エジプト不動産
エジプト不動産 最新動向
マクロ環境・金利
- 通貨・インフレ・成長率
2024年3月の大幅なポンド切り下げと変動相場制への移行により、エジプト・ポンドは一時1ドル=50EGP前後まで下落しましたが、その後はIMFとの拡大ファシリティ(約80億ドル)と湾岸諸国からの大型投資で徐々に安定しつつあります。
インフレ率は2024年の40%超から2025年10月時点で12〜14%台まで低下し、実質金利はまだマイナス圏ながら、前年よりは落ち着いた環境になっています。 - 政策金利と金融環境
エジプト中央銀行は通貨防衛とインフレ抑制のために2024年までに大幅な利上げを行い、2025年秋時点でも政策金利は21%前後と高水準を維持しています。
住宅ローン金利は名目で20%前後と依然として重く、一次取得層には負担が大きい一方、インフレと通貨安を背景に「現金一括購入」や開発会社の分割払いプラン(長期・無利息/低利)が実務上の資金調達手段になっています。 - 外貨・ソブリンリスク
累積した外貨不足と国債残高の増加でマクロリスクは依然高いですが、IMFプログラムと湾岸からのFDI流入により「突然のデフォルト懸念」はやや後退しています。政府は港湾・物流(スエズ運河経済特区)や観光開発で外貨獲得を強化しており、不動産もその受け皿として位置づけられています。 - スエズ運河収入と財政
2024年は紅海情勢悪化でスエズ運河の通行が激減し、収入は2023年の約102億ドルから約40億ドル弱へと6割減少しました。
2025年7〜10月は情勢の緩和と停戦合意を受けて前年同期比14%増と持ち直しつつあり、中期的には財政・外貨面の下支え要因になっています。
住宅(分譲・賃貸)
- 価格はインフレ以上のペースで上昇
全国の住宅価格は2025年上期だけで平均約30%上昇したとされ、通年でも+50〜60%前後の上昇が見込まれています(2024年の急騰からはやや減速)。
カイロ近郊の6th of October・New Cairo・新行政首都(NAC)では、2024年の通貨切り下げ直後に価格と賃料が「二桁どころかほぼ倍増」しており、2025年1Qだけでも販売価格+約89%、賃料+約90%(前年比)という極端な伸びが報告されています。 - 具体的な価格帯と利回りの感覚
- 新都市・コンパウンドの中間〜上位グレードのアパートは、New CairoやNACで1㎡あたり約1.5万〜2.7万EGP(約300〜550ドル)が一つの目安です。
- 新行政首都の中位〜上位プロジェクトでは、1㎡あたり約1.9万〜2.7万EGPのレンジが多く、タワー系・ブランドレジデンスはさらに高値です。
- こうした新興エリアの総合利回りは、家賃上昇もあってグロスで6.5〜8%台という算定もあり、通貨安リスクは大きいものの、ローカル投資家には「インフレヘッジ資産」として意識されています。
- 需給:ローカル需要主導+中間所得層のシフト
取引の9割超はエジプト人による自用・投資需要で、人口増と都市化、新都市への移転ニーズが基礎需要を支えています。
2025年1Qだけでカイロ大都市圏では約7,500戸が引き渡され、住宅ストックは30万戸超に拡大しましたが、今後も東カイロ(New Cairo・NAC)を中心に年間2.8万戸前後の供給が予定されています。 - 旧賃貸法の廃止と大幅な家賃見直し
2025年7月、議会は「1996年以前の旧賃貸契約」に適用されてきた超低家賃の上限規制(旧レント法)を今後5〜7年かけて段階的に廃止する法律を可決しました。 - これにより、長年数十円レベルの家賃だった都心アパートや商業スペースは最低でも数百〜千EGPへと大幅増額され、以後は毎年15%上昇させる枠組みになります。
- 一方で、約53万世帯が旧レント物件に住んでいるとされ、政府の社会住宅供給(年間約6.9万戸)では需給ギャップが大きいとの指摘もあります。 この法律は長期的には賃貸市場の活性化・老朽ストックの再開発を促す一方、短期的には「低所得層の追い出し・歴史的地区のジェントリフィケーション加速リスク」を高める可能性が高いです。
- プレセールと支払い条件
高金利・高インフレ下でも、開発会社は - 頭金10〜15%+7〜10年の分割払い
- 家具・駐車場・クラブメンバーシップのバンドル
などの条件を提示し、プレセールの歩留まりを維持しています。
とくに中間所得層は「購入は難しいが高級エリアに賃貸で住みたい」という志向が強く、高級賃貸の需要が構造的に増えていると分析されています。
オフィス
- 空室率は一桁台に低下、ランドロード優位
2025年1Qのカイロのオフィス市場では、Grade Aオフィスの空室率が10.9%→8.6%へ低下し、2025年2Qには平均7.4%、プライム物件では4.5%まで低下しています。
高品質オフィスの供給が限られているため、ランドロード(オーナー)優位の交渉環境が続いています。 - 賃料水準とトレンド
- Grade Aオフィス賃料は年4.7%増、プライムオフィスは年4.6%増で、平均年間334ドル/㎡、プライムで457ドル/㎡程度と報告されています。
- 通貨安の影響もあり、ドルベースでは緩やかな上昇、ポンドベースでは大幅上昇という構図になっています。 テナント側は、家賃そのものよりも駐車場・ESG・設備更新・柔軟なレイアウトなどの条件を重視し、ランドロードはフレキシブルオフィス併設・共用部改装で競争力を高めています。
- 需要源:BPO・アウトソーシングと多国籍企業
オフィス需要の牽引役はコールセンターやBPO企業、ITサービス企業で、政府のデジタルインフラ投資も後押ししています。
New Cairo・NACなどの新CBDでは、ハイブリッドワーク前提の大型フロア+共有空間を持つオフィスパークが開発されており、エジプトを「英語人材が豊富でコスト競争力のあるBPO拠点」として活用する外資の進出が続いています。
リテール・商業
- 新規供給と空室率
2025年1Qには、カイロのリテール市場で約27,000㎡の新規GLAが追加され、総ストックは約322万㎡になりました。
空室率は9.2%→7.2%へ低下しており、消費の圧迫がありつつも、立地の良い施設ではテナント需要が戻っている状況です。 - 好調なのはオープンモールとコミュニティ型
屋外型・コミュニティ型の小〜中規模オープンモールが好調で、飲食・カフェ・エンタメを組み合わせた「近隣の生活密着型リテール」がテナント・来客数ともに伸びています。
逆に、古い閉鎖型モールや立地の弱い大型モールは、歩合家賃や内装支援など条件を緩めてテナントを確保するケースが増えています。 - 賃料動向
- スーパーリージョナルモール賃料:前年比+7%台
- コミュニティモール賃料:前年比+11%台
とされており、インフレに比べれば抑制的ですが、実質的には「値上げ+インセンティブ(フリーレント・内装費負担)」の組み合わせで需給調整している格好です。
ホテル・観光
- 宿泊需要と稼働率
観光は通貨安の恩恵とヨーロッパ・湾岸からの観光客回復で、2024〜2025年にかけて客数が前年比20%超の伸びを記録したと報告されています。
カイロのホテル市場では、2024年時点で客室稼働率60%台半ばとほぼコロナ前の水準を回復し、2025年にはADR(平均客室単価)+30%、RevPAR+29%(前年比)という強い価格主導の成長が見られます。 - 新規開業と供給
2025年1Qには、Hilton Cairo Nile Maadi・Sofitel Cairo Downtown Nileの2つの5つ星ホテルが開業し、約870キーが追加されました。カイロ全体のストックは約27,800キーとなり、年内にさらに650キー程度の4〜5つ星ホテルが追加される見込みです。 - 観光インフラと大型プロジェクト
- 長年開業が遅れてきたグランド・エジプト博物館は2025年に本格オープンが予定されており、ギザ・ピラミッド周辺の高級ホテル需要を押し上げるとみられています。
- 紅海沿岸(ハルガダ・エルグouna)や北海岸(North Coast)では、湾岸資本を中心に高級リゾートと分譲ヴィラの開発が継続しており、「別荘+ホテル運用」のハイブリッド商品も増えています。
物流・工業
- スエズ運河経済特区(SCZone)の急拡大
スエズ運河経済特区(SCZone)は、2022年8月〜2025年3月の間に約83億ドルの投資・272件の案件を誘致し、その半分以上が工業・物流・サービス系プロジェクトです。
2025年時点で、特区全体では116億ドル超の累計投資、300件前後の計画・稼働プロジェクトがあるとされ、エジプト第2の投資ハブとして位置付けられています。 - 新規大型プロジェクト
- UAEのAD PortsとSCZoneは、東ポートサイドに20km²の工業・物流パーク(KEZAD East Port Said Zone)を開発する50年の長期契約を締結しました。初期フェーズだけで2.8km²開発、今後3年間で約1.2億ドル規模の投資が計画されています。
- 同特区内のソフナ港周辺では、製薬・金属加工・自動車部品などの大型工場群が動き始めており、総額16.5億ドル規模の金属コンプレックスなども承認されています。
- ロジスティクス賃貸と稼働
大カイロ圏の工業エリア(6th of October Cityなど)では、近年建設された高天井・大型ドック付き倉庫の稼働率が95%前後と報告され、アフリカ主要国の中でも最も高水準のログ倉庫稼働率となっています。
EC需要と製造拠点の「中国+1」シフトを背景に、港・空港アクセスの良い賃貸倉庫と工業パークへの需要は今後も堅調と見込まれます。
REIT・資本市場・ディベロッパー
- REITはまだ黎明期
エジプトにはREIT(不動産投資信託)は存在するものの、取引高・時価総額ともに限定的で、実務上の主役はEGX(エジプト証券取引所)上場の大手ディベロッパーと未公開ファンドです。
Talaat Moustafa Group(TMG)、SODIC、Palm Hillsなどの大手は、NAC・New Cairo・North Coast・紅海リゾートで大型マスタープランを展開しており、インフレ・通貨安の局面でも価格転嫁力とブランド力でシェアを維持しています。 - 株式市場での評価
2024年の通貨急落時には不動産株も一時急落しましたが、2025年に入ると - インフレ鈍化
- IMFプログラム進展
- 大口FDI(湾岸資本の不動産・港湾投資)
を背景に、実物含み価値と外貨収入ポテンシャルを評価する動きが見られます。
制度・規制トピック(外国人投資家の観点)
- 外国人の不動産所有枠
2025年時点の実務的な解釈では、外国人個人は原則として - 全国で最大2物件まで
- 各物件4,000㎡以下
- 主として居住用
という条件で所有が認められています(商業目的や工業用地については別枠・特区スキームあり)。 - エリア制限
- シナイ半島や国境・軍事関連エリアでは、所有が禁止もしくは長期借地(usufruct)に限定されるケースが多いです。
- 一般的な外国人の投資対象は、カイロ(New Cairo・Maadi・Sheikh Zayed)・紅海リゾート(Hurghada・El Gouna)・北海岸のリゾートなど、観光・高級住宅エリアが中心です。
- 実務上のポイント
- 契約金の外貨送金証憑(銀行経由)の提出
- 不動産登記所での正式登録
- 一定期間(多くは5年)の転売制限
などが求められ、法務・登記まわりのデューデリジェンスが極めて重要になります。
セグメント別の投資示唆
- 住宅(カイロ新都市部)
- 通貨安+インフレヘッジ志向で、新都市コンパウンドの中〜上位グレードはローカル・湾岸投資家の需要が根強いです。
- 賃料上昇と旧賃貸法の廃止により、「都心旧い賃貸→郊外新築への住み替え」が加速し、新行政首都・New Cairo・Sheikh Zayedなどの賃貸ニーズは中期的にも拡大しやすいと考えられます。
- ただし、価格はすでに大きく上がっており、購入タイミングと為替リスク管理が重要になります。
- オフィス
- Grade A・プライムオフィスは空室率一桁・賃料もドルベースでじわじわ上昇しており、BPO・ITサービス・多国籍企業向けの長期安定キャッシュフロー資産になり得ます。
- 一方で、サブプライム立地や古いビルは設備更新・ESG対応・駐車場整備が不可欠で、バリューアップ型投資でないと収益化は難しい局面です。
- リテール
- 高インフレで消費は圧迫されつつも、飲食・エンタメ中心のオープンモール・近隣型商業施設は稼働改善が進んでいます。
- 出店側から見ると、歩合賃料やフィットアウト支援を引き出せる交渉余地がまだあるため、条件次第では魅力的な拠点となり得ます。
- ホテル・リゾート
- カイロ・紅海・北海岸の高級ホテルは、ADR・RevPARともに力強い回復を見せており、通貨安を背景に外貨建てベースでは競争力が高いです。
- ただし、地政学リスク(紅海情勢・周辺紛争)により需要が一時的に蒸発する可能性も常に意識する必要があります。
- 物流・工業
- SCZoneや6th of Octoberなどでは、賃貸倉庫・工業パークの稼働率が非常に高く、長期のインフラ投資・税優遇も組み合わさるため、外貨収入にアクセスできるセグメントとして注目度が高いです。
- エジプトを「アフリカ・中東向けの製造・物流ハブ」として位置づける政策が続く限り、工業・物流不動産は中長期テーマになりやすいです。
主なリスク・留意点
- 為替・資本規制リスク
通貨切り下げが続けば、ローカル通貨ベースの高い利回りも外貨ベースでは目減りします。将来的な送金規制や外貨入手の制約にも備える必要があります。 - マクロ・ソブリンリスク
高水準の公的債務と外貨不足は依然として構造問題であり、IMFプログラムの進捗や湾岸からの支援が後退すれば、再び通貨・金利が大きく動く可能性があります。 - 社会・政治リスク
旧賃貸法の廃止は中長期的には市場の効率化につながる一方で、短期的には低所得層の住居不安・抗議の激化など社会不安の火種にもなり得ます。 - プロジェクト遅延・品質
高インフレと建設コスト上昇、人材不足の影響で、引き渡し遅延や仕様縮小の事例も散見されます。契約上の遅延補償条項や品質保証、エスカレーション条項を細かく確認する必要があります。 - 法務・登記の複雑さ
外国人の所有は法的には可能でも、登記・用途規制・エリア制限など実務面のハードルが高く、ローカルの弁護士・信頼できるデベロッパーとの連携が不可欠です。
まとめ
2025年末時点のエジプト不動産市場は、
- 大幅な通貨切り下げ後の安定化フェーズ
- 依然高いインフレと金利
- 人口増・都市化による強い実需
という三つ巴の中で、「インフレヘッジ資産としての不動産」に資金が集中している局面だといえます。
住宅は、とくにカイロ新都市部で価格・賃料ともに急騰し、オフィスはGrade Aの一桁空室率・緩やかな賃料上昇、リテールはオープンモール・コミュニティ型の選別的回復、ホテルは観光回復による単価主導の成長、物流・工業はSCZoneなどを軸に長期成長ストーリーが強まっています。
一方で、為替・政治・法務リスクは決して小さくなく、外国人投資家にとっては
- 通貨と出口戦略の設計(どの通貨で投資・リターンを測るか)
- 信頼できるパートナーと法務・税務の事前整理
- セグメントとロケーションの絞り込み(住宅なら新都市、商業ならオープンモール/観光なら紅海・北海岸、など)
が成功の鍵になります。エジプト不動産はリスクを許容できる投資家にとって、依然として高成長ポテンシャルと高利回りの両方を狙える市場だといえます。
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フィリピン不動産
フィリピン不動産 最新動向
マクロ環境・金利
- 経済成長と景気感
2025年は、フィリピン経済は5%台前後の成長を維持しつつも、勢いはやや鈍化しています。2024年通年の実質GDP成長率は5.6%と、政府目標レンジの下限に近い水準でした。
2025年も個人消費・インフラ投資・出稼ぎ労働者送金(OFWレミッタンス)の増加が下支え要因ですが、高金利と世界景気の減速、輸出の弱さが重しになっています。 - インフレと政策金利
2024年の平均インフレ率は2.6%で、2023年の6%から大きく低下しました。2025年も足元(10月時点)で1.7%前後と、中央銀行(BSP)のインフレ目標レンジ(2〜4%)を下回る低インフレが続いています。
こうした中でBSPは2024年末〜2025年にかけて段階的に利下げを行い、政策金利(RRP)は2025年10月時点で4.75%まで引き下げられています。 - 住宅ローン金利の実務感
BSPの利下げの効果は徐々に銀行ローン金利にも波及しており、銀行の住宅ローン金利は平均で7%台後半→7%台前半へとじわり低下しています(2024年Q4時点の平均住宅ローン金利は約7.7%)。
公的住宅融資のPag-IBIG Fundは、社会住宅向けに3〜4%台の優遇金利を維持しつつ、2024〜25年にかけて【低所得者向け4PHプログラム】の金利を最大3%まで引き下げるなど、一次取得層への支援を強化しています。
住宅(分譲・賃貸)
- 供給ペースの急ブレーキとミスマッチ
コンドミニアムの新規供給は、パンデミック前(2017〜2019年)の年間約1.3万戸から、2025〜2027年の平均約5,800戸へと半分以下に縮小する見通しです。
2025年に完成予定の物件は、マニラ湾岸(Bay Area)が戸数の半分超を占める一方、マカティ・BGC・オルティガスなどのCBDでは供給が大幅に絞られる構図になっています。 - 需要の中心は「ミドル~ミドルアッパー」だが歩留まりは鈍い
2025年上期〜第3四半期にかけての新規発売・ネットテイクアップを見ると、価格帯としてはミドル~ミドルアッパー(約400万〜800万ペソ)のコンドが6割超を占めています。
ただし、金利負担と生活費高の影響で、予約→引き渡しまでの歩留まりはなお鈍く、頭金・分割条件・家電バンドルなどのプロモがないと動きにくいのが実務感です。 - 空室率と賃料:エリア間の二極化
マニラ首都圏全体では、2024年末時点でコンド空室率は10〜20%台ですが、 - マカティCBD:13%前後
- BGC(フォートボニファシオ):20%弱
- オルティガス:6〜7%台
と、CBD内でもばらつきがあります。
とくにBay AreaはPOGO退去の影響で空室率50%超と極端な過剰供給が続いており、2025年も高空室が続くとの見通しです。 賃料面では、 - マカティ・BGC・ロックウェルなどのプライム立地3BRは、2024年に再び小幅な下落(前年比▲2〜3%程度)が出ており、2025年も横ばい〜微調整が続いています。
- 一方で、築浅・駅近・アメニティ充実物件は、海外駐在員・ローカル富裕層・ハイブリッド勤務層の需要で賃料を維持しやすい状況です。
- 利回り・投資妙味
主要CBDのコンド賃料利回りは概ね4.5〜6%台で、国際比較では依然として「中位〜やや高め」の水準です。
ただし、空室リスクと管理コスト(共益費・修繕費)を考慮すると、実効利回りはそれより1〜1.5ポイント程度低くなるケースが多く、マカティ・BGCの優良物件か、賃貸需要が読みやすいミドル層向けコンパクトユニットに選好が偏りやすいです。
オフィス
- 高空室だが底入れの兆し
オフィス市場は、2020年以降の大量供給とPOGO撤退で空室率が急上昇しましたが、2024年末時点のマニラ首都圏オフィス空室率は約19.8%まで低下し、その後2025年も20%前後で横ばい〜やや改善のレンジに入っています。
政府機関・BPO・ITサービス・金融などトラディショナル+アウトソーシング需要が拡大しており、2024年のオフィス成約面積の多くを占めました。 - テナントの選別:質とコストの両にらみ
テナント側は、 - 租税優遇のあるPEZAビル
- グリーン認証・防災性能・効率的なフロアプレート
- ハイブリッド勤務に対応した共用スペース・アメニティ
