因として挙げられています。基準額の引き上げは、値上がりした市場で外国人の購入を高価格帯に誘導し、地元の住宅市場への圧力を抑える狙いの施策だと読めます。
よくある質問
- 日本人はギリシャの不動産を買えますか。
- この記事が扱っているのは、買えるかどうかではなく、買ったうえで滞在許可を取る場合の金額の条件です。滞在許可を伴わない購入と、ゴールデン・ビザの申請は別の話として分けて考えてください。
- いまアテネの物件を買う場合、いくら必要ですか。
- 滞在許可を目的にするなら、アテネ周辺地域は高需要地域に入るため80万ユーロが最低基準です。
- 島なら安く済みますか。
- 人口3,100人以上の島は80万ユーロの側です。ミコノス島とサントリーニ島は島名で名指しされています。それ以外の小さな島は40万ユーロの区分になります。
- 25万ユーロで取れると聞きました。
- 残っているのは例外枠だけです。政府が指定する保護対象建築物を住宅としてリノベーションする場合と、最低5年間稼働していない産業用物件が対象です。通常の住宅購入では使えません。
- 物件を2件買って金額を合算できますか。
- 2024年の改正で「不動産1件につき総面積120平方メートル以上」という基準が設けられました。合算の可否は条文と通達の読み方になるため、申請前に省の通達PDFと現地の専門家で確認してください。
- 買った家をAirbnbに出せますか。
- このプログラムを通じて取得した不動産を、民泊サービスなど短期間の賃貸目的に使用することは許可されていません。
- 滞在許可があればギリシャで働けますか。
- いいえ。付与された滞在許可はギリシャでの労働許可を与えるものではありません。
- 国境に近い土地でも同じですか。
- ギリシャには、国境地域や軍事上重要な地域での不動産取得にあらかじめ許可を求める古い制度があるとされています。今回はギリシャ政府の一次情報で条文と対象地域の一覧を確認できなかったため、本記事では金額の条件だけを扱いました。島や北部の国境近くを検討する場合は、契約前に現地の公証人へ確認してください。
この記事が参照した一次情報
- Enterprise Greece「Greece adjusts Golden Visa program amid rising outlook for property market」(2024年4月号ニュースレター)
https://newsletters.enterprisegreece.gov.gr/newsletter-articles/greece-adjusts-golden-visa-program-amid-rising-outlook-for-property-market/ - ジェトロ ビジネス短信「外国人投資家に対する滞在許可発行プログラムの改正法公布(ギリシャ)」(2024年5月9日)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/05/cdec05cbd3438f9a.html - ギリシャ移民・庇護省「Golden Visa」
https://migration.gov.gr/en/golden-visa/ - ギリシャ移民・庇護省 掲載「Νόμος 5100/2024 κωδικοποιημένος με τον 5167/2024(ΦΕΚ Α′ 49 / 5.4.2024)」
法5100/2024 条文PDF(migration.gov.gr) - ギリシャ移民・庇護省 掲載「Εγκύκλιος Golden 24.9.2024」(2024年9月24日付 通達)
ゴールデンビザ通達PDF(migration.gov.gr)