を重視し、マカティCBD・BGC・オルティガスのAグレード物件に需要が集中しています。
一方で、Bay Area・マカティ/オルティガス周辺の二級物件は、BPO向け「As-is/Fitted」スペースとしての値引き・フリーレント・内装支援など、条件調整が前提になりやすいです。 - 賃料水準
見かけのヘッドライン賃料はほぼ横ばいですが、実際の成約賃料はヘッドラインより3〜30%ほど低いケースもあり、依然としてテナント優位の交渉環境です。
リテール・商業
- モール稼働はコロナ後で最も良い水準
大手デベロッパーが運営するプライムモール(SM、Ayala、Robinsonsなど)では、空室率はコロナ前に近い水準まで低下し、特にNCR・セブ・ダバオでは5年ぶりの高稼働と評価されています。 - テナントミックスの再構築
家電量販・アパレルのみならず、 - 体験型テナント(屋内アクティビティ、エンタメ)
- F&B(カフェ、カジュアルダイニング、韓国系・日系チェーン)
- ホームセンター・家具
といった業種の出店が増えており、「行く理由のあるモール」づくりが進んでいます。 - 賃料と契約条件
一等立地のプライム区画は賃料が横ばい〜小幅増で推移する一方、二等立地・郊外モールでは、 - 売上歩合賃料(%レント)
- フィットアウト(内装)支援
- フリーレント期間
を組み合わせて出店を促す条件が目立ちます。
ホテル・観光
- 観光客数は回復途上だが国内需要が強い
2024年の外国人観光客数は約595万人と、2019年の約8.26百万人に比べるとまだ23%程度下回っています。
2025年1〜8月の外国人観光客は約400万人弱で前年同期並みですが、国内旅行(内需)は旺盛で、ホテル稼働を支えています。 - ホテル稼働・ADR
レポートベースでは、 - メトロマニラの平均稼働率は60%台半ば
- ADR(平均客室単価)は前年比で数%の上昇
とされ、特にマカティCBD・BGC・ベイエリアではMICE・ビジネストラベルが好調です。 - 政策面の追い風
2025年6月からはインド人観光客への短期ビザ免除が導入され、インドからの訪問者増加が期待されています。また、マニラ空港(NAIA)の拡張・改修計画も進んでおり、中期的には国際線座席供給の増加→ホテルADR上振れにつながる可能性があります。
物流・工業
- EC・3PL需要を背景にした倉庫開発
EC拡大とサプライチェーン再編を背景に、中部〜南ルソン(ブラカン、パンパンガ、カビテ、ラグナ、バタンガス)での賃貸型物流倉庫開発が続いています。
高天井・広いヤード・複数ドックを備えた施設が求められ、1,000ヘクタール規模の新たな工業団地開発計画も複数走っています。 - 賃料と空室
新規供給が増えたエリアでは空室率がじわり上がり、賃料も局地的な調整局面に入っていますが、 - 汎用性の高いレイアウト
- 幹線道路・港・空港へのアクセス
- 安定した電力供給
を満たす施設は依然としてテナント付きのまま売買されることも多く、利回り商品としての需要も堅調です。
REIT・資本市場
- 利回りと投資家需要
フィリピンREIT(AREIT、MREIT、RL Commercial REITなど)は、2025年も年5〜7%台の配当利回りを維持しており、国債利回りが低下してきた局面では相対的な魅力が意識されやすい状況です。 - ポートフォリオの多様化
従来はオフィス主体のREITが多かったものの、 - 物流施設
- 商業施設
- ホテル・宿泊
などへの用途分散・資産入替が進んでおり、サイクル耐性の高いポートフォリオを志向する動きが強まっています。
制度・規制トピック
- 外国人の不動産取得枠
外国人の土地直接所有は不可、コンドミニアムは1棟全体の40%まで外国人持分可という基本ルールに変更はありません。 - 長期賃借期間の延長(99年リース)
2024年に成立した共和国法12252(Investors’ Lease Act改正)により、外国投資家が工業・商業目的で土地を長期賃借できる期間が、従来の最大75年(50年+更新25年)から最大99年へと延長されました。
これにより、工業団地・物流施設・観光リゾートなどの長期案件で、外国資本がより長い期間のリースを組みやすくなり、中長期の開発投資を後押しすると期待されています。 - 税制・投資インセンティブ
企業向け税制優遇を整理するCREATE/CREATE MORE関連の議論が続いており、PEZA経由のインセンティブや、高付加価値産業向けの優遇を通じてBPO・製造・物流投資の呼び込みを図っています。
投資家への示唆(セグメント別)
- 住宅
- マカティ・BGC・ロックウェルのプライム・築浅コンドは価格を維持しやすい一方、ベイエリアの大量在庫・高空室が市場全体の重しになっています。
- 「利下げ×プロモ強化」で一次取得層・自用ニーズは戻りつつあるものの、投資目的での複数戸購入は、空室リスクを慎重に見たうえで、立地と管理品質を厳選する必要があります。
- オフィス
- 空室率は依然2割前後と高いものの、大規模な値崩れは回避されており、良いビルを割安な賃料・価格で取得できる「買い手市場」が続いています。
- とくにマカティCBDのAグレード・PEZAビルや、BGCの新築グレードAは、中長期でみればリバウンド余地が大きいゾーンです。
- リテール
- プライムモールは稼働・賃料ともに回復軌道で、長期保有前提の安定キャッシュフロー資産としての魅力があります。
- 一方で地方・郊外モールは、テナント入替と体験型コンセプトへの投資が必須で、CAPEX前提の再生案件として捉えるべきフェーズです。
- ホテル
- 外国人観光客数はまだ完全回復前ですが、国内旅行とMICE需要が強く、首都圏ホテルはADRの引き上げ余地があります。
- NAIA拡張やビザ緩和(インドなど)を背景に、2025〜27年にかけてインバウンド回復が本格化すれば、ホテル・リゾート案件の収益上振れも期待できます。
- 物流・工業
- 「中国+1」戦略やEC拡大を背景に、ルソン島の物流・工業回廊(北ハイウェイ〜南ハイウェイ沿い)は中長期で有望です。
- ただし、既に土地価格が上昇しているエリアも多く、土地区画の使い回しや将来の転用性(マルチテナント対応)を重視した設計が重要になります。
- REIT
- 配当利回りが5〜7%台と国債+アルファの水準である一方、スポンサーの資産注入力・ガバナンス・テナント分散によって質に差があります。
- オフィス特化型よりも、物流・商業・オフィスなど複数用途を組み合わせたポートフォリオの方が景気変動耐性は高い傾向です。
リスク・留意点
- 住宅の供給過剰・空室リスク
- ベイエリアを中心に、POGO撤退の影響が尾を引く高空室が続いており、賃料ディスカウント・入居付けの長期化が避けられません。
- 2025〜27年は新規供給が減るとはいえ、「立地が微妙な物件」は在庫化が続く可能性があります。
- 金利・為替リスク
- BSPは利下げモードに入ったものの、外的ショック(米金利動向・原油価格など)によっては追加利下げが難しくなる局面もありえます。
- 外貨建て借入・ペソ建て資産への投資では、ペソ安リスクと金利の再上昇リスクを念頭に置く必要があります。
- 建設コスト・引渡し遅延
- 建設資材・人件費の上昇と、許認可・インフラの遅れから、プロジェクト完成・引渡しの遅延が散見されます。
- プリセール購入の場合は、遅延時のペナルティ・キャンセル条件・返金条件を契約書で厳密に確認することが重要です。
- 政策・規制の変化
- 税制改革やインセンティブ制度の見直しにより、特定セクター向けの優遇が縮小・変更されるリスクがあります。
- 外国人投資家にとっては、土地リース期間延長(RA12252)の実務運用や、地方自治体ごとの許認可プロセス差異も要チェックです。
まとめ
2025年のフィリピン不動産は、「金利低下」と「需給調整」が同時に進む局面にあります。
住宅は、ベイエリアの過剰供給を抱えつつも、CBD・好立地の選別相場が定着。オフィスは高空室ながら底入れの兆しが出ており、良質物件を割安に拾える局面です。リテールはプライムモール中心に回復、ホテルは国内需要とインフラ整備を追い風にじわじわ改善、物流・工業は中国+1・ECの構造的追い風を受けています。
金利はピークアウトし、政策面でも長期リース拡大やインセンティブ見直しなど投資環境整備が進んでいる一方、エリア・物件による二極化とテナントの選別は今後も続きます。
フィリピン不動産に投資する際は、マクロの成長ストーリーだけでなく、サブマーケットごとの需給とテナント力、スポンサー・管理運営能力を具体的にチェックすることが、2025年以降の成否を分けるポイントになっているといえます。
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マクロ環境・金利
- 成長率とインフレ
2025年のUAE経済は、石油以外の分野が牽引し、実質GDP成長率4〜5%台の見通しとされています。人口はパンデミック前から約50万人増え3.8百万人規模となり、実需ベースの住宅需要を押し上げています。インフレ率はおおむね2%弱と比較的落ち着いており、家計・企業ともにコスト面の不確実性は限定的です。 - 金利と通貨ペッグ
UAEディルハムは米ドルにペッグされており、中央銀行(CBUAE)の政策金利は米FRBの動きに追随します。2025年9月・10月に連続利下げが行われ、オーバーナイト預金ファシリティの基準金利は3.90%まで低下しました。これは2022年以来の低水準で、住宅ローンや投資用ローンの借入コストの徐々な低下要因になっています。 - 金利低下が不動産に与える影響
ドバイは現金購入比率が高いものの、近年は居住目的のローン利用者や長期保有の投資家も増えています。基準金利の低下により、 - 住宅ローンの月返済負担が軽くなる
- REITやインカム型不動産の相対的な投資妙味が高まる
など、「実需+長期投資」側にとっては追い風の環境になりつつあります。
住宅(分譲・賃貸)
- 売買市場:取引量は過去最高水準を更新
2025年上期のドバイ全体の不動産売買額は約3,270億ディルハム(前年比+約40%)と報告されており、過去最高ペースで取引が積み上がっています。 - 取引件数ベースでも、2025年はオフプラン(建設前販売)+完成物件ともに高水準で、特にオフプランが全体の半分以上を占める月も多い状況です。
- 2021年以降の価格上昇を背景に、既存保有者の売却益確定(キャピタルゲイン目的の売り)も増えています。
- 価格動向:長期ラリーの終盤感はありつつも、依然として上昇基調
2021年初頭から2025年にかけて、ドバイの平均住宅価格は約75%上昇しており、2008年バブル前後に匹敵する「最長の価格上昇局面」が続いています。 - ヴィラ(戸建て・タウンハウス)は、プール付き・ゲーテッドコミュニティなどの希少性から、アパートよりも高い上昇率を維持しています。
- 高級エリア(パーム・ジュメイラ、エミレーツヒルズ、ジュメイラ・アイランズ等)は、パンデミック前から2倍以上の価格になった物件も少なくありません。
- 一方で、内陸部のアパート密集エリア(ディスカバリーガーデンズ、インターナショナルシティ等)は、供給増の影響もあり、上昇率は鈍化〜横ばいのケースが増えています。
- 需要構造:投機より「実需+富裕層マネー」へ
価格上昇を牽引しているのは、かつてのような短期転売(フリッピング)だけではなく、 - 税制優位性を求める欧州・英国・南アジア・ロシアなどの富裕層移住
- ゴールデンビザ(10年居住権)を目的とした200万AED以上の物件購入
- 現地で働く中間層・上級管理職の自宅取得ニーズ
といった、「長期居住・資産防衛・タックスプランニング」が絡んだ実需が中心になっています。 - 賃貸市場:家賃の上昇は続くが、エリアによる差が拡大
2021年以降の急激な賃料上昇に比べると、2025年の家賃上昇ペースはやや落ち着きつつありますが、人気エリアのアパート・ヴィラは依然として前年度比プラスです。 - 家賃更新時の上限は、RERAのレンタルインデックスを基準に決まり、「一気に倍増」といった極端な値上げは制度上難しいものの、数年にわたる積み上げで負担感は大きくなっています。
- 都心・海沿い(ドバイマリーナ、ダウンタウン、ビジネスベイ、ビーチフロント)では、1ベッドルームの年額家賃が10万AEDを超えるケースも珍しくなく、中間層が郊外へシフトする動きも見られます。
- 供給パイプライン:2025年以降、供給リスクは意識され始めている
大手デベロッパー各社(エマール、ナキール、ダマック等)は、好調な販売を背景に - 新たなマスタープランコミュニティ(ドバイサウス周辺、ドバイクリーク等)
- 超高級ヴィラ群(パーム拡張エリア、ウォーターフロント再開発)
を次々とローンチしています。
2025年〜2027年にかけて、十数万戸規模の新規住宅が完成予定とされており、特に中価格帯アパート市場では将来の供給過剰リスクが意識されています。
オフィス
- Aグレードオフィスの逼迫
ドバイ国際金融センター(DIFC)や主要CBDでは、 - グレードAオフィスの空室率が一桁台にまで低下
- 2024〜2025年にかけて賃料が20%前後上昇
と報告されており、「場所も建物の質も良いオフィス」は完全に貸し手市場になっています。 - テナント構成の変化
既存の金融・コンサル・法律事務所に加え、 - ファミリーオフィス
- 資産運用・フィンテック
- Web3/クリプト関連
などがドバイをリージョナルHQとする動きが続いており、少ない良質な床をめぐる争奪戦になっています。 - Bグレード・周辺部オフィス
一方、古いビルやサブマーケットのオフィスは、 - コワーキングやフレックスオフィスへのコンバージョン
- 床面積の細分化(小規模区画への分割)
- 共用部リノベーション
によって「賃料は抑えつつ、使い勝手を上げる」リポジショニングが進んでいます。ESG観点・省エネ性能・駐車場の利便性などもテナント選別の重要な要素になっています。
リテール・商業
- モールは依然として強いが、ロケーションで差
ドバイモール、モール・オブ・ジ・エミレーツなどの旗艦モールは来客数・売上ともに過去最高レベルを維持しており、プライムテナント向け賃料は横ばい〜小幅上昇です。 - 高級ブランド・ジュエリー・時計などのラグジュアリーセグメントは、観光客+富裕層居住者の双方から支えられています。
- 一方、コミュニティモールや二級立地のストリートリテールでは、F&B(飲食)やサービス業中心にテナントミックスの再編が続き、歩合賃料やフリーレントで出店を促すケースも多くなっています。
- ECとオムニチャネル
UAE全体でEC利用率は高まっていますが、 - 「ショールーミング+オンライン決済」
- オムニチャネル前提のブランド出店
が一般化しつつあり、リアル店舗は「体験・ブランド発信・受け取り拠点」としての役割が強まっています。
ホテル・観光
- 観光客数と稼働率
2025年上期のドバイの国際来訪者数は約1,000万人弱とされ、過去最高だった2024年をさらに上回るペースです。 - ホテル稼働率は平均80%台前後を維持し、ADR(平均客室単価)・RevPARともに前年を上回る水準で推移しています。
- MICE需要(展示会・会議)とレジャー需要の両方が強く、特に冬季(11〜3月)の稼働はほぼフルの状態が続いています。
- 短期賃貸(ホリデーホーム)
STR系データによると、ドバイのホリデーホーム市場は - 都心・ビーチ沿いでは稼働70%台+ホテル並みのADR
- 年間稼働を通した平均でも、従来の長期賃貸より高い利回りを確保できるケースが多く
これがビーチフロントやマリーナ周辺のスタジオ〜1BRの投資需要を支えています。
物流・工業
- 倉庫需要:港湾・空港ハブとしての優位性
ジャフザ(JAFZA)、ドバイサウス(アール・マクトゥーム空港周辺)、ドバイインダストリアルシティなどでは、 - EC・3PL・コールドチェーン事業者の拠点拡張
- インド・アフリカ・欧州を結ぶ中継物流拠点
の需要が継続しており、現代的な高天井倉庫の空室率は非常に低い状態です。 - 賃料トレンド
プライム物流倉庫の賃料は、2024〜2025年で前年比二桁上昇の報告もあり、立地の良い大型倉庫は「空き待ち」の状況が続いています。
開発サイドにとっては - 土地価格の上昇
- 建設コストの増加
が利回り圧縮要因となっており、大規模・高仕様な物流パークを複数テナントでシェアするスキームが主流になりつつあります。
REIT・資本市場
- REIT市場の拡大
2025年には、ドバイ・ホールディング傘下のDubai Residential REITがドバイ金融市場(DFM)に上場し、約143億AED(約39億ドル)の時価総額でデビューしました。2025年の想定配当利回りは約7.7%とされています。 - 既存REITの動き
- ENBD REITは、2025年時点で配当利回り9%前後を提示しており、オフィス中心のポートフォリオで安定分配を継続しています。
- Emirates REITは、資産売却とリファイナンスによりLTVを40%→20%へ大幅に引き下げ、2025年上期のNAVを前年から50%超引き上げるなど財務体質を改善しています。
- REITの位置づけ
直接不動産投資と比べて - 少額からの分散投資
- 高配当(おおむね7〜9%台)
- 外国人でも容易にアクセス可能
という特徴があり、「現地に物件を持たずにドバイ不動産に乗る手段」として、2025年は投資家の認知度が大きく高まっています。
制度・規制トピック
- ビザ・居住制度
- ゴールデンビザ(10年):200万AED以上の不動産取得などで、長期居住権を取得可能。家族同伴や使用人の帯同も認められ、「移住と投資」をセットで考える層を強く惹きつけています。
- 不動産投資家ビザ(5年):より小規模な投資家向けの枠も継続しており、目的に応じて使い分けがされています。
- 開発規制と市場安定化策
2008年のバブル崩壊の教訓から、 - オフプラン販売におけるエスクロー管理の厳格化
- 大型マスタープランごとの段階的開発
- デベロッパーの財務健全性チェック
などが整備され、過去ほど極端なバブルとクラッシュを繰り返さないような枠組みが敷かれています。
投資家への示唆(セグメント別)
- 住宅(自分で住む+長期保有)
- 実需向けには、学校・病院・スーパーなど生活インフラの整ったコミュニティ型ヴィラ/タウンハウスが依然として人気です。
- 価格は高止まりですが、金利低下と家族のライフスタイル変化を背景に、「賃貸→持ち家」へのシフトを検討する駐在員・移住者も増えています。
- 長期目線では、人口増とインフラ整備が続くエリア(ドバイサウス、クリークハーバー等)での一次取得は選択肢になりやすいです。
- 住宅(投資・インカム狙い)
- ビーチフロントやマリーナ、ダウンタウンの1BR〜2BRのホリデーホーム用途は、稼働とADR次第で依然として高利回りが期待できますが、
- 管理コスト
- ライセンス・規制
- シーズナリティ
を織り込んだシミュレーションが必須です。
- 長期賃貸狙いなら、交通・学校アクセスの良い中価格帯コミュニティ(ドバイヒルズ、アラブランチズ周辺など)で、安定稼働を狙う戦略が現実的です。
- オフィス
- Aグレードオフィスは賃料が高騰しており、キャピタルゲインよりも安定賃料収入+希少性プレミアムをどう評価するかがポイントです。
- 中長期では、ESG対応・グリーンビルディング認証・フレックス対応などを備えた物件が、テナント需要・評価の両面で優位になりやすいです。
- リテール・ホテル・物流・REIT
- リテール:旗艦モールは個人での直接投資が難しいため、REITや開発会社株を通じた間接投資が現実的です。
- ホテル:短期賃貸用レジデンス(ホテルレジ・サービスアパート)が、ホテル需給の恩恵を受けやすいアセットです。
- 物流:チケットサイズが大きく、現地デベロッパーやファンドとの共同投資が前提になりがちです。
- REIT:7〜9%台の配当利回り+分散投資が可能で、ローカル商品としては「インカム重視の入り口商品」として位置づけられています。
リスク・留意点
- 価格調整リスク
2021年からの長期上昇で、平均価格はすでに過去ピーク水準を上回ると言われています。今後、 - 世界景気減速
- 金融市場の変動
- 供給増加
によって、一部セグメント(中価格帯アパートなど)で価格調整が起こる可能性があります。 - 供給過剰と空室リスク
大量の新規プロジェクトが同時期に完成した場合、 - ニッチな立地や仕様の物件
- 管理品質の低いコミュニティ
は、空室や賃料下落の影響を受けやすくなります。 - 規制・制度変更リスク
ビザ要件、ホリデーホーム規制、外国人所有に関するルールなどは今後も調整が入り得ます。投資前には、 - 最新のRERA規定
- 区画ごとの用途制限
を必ず確認する必要があります。 - 為替・地政学リスク
ディルハムはドルペッグのため為替変動は小さいものの、投資元通貨(円・ユーロ等)とのレートは収益に影響します。また、中東地域特有の地政学リスクも完全には無視できません。
まとめ
2025年12月時点のドバイ不動産市場は、
- 住宅:2021年からの長期ラリーの終盤に差しかかりつつも、取引量・価格ともに高水準
- オフィス:DIFC等Aグレードは空室がほとんどなく、賃料上昇+テナント選別が続く局面
- リテール・ホテル:観光・消費の強さを背景に、プライム物件は稼働・収益ともに堅調
- 物流:港湾・空港ハブとしての需要が強く、モダン倉庫の賃料はタイト
- REIT:高配当+市場拡大で、「ドバイ不動産への間接投資口」として存在感が急拡大
という姿になっています。
一方で、
- すでに価格水準は高く、セグメントによっては今後の調整リスクも無視できない
- 大量の新規供給が控えており、立地・仕様・運営力での「勝ち物件」と「取り残される物件」の差が広がりやすい
という側面もあります。
今からドバイ不動産を検討する場合は、
- 「どのエリア・どの用途・どの保有期間で、何を狙うか」をかなり具体的に決めたうえで、
- 実需・インカム・キャピタルゲインのバランス
- ビザ・税務・出口戦略(売却/賃貸/REIT乗り換え等)
まで含めて設計していくことが重要な局面だといえます。
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カンボジア不動産
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マクロ環境・金利
- 経済成長とインフレ
カンボジア経済はコロナ後のリバウンドが一巡しつつも、2024〜2025年も実質成長率5.5〜6%前後の拡大が続く見通しです。牽引役は縫製・製造業、観光、建設・不動産関連投資です。Knight Frankのレポートでも、2025年のGDP成長率見通しを約6%とし、商業不動産の「純吸収」は引き続きプラスと見込まれています。(content.knightfrank.com) - 金利・金融環境
カンボジアは高度なドル化経済で、明示的な政策金利はありませんが、商業銀行のドル建て住宅ローン金利は年8%前後で安定してきています。Knight Frankも「住宅ローン金利は平均8%程度で安定」と指摘しており、米ドル金利の低下を受け、さらなる上昇圧力は限定的とみられています。(content.knightfrank.com) - 融資姿勢
コロナ期の延滞問題を踏まえ、銀行は引き続き自己資金比率・返済比率(DTI)・職業の安定性を慎重に見ていますが、優良案件への融資は十分に出ている状態です。外資向けには、現地銀行+デベロッパー分割払い、海外銀行の投資ローンなど、多様なスキームが組まれています。
住宅(分譲・賃貸)
- コンド供給の“量”はピーク圏だが、質と価格で調整中
プノンペンのコンドミニアム供給は2024年末時点で57,772戸/132プロジェクトに達しており、2025年も完成予定案件の引き渡しが続きます。(content.knightfrank.com)
セグメント別ではミッドティア(中価格帯)とコア(中〜中上価格帯)が全体の約8割を占め、高級・プライムは合計2割程度にとどまっています。 - 価格は“調整済み+選別相場”
コロナ前のピークからは名目価格が一段階切り下がった水準で横ばい〜小幅安が続いており、Knight Frankも「価格調整局面は続くが、適切な価格設定のミッドティア・コア案件では販売が持ち直し」とコメントしています。(content.knightfrank.com)
実務上は、- 新築プレセール:平米単価を抑えたコア物件が売れ筋
- 既存高級物件:リセール価格のディスカウント+家具付き+分割払い延長など条件改善
といった「実質値引き」で需給調整が行われています。
- 賃貸需要と利回り感覚
賃貸面では、若年層カップルやローカルの中間層、外資系企業の駐在員・フリーランスなどがミッド〜コア物件を中心に賃貸しており、- 中心部1ベッド:家賃600〜900ドル/月
- 周辺部・築古:400〜600ドル/月
程度が相場感です。
表面利回りは、良いロケーションの1ベッドで6〜8%前後が一つの目安で、開発事業者が掲げる「保証利回り8〜10%」は、販売促進要素としてやや誇張気味に受け取られています。
- 販売戦略:“価格・立地・ブランド”が鍵
Knight Frankの調査では、2024年後半の新規コンドの「ローンチ後1四半期の販売率」は29%と、2019年以来の高水準を回復しました。(content.knightfrank.com)
好調プロジェクトの特徴は、- 信頼度の高いデベロッパー(過去案件の完成実績あり)
- 中心〜準中心立地(BKK1、Chamkarmon、Chroy Changvarなど)
- 過度なGRRよりも、現実的な価格設定+設備・共用部の差別化
といった「地に足のついた商品設計」です。
- サービスアパート vs コンド賃貸
サービスアパート供給も増えており、2024年末時点で約8,400戸、2027年には約10,259戸まで増える見込みです。平均稼働は**約54%**にとどまり、コンド賃貸との競合が激しくなっています。(content.knightfrank.com)
実務的には、- 短期〜中期滞在:サービスアパート
- 1年以上:コンド賃貸(+清掃サービスを付けて“なんちゃってサパート化”)
という住み分けが進んでいます。
オフィス
- 空室率は6割前後の“借り手市場”
プノンペンのオフィス市場は、2024年末時点で**全体稼働率61.4%**と、前年から約2ポイント改善したものの、依然として空室の多い状況です。(content.knightfrank.com)
グレード別賃料の目安は、- Grade A:15〜25ドル/㎡・月
- Grade B:10〜17ドル/㎡・月
- Grade C:6ドル/㎡〜
とされ、名目賃料は横ばいでも実効賃料はディスカウント+フリーレント+内装支援で実質下がっているケースが多いです。
- 今後の供給とテナント動向
2025年には約158,000㎡の新規供給が予定されており、その後も2028年までに約54万㎡の追加供給が見込まれています。(content.knightfrank.com)
テナント側は、- 銀行・保険・テック企業などのHQ移転・拡張
- 工業団地やSEZに進出する企業のバックオフィス機能
などの需要がある一方、フロア縮小・賃料見直し交渉も活発で、**「グレードAの良いビルに移りながらコストは据え置き〜減少」**という“フライト・トゥ・クオリティ”が起きています。
リテール・商業
- モールは供給過多気味、郊外型中心に競争激化
2024年後半時点で、プノンペンのリテールモール供給は約870,520㎡/60モール。今後3年で約32%増の**約115万㎡まで拡大が見込まれています。(content.knightfrank.com)
一方で平均稼働率は64.5%(前年比▲3.5pt)**と低下しており、特に二級立地のモールはテナントリーシングに苦戦しています。 - 賃料とテナントミックス
プライムモール賃料は、- プライム:18〜28ドル/㎡・月
- セカンダリー:10〜22ドル/㎡・月
とされますが、実際には5〜12%程度の下落が確認されており、売上歩合や内装費支援などを組み合わせた柔軟な契約が増えています。(content.knightfrank.com)
テナント構成はF&B・エンタメ・体験型テナントの比重が高まり、ショールーム+オンライン販売の“オムニチャネル前提”の使い方が増えています。
ホテル・観光
- 観光はコロナ前超え、ホテル供給は高級化
観光は2024年に国際観光客6.7百万人と、ついにコロナ前の水準を上回りました。これに合わせてプノンペンのホテル供給は約1.6万室(前年比+7%)に達し、2028年には約1.93万室まで増える見込みです。(content.knightfrank.com) - ブランドホテルの進出
2024年にはシャングリラをはじめ複数の3〜5つ星ホテルが開業しており、今後もWyndhamなど国際ブランドの開業が予定されています。(content.knightfrank.com)
クラス構成は、- ラグジュアリー・アップスケール:25%
- アッパーミドル:32%
- ミッドスケール・エコノミー:43%
と、今後は高級・アップスケール比率が高まる方向です。
- 稼働とADRのイメージ
Knight Frankによれば、観光省統計ベースの平均稼働率は**約78%**とされていますが、実際のマーケット感覚では、- 中心部のビジネスホテル:平日6〜7割、週末7〜8割
- 観光シーズンのシェムリアップ・沿岸リゾート:ハイシーズン高稼働/ローシーズンの落ち込み
といった「シーズナリティは残るが、全体は明らかに回復」という局面です。(content.knightfrank.com)
物流・工業
- SEZ・工業団地への需要は堅調
プノンペン周辺〜国境エリア(プノンペン経済特区、スバイリエン、ポイペト周辺)では、- 中国+1、タイ+1を狙う製造業のシフト
- EC・軽工業向けの賃貸倉庫需要
がじわじわ増加しています。
現地ブローカーのレポートでは、 - プライム工業地の長期リース(40〜50年):総額換算で60ドル/㎡前後
- 標準的なレンタル工場・倉庫:2.5〜3ドル/㎡・月
といった水準が多く、インフラ整備の進んだパークではプレミアムが付きます。
- 課題はインフラと電力コスト
港湾・高速道路などのインフラ整備は進みつつあるものの、- 電力単価の高さ
- 通関・手続きの煩雑さ
など、ベトナムやタイと比べてハンディも残っています。
その分、地代・人件費の割安さを武器に、ラボ型の組立・軽工業や部材加工が集積する動きが強いです。
REIT・資本市場
- カンボジアでは本格的な上場REIT市場はまだ立ち上がっておらず、実務的には
- 不動産開発会社の株式
- トラストスキームを使った私募型ファンド
- 海外上場REIT(シンガポール等)を通じて間接的にカンボジア資産に投資
といった形が中心です。
- ここ数年でトラスト法制・コレクティブインベストメントスキームの整備が進み、今後は証券取引所上場のREITを視野に入れた動きが出てきていますが、2025年時点では「準備段階」という位置づけです。
制度・規制トピック
- 外国人の所有ルール
- 外国人は土地そのものの直接所有は不可
- ただし、コンドミニアムなどの区分所有(ストラータタイトル)は建物の1階より上で全床面積の70%まで外国人所有可(実務上は“コンド投資”がメインのルート)
- 土地利用は、最長50年程度の長期リース+オプション延長や、カンボジア人パートナー多数出資会社を経由するスキームが一般的です。
- 税制・キャピタルゲイン
不動産譲渡益に対する**キャピタルゲイン税導入(20%)**は何度か延期されており、実務上は- 登録税(譲渡時4%)
- 年間の不動産税(0.1%)
等が中心ですが、「中長期的には譲渡益課税が本格導入されるリスク」を意識しておく必要があります。
投資家への示唆(セグメント別)
- 住宅(コンド・サービスアパート)
- 価格は全体として調整済み+横ばいで、今後も爆発的な値上がりより「選別的な底打ち」がメインシナリオです。
- **ミッド〜コアの実需・賃貸需要が厚い立地(Chamkarmon、BKK1周辺など)**に絞れば、家賃利回り6〜8%を狙いやすい一方、郊外や過度に高級な案件は空室と値下がりリスクが大きいです。
- オフィス
- テナントにとっては借り手市場で、グレードAの良いビルへの移転チャンスがあります。
- 投資家目線では、完成済み・安定稼働ビルをディスカウント価格で取得→テナント入替・リノベで再ポジショニングといったバリューアップ型戦略が中心になりやすい局面です。
- リテール・商業
- 供給過多とECシフトで、ショッピングモール投資はかなり目利きが必要です。
- 地域密着型のコミュニティモールや、F&B・エンタメに特化した小型商業施設など、「住宅地に根ざした日常消費」を狙う形が相対的に堅いと考えられます。
- ホテル・観光
- 観光は大きく回復し、2025年以降も国際空港の整備・観光プロモーションを背景に中長期のポテンシャルは高いです。
- ただ、ホテル開発案件は既に豊富で、特にラグジュアリークラスは競合も多いので、ブランド・ロケーション・オペレーターの実力を厳しく見る必要があります。
- 物流・工業
- 「中国+1」「タイ+1」としての製造基地・ロジ拠点としては、賃料の割安さと若年労働力に強みがあります。
- 投資判断では、港・国道・国境・電力網へのアクセスを最優先にチェックし、「汎用性の高いレイアウト+将来の用途転換余地」を持つ物件に絞るとリスクを抑えやすいです。
リスク・留意点
- 住宅・商業の供給過多
コンド・リテールともに供給が厚く、売れ残り・空室・賃料調整がしばらく続く可能性があります。完成遅延・中止リスクも、デベロッパーによっては無視できません。 - 規制・税制の変化
キャピタルゲイン課税など、税制整備が進むと「ネット利回り」が想定より低下するリスクがあります。外国人所有規制の運用や長期リースの扱いなども、契約前に専門家チェックが必須です。 - 為替・国際金融環境
ドル建て経済である一方、投資家の本国通貨との為替変動、世界的な金融引き締め・緩和サイクルに左右されやすく、出口時の為替レートがリターンに大きく影響します。 - 流動性リスク
ベトナム・タイなどと比べると市場の厚みはまだ小さく、大口の売却時に買い手が限定される=価格ディスカウントを強いられるリスクがあります。
まとめ
2025年時点のカンボジア不動産は、住宅・リテールの供給過多による調整局面と、オフィス・ホテル・物流の選別的な成長が同時に進んでいる状況です。
住宅はコロナ前ピークからの価格調整を一通りこなして、ミッド〜コアの実需・賃貸ニーズに軸足を移している段階であり、オフィスは借り手市場の中でグレードAへの移転需要が続いています。リテールは明確なオーバーサプライですが、F&Bや体験型テナントを核にしたコミュニティ型は依然として余地があります。観光はコロナ前を上回る回復を見せ、ホテル・サービスアパート・住宅賃貸の底上げ要因になっています。
投資家にとっては、「価格調整済みの優良資産を、適切な利回りで拾える局面」である一方、デベロッパーの信用力、位置・商品コンセプト、税・規制の変化を慎重に見極める必要がある市場だと言えます。
カンボジア不動産関連情報
カンボジア不動産基本情報
カンボジア不動産データ
カンボジア不動産物件最新
Le Conde BKK1 (ル・コンデ・ビーケーケーワン)
エジプト不動産中古物件
ウズベキスタン不動産
ウズベキスタン不動産 最新動向
マクロ環境・金利
- 成長とインフレ
ウズベキスタン経済は2024年に実質+6.5〜6.6%前後の高成長を続けており、2025年も6%台前半〜後半の成長が見込まれています。背景には、インフラ投資や製造業投資、海外からの直接投資(FDI)の増加があります。2024年のFDI流入は約119億ドルとされ、過去最高水準です。 一方でインフレは、エネルギー価格の補助金削減などの改革の影響もあり、2024年以降一桁台後半〜一桁台半ばで高止まりしています。2025年も8〜9%前後と見込まれ、中央銀行の目標(中期的に5%程度)を上回る状況が続いています。 - 政策金利と金融環境
中央銀行はインフレ抑制を優先し、2024年まで13.5%だった政策金利を2025年に14%へ引き上げ、その水準を維持しています。
その結果、銀行貸出金利も高止まりしており、とくに住宅ローンは名目で20%台半ばと、周辺新興国と比べてもかなり高い水準です。 - 住宅ローン金利の実務感
タシケントの住宅市場レポートによると、2024年に銀行が自らの資金で供給した住宅ローンの平均金利は年24.8%、2025年1月時点の商業モーゲージ平均は年25.3%とされています。
高金利に対して、政府は利子補給付きモーゲージ(補助付き住宅ローン)の枠を拡大し、低中所得層向けに金利の一部を国費で補填する制度を強化しています。
住宅(分譲・賃貸)
- 新規供給と住宅ストックの拡大
住宅供給はこの数年、明確な「量的拡大フェーズ」にあります。 - 2010〜2016年に約40万戸だった新規住宅が、2017〜2024年には約165万戸と4倍以上に拡大。
- 2024年だけで、集合住宅ベースでおおよそ10万戸規模の新規供給が行われ、全国の住宅ストックは約760万戸に達したとされています。 さらに2025年は、政府プログラムとして12万戸規模の新しい集合住宅を建設する計画が掲げられており、そのために国家予算から約15.5兆スム、銀行融資から約10兆スムを投じる方針です。
住宅は「成長戦略の柱」の一つとして位置づけられており、公共投資と民間投資が同時に流入している状態です。 - 取引件数と需要の変化
供給が増える一方で、2024年の住宅売買件数は前年から約5.8%減少し、約25.7万件にとどまりました。 - 高金利による購買力の抑制
- 2022〜2023年にかけての価格上昇の「反動」
により、2024年はボリュームがやや落ち着いた調整局面となっています。 - 価格水準と賃料の関係
タシケントでは、2025年1月1日時点で「住宅価格=家賃11.2年分」という指標が出ています。これは2022年に比べて3.65年分拡大しており、
住宅価格が賃料よりも速いペースで上昇してきた
ことを意味します。
一般に、価格が賃料の15〜20年分を超えると割高感が意識されやすいので、11.2年分という数字はまだ投資妙味がある水準とされ、「長期で住む前提なら買った方が得」と見なされている状況です。
- 賃貸市場の調整
2024年のタシケント賃貸市場では、供給増を背景に家賃が下落しています。 - 2022〜2023年にかけて緩やかな上昇が続いた後、
- 2024年には前年比で約11.5%の賃料下落となり、入居者側にやや有利な市場になっています。 地区別の目安として、2024年末時点の平均家賃はおおよそ以下のレンジです(米ドル建て)。
- 安めのエリア(セルゲリ、アルマゾルなど)
- ワンルーム:月約290〜300ドル
- 2LDK:月約350ドル前後
- 3LDK:月約410〜420ドル
- 高級エリア(ミラバド、ヤッカサライなど)
- ワンルーム:月約340〜380ドル
- 2LDK:月約500ドル前後
- 3LDK:月約640〜680ドル
- 4LDK:月700ドル前後
- モーゲージ市場と政府補助
高金利のなかで、住宅ローン市場は以下のような特徴があります。 - 商業銀行の一般的なモーゲージ金利は年24〜26%と高いが、
- 政府補助付きモーゲージでは、利子の一部を国が負担し、実効金利を一桁台後半〜10%台前半まで落とすスキームも導入。
- ローン期間は15〜20年の長期も増えており、若年層・新婚世帯を主なターゲットにしています。 ただし、住宅ローンの利用には十分なオフィシャル収入の証明が求められ、インフォーマル経済に依存する層は依然として現金購入に頼るケースが多いです。
商業(オフィス・リテール)
- オフィス
公開データは多くありませんが、タシケント中心部では、 - 官公庁、国営企業、金融機関
- IT・BPO、外資系サービス企業
をテナントとするAクラスオフィスビルの新築・再開発が続いています。 経済成長とともにオフィス需要は増えていますが、建設コスト上昇の影響で本格的なグレードAオフィスのストックは依然として限られており、質の高いビルの賃料は強含み、一方で旧ソ連時代のB/Cクラスビルは改装や用途転換が課題になっている、という構図です。 - リテール・商業施設
タシケントおよび地方主要都市では、 - 地場デベロッパーによるショッピングモール
- 通り沿いのストリートリテール
の整備が進んでいます。 所得の伸びと都市化により、日用消費と外食、エンタメ施設への支出が拡大しており、 - 中間層向けモール
- 家電量販、ファストファッション
- カフェ・レストラン
を核テナントとする案件が増えています。 一方で、地方都市の二線級ロケーションでは、テナントミックスが十分に組めず、賃料インセンティブ(フリーレント・内装支援)を出して入居を促すケースも見られます。
物流・工業・データセンター関連
- 工業団地・物流施設
ウズベキスタンは内陸国ですが、 - 中国〜中央アジア〜カスピ海〜欧州を結ぶ「ミドル・コリドー」
- 周辺国との鉄道・道路網整備
が進むなかで、工業パークと物流拠点の整備が国家戦略として進められています。 近年は、各地域に特別経済区(SEZ)や自由工業ゾーンが設けられ、そこに外資系・国内企業の工場や倉庫が集積する流れが強まっています。土地は国家所有ですが、長期リース(〜49年程度)で利用できる仕組みが整備されつつあり、製造業・物流企業にとっては「低コスト拠点+優遇税制」が魅力となっています。 - AI・データセンター特区
2025年11月には、西部のカラカルパクスタン地域にAI・データセンター向けの税制優遇ゾーンを創設することが発表されました。 - 1億ドル以上を投資する外国企業には2040年までの税・関税免除
- 電力料金の割引やインフラ整備の約束
などが打ち出されており、大型データセンターやクラウド拠点の不動産需要を生む可能性があります。 これにより、倉庫・工業施設に加えてデジタルインフラ系の不動産が新たなアセットクラスとして浮上しつつある段階です。
制度・規制トピック(外国人購入を含む)
- 土地と建物の所有権
ウズベキスタンでは、基本的に - 土地は国家所有
- 市民・企業は土地の所有ではなく利用権(リース権)を保有
という仕組みで運用されています。 外国人・外国企業については、 - 土地そのものの私有は認められず、長期リース(通常25〜49年程度)で利用
- ただし建物(住宅・商業ビル)については所有権を持つことが可能
という枠組みが整理されています。 - 外国人の住宅購入と居住許可
近年の改革により、外国人による住宅購入や居住許可(永住権)に関するルールも整備が進んでいます。 概要としては、 - 外国人は新築住宅やコンドミニアムを購入可能(ただし農地や一部国境地域などは制限)
- 一定額以上の不動産を購入した外国人に対して、長期居住許可や恒久居住(PR)を付与する制度が導入
- タシケント:30万ドル以上
- サマルカンド、ブハラなど主要地方都市:20万ドル以上
- その他の地方:10万ドル以上
といった地域ごとの最低投資額が設定されています。
- 国有資産の民営化と不動産
2024年には国有財産の民営化法が施行され、国営企業や国有不動産(商業施設・工場・土地利用権など)の売却プロセスが整理されました。 - オンラインプラットフォームを通じた競争入札
- 国有地の民間への払い下げ(あくまで利用権ベース)
などが進められており、商業不動産・工業不動産への民間投資の余地が広がっています。
投資家への示唆(セグメント別)
- 住宅(タシケント中心)
- 住宅ストック拡大と賃料下落により、賃貸利回りはやや圧縮傾向です。
- 一方で、価格は賃料11.2年分という指標から見て、まだ投資妙味のあるレンジにあり、長期保有+インフレヘッジとしての魅力は残っています。
- 高金利のためレバレッジを効かせた投資は難しく、現金もしくは低レバレッジ前提で検討するスタイルが現実的です。
- オフィス・リテール
- タシケント中心部のAクラスオフィス・好立地ストリートリテールは、供給が限られているため、テナントさえきちんとつけば中長期でキャッシュフローが見込みやすいセグメントです。
- 一方で、二線級ロケーションや築古ビルは、改装コスト・リーシング時間・テナントリスクを慎重に見積もる必要があります。
- 物流・工業・データセンター
- 中央アジアの物流ハブ・製造拠点を狙う企業にとって、長期リース付き工業用地+倉庫・工場への投資は、中期的な成長余地があります。
- AI・データセンター特区の創設により、大口電力契約+冷却設備を備えた特殊不動産というニッチですが成長性のあるアセットクラスも出てきています。
- 外国人個人投資家
- 30万ドル以上の新築住宅投資で永住権ルートが開けるため、
- 「長期滞在+インフレヘッジ+将来の売却益」を狙う投資家
にとっては一つの選択肢になりえます。
- 「長期滞在+インフレヘッジ+将来の売却益」を狙う投資家
- ただし、土地所有は不可であり、常に「建物+長期リース権」というスキームになる点、
- 将来の法改正リスク
- 売却時の流動性(買い手が限られる)
は十分に考慮した方がよいです。
リスク・留意点
- 高インフレ・高金利
インフレが目標を上回るなか、政策金利14%・住宅ローン金利20%台半ばという高金利環境が続いています。 - ローン利用前提の投資はキャッシュフローが厳しく、金利リスクが極めて大きいです。
- 通貨(スム)安と為替リスク
長期的にはスムの下落圧力が続く可能性があり、ドル建て投資家にとっては為替リスクが大きなテーマです。 - 賃料がスム建て、投資原資がドル建ての場合、インフレと為替のバランスをよく確認する必要があります。
- 法制度の変化
ここ数年で不動産・投資関連法が矢継ぎ早に改正されているため、 - 外国人の所有権ルール
- 税制・居住許可制度
が今後も変更される可能性があります。 - 流動性と出口戦略
国内投資家向けには十分な需要がある一方で、 - 外国人同士の売買市場はまだ小さく、
- 世界的な「コア市場」と比べると流動性は限定的です。
出口戦略を「誰に売るか」まで含めて事前に考えておく必要があります。 - 建設遅延・品質
住宅供給が急増しているため、 - 工事遅延
- 施工品質のばらつき
がリスクとして挙げられます。
契約時には引き渡し条件・遅延時のペナルティ条項を必ず確認した方が安心です。
まとめ
2025年のウズベキスタン不動産市場は、
- 高成長経済+インフレ+高金利という典型的な「新興市場型」の環境のなかで、
- 住宅ストックの急拡大と政府補助付きモーゲージ、
- 工業・物流・デジタルインフラ特区の整備、
- 外国人向けの居住許可と不動産投資ルールの整備
が同時進行している段階です。
住宅は供給増と賃料調整でやや落ち着きつつも、価格・家賃比から見ればまだ投資妙味がある水準にあり、インフレヘッジ資産としての性格が強いです。一方で、高インフレ・高金利・法制度の変化・為替リスクといった不確実性も大きく、レバレッジを抑えた長期目線の投資、信頼できる現地パートナーの確保が前提条件になってくる市場だと言えます。
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マレーシア不動産
マレーシア不動産 最新動向
マクロ環境・金利
- インフレと経済成長
マレーシア経済は、2024年に実質成長率4%台を維持し、2025年も4%前後の成長が見込まれる「緩やかな拡大局面」にあります。
インフレ率は2024年に2%前後まで低下し、2025年も1.5〜3%程度のレンジで安定するとの見方が主流で、家計の実質購買力と住宅購入意欲を下支えしています。 - 政策金利と住宅ローン金利
中央銀行(BNM)は2025年7月に政策金利OPRを3.00%から2.75%へ25bp引き下げ、景気配慮型の「やや緩和スタンス」に転じ、その後は据え置きとしています。
これを受けて、主要銀行の住宅ローン変動金利は優良借り手で概ね年4%前後が目安となっており、2023〜24年のピーク時よりも返済負担がやや軽くなり、一次取得層・投資家ともに「今なら組みやすい」という感覚が広がっています。
住宅(分譲・賃貸)
- 取引ボリュームと価格の足取り
2024年の不動産取引額はこの10年で最高水準となり、その約6割を住宅セクターが占めました。2025年上期は件数こそ前年から約▲1.3%減の19万6,000件程度ですが、取引総額は+1.9%増の約1,076億リンギへと増加し、「件数は絞りつつも、より高価格帯・質の高い物件への選別購入」が進んでいます。
NAPICが公表するマレーシア住宅価格指数(MHPI)は、2021〜2025年を通じて年1〜3%台の緩やかな上昇を続けており、Q2 2025時点でも全国平均は小幅ながらプラス成長を維持しています。
傾向としては、ランデッド住宅(戸建・タウンハウス)が底堅い中で、高層コンドミニアムはエリアによって横ばい〜調整という二極化が顕著です。 - 在庫・オーバーハングの現状
かつて深刻だった「完成済み売れ残り(オーバーハング)」は2024年時点でピーク比2〜3割縮小しましたが、2025年上期でも2万6千戸超の完成済み在庫の大半をコンドミニアムが占める構図は変わっていません。
特にクアラルンプールは、約3,600戸超の完成済み売れ残りを抱える一方、ペラ・ケダ・クランタンなどでは、手頃な価格帯のランデッド住宅にローカル実需がしっかりついており、在庫圧力が相対的に軽いとされています。 - エリア別の特徴
- クアラルンプール/セランゴール(クランバレー)
高層コンドミニアムの供給過多により、中心部のAクラス物件は価格横ばい〜小幅高で推移する一方、外縁部や築古Bクラス物件は、値引きや家具付き販売・家賃保証などのプロモーションが前提になりがちです。 - ジョホール
2025年上期のNAPICレポートでは、ジョホールが新規住宅供給・価格上昇率・工業用地取引のいずれでも全国トップクラスとなり、「ジョホール・シンガポール経済特区(SEZ)」構想や高速鉄道構想への期待感から、住宅・工業・物流のクロスボーダー需要が高まっています。新規分譲5,401戸のうち約44%が販売済みと、テイクアップも良好です。 - ペナン・地方都市
ペナン島は、製造業・港湾・観光の三本柱に支えられた高層住宅・工業需要が堅調で、長期保有を前提とした地元富裕層・外国人投資家の人気が高いエリアです。一方、ペラ・ケダ・ペルリスなどは、手頃な価格帯住宅の需要が強い反面、高価格帯コンドの売れ残りが課題となっています。 - 賃貸市場
クアラルンプール中心部やモントキアラ、KLCC周辺では、外資系金融・IT企業の駐在員、MM2H保持者、デジタルノマドなどの戻りで、グレードAコンドとサービスレジデンスの稼働率・賃料が底堅く推移しています。
一方で、駅から遠い・築古・管理状態が良くない物件は、賃料ディスカウントや室内リノベーションをしないと入居が付きにくい状況で、賃貸市場でも物件選別が進んでいます。
オフィス
- 供給・空室の状況
大クアラルンプール(クランバレー)のオフィス市場は、長年の新規供給で空室率が高止まりしてきましたが、2024〜25年は新規供給ペースがややスローダウンし、需給は徐々に均衡へ向かいつつあります。
調査によれば、2024年時点でプライムオフィスの空室率は約24〜25%、全体では約28%前後とされ、依然としてテナント優位の賃貸条件が続いています。 - テナントニーズとビルの競争力
大口テナントは、グリーンビル認証・エネルギー効率・駅近・複合開発内かどうかを重視し、築浅Aグレードへの集約を進めています。
築古ビルは、フロア細分化・共用部リニューアル・サービスオフィス化などで付加価値を付けない限り、賃料引き下げや長期空室リスクに晒されやすくなっています。
リテール・商業
- モール稼働と消費回復
NAPICのデータによると、2025年Q1のショッピングコンプレックス平均稼働率は79.0%と、2024年Q4の78.8%から小幅改善し、コロナ前水準へ近づいています。
外国人観光客と国内消費の回復により、クアラルンプール・セランゴール・ペナン・ジョホールなど主要都市の旗艦モール、駅直結モールの来客数と売上は回復基調で、F&B、体験型エンタメ、ホームセンター、ライフスタイル系テナントの構成比が高まっています。 - 賃料とテナントミックス
一等立地のプライムモールでは、基礎賃料は概ね横ばい〜微増、売上連動の歩合賃料もコロナ期から大きく改善しており、空室率も低水準です。
ローカル色の強い郊外モールや老朽モールでは、内装支援・フリーレント・成果連動賃料など柔軟な条件でのテナント誘致が一般的で、物件ごとにパフォーマンスの差が拡大しています。
ホテル・観光
- 観光回復と需要構造
2024〜25年にかけて、ビザ緩和やフライト増便を背景に観光客が急回復し、2025年Q1の訪問者数は約1,010万人と、東南アジア主要国の中でも上位の水準です。
主要な inbound はタイ・シンガポール・中国・中東からの旅行者で、クアラルンプールのシティホテル、ペナン・ランカウイ・ボルネオのリゾートホテルが恩恵を受けています。 - 稼働率・ADR
都市型ホテルでは、MICE・企業イベント・週末レジャー需要の増加で、上位ホテルの稼働率は70%前後、ADRもじり高という状況です。
リゾートエリアは季節変動は残るものの、航空路線の回復とLCC増便で「オフシーズンでも底堅い稼働」を確保しやすくなっています。
物流・工業
- 好調セクターとしての位置づけ
工業・物流セクターは、マレーシア不動産の中で最も強い成長を示している分野です。2025年上期の取引では、工業セクターが前年比約8.5%増となり、他セクターを上回るパフォーマンスを見せています。
需要はジョホール・セランゴール・ペナンに集中し、E&E関連、EV・自動車部品、データセンター、Eコマース倉庫など、内外資企業の進出が相次いでいます。 - 物件タイプと賃料動向
高天井・大型ヤード・複数ドックを備えたモダン倉庫・ハイテク工場は空室率が低く、賃料も上昇基調です。一方、仕様が古い・アクセスの悪い工場は賃料横ばい〜弱含みで、リノベーションや再開発が検討されています。
賃貸契約では、年次インフレ指標と連動した賃料改定条項を盛り込むケースが一般的になっており、オーナーはインフレリスクを賃料に転嫁しやすい環境です。
REIT・資本市場
- パフォーマンスと利回り
マレーシアREIT市場は、金利ピークアウトとリテール・ホテルの回復を背景に、2024年以降株価・分配ともに回復基調で推移しています。
小売・物流REITの分配利回りは概ね5〜7%台とされ、OPR 2.75%環境では依然として相対的な妙味があります。オフィス主体REITは空室リスクを織り込み利回りがやや高めになる傾向です。 - ポートフォリオと戦略
投資家からの評価が高いのは、旗艦モールやコミュニティモールを複数保有する小売REIT、ならびに物流・工場系REITです。高い稼働率とインフレ連動賃料が評価ポイントになっています。
オフィス中心REITでは、用途分散のために物流・データセンター・ホスピタリティ資産を追加する動きがあり、スポンサー企業による新規REIT上場や既存REITへの資産注入も検討されています。
制度・規制トピック
- 外国人の不動産取得
外国人は、条件付きではあるものの、土地付き物件・コンドミニアム・商業物件を直接所有することが認められています。ただし州ごとに最低購入価格が定められており、多くの州で100万リンギ以上、一部州やエリアではこれより高い下限が設定されています。
マレー系保留地や特定の低価格住宅スキームは外国人購入不可であるため、個別物件ごとに弁護士・デベロッパーを通じた確認が必須です。 - MM2H(マレーシア・マイ・セカンドホーム)
MM2Hは2021年に厳格化されましたが、2024〜25年にかけて州独自スキーム(例:サラワクMM2H)や条件見直しが進み、富裕層・長期滞在者の受け入れを拡大する方向に調整が行われています。申請者には一定の定期預金残高・月収条件などが求められ、不動産購入は義務ではないものの、長期滞在と不動産保有を組み合わせる枠組みとして利用されています。 - 税制・間接税の変化
2025年7月から、商業用物件の賃貸に対するサービス税(SST)の税率8%適用・対象拡大が行われ、オフィス・モール・物流施設の賃貸契約条件に影響を与えています。今後、テナントとオーナー間で税負担をどのようにシェアするかが賃料交渉の焦点です。
投資家への示唆(セグメント別)
- 住宅
全国平均では緩やかな価格上昇+在庫調整の局面で、短期転売よりも中長期インカム+緩やかな値上がり狙いの戦略が現実的です。
クアラルンプール中心部の高層コンドは競争が激しい一方、立地・管理・共用施設の質が高い物件に絞れば、3〜4%台の安定した賃貸利回りを狙いやすいです。
ジョホール・ペナン・セランゴール郊外など、工業・物流拠点やSEZと連動する住宅エリアは雇用とインフラ整備に支えられ、中長期的な需要の底堅さが期待できます。 - オフィス
クランバレーのオフィス市場は依然として借り手優位で、築古オフィスへの投資は空室リスクと改装CAPEXを十分に織り込む必要があります。
一方で、駅直結・複合開発内・グリーン認証付きAグレードオフィスは大企業テナントの集約先として需要が強く、コア資産としての長期保有には一定の妙味があります。 - リテール
フラッグシップモールや観光立地のプレミアムモールは、テナント入替と改装を通じて賃料と売上の上振れ余地があり、安定インカム投資の対象になります。
郊外モールは、キャッシュフローの振れが大きいため、再開発や用途転換(教育施設、オフィス、医療モール化など)も視野に入れた事業計画が重要です。 - 物流・工業
工業・物流は、現状のマレーシア不動産の中で最も守りと攻めのバランスが良いセクターといえます。ジョホール・セランゴール・ペナンのモダン倉庫や工業団地は長期安定賃料を期待しやすく、REITや機関投資家も積極的です。
投資判断では、トラックアクセス・港湾/空港までの距離、電力インフラの安定性、用途転用のしやすさ(汎用レイアウトかどうか)を重視することが重要です。 - REIT
OPR 2.75%環境では、利回り5〜7%台のM-REITは依然として相対優位があり、なかでもリテール・物流系REITが候補になります。
ただし、テナントの質・残存賃貸期間(WALE)・セクター分散・スポンサー企業の財務力とパイプライン戦略によってリスク/リターンは大きく異なるため、個別銘柄の精査が欠かせません。
リスク・留意点
- 住宅オーバーハングと商品ミスマッチ
コンドミニアム中心のオーバーハングは依然として多く、ターゲットや価格設定が不明確な物件では、値引き販売・販売長期化・賃料下押しのリスクが残ります。 - 金利・為替・税制
世界的なインフレ再燃や地政学リスク次第では、BNMが再度利上げに転じる可能性も否定できず、変動金利ローンやREITのバリュエーションに影響し得ます。
また、2025年のSST拡大のように、税制変更が商業不動産の実質利回りを圧縮するリスクもあるため、長期投資では税・諸経費を保守的に見積もることが重要です。 - 建設コスト・工期
建設資材・人件費はコロナ前より高止まりしており、新規開発の採算ラインは上昇しています。工期遅延やコストオーバーが収益を圧迫する可能性があるため、デベロッパーの実績・資本力・施工管理能力に特に注意する必要があります。 - 政策・規制の変更
MM2H条件や外国人購入最低価格などは、政権や州政府の方針で変わる余地があり、長期居住・長期保有を前提とする投資では、定期的なルール確認と専門家への相談が欠かせません。
まとめ
2025年時点のマレーシア不動産市場は、全体としては安定〜緩やかな回復だが、セグメントとエリアによる差が極めて大きい局面にあります。住宅は、ランデッド住宅を中心に緩やかな価格上昇が続く一方、高層コンドミニアムの供給過多と商品ミスマッチが課題です。オフィスはクランバレーを中心に借り手優位が続きますが、グリーン認証付きAグレードビルへの集約が進み、旧来型ビルの再生・用途転換がテーマになっています。
リテール・ホテルは観光・消費回復の恩恵を受け、プライム物件を中心に稼働と収益が改善。物流・工業はジョホール・セランゴール・ペナンを軸に中長期の安定成長セクターとして存在感を強めています。REITは金利低下とセクター選別を背景に、ポートフォリオ分散の手段としての魅力を維持しています。
総じて、マレーシア不動産への投資は、マクロ環境の追い風だけでなく、個別物件の立地・仕様・テナント力・スポンサー力を丁寧に見極め、セグメントごとに戦略を分けることが成否を分ける局面にあると言えます。
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ベトナム不動産
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マクロ環境・金利
- 経済とインフレの状況
ベトナム経済は製造業・輸出・サービスを背景に、2024年は実質GDP成長率7%前後と、アジアでも高い伸びを維持しています。
消費者物価上昇率は3%台前半にとどまり、政府目標の4.5〜5%を下回る水準で推移しており、インフレは相対的に落ち着いています。 - 政策金利と信用環境
不動産バブル抑制と景気下支えの両立を図るため、中央銀行(SBV)は2023年に複数回利下げを実施し、その後は2024〜25年にかけて4%台後半〜5%近辺の政策金利を維持しながら、慎重な金融緩和スタンスを続けています。
2022〜23年に顕在化した不動産企業の社債デフォルト・資金繰り悪化を受け、政府は社債償還猶予や条件変更を認める政令を出し、銀行にも「不動産向け与信は選別しつつ、健全なプロジェクトへの支援は継続する」よう要請しています。 - 住宅ローン金利の実務感
個人向け住宅ローンの店頭金利は名目で年10〜12%前後ですが、実務上は - 最初の2〜3年:年7〜9%程度のプロモーション金利
- その後:基準金利+マージン(合計で年10%前後)
という構成が一般的です。
審査では返済比率(DTI)35〜40%程度を目安に見られ、投資用複数戸よりも自用の一次取得層が優遇されやすい状況です。
住宅(分譲・賃貸)
- 市場全体:ボトムアウト後の「高値・薄商い」
2022〜23年の不動産社債危機・法規制の不透明感で新規供給が急減した結果、2024〜25年はとくにハノイ・ホーチミン市で供給不足と価格高止まりが同時進行しています。
CBREのレポートでは、2024年のハノイ分譲コンド供給は約3万戸と前年から大きく増えた一方、一次価格(デベロッパー販売価格)は前年比30%前後上昇、二次価格も20%超上昇したとされています。 - 価格水準と取得難易度
ハノイ・ホーチミンのハイエンド〜ラグジュアリーコンドは、 - 一般的な高級物件で5,000〜8,000米ドル/㎡
- 一部超高級物件では1万〜1.5万米ドル/㎡超
まで上昇しており、地域内でも高水準です。
住宅取得負担は重く、調査によっては「平均的世帯が70㎡程度の分譲コンドを購入するには20〜30年分の可処分所得が必要」とされ、ハノイ・ホーチミンはアジアでも住宅取得の難しい都市グループに分類されています。 - セグメント別の動き
- 都市中心部・新CBD(ハノイ西部、ホーチミン市トゥードゥック市など)の中〜上位価格帯プロジェクトは、富裕層・投資家・駐在員向けの実需でテイクアップが堅調です。
- 一方で、郊外の大規模タウンシップや投機色の強い区画分譲は、価格調整や販売ペース鈍化が続いています。
- 賃貸市場では、外資企業・IT・製造業の駐在員、地方からのホワイトカラー流入を背景に、都心Aクラス・利便性の高いエリアの家賃は緩やかに上昇していますが、築古Bクラスは改装・家具付き化をしないと空室が残りやすいです。
- 資金調達と販売手法
開発業者は銀行融資・社債に依存しづらくなっており、 - 土地取得を抑えた共同事業(JV)
- 購入者向け長期分割払いスキーム(建設期間中は利息免除など)
- 家具・駐車場・会員権などのバンドル販売
といった工夫で販売を進めています。
投資家目線では、一次取得で値上がり益を狙うより、完成済み優良物件を割安に拾う戦略が現実的になりつつあります。
オフィス
- 需要構造:IT・専門サービス・製造関連がけん引
ハノイ・ホーチミンともに、テレワーク定着後も本社・バックオフィス拠点としての需要は維持されており、とくに - IT・ゲーム・フィンテック
- 法務・会計・コンサル
- FDI製造業の管理部門
からの拡張・リロケーション需要が続いています。 - ホーチミン市
- CBDのグレードAオフィスは空室率が一桁台〜10%前後で、2024年には平均賃料が前年比約3〜4%上昇しています。
- 新規供給が限られる中、テナントは環境認証(LEED等)・省エネ性能・フロア効率・共用アメニティを重視し、条件が合えば賃料アップを受け入れるケースも見られます。
- 一方でノンCBD・グレードBは空室率が2桁台で、賃料据え置き〜小幅下落、フリーレント・内装支援などインセンティブ競争が続いています。
- ハノイ
- 伝統的CBDに加え、西部の新ビジネスエリアで大型オフィスが供給され、グレードAの空室率はホーチミンよりやや高めです。
- テナントはグレードアップ・拡張移転を進めやすい環境で、面積を抑えつつ品質を上げる動きが目立ちます。
- オーナー側は短期契約+更新オプションや、1フロアを複数テナントに分割するなど柔軟な運営にシフトしています。
リテール・商業
- モールは「質への回帰」で高稼働
大都市のプライムモール(ホーチミン1区・ハノイ中心部)は、 - 国際ファッションブランド
- コスメ・スポーツ・ライフスタイル
- F&B(カフェ・レストラン・フードコート)
の出店意欲が強く、空室率は低水準にとどまっています。賃料は年3〜5%程度の上昇が続き、区画によっては指名待ちの状況です。 - 郊外・二級ロケーション
郊外のコミュニティ型モールやロードサイド店舗は、 - オンライン販売との競合
- ローカルチェーン中心のテナント構成
により、賃料は横ばい〜やや軟調です。テナント確保のため、 - 売上連動賃料(%レント)
- 内装費サポート
- ポップアップ/短期契約
など、条件面の柔軟性が重視されています。 - ストリートリテール
観光客の戻りで、ホーチミン1区・ハノイ旧市街などの観光・ナイトライフエリアは賃料が再び上向きですが、オフィス街の一部では高すぎる賃料とオンライン化によりテナントの入れ替わりが激しい状態です。
ホテル・観光
- インバウンド回復と稼働率
ビザ緩和(eビザ90日・対象国拡大など)の効果もあり、国際観光客数は2024年にコロナ前水準に近づき、2025年は2019年超えをうかがう水準まで回復しています。 - ホーチミン・ハノイのシティホテルは稼働率60〜70%台
- ダナン・ニャチャンなどビーチリゾートは、オフシーズンの稼働に課題はあるものの、ピーク期は高い稼働を回復
といった構図です。ADR(平均客室単価)はコロナ底から2桁%台の回復を遂げています。 - 供給と投資機会
国際ブランドの4〜5つ星ホテルや、ラグジュアリーレジデンス一体開発が引き続き計画されていますが、建設コスト高・資金調達難により着工時期の見直し・フェーズ分割も増えています。
投資家にとっては、 - 都市部のビジネスホテル:安定キャッシュフロー狙い
- リゾート地のミッドスケールホテル:バリューアップ前提の再生案件
といった戦略が現実的です。
物流・工業
- 製造業シフトと工業団地
「チャイナ・プラスワン」の流れを背景に、米国・中国・韓国・日本・シンガポールなどからの製造業FDIが続いており、 - 北部:バクニン・バクジャン・ハイズオン・ハイフォン
- 南部:ビンズオン・ドンナイ・ロンアン・バリア=ブンタウ
などの主要工業団地では稼働率80〜90%前後と高水準が続いています。 - 地代・賃料とプロダクト
- 工業団地の長期リース地代は、主要エリアで年率3〜7%程度の上昇。南部港湾近接地ではさらに高い伸びも見られます。
- RBF(レンタル工場)・RBW(賃貸倉庫)の需要は、電子部品・自動車部品・EC・3PLからの引き合いが強く、
- 空室率は一桁台
- 契約には年次インデックス(インフレ連動)を組み込むケースが一般的
です。
- ロジスティクス・コールドチェーン
EC拡大と所得向上を背景に、ラストマイル物流拠点・コールドストレージへの需要も増加しています。大都市周辺のハブ倉庫+地方中核都市のサテライト倉庫というハブ&スポーク型ネットワーク構築が進んでいます。
REIT・資本市場
- REIT市場はまだ未成熟
シンガポールやマレーシアのような本格的REIT市場はまだ形成途上で、上場REITは限定的です。
不動産企業の資金調達は依然として - 銀行融資
- 社債(近年は発行抑制・リファイ中心)
- 株式市場
に依存しており、レバレッジの高い中堅デベロッパーは依然としてバランスシート調整の途上にあります。 - 投資家にとっての意味合い
上場REITが少ないため、海外投資家が「証券化された形で広く分散投資」する手段は限られており、現状は - 開発中案件へのエクイティ・メザニン出資
- 完成済みコアアセットの直接取得
- 海外上場のベトナム不動産関連株
といった形が主流です。
制度・規制トピック
- 改正土地法・住宅法・不動産経営法(2025年施行)
2024年に相次いで改正された土地法・住宅法・不動産経営法が、2025年から順次施行されています。
主なポイントは、 - 土地価格テーブルを市場実勢に近づける仕組みへの移行
- プロジェクト承認・土地転用手続きの簡素化・一元化
- 社会住宅・労働者向け住宅の供給促進(税制・土地優遇)
- 一部の複合用途(コンドテル・オフィステル等)の法的位置づけの明確化
などで、「行政手続きのボトルネックが供給を絞り、価格高騰を招いている」との批判に対する対策色が強い内容です。 - 外国人の取得規制
外国人の土地所有は禁止という枠組みは維持されており、 - コンドミニアムについては「一つのプロジェクトの35%まで」などの上限付きで所有可能
- 土地利用は長期リース(通常50年、条件により延長)
が基本です。
実務上は、現地パートナーとのJV・長期賃借権の取得・SPCスキームなどを組み合わせて投資するケースが主流です。
投資家への示唆(セグメント別)
- 住宅
- 一次価格は高止まり〜一部過熱で、特にハノイ・ホーチミンの中心部コンドは「富裕層・投資家向けのコレクターズアイテム」色が強まっています。
- 実需・キャッシュフロー重視なら、就労人口が増える工業団地周辺のミッドレンジ物件や、インフラ整備が進む新興エリアの低層住宅・タウンハウスに注目しやすい局面です。
- オフィス
- CBDグレードAは「質への回帰」で底堅く、長期保有向きです。テナントのESG要求を満たすグリーンビルは、将来的に賃料プレミアムを享受しやすいと考えられます。
- グレードB・ノンCBDは二極化が進むため、投資する場合はリノベーション・サービスオフィス化・フロア分割など、バリューアップ前提のストーリーが重要になります。
- リテール
- プライムモールは賃料も高く、利回りはタイトですが、長期的なキャッシュフローの安定性という意味でポートフォリオのコアになり得ます。
- 郊外型施設は、住宅開発やインフラ整備とセットで計画される案件に絞り、キャッチメントエリアの人口・所得・競合状況を細かく見る必要があります。
- ホテル・観光
- インバウンド回復とビザ緩和を追い風に、都市型ホテルは中期的に安定成長シナリオを描きやすいです。
- リゾートはロケーション選別が重要で、国際空港からのアクセス・ブランド力・季節性をよく見極める必要があります。
- 物流・工業
- ベトナムの成長ストーリーの中核は依然として「製造拠点+ロジスティクス」であり、工業団地・賃貸倉庫は中長期のコアアセット候補です。
- 土地投資の場合、電力供給・港湾・高速道路アクセス・労働力確保などのハード条件に加え、行政の投資誘致姿勢も重視する必要があります。
リスク・留意点
- 価格高騰と取得力のミスマッチ:住宅価格が所得に比べて高く、実需の裾野が狭まりやすい点は大きな構造リスクです。高値掴みを避けるため、周辺国や地域内の利回り・単価との比較が欠かせません。
- 法制度の運用リスク:改正法の趣旨は前向きですが、地方ごとの運用差や、移行期間中の解釈のぶれにより承認遅延や追加コストが発生する可能性があります。
- デベロッパーの財務健全性:社債問題を抱える企業も残っており、施工・引き渡し遅延、プロジェクト停止のリスクは完全には払拭されていません。契約時は開発会社の財務・実績・銀行保証を必ずチェックする必要があります。
- 金利・為替・外部ショック:世界的な金利動向や輸出減速、中国景気の変調など、外部ショック次第ではFDI・輸出・不動産需要が同時に冷え込むリスクがあります。
まとめ
2025年のベトナム不動産は、
- 住宅は「高値・供給不足・法規制の転換期」
- オフィス・リテールは「質の高い物件への選別進行」
- 物流・工業は「製造業シフトを背景に中長期の成長期待」
という三つの顔を持つマーケットになっています。
法改正と行政手続きの改善により、供給のボトルネックが徐々に解消されれば、価格の伸びは落ち着きつつも取引量の正常化・プロジェクトの多様化が進むと見込まれます。一方で、住宅の高価格・デベロッパーの財務体質・制度運用の不確実性といったリスクは残るため、「立地・開発主体・法的リスク」を一つずつ潰し込みながら、セグメントごとに戦略を分けて投資を検討することが重要だといえます。
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マクロ環境・金利
- 経済と人口・投資動向
アブダビは引き続き原油+脱炭素の両輪で成長しており、国全体のインフレ見通しは2025年は1.5%前後と比較的落ち着いた水準に引き下げられています。
エネルギー公社ADNOCは2026〜2030年に1,500億ドル規模の投資計画を打ち出しており、上流・ガス・低炭素事業への大型投資が雇用・所得を押し上げ、不動産需要の中長期の下支え要因になっています。
加えて、文化施設(ルーヴル・アブダビ、今後のグッゲンハイムなど)への投資や高級ブランドの誘致によって、「富裕層向け文化・ラグジュアリー都市」としてのポジションも強化されています。 - 政策金利と住宅ローン環境
UAEは通貨を米ドルにペッグしているため、米国に連動した利下げが2025年秋から始まり、 - 9月:基準金利を4.40%→4.15%へ
- 10月末:さらに4.15%→3.90%へ引き下げ
と、2カ月連続の利下げで、2022年以降で最も低い水準になっています。
これにより住宅ローン金利もジワジワ低下しており、特に一次取得層・長期居住目的の購入に追い風になっています。 - 不動産市場全体の勢い
アブダビの不動産市場は2025年も勢いが続き、2025年上期の不動産取引額は約540億ディルハムで過去最高水準、うちオフプラン(建築中)案件が約250億ディルハムと、投資・実需の双方から資金が流入しています。
Q3 2025時点では、第三者データでも「過去最強の成長局面」とされ、価格指数は前年比+10%超、取引件数も大幅増となっています。
住宅(分譲・賃貸)
- 価格・取引のトレンド
- 2025年Q2時点で、首都圏全体の住宅価格は前年比+8〜17%程度の上昇ペース(四半期ベースでも+2〜6%)。
- 価格指数(ValuStrat Price Index)はQ3時点で2021年Q1比+33%、前年比+10.5%に到達し、上昇トレンドが継続しています。
- 2025年H1の取引額は過去最高、Q3は前年同期比+76%という記録的な伸びで、特にオフプラン案件の販売が大きく伸びている状況です。
- 賃料・利回りと稼働
- 賃貸市場は家賃の上昇が価格上昇を上回る局面で、2025年Q2のデータでは
- 総合賃貸利回り:約8.1%
- アパート:8.5%
- ヴィラ:7%
- 住宅稼働率:約88%
と、投資家にとっても非常に厚いインカム利回りを維持しています。
- 他のレポートでも住宅利回りは概ね6〜8%台で安定しており、過去5年間で6%前後を維持してきたとされています。
- エリア別の動き
- サディヤット島・ヤス島・アルリーフ・アルラハビーチ・マスダルシティなど、外国人が自由保有できる投資エリアでは、高所得駐在員・富裕層・長期居住志向の家族からの需要が強く、価格・賃料ともに上昇が目立ちます。
- 一方で、中心部の築古アパートでは、家賃上昇が続く中で改装・リポジショニングを前提にした投資が増えつつあります。
- 住宅ストックは2025年Q3時点で約30.5万戸とされ、今後数年で約3.3万戸の新規供給(2030年まで)が予定されていますが、人口増と家族帯同の増加ペースを考えると、当面は需給タイトな状況が続きやすいとの見方が多いです。
- 買い手の顔ぶれと資金調達
- エミラティ(UAE国民)と長期居住の外国人駐在員が主な実需層で、そこに湾岸・インド・欧州などからの投資マネーが重なる構図です。
- ゴールデンビザ(10年居住権)を目的とした2百万AED以上の物件購入も根強く、オフプラン・完成済みのいずれでも条件を満たせば対象になります。
- 金利低下と競争的なモーゲージ商品により、自己資金2〜3割+住宅ローンという形でのレバレッジ投資もしやすくなっています。
オフィス
- 賃料・空室の状況
- アブダビのオフィス市場は、賃料上昇と空室率低下が同時に進んでおり、特にグレードAのCBD・金融街(例えばアルマルヤ島周辺)では「空きが出ればすぐ埋まる」水準のタイトな需給になっています。
- 政府系企業・エネルギー関連・金融・プロフェッショナルサービス企業が拡張を続ける一方、新規のハイクオリティオフィス供給は限定的で、テナント側がフロアレイアウトやESG対応などで妥協しにくい状況です。
- テナントニーズの変化
- コロナ後も「完全リモート」ではなくハイブリッド&ハブ拠点が主流で、良質なビルでは床の細分化・共用部のアップグレード・サービスオフィス併設など、柔軟性を高める動きが進んでいます。
- 省エネ性能・グリーン認証・防災性能などのESG要件を満たす物件は、賃料プレミアムを受けつつ高稼働を維持しやすいです。
リテール・商業
- モール・路面店のパフォーマンス
- 2025年Q3のデータでは、アブダビの平均小売賃料は前年比約8%上昇とされ、UAEの中でも堅調な伸びを示しています。
- 2025年Q1時点で、アブダビのリテールGFAは約321万㎡まで拡大しつつも、プライムモールの稼働率は高水準を維持しています。
- 高級・体験型リテールの伸長
- 富裕層向けのラグジュアリーブランドや体験型ポップアップが増えており、The Galleriaなどのハイエンドモールや新ターミナルを活用した「文化×ブランド体験」が観光・地元富裕層の両方を惹きつけています。
- 出店者側は、プライム区画では固定+歩合賃料での条件提示が一般的で、二等立地では家賃インセンティブや内装支援など、柔軟な条件提示でテナントミックス最適化が図られています。
ホテル・観光
- 稼働率と収益性
- UAE全体で見ると、2025年8月までのホテル指標は平均稼働78.5%、RevPAR(客室収益)+11.9%と非常に好調で、その中でアブダビはRevPAR+24%、ADR(平均客室単価)+20.2%と最も強い伸びを記録しています。
- 夏シーズン(2025年)のアブダビは稼働78%、ホテル収入+17%と、オフピーク期としては高水準です。
- 10月の「ショーダウン・ウィーク」(UFCイベントを核とした大型フェス)期間は、月間稼働86.2%、ADR約809AED、RevPAR約697AEDと、2009年以降で最高の10月実績となりました。
- 需要の中身
- 訪問目的は、観光・ビジネス・MICEがバランス良く構成されており、文化施設・スポーツイベント・高級リゾートがレジャー需要を、官公庁・エネルギー企業・国際会議がビジネス需要を支えています。
- 新規ホテル開発はペースがやや落ち着きつつあり、既存ストックのリノベーションやブランデッドレジデンス併設といった「質の向上」に軸足が移っています。
物流・工業
- 賃料の高騰と供給ひっ迫
- 産業・物流系はUAE全体で新たな成長サイクルに入り、2025年時点で
- アブダビのグレードA倉庫賃料:前年比+13〜22%
- グレードA倉庫の平均稼働:約95%
と、明確な供給不足+賃料上昇局面になっています。
- 主要エリアであるKEZAD Musaffah(ICAD)やムサファー、Al Markazでは、前年比+50%超の賃料上昇が見られるなど、2年で約50%上昇したとの指摘もあります。
- 需要のドライバー
- 3PL(サードパーティ物流)、EC、リテールチェーン、軽工業の拡張が主な需要源で、港湾・空港・幹線道路に近い大型物流施設へのニーズが集中しています。
- 建設中の施設の多くは事前リーシングでかなり埋まっているとされ、今後も賃料・キャップレートにプレミアムが付きやすいアセットクラスになっています。
REIT・資本市場
- デベロッパー・大家業の収益環境
- アブダビ最大手デベロッパーであるAldar Propertiesは、2025年9カ月累計で純利益60億ディルハム(前年比+30%)、Q3単独でもUAE開発販売で四半期売上記録を更新しています。
- 投資用不動産(リテール、オフィス、物流、ホスピタリティ等)ポートフォリオは、高稼働率と賃料増加、M&Aによる拡大で収益が伸びており、安定した配当を出しつつ成長投資も行うモデルが定着しつつあります。
- REIT・上場商品
- アブダビ証券取引所(ADX)には、不動産関連株やREIT/ETFが複数上場しており、配当利回り5〜7%前後を狙うインカム投資の選択肢となっています。
- 香港取引所との提携など、国際的な資本市場連携も進んでおり、今後はクロスリスティングやESG関連商品を通じた資金流入が期待されています。
制度・規制トピック
- 外国人所有とフリーホールドゾーン
- 2019年の法改正以降、外国人(個人・法人)はアブダビの指定投資エリア内でフリーホールド(実質的な永久所有権)による不動産保有が認められています。
- 外国人が購入できる主要エリアは、
- ヤス島
- サディヤット島
- アルリーフ
- アルラハビーチ
- マスダルシティ などで、ここに高付加価値の住宅・複合開発が集中しています。
- ゴールデンビザと投資インセンティブ
- 不動産経由のゴールデンビザは、
- 10年ビザ:2百万AED以上の物件投資(オフプラン・モーゲージ可)
- 2年ビザ:75万〜100万AED以上の物件投資(条件により)
といったスキームがあり、家族同伴・使用人帯同なども認められています。
- 2025年の各種レポートでは、ビザと不動産投資のセットが外国人の中長期滞在を後押しし、住宅・オフィス・リテールの基礎需要を底上げしていると評価されています。
- 市場透明性の向上
- 2025年には、評価・データ開示・規制面でもアップデートが入り、取引統計の公開や評価ルールの明確化により、海外投資家にとっても意思決定しやすい環境が整いつつあります。
投資家への示唆(セグメント別)
- 住宅
- 実需+投資の両面で需要が強い一方、供給は比較的コントロールされており、家賃の伸び>価格の伸びという構図から、インカム狙いには魅力的な局面が続いています。
- 特に、サディヤット島・ヤス島のヴィラ/タウンハウス、海沿いのファミリー向け物件は、長期居住志向のテナントが多く、空室リスクが低い代わりに取得価格は高めです。
- オフプランは値上がり期待が大きい一方で、引渡し遅延リスクや完成品質リスクがあるため、デベロッパーの信用力と契約条件(遅延補償など)の確認が必須です。
- オフィス
- グレードA・中心立地・ESG対応済みのビルは、今後も安定稼働と賃料成長が見込みやすく、長期テナント(政府系・ブルーチップ企業)との長期契約が組めれば、ボラティリティの低いキャッシュフローを狙えます。
- 一方、グレードB/Cは改装やサービスオフィス化で差別化できるかが勝負で、CAPEXを前提に利回りを組み立てる必要があります。
- リテール
- プライムモールの区画は空きが少なく、長期での安定賃料+インフレ連動を狙える一方で、初期投資額は高めです。
- 二等立地のストリップ型リテールは、ローカルサービス業・F&B向けにまだ余地があり、賃料交渉もしやすいため、リスクをとって利回りを高めたい投資家向きです。
- ホテル・観光
- 現時点では、需要に対して供給が急増しているわけではなく、既存ホテルの収益性改善フェーズにあります。RevPARの伸びを考えると、既存アセットの再生・取得も検討に値します。
- 特に、イベント期(F1、UFCなど)にピーク料金を取れるロケーションは、キャッシュフローの季節変動がある代わりに、平均ADRを押し上げる効果が大きいです。
- 物流・工業
- 物流は明らかに成長セクターで、賃料上昇・高稼働・将来供給のプレミアムなどを考えると、長期での賃料成長とキャピタルゲインが両立しやすいアセットクラスです。
- ただし賃料が短期間で急騰しているため、テナントの支払能力・契約更新リスクの見極めが重要になります。
- REIT・株式
- 個別物件ではなく、Aldarなどの開発・投資プラットフォームやREITに分散投資する方法も有力です。
- 配当+値上がりの両取りを狙いやすい一方、市場全体のセンチメントや金利動向に左右されるため、不動産サイクル+株式市場サイクルの二重のボラティリティを意識する必要があります。
リスク・留意点
- 価格調整リスク
- アブダビはドバイほど過熱していないとされるものの、UAE全体として住宅・物流ともにここ数年で大幅な値上がりが続いており、他の都市(特にドバイ)では2025年後半〜2026年に二桁の価格調整を警戒する声も出ています。
- アブダビ単体でも、新規供給が一気に出てくるエリアでは賃料の頭打ち・値引き販売の可能性があります。
- 金利・為替リスク
- 現在は利下げ局面ですが、米国の金融政策次第では再度の利上げ・長期金利上昇もあり得ます。モーゲージ利用のレバレッジ投資は、返済負担が上がるシナリオも織り込んだ保守的なキャッシュフロープランが必要です。
- プロジェクト遅延・建設コスト
- 物流・高層住宅とも、建設コスト上昇と人材不足から工期が伸びるケースがあり、オフプラン投資では引渡し遅延リスクを前提に契約条文(ペナルティ・補償)を確認した方が安全です。
- 政策・規制の変更
- ゴールデンビザや外国人所有ルールは、基本方向は「オープン」ですが、将来最低投資額の引き上げや税制改正が行われる可能性もゼロではありません。長期保有を前提に、制度が変わっても成立する収益性かを検証しておくと安心です。
まとめ
2025年12月時点でのアブダビ不動産は、
- 住宅:賃料・価格ともに上昇基調で、利回り6〜8%+中期の値上がりが期待できる一方、人気エリアはすでにかなり割高感も出てきている状況です。
- オフィス:グレードAの中心立地は空室が少なく賃料も上昇、ESG対応ビルに需要が集中しています。
- リテール:ラグジュアリーと体験型テナントを軸に、プライムモール中心に賃料がジリ高です。
- ホテル:イベント・観光を背景に稼働・ADRとも過去最高級の水準で、既存アセットの収益力が高まっています。
- 物流・工業:UAE全体の中でも最もタイトなセクターの一つとなっており、賃料上昇と高稼働が続いています。
総じて、アブダビは「利回りの高さ(特に住宅・物流)とマクロ安定性」を兼ね備えた市場になっており、ゴールデンビザやフリーホールド拡大などの制度面の後押しも相まって、中長期での資産防衛・インカム投資の候補として注目度が高い状態が続いている、と整理できます。
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インドネシア不動産
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マクロ環境・金利
- 経済成長とインフレ
- 2025年の実質GDP成長率は約4.9%前後と見込まれており、コロナ後のリバウンドからは落ち着いたものの、依然として堅調な成長軌道にあります。
- インフレ率は2025年を通じて1〜2%台前半にとどまり、年初には一時的なデフレ(前年比▲0.09%)も観測されるなど、かなり落ち着いた物価環境です。
- 政策金利と住宅向け支援
- 中央銀行(バンク・インドネシア、BI)は、2025年5月に政策金利(7日物リバースレポ)を5.50%へ25bp引き下げた後、追加利下げを実施し、11月時点で4.75%に据え置いています。
- 低インフレと成長維持の両立を目指しつつ、住宅ローンや不動産向け融資を後押しする流動性供給策も拡充。BIは政府の「年300万戸の低価格住宅」目標を支えるため、800〜1,300兆ルピア規模の資金供給や国債購入を通じて住宅セクターを重点支援しています。
住宅(分譲・賃貸)
- 価格動向と利回り
- ジャカルタの高級アパート価格は前年比+0.3%程度と、2025年もほぼ横ばいで推移しています。1㎡あたり約3,500万〜5,700万ルピア(立地・グレードで差)が目安で、ここ数年は急騰から落ち着いた「高原状態」です。
- 一方、賃料水準は比較的しっかりしており、高級物件の総賃料利回りは平均5%強(Q2 2025で約5.4%)と、過去の10〜13%からは低下したものの、依然として「中程度に魅力的」な水準と評価されています。
- 需要と供給の構図
- ジャカルタの分譲アパート市場は、中〜上位所得層向けの即入居可能な完成在庫に需要が戻りつつあり、南ジャカルタが中上位セグメントの牽引役、東・西ジャカルタは中価格帯マーケットとして拡大しています。
- 一方で賃貸アパートの入居率は約61.6%(Q3 2025)と、他セクターに比べると低迷しており、新規供給の流入が空室率を押し上げています。賃貸専用レジは、プロモーションや短期契約、家具付きプランなどソフト面で競争が激しくなっています。
- 政府の住宅政策と中低所得層
- 新政権の目玉である「300万戸住宅プログラム」に合わせ、低所得層向けの補助付き住宅ローンや、開発業者向けのインセンティブが拡充されています。
- BIの準備率緩和・ボンド購入を通じた流動性供給も、低価格帯分譲住宅の開発資金と購入者ローン枠の拡大につながっており、ジャワ島周辺の郊外ニュータウンや工業団地周辺でボリュームゾーン住宅の供給が増えています。
オフィス
- ジャカルタCBDの回復局面
- 2025年Q3時点で、ジャカルタのオフィス市場は「回復の初期段階」と評価されており、空室率の改善と新規供給の抑制が進みつつあります。
- テナント需要は、金融・テック・ビジネスサービスに加え、製造業・EV関連企業の管理部門などからもじわじわ戻っており、グレードAビルへの「質へのシフト」が鮮明です。
- テナントの選別とリポジショニング
- ハイブリッドワークは定着しているものの、企業は拠点集約+高品質オフィスへの移転を進めており、ESG対応・省エネ・アクセスの良さを備えた物件に需要が集中しています。
- 旧来型ビルでは、フロアの小割り、共用部のリニューアル、共用ラウンジやコワーキング併設など、リポジショニングによる競争力強化が課題になっています。
リテール・商業
- モールの稼働と賃料
- コロナ後の回復が一巡し、2025年Q3のジャカルタおよび周辺(ボデタベック)のリテール空室率は「概ね安定」とされています。
- 平均賃料はジャカルタで約57万ルピア/㎡/月とされ、2025年Q3時点で前年比+1%程度の上昇。年末までに前年比+2%前後の小幅な賃料上昇が見込まれています。
- テナントミックスのトレンド
- モール運営者は、体験型テナント(エンタメ、ジム、キッズパーク)やF&B、ライフスタイル型専門店を増やし、ECと競合しない「行く理由」を作る方向に舵を切っています。
- 一等地のプライムモールは高い稼働と賃料維持が続く一方、二等立地では歩合賃料(売上連動)・内装支援・フリーレントなど条件緩和でテナント誘致を行うケースが目立ちます。
ホテル・観光
- ジャカルタ:政府需要減で回復は半歩後ろ
- 2025年は、政府の出張・会議関連予算削減の影響で、ジャカルタのホテル市場は年初がボトムとされました。1〜3月は前年同月比で10〜12%の稼働率低下が報告されており、その後徐々に持ち直しています。
- ColliersのQ3 2025レポートでは、2025年通年の稼働率は前年からやや低下(約62〜63%)と予測され、供給は主に3〜4つ星クラスが中心です。
- バリ・地方都市
- バリは国際観光の本格回復により、2024年の時点で稼働率70%超・ADR上昇と力強いパフォーマンスを見せており、2025年も好調を維持しています。
- ただし、MICEや政府案件に依存してきた都市型ホテルは、民間企業・イベント需要の獲得にビジネスモデルをシフトする途上で、改装・ブランドリポジショニングを進めている段階です。
物流・工業(倉庫・工業団地)
- 工業団地・土地需要
- グレーター・ジャカルタの工業団地市場は2025年Q3も堅調な土地吸収を維持し、四半期の土地売却面積は約74.5ヘクタール、年初来では200ヘクタール超に達しています。
- 伝統的な製造集積地であるブカシ(Bekasi)は飽和状態に近づき、需要はカラワン、プルワカルタ、スバンなど外縁部の新興工業パークへシフト。自動車・EV・物流・FMCG向けの需要が牽引しています。
- 中国企業のシフトと価格上昇
- 米中関税摩擦を背景に、2025年前半には中国企業のインドネシア移転・増設が加速。西ジャワの工業地帯では、工業用地・倉庫の価格が前年から15〜25%上昇したとの報告もあり、ここ20年で最も速いペースとされています。
- 倉庫・ECロジスティクス
- EC市場は2024年時点で約3500億ドル規模とされ、2033年まで年平均9%前後の成長が見込まれています。
- それに伴いECロジスティクス市場も2025年に50〜60億ドル規模、2030年まで年8〜9%前後の成長とされ、ジャワ島を中心に高天井・オートメーション対応倉庫への需要が高まっています。
- ジャカルタ周辺の倉庫賃料は上昇しており、物流事業者は外縁部のより安価な土地へ拠点を移し、ラストマイルの距離増加とコスト削減をトレードオフする動きが見られます。
REIT・資本市場・開発セクター
- 不動産・建設セクターの見通し
- インドネシア株式市場では、不動産セクターの今後5年間の利益成長率が年率16%程度と予想されており、過去の低迷期からの反転が期待されています。
- 建設業も、交通インフラ・エネルギー・住宅プロジェクトを背景に2025年以降の成長期待が高く、公共投資と民間開発が同時に走っている状況です。
- REIT(不動産投資信託)の位置づけ
- インドネシア証券取引所(IDX)では、商業施設・オフィス・ホテルなどを裏付けとしたREIT・インフラファンドが上場しており、少額から不動産セクターに投資できる手段として整備が進んでいます。
- ASEAN全体では、金利低下の流れを受けて2025年以降REIT市場の活性化が期待されており、インドネシアも同様に新規上場や物件入れ替えの動きが出てきています。
制度・規制トピック(外国人取得を含む)
- 外国人の権利形態
- 外国人は従来どおり土地の「完全所有(フリーホールド=ハク・ミリク)」は不可ですが、
- コンドミニアムは「区分所有付きのハク・パカイ(利用権)」を通じて直接取得可能、
- 一定条件を満たす戸建住宅についても、ハク・パカイに基づく長期利用権として所有できます。
- ただし、補助付き(サブシディ)住宅や低所得者向け公的住宅は外国人の取得不可であり、最低価格規制やエリア制限もあるため、実務上は中〜高価格帯のコンド・ヴィラが主な投資対象になります。
- オムニバス法と規制緩和
- 2021年のオムニバス法以降、外国人に対するコンド・戸建の所有権ルールが整理され、投資会社(PT PMA)経由での取得や長期リースの柔軟性が高まりました。
- また、デジタル化や登記手続きの簡素化により、権利確認やデューデリジェンスの透明性向上が進んでいますが、地方では依然として実務差が残るため、現地専門家のサポートが重要です。
投資家への示唆(セグメント別)
- 住宅(コンド・戸建)
- 価格は「小幅上昇〜横ばい」、賃料利回りは5%前後と、レバレッジとルピア為替を考慮した「インカム+キャピタルのバランス型」投資になりやすいです。
- 今後数年は、低金利+住宅支援策+若年人口の厚みにより、特に郊外の戸建・タウンハウス、工業団地周辺の従業員住宅で底堅い需要が見込まれます。
- オフィス
- ジャカルタCBDのグレードAオフィスは、回復フェーズに入ったとはいえテナントの質の選別が厳しく、ESG・省エネ性能を備えた物件に優位性があります。
- 二級ビルは賃料ディスカウント+改装投資前提となるため、バリューアッド型投資家にとっては再生余地がある一方、キャッシュフローの読みには慎重さが必要です。
- リテール
- EC拡大の中でも、体験型・コミュニティ型モールは底堅い需要があり、ジャカルタ中心部のプライムモールは賃料小幅増+高稼働で推移しています。
- 投資家は、テナント構成(F&B・エンタメ・サービス比率)と運営者のテナントマネジメント力を重視する必要があります。
- ホテル
- ジャカルタのビジネスホテルは、政府需要の戻りが遅く、民間需要頼みのため回復は緩やかですが、バリなど観光地はすでにプレコロナ水準を超える稼働・ADRも見られます。
- 観光・レジャーに強いリゾート型は中長期の成長余地が大きい一方、都市型 MICE 依存ホテルは用途転換やブランド再構築の動きを注視する局面です。
- 物流・工業
- EV・自動車・消費財メーカー+ECロジスティクスの集積が進む西ジャワ・中部ジャワ・東ジャワの工業団地・倉庫は、土地価格の上昇と需要の厚みから中長期の成長セクターといえます。
- 倉庫投資では、港・高速道路・空港へのアクセス、労働力確保、将来の用途転換余地(汎用レイアウト)を重視するとリスクを抑えやすいです。
- REIT・不動産株
- 金利低下と不動産セクターの利益回復期待から、REIT・不動産株は中期的にレバレッジの効いた不動産エクスポージャーを取る手段として注目されます。
リスク・留意点
- 金利・為替リスク
ルピアは外部ショックに弱く、米金利動向や貿易摩擦の激化で再び売られる局面も想定されます。外貨建てで投資する場合は、為替ヘッジや長期前提のスタンスが重要です。 - 政策依存と実務リスク
- 住宅・ホテル・工業団地の一部は、政府予算や補助政策への依存度が高く、政権交代・政策変更の影響を受けやすいです。
- 不動産登記や許認可はデジタル化が進む一方、地方自治体ごとの運用差・官僚的遅延・書類不備など、実務リスクは依然として残ります。
- 局所的な供給過剰
- 都市部の賃貸アパート、特定エリアのホテル・リテールでは、新規供給の集中により空室率が高止まりするリスクがあります。特に、政府需要に依存してきたエリアでは需要構造の変化を慎重に見極める必要があります。
- 社会・環境リスク
- 2025年Q3には、グレーター・ジャカルタの工業エリアでデモによる一時的な取引停滞が報告されており、政治・社会情勢の変化が工業用地取引に影響する可能性もあります。
まとめ
2025年のインドネシア不動産市場は、低インフレ・利下げ・住宅支援策・製造業シフト・EC拡大という複数の追い風を受けつつ、セグメントごとに温度差のある展開になっています。
住宅は価格横ばい〜小幅高+利回り5%前後で「安定インカム資産」、オフィスは質への回帰と旧ビル再生、リテールは体験型モールへの集約、ホテルはバリなど観光地が先行回復、ジャカルタは政府需要減で慎重、物流・工業は製造移転とEC拡大を背景に最も成長色が強いセクターとなっています。
外国人にとっては、直接土地所有は不可だが、コンドミニアムや戸建をハク・パカイで長期保有できる環境が整っており、法制度も徐々に整備が進んでいます。一方で、為替・政策・ローカル実務のリスクが付きまとうため、現地パートナー・専門家との連携、エリアとセグメントの精査が成功の鍵になる局面だといえます。
インドネシア不動産関連情報
インドネシア不動産基本情報
インドネシア不動産基本情報
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オーストラリア不動産
バングラデシュ不動産最新動向/2025年12月時点
マクロ環境・金利
- 経済成長とインフレ
2024年度(2024年6月期)の実質GDP成長率はおおよそ4%前後と、従来の6〜7%成長から減速しています。要因は、インフレ高止まり、輸出・輸入の減速、政治的不安定化による投資マインドの低下などです。
インフレ率は2025年秋時点で8%前後と依然高く、食品・エネルギー価格の上昇が家計と建設コストの両方を圧迫しています。 - 政策金利と金融環境
中央銀行(Bangladesh Bank)の政策金利は10%で、2024年の引き上げ後は高水準を維持しています。インフレが目標レンジまで十分低下するまでは、現状維持との見方が強い状況です。
新しい「金利コリドー制度」導入で、市中金利は政策金利に連動しやすくなり、銀行の貸出金利も二桁台前半〜半ばで張り付いています。 - 住宅ローン金利の実務感
大手銀行の住宅ローン金利は、固定・変動を合わせて年11〜14%台が一般的レンジです。
高金利のため、頭金比率は高め(3〜4割)を求められるケースが多く、中間層以下では「賃貸継続+貯蓄優先」が現実的な選択になりやすいです。
住宅(分譲・賃貸)
- 価格水準と上昇トレンド
首都ダッカの分譲マンション価格は、土地の希少性と建設コスト高騰を背景に緩やかな上昇トレンドが続いています。
グローバル調査では、2025年4月時点のダッカの平均2ベッドルームの売出価格が約3.6万USD(約40〜50㎡程度が目安)、チッタゴンで約3.8万USDとされています。
人気エリアではさらに高く、 - Gulshan:1平方フィートあたりBDT 25,000〜35,000
- Banani:BDT 20,000〜25,000
- Dhanmondi:BDT 17,000〜25,000
と、この2〜2年半で25〜40%上昇したとの推計もあります。 - 供給と需要のギャップ(特に「手が届く価格帯」)
バングラデシュ全体では、約600万戸以上の住宅不足があり、2030年には1,050万戸規模に拡大すると見込まれ、その約7割が「アフォーダブル住宅」の不足とされています。
都市部では毎年10万戸程度の新規住宅需要があるのに対し、民間デベロッパーの実際の供給はその8%程度にとどまり、価格上昇と住宅不足を同時に招いています。
高所得者向けの大型・高級物件は在庫調整が進む一方、中所得・低所得向けの小型フラットは慢性的な供給不足で、完成前に売り切れるケースも少なくありません。 - プレセール・新規開発の動き
ダッカでは都市計画(DAP:Detailed Area Plan)による建ぺい率・容積率の制限や許認可の遅延が続き、ここ数年は新規プロジェクト着工が減速しています。
高金利環境により、デベロッパー側も用地仕込みと新規着工を慎重化しており、「価格は強いが、取引件数は伸び悩む」局面です。 - 賃貸市場の状況
深刻な住宅不足とインフレを背景に、家賃は上昇傾向です。ダッカでは2025年4月時点で、 - 1ベッド:平均月173USD
- 2ベッド:189USD
- 3ベッド:247USD
- 4ベッド以上:515USD
と報告されています。
家賃規制法は存在するものの実務で十分機能しておらず、オーナー側の値上げ余地が大きいことが課題です。 - 公的・大規模住宅プロジェクト
RAJUKのUttara Apartment Projectなど、政府系の大規模団地プロジェクトでは低・中所得層向けの集合住宅(約1.8万戸規模)が順次供給されていますが、全体の不足を埋めるにはまだ不十分です。
オフィス
- 立地ごとの需要・賃料レンジ
ダッカのオフィス需要は、Gulshan・Banani・Baridhara(外交団地)などのプレミアムエリアに集中しています。
グレードAオフィスの賃料は、一般的なビジネス地区で1㎡あたり月15〜25USD、最上位グレードで35USD前後とされ、利回りは7〜10%程度と見積もられています。 - 空室率とテナント動向
外資系企業・NGO・金融機関は、セキュリティ・停電対策・ビル管理を重視してAグレード物件へ集約する一方、古いBグレード・Cグレードのビルは空室率が高止まりしやすい構図です。
政治情勢の変化や治安への懸念から、2024年以降は一部の外資が拡張計画を先送り・縮小しており、賃貸条件(フリーレント期間、内装負担のシェアなど)を柔軟にするオーナーも増えています。 - 将来の供給パイプライン
MalibaghのTA Tower(約45階建・オフィス・商業・ホテル複合)のような大型プロジェクトが進行中で、完成すればダッカCBDのオフィス在庫はさらに増加します。
新規供給は主に「ハイグレード複合ビル」に集中しており、旧来型オフィスビルは長期的にリポジショニングや建替えが迫られています。
リテール・商業
- ショッピングモールと路面店の二極化
ダッカやチッタゴンの大型モールでは、ファッション・飲食・家電・体験型テナントを組み合わせたテナントミックス再編が進み、来客数は堅調です。
一方、旧市街や中位立地の小規模モール・路面店は、ECの浸透と購買力の落ち込みの影響を受けやすく、賃料の横ばい〜下押し圧力がかかっています。 - 賃料条件と収益性
プライムな商業区画の賃料は1㎡あたり月40USD前後に達する事例もあり、飲食・サービス業を中心に「売上歩合+固定賃料」のハイブリッド契約が広がりつつあります。
オーナー側は高インフレ環境を踏まえ、年次インデックス連動や段階的賃料アップを契約に反映させる傾向が強まっています。 - 郊外型・近隣型商業施設
新興住宅地(Bashundhara、Purbachalなど)では、生活密着型のスーパーマーケット・ドラッグストア・サービス店舗の需要が拡大しています。
中産層の自家用車保有が増えつつあるものの、依然として徒歩・リキシャ圏内の「日常使いの商業施設」が強く、コンパクトな近隣モールの開発余地は大きい状況です。
ホテル・観光
- ホテル供給とチェーン展開
バングラデシュ全体で、登録ホテル・リゾート数は3,000施設超とされ、ダッカとチッタゴンがビジネス需要の中心、コックスバザールやシレットがレジャーの中心になっています。
ダッカでは既存の5つ星ホテル(Pan Pacific Sonargaon、Westinなど)に加え、Hilton Dhaka(約250室・2025年開業予定)がGulshanに登場予定で、ハイエンド市場の競争が一段と激しくなります。 - 稼働状況と需要要因
2024年は政治不安の影響で一部5つ星ホテルの稼働率が通常の78〜80%から40〜50%台に低下したとの報道もあり、海外ビジネス客の往来減少が直撃しました。
一方、国内観光(Cox’s Bazar・バンドルバン・茶園エリアなど)は比較的堅調で、リゾート開発やエコツーリズム案件が増えています。 - 中期的な視点
空港拡張や道路インフラ改善が進展すれば、MICE・医療観光・レジャー観光のポテンシャルは大きく、ホテルセクターは中期的な成長期待が高い分野です。
物流・工業・インフラ
- 工業団地と物流施設
縫製品・繊維を中心とした輸出産業向けに、経済特区や工業団地内の工場・倉庫需要が継続しています。電力安定性や港湾アクセスの良いエリアでは、長期リースの需要が強いです。
インフレと通貨安により建設コスト・輸入設備コストが上昇しており、新規開発の採算ライン(初期利回り)は圧縮傾向です。 - インフラ投資と都市開発
ダッカ都市圏では、MRT(都市鉄道)・高架道路・新空港道路などのインフラ整備が住宅・商業地価の上昇を支えています。とくにMRTライン沿線では、駅近マンション・オフィスの需要が相対的に強くなっています。
東方拡張エリア(例:Bashundhara、Purbachal)は「新ダッカの高級住宅+商業クラスター」として位置づけられ、中長期的な資本価値成長を狙う投資家の関心が高いです。
REIT・資本市場
- 制度整備は進むが市場は黎明期
バングラデシュでは近年、証券規制当局(BSEC)がREITに関する規則整備を進めており、商業用不動産の証券化に道が開かれつつありますが、まだ上場REIT市場は立ち上がり途上です。
現状、投資家が不動産に間接投資する手段は、不動産関連株(開発会社・ホテル運営会社など)が中心で、配当利回りやガバナンスは銘柄によりばらつきがあります。
制度・規制トピック
- 外国人の不動産取得
外国人は一般的にアパートやコンドミニアムの取得は可能とされますが、土地の直接取得には大きな制約があり、BIDA(投資庁)や中央銀行など複数機関の承認が必要になるケースが多いです。
資金決済は外貨建てでバングラデシュの銀行経由とする必要があり、規制・実務のハードルは決して低くありません。 - 土地権利・登記リスク
歴史的な法律(旧Enemy Property Act=現Vested Property Act)や、相続・権利関係の複雑さに起因する所有権紛争・二重売買のリスクが指摘されています。
購入時は、権利書・登記記録・納税状況などのデューデリジェンスが必須であり、ローカルの信頼できる弁護士・測量士の起用が欠かせません。 - 都市計画・開発規制(DAP)
ダッカのDetailed Area Planにより、建物高さ・密度・用途制限が強化され、ここ数年は建築許可の取得に時間を要しています。これが新規供給減速と価格上昇の一因となっています。
投資家への示唆(セグメント別)
- 住宅
- 都心高級フラット(Gulshan・Banani・Baridhara等)
価格はこの数年で25〜40%上昇しており、今後も土地制約・高級志向から中長期の資本価値維持が期待されますが、エントリー価格が高く利回りは相対的に低めです。 - 中価格帯・既存フラット
新築価格高騰のため、中古フラットの需要と値上がりが目立っており、実需+投資の両面で検討余地があります。 - オフィス
- 外資・NGO・金融機関向けのAグレードオフィスは、治安・インフラを条件に、依然として安定したニーズがあります。
- ただし、政治リスク・為替リスクが高く、テナントの入れ替わりや賃料調整への備えが重要です。
- リテール
- プライムモール・好立地の小売区画では、体験型テナント・飲食・ホームセンターなどの集客力ある業種が賃料を支えています。
- 一方で、中位立地以下はECとの競合が強く、「賃料水準」「テナントミックス」「駐車場・アクセス」の調整が成功の鍵です。
- ホテル・リゾート
- ダッカの高級ホテルは政治状況に大きく左右される一方、国内観光地のリゾートは中長期の成長ポテンシャルが高いと見られています。
- 物流・工業
- 輸出産業向けの工場・倉庫は、電力・道路・港湾アクセスが確保できるエリアに限れば、長期安定収益を見込みやすいです。
- インフレと通貨安に備え、契約時に年次賃料見直し条項を組み込むことが一般的になりつつあります。
リスク・留意点
- 政治・ガバナンスリスク
2024年の政変・学生デモを背景に、政権交代と暫定政府発足が続き、政策一貫性や治安への懸念が国際投資家のセンチメントを冷やしています。 - マクロ・金融リスク
高インフレと通貨安で、実質利回りの目減り・建設コスト上昇・輸入資材コスト増が続く可能性があります。 - 権利関係・法務リスク
権利書・登記・相続関係の不備や紛争リスクが比較的高く、「法務・土地調査へのコストを惜しまないこと」が必須です。 - 流動性リスク
取引市場の規模はまだ限定的で、景気悪化や政情不安が強まると売却までに時間を要し、価格調整幅も大きくなりやすい点に注意が必要です。
まとめ
2025年のバングラデシュ不動産市場は、高インフレ・高金利・政治不確実性という逆風を受けつつも、急速な都市化と住宅不足を背景に、特にダッカ都市圏の住宅・商業セクターが中長期的な成長ドライバーになっています。
住宅は、土地制約と建設コスト高により価格上昇基調かつアフォーダブル住宅の供給不足が続き、既存フラット・中価格帯への需要が強まっています。オフィスは立地とグレードの二極化が鮮明で、プレミアムビルと旧来ビルのパフォーマンス差が拡大しています。リテールはプライムモールとEC・郊外店舗の競合が進み、ホテル・観光は政治リスクに晒されながらも、国内観光とインフラ整備を背景に中期的な成長余地があります。
投資を検討する際は、「エリア・権利関係・インフレ・政治リスク」を丁寧に織り込んだうえで、現地専門家との連携と長期視点でのポジショニングが重要になってきます。
オーストラリア不動産関連情報
オーストラリア不動産基本情報
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バングラデシュ不動産
バングラデシュ不動産 最新動向
マクロ環境・金利
- インフレと政策金利
直近(2025年9月)の一般インフレ率は前年比8.36%へ小幅上昇です。中央銀行は2025年7月に政策金利(レポ)を8.00%へ50bp引き下げ、金利低下と為替安定の両立を図っています。 - 住宅ローン金利の実務感
民間銀行の店頭目安は年13.5〜16%(住宅向け)で推移し、審査は返済能力と源泉確認を重視する傾向が強いです。市場指標としてのSMART連動金利は残るものの、実務では固定に近いプライシングが多いです。 - 住宅金融の裾野
住宅ローン残高/GDPは約2%弱と依然薄く、家計の自己資金依存が高い構造です。
住宅(分譲・賃貸)
- 価格レンジと足元の動き
ダッカの分譲価格はBDT3,500〜16,000/平方フィート(立地・仕様で大きく差)で、プレミア立地(Gulshan等)は上限帯での成約が続きます。2BR基準の掲示価格は、ダッカで約USD36千、チッタゴンで約USD38千の水準感です。 - 需要ドライバーと在庫感
在宅からの回帰・都市インフラ(メトロ、エレベーテッド・エクスプレスウェイ)整備・NRB(海外在住バングラデシュ人)資金が下支え。一次取得の実需は郊外新興エリアへ、上位層は都心の再開発・小規模高付加価値案件へ二極化しています。 - コストと税制の影響
建設資材高(鉄鋼中心)でコスト・IRR圧迫が続き、2025/26年度予算案では購入関連税・住宅会社サービスのVAT引上げ等が提示され、分譲価格の上振れ圧力が意識されています。足元では資材価格上昇の勢いはやや鈍化も、コスト高止まりの局面です。
オフィス
- 需給とテナント動向
ダッカのオフィスは製造・金融・テック支援機能のハブ需要が底堅い一方、国際規格のAグレード供給の希少性が賃料下支え要因です。テナントはBCP・発電設備・省エネ性能を重視し、内装支援・フリーレント等のインセンティブを引き出す交渉が一般化しています。
リテール・商業
- 大型モールとテナントミックス
ジャムナ・フューチャー・パーク等の超大型モールは広域集客を継続。体験・F&B・ローカルブランド構成が中心で、外資SPAの新規出店は限定的です。郊外・二等立地は歩合賃料・内装支援で出店促進するケースがみられます。
ホテル・観光
- 回復途上の需要
国際渡航の正常化で宿泊需要は回復基調。都市部は企業出張・医療・教育関連の平日需要が戻り、週末は地域内旅行で底堅い展開です。ADRは緩やかな上昇、RevPARは前年比プラスの見通しが優勢です。
物流・工業
- SEZ×倉庫需要の拡大
政府の100経済特区構想(BEZA)とバンガバンドゥ・シェイク・ムジブ工業都市(BSMSN)の整備が進展し、製造・EC向けの高天井空調倉庫への引き合いが増加しています。ドックハイ・消防基準・電力安定を満たす賃貸倉庫の不足が賃料強含み要因です。
REIT・資本市場
- 制度整備の前進
REITルール(2024)が施行され、配当性向や投資配分等の枠組みが明確化。スポンサー資産の外部化や賃貸型ポートフォリオ組成の道筋が整い、住宅・物流・商業での適用が検討対象となっています(実運用は立ち上がり段階)。
制度・規制トピック
- 税・費用負担の増大
FY26予算案で購入税・サービスVAT・建材輸入関税の引上げが示され、取得・保有コストの上振れが想定されます。 - マクロ安定化と外部支援
政策金利引下げと並行してIMF支援の継続が決まり、為替・物価の安定化に向けた改革が進行中です。
投資家への示唆(セグメント別)
- 住宅
金利低下×在来需要で一次取得〜中価格帯が選別的に堅調。コスト・税負担の増で価格転嫁圧力が続くため、建設進捗・支払条件(分割/頭金)・引渡し時の精算条項を重視するとよいです。郊外の交通結節点(メトロ沿線・幹線接道)での中間面積帯は流動性が確保しやすいです。 - オフィス
自家発電・省エネ・BCP対応のAグレードへ需要集中。内装支援・フリーレントは出やすく、実効賃料で評価すべき局面です。テナントの電力安定・通信冗長化への投資が入居判断のカギです。 - リテール
体験型・F&Bの比重拡大でプライムは稼働安定。%レントや内装支援の交渉余地があり、イベント来客×EC連動で売上の季節変動対応が可能です。 - ホテル
企業出張・近距離レジャーの回復で稼働・ADRは緩やかに改善。イベント期のピーク料金と平日の底上げを見込む運営計画が有効です。 - 物流・工業
SEZ×港湾/空港アクセスの近接性、電力・消防のコンプライアンス、ドック仕様を重視。BSMSN周辺・ダッカ〜チッタゴン回廊の汎用レイアウト倉庫は賃貸化・転用余地が高く、中期の安定収益に向きます。 - REIT
ルール整備済み×実運用初期のため、スポンサーのアセット注入能力・WALE・LTV上限・配当方針の開示を重視し、物流・賃貸住宅など安定CF資産の組成を優先検討が妥当です。
リスク・留意点
- 物価・金利・為替:インフレの鈍化が遅い場合、実質金利の高止まりと為替ボラが需給を冷やす可能性。
- 税負担・コスト:購入税・VAT・関税の引上げと建材高止まりにより、価格転嫁・販売速度に下押し圧力。
- 施工・引渡し遅延:資材・人員の逼迫や資金繰り悪化で引渡しの遅延リスク。契約の遅延・補償条項の精査が必要です。
まとめ
2025年のバングラデシュ不動産は、政策金利の引下げと人口・都市化・インフラ整備を背景に、住宅の選別的な堅調さと物流・工業の拡張が目立ちます。一方で高インフレの粘着性、購入税・VAT・関税の増、建設コスト高止まりが収益を圧迫する局面です。投資は立地×インフラ接続×仕様(電力・省エネ・安全)の質で選別し、実効賃料/総保有コストでの評価と、引渡し・遅延条項の厳格管理が肝要です。
バングラデシュ不動産関連情報
バングラデシュ不不動産基本情報
バングラデシュ不動産物件最新
Grand Oasis Cox's Bazar(グランド・オアシス・コックスバザール)
ニュージーランド不動産
ニュージーランド不動産最新動向/2025年12月時点
マクロ環境・金利
- 景気とインフレ
ニュージーランド経済は、2024年以降の金融引き締めの影響を受けて、直近5四半期のうち3四半期がマイナス成長と、実質的なリセッション局面を経験しました。住宅価格下落による「逆資産効果」で個人消費が冷え込んでおり、成長ペースは依然として鈍い状態です。
物価はピークからは落ち着きつつあり、中央銀行(RBNZ)は2026年半ばにインフレ率を2%目標近辺に収れんさせるシナリオをベースケースとしています。 - 政策金利(OCR)
2025年11月の会合で、RBNZはオフィシャル・キャッシュレート(OCR)を2.25%へ0.25%引き下げました。これは約3年ぶりの低水準で、2024年8月以降の累計利下げ幅は3.25%ポイントに達します。一方で、RBNZは「利下げサイクルの終盤」にあるとの認識を示し、2026年までは概ね横ばい圏で推移させるガイダンスを出しています。 - 住宅ローン金利の実務感
OCRの引き下げを受け、主要銀行の優遇固定金利(1年)は4%台半ば、2〜3年固定も4%台半ば〜後半が目安です。変動金利は5%台後半〜6%前後が一般的な水準となっています。
かつての6〜7%台からみると借入負担は軽くなりましたが、家計の所得伸び悩みと住宅価格水準の高さを踏まえると、「劇的に買いやすくなった」というほどではなく、慎重な見方が多いです。
住宅(分譲・賃貸)
- 価格水準とトレンド
・パンデミック期(〜2021年末)に住宅価格は全国平均で約40%上昇した後、その反動で下落に転じ、ピークから最大30%下落した地域もあり、全国平均ではピーク比約15%安の水準にあります。
・REINZ統計では、2025年6月時点の全国中央値は約77万NZドルで前年比ほぼ横ばい。オークランドは約99万NZドルで前年比マイナス3%台、オークランドを除く全国は+1〜2%程度の小幅高です。
・2025年通年の価格予測は、民間銀行・調査機関で+2〜4%程度の「小幅上昇」がコンセンサスで、「かつてのような二桁上昇は期待しづらい」との見方が大勢です。 - 取引ボリュームと需要層
・売買件数は長期平均付近に戻りつつあるものの、勢いは強くないという評価です。利下げと移民回復で需要はじわり戻る一方、売却を急ぐ投資家や高齢所有者の売りも一定程度あり、需給は拮抗気味です。
・自宅取得層では、共働き世帯+高頭金(20%超)を用意できる層が主役で、LVR制限(低頭金ローン規制)は若干緩和されつつも「フルローンでの投資目的購入」は通りにくい環境です。 - 賃貸市場の動き
・2025年に入り、賃貸供給が増加しています。新規賃貸募集件数は前年比+10〜20%程度増え、在庫も2割前後積み上がっているとの民間データがあります。
・その結果、全国平均の募集家賃は横ばい〜わずかに下落の局面で、生活コスト全般が上がる中で「家賃だけは落ち着いている」という珍しい状況です。ただし、 - オークランド:2ベッドで週600〜950NZドルと依然高水準
- クライストチャーチ:週380〜580NZドルと相対的に割安
と、地域差はかなり大きいです。
・政府は2025年10月にメタンフェタミン汚染に関する新基準と管理ルールを導入し、賃貸住宅の安全性・品質管理の強化を進めています。 - 資金調達と審査
・RBNZのLVR規制(高LTVローン制限)は緩和方向ですが、銀行は返済能力(DTI)・雇用の安定・他債務を厳格にチェックする姿勢を維持しています。
・利下げにより返済額は軽くなったものの、インフレ期に比べて可処分所得が圧迫されている家計も多く、銀行はストレステスト金利をある程度高めに設定して審査を行っています。
オフィス
- 空室率と「フライト・トゥ・クオリティ」
・オークランドCBDのオフィス空室率は2025年前半で約16〜17%と、コロナ前比で高水準が続いています。プライムオフィスの空室率が約13%、セカンダリー(Bグレード)では20%超と二極化が鮮明です。
・ウェリントンCBDも、H1 2025時点で空室率18%(前年14.3%)へ上昇。特に古いBグレードの空室増が目立つ一方、耐震性能や設備に優れたプライムビルは比較的良好に保たれています。 - 賃料とテナント動向
・グレードの高いビルでは、ESG対応・耐震・空調などのスペックを重視した移転が続いており、ハイブリッドワーク前提で面積縮小+質の向上を図るテナントが多いです。
・一方、古いビルはフロアの細分化、共用部リニューアル、サービスオフィス化などによる再ポジショニングをしないと入居付けに苦戦する状況です。
リテール・商業
- CBDと郊外での明暗
・オークランドCBDのストリートリテール空室率は11〜13%台と、テレワーク定着・観光回復の遅れなどを背景に高止まりしています。
・一方で、郊外の近隣型ショッピングセンターや地方都市のメインストリートでは、生活関連サービス・飲食・医療などを中心に稼働率が安定〜改善。コロナ期に進んだ「住む・働く・買い物を近場で完結」するトレンドが追い風です。 - 賃料と投資妙味
・CBD一等地のプライム路面区画は依然としてブランドテナント中心に指名性が強く、賃料は横ばい〜わずかに下落にとどまっています。
・二等立地や観光客依存度の高いエリアでは、売上連動賃料(%レント)やインセンティブ(フリーレント・内装支援)を組み合わせてテナントを誘致するケースが増加しています。
物流・工業
- 依然として最もタイトなアセットクラス
・工業・物流セクターはここ数年、NZで最もパフォーマンスの良い不動産セクターであり、主要工業エリアの空室率は歴史的低水準のまま推移してきました。
・2025年に入り、一部地域で空室がじわり増加しているものの、それでも他セクターに比べればタイトで、テナントからの選択肢が増えた「小休止」程度という評価が多いです。 - 賃料・土地と投資環境
・ここ数年の供給不足とEコマース拡大を背景に、工業賃料は大きく上昇してきましたが、2025年は上げ一服〜小幅高の局面です。
・主要都市近郊では工業用地の供給制約が続き、土地価格・開発コストは高止まり。初期利回りは圧縮されているものの、長期の安定賃貸とリース構造を評価する長期投資家の需要は底堅いです。
ホテル・観光関連不動産
- 観光回復と地域差
・2025年時点で、国際観光客数はコロナ前(2019年)の約86〜92%まで戻り、観光支出はむしろ過去最高を更新しています。
・パフォーマンスは地域差が大きく、 - クイーンズタウン・ロトルア・クライストチャーチ:レジャー需要が強く、RevPAR・稼働率とも好調
- オークランド・ウェリントン:企業出張・MICEの回復が遅れ、供給増もあって競争が激しい
という構図です。 - パイプライン
・コロナ後に計画された新規供給は最終段階に入りつつあり、今後数年は大規模な新規ホテル開発は限定的とみられます。既存ホテルの改装・ブランド転換など、質の向上に投資余地がシフトしています。
REIT・資本市場(上場不動産)
- 価格とパフォーマンス
・2025年は、前半に金利高と景気懸念で弱含んだ後、利下げ期待を背景にREIT指数が反発。S&P/NZX不動産指数は2025年9月時点で年初来+17〜18%程度と、株価指数(S&P/NZX50)を大きく上回るリターンとなっています。 - 配当利回り
・セクター平均では、税引前の分配利回りでおおむね5〜7%、39%税率投資家ベースで換算した「実質インカム利回り」は8%超との試算もあります。
・個別には、倉庫中心のトラストは利回りがやや低めな代わりに成長期待が高く、リテール・オフィス比率の高い銘柄ほど利回りが高い傾向があります。
制度・規制トピック
- ブライトライン・テスト(短期売却益課税)の短縮
・2024年7月1日以降に売却される住宅用地については、ブライトライン期間が最大10年から2年に短縮されました。2年以内の転売益は依然として課税対象ですが、期間短縮により短期保有の税負担は軽くなり、投資家の流動性は高まりやすい環境になっています。 - 利息控除ルールの見直し
・投資用住宅ローン金利の税務上の扱い(利息控除)については、近年の段階的な制限から一部緩和方向への修正が進められており、特に新築供給を促す枠組みが議論されています。 - 外国人の住宅取得規制
・従来通り、非居住外国人による「住宅・ライフスタイル用途ゾーニング土地」の取得は原則として敏感資産扱いとなり、海外投資審査局(OIO)の承認が必要な枠組みが続いています。完全な撤廃ではなく、規制の簡素化・見直しオプションが政府内で検討されている段階です。
投資家への示唆(セグメント別)
- 住宅
・住宅価格はピークから大きく調整済みで、現状は「横ばい〜緩やかな持ち直し」局面です。
・自宅取得を検討する層にとっては、 - 金利が4〜5%台と以前より低下
- 価格がピーク比15%程度下がった
ことで、「長期保有前提なら、過去数年より入りやすいタイミング」といえます。一方で、短期転売益狙いの投資には向きにくい環境です。 - 賃貸住宅(投資用)
・賃料が頭打ち〜若干軟化する中で、固定資産税・維持費・金利の負担は依然重く、レバレッジを高く取った投資は収益が出にくい局面です。
・一方、好立地・高品質な賃貸住宅では、空室リスクが低く長期入居者がつきやすいため、キャッシュフロー重視の長期保有戦略であれば検討余地があります。 - オフィス
・CBDオフィスは空室率15〜18%と厳しく、Bグレード中心のビルはリースアップ・CAPEX負担を織り込んだ慎重な評価が必要です。
・ESG・耐震性能・立地に優れたプライムビルは相対的に底堅く、「フライト・トゥ・クオリティ」の受け皿として中長期的には安定した需要が見込まれます。 - リテール
・地方都市・郊外の生活密着型リテールは、緩やかな経済成長と人口動態に連動した安定収益源となりやすい一方、CBDリテールはテナント入替リスクが高く、賃料減額やインセンティブを前提とした保守的な収支シナリオが必要です。 - 物流・工業
・需給はやや緩みつつあるものの、依然としてNZの中で最も構造的に強いセクターです。港湾・高速道路アクセス、天井高、ヤード容量などを精査したうえで、長期リースのテナント付き物件は中期的な安定キャッシュフロー源として魅力があります。 - REIT・上場不動産
・利下げ環境・不動産市場のボトムアウト期待を背景に、2025年は価格リバウンド+高配当の両取りができた年でした。
・今後は値上がり期待はやや落ち着く一方、配当利回り(5〜7%)とインフレヘッジ機能が評価されやすく、コア資産としての位置づけが強まっています。
リスク・留意点
- 住宅価格の再下落リスク
・すでに大きく調整したとはいえ、景気が再び悪化した場合や失業率が上振れした場合には、住宅価格がもう一段下押しされるリスクがあります。 - 金利の再上昇・政策変更
・RBNZは当面の据え置きを示唆していますが、世界的なインフレ再燃や通貨安が進めば、金利再引き上げの可能性もゼロではありません。 - オフィス・リテールの構造変化
・リモートワークとECの定着により、オフィス・リテールの需要構造はコロナ前には戻らないと見る向きが多数です。立地や用途転換余地をしっかり評価しないと、長期空室・賃料下落に直面するリスクがあります。 - 規制・税制の不確実性
・ブライトラインテストや利息控除ルール、外国人取得規制などは、政権交代や財政事情により再度見直される可能性があります。中長期投資では、税務・法務面のアップデートを継続的にフォローする必要があります。
まとめ
2025年末のニュージーランド不動産市場は、
- 住宅:ピークからの大幅調整後、横ばい〜緩やかな回復局面
- 賃貸:供給増で家賃は抑えられ、借り手に有利な環境
- オフィス:CBD・セカンダリーの空室率が高く、フライト・トゥ・クオリティが顕著
- リテール:CBDと郊外で明暗。生活密着型中心に安定
- 物流・工業:構造的に強く、依然として有望セクター
- ホテル・観光:訪日客はほぼコロナ前水準、観光地中心に堅調
- REIT:高配当+利下げ期待で2025年は強いパフォーマンス
という全体像です。
かつての「買っておけば必ず上がる住宅市場」から、セグメント・立地・物件の質で明確に選別されるマーケットへと移行しており、今後は「どこを・何を・どんな資金計画で保有するか」をより丁寧に設計することが求められる局面になっていると言えます。
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キプロス不動産
キプロス不動産最新動向/2025年12月時点
マクロ環境・金利
- 景気・インフレ
キプロス経済は2024年に実質+3%台前半の成長を達成し、ユーロ圏の中でも比較的高い伸びを維持しています。2025年も観光とICT・ビジネスサービスを中心に+2.5〜3%前後の成長予測で、「小さいが機動的な経済」として評価されています。
物価は2023年までの高インフレから大きく落ち着き、2024〜2025年のHICPベースでは1〜3%程度のレンジ。2025年秋は0%台まで低下しており、生活コストの急騰は一服している状況です。 - 政策金利と住宅ローン金利
キプロスはユーロ圏のため、金利は欧州中央銀行(ECB)に連動しています。ECBは2024年以降、段階的な利下げを行い、2025年秋時点では預金ファシリティ金利は2%前後で据え置きという状況です。
住宅ローン金利は、銀行や借り手属性によりますが、2025年初の時点で概ね3.5〜5.5%程度が目安とされます。変動金利でユーロ短期金利にスプレッドを上乗せする形が一般的で、2022〜23年の急上昇局面から比べると、やや借りやすい水準に落ち着いてきています。
住宅(分譲・賃貸)
- 価格は「上昇ペース鈍化しつつ、なお緩やかな右肩上がり」
中央銀行の住宅価格指数(RPPI)では、2025年Q2の住宅価格は前年比+4.7%と、公表されています。ここ数年の二桁近い伸びと比べるとペースは鈍化しているものの、依然として全国的には上昇基調を維持しています。とくにアパート(フラット)は伸びが加速し、戸建ては落ち着きつつあるという構図です。 - 売買ボリュームは堅調、2025年は再び記録更新ペース
2024年通年の不動産取引件数は約2.39万件、取引総額は約57億ユーロとされ、前年から小幅ながら増加しました。2025年1〜9月の時点で、土地登録局に提出された売買契約書は前年比+13%、取引額は約34.9億ユーロ(+約12.6%)まで拡大しており、市場の「量」はむしろ強含みです。
地域別では、取引額ベースでリマソールが約37〜44%を占める“牽引役”、次いでニコシア、パフォス、ラルナカが続きます。高価格帯(100万ユーロ超)の取引は依然としてリマソールとパフォス沿岸部に集中しています。 - 外国人需要と投資ビザが中上位価格帯を押し上げ
2024年の取引ベースで見ると、非EU(第三国)バイヤーが全体の25%超を購入したとされ、外国人需要は依然として市場の重要なドライバーです。国籍としては、英国・イスラエル・レバノン・中国などに加え、ロシア・ウクライナからの資金も一定程度残っていますが、制裁以降のロシア比率は低下し、多国籍化が進んでいます。
不動産購入による永住権(ゴールデンビザ)プログラムも継続しており、30万ユーロ以上の新築物件購入+海外からの一定以上の収入証明により、非EU投資家が比較的迅速に永住権を取得できる仕組みです。2020年に廃止された市民権(パスポート)取得スキームに代わる枠組みとして、富裕層の30〜60万ユーロ帯のアパート・ヴィラ需要を支えています。 - 賃料と利回り:都市部アパートは5〜6%台
RICS/KPMGの2025年Q3の調査では、全国平均の表面利回りは、アパート約5.4%、戸建て約3.0%、オフィス約5.6%とされています。利回り自体は1年前からほぼ横ばい〜わずかな低下に留まり、賃料の上昇と価格の伸びがバランスしている状態です。
都市別では、リマソールのアパート利回りが概ね5.5〜6%前後、ニコシアが約5%弱、パフォス・ラルナカが4%台とされ、「利回り重視ならニコシア・リマソール内陸部」「値上がり期待と短期賃貸なら海沿いリゾート」という役割分担が見られます。
オフィス
- IT・金融・バックオフィス需要が質の高いビルに集中
オフィス市場はパンデミック後のテレワーク定着で全体の面積需要は抑制されつつも、ニコシア・リマソールのAグレードビルではIT企業、金融・ファンド管理業、サービス企業の入居が継続しています。RICS指標では、2024〜2025年にかけてオフィス賃料は小幅な上昇、利回りは5%台後半で安定しており、欧州内では比較的魅力的な水準です。 - Bグレード以下はテナント付けに時間、リノベーション前提
一方で、築年数の経ったBグレードビルや郊外オフィスは、フロアを細かく分割した柔軟レイアウトや、共用部の改装・ESG対応を行わない限り、空室期間が長期化しやすい状況です。家賃は横ばい〜やや軟調で、サービスオフィス併設・フレックスオフィス化などの再ポジショニングがトレンドになっています。
リテール・商業(モール・路面店)
- 観光と内需回復でモールは堅調、路面店は二極化
大型ショッピングモールや観光地周辺の商業施設は、観光と内需の回復を背景に来客数・売上とも回復〜過去最高レベルに近い水準です。一方で、地場の小規模路面店や二等立地の小型モールは、オンライン消費や競争激化で賃料調整が続いており、空室リスクが相対的に高いです。RICSデータでは、リテール資産の利回りは約5.7%と、住宅よりやや高いものの、賃料や価格は横ばい〜小幅安のケースも見られます。 - テナント・オーナーとも「成果連動・内装支援」が一般化
新規出店では、売上連動型賃料(%レント)や内装費のオーナー負担など、インセンティブ付き契約が一般化しています。プライム立地モールではベース賃料+歩合、二等立地では短期契約・ポップアップストアで空き区画を埋める動きが多いです。
ホテル・観光関連不動産
- 観光客数は過去最高圏、収益性も高水準
観光はキプロス経済の中核セクターで、2024年の訪問者数は約400万人超と過去最高圏に達しました。2025年1〜10月の観光客数は、前年同期比で二桁増となっており、2025年も過去最高更新ペースと報じられています。観光収入も同時期で約15〜17%増とされ、ホテル・リゾートの収益性は高水準を維持しています。 - インフラ投資と水資源問題
ラルナカ・パフォス両空港の拡張・改修計画や新規路線の増便により、中長期的な観光キャパシティは拡大方向です。一方で、近年の少雨・干ばつによりダム貯水率が低下し、政府はホテルへの小規模海水淡水化プラント導入補助を打ち出しています。観光依存度の高いリゾート物件では、水資源・インフラコストが中長期の重要なリスク要因となりつつあります。
物流・工業・その他セグメント
- 港湾・空港アクセスの良いエリアで賃貸倉庫需要
物流セクターでは、リマソール港・ラルナカ港周辺、および空港アクセスの良いエリアで近代的な高天井倉庫・ライトインダストリアルへの需要があります。ただし、RICS・民間調査では、2024年に倉庫や工業系の価格・賃料は一時的にマイナスとなった後、2025年には横ばい〜小幅反発といった動きで、住宅ほどの成長性はないが安定したニッチという位置付けです。 - データセンター・再エネ関連など新しいニーズ
EU規制対応や電力事情を背景に、小規模ながらデータセンター、再生可能エネルギー関連用地への投資例も増えています。とはいえ、マーケット全体から見るとまだ限られたニッチであり、投資には個別案件の精査が必須です。
制度・規制トピック
- 外国人の購入制限と新たな規制強化の動き
現行制度では、EU市民はキプロス人と同様に物件数の制限なく購入可能です。一方、非EU市民は通常、1戸の住宅(または一定面積以下の土地)までに制限され、購入後に内務省(事実上は各地区当局)からの許可取得が必要とされています。
さらに2025年11月には、非EU個人・法人の不動産取得を「一つの住宅またはアパート、もしくは一つのオフィスに限定」し、農地や森林の取得を禁止するといった法改正案が国会に提出されました。まだ審議中ですが、可決されれば非EU投資家による複数物件取得や土地投資への制約が一段と強まる可能性があります。 - 市民権プログラムは終了、ゴールデンビザは継続
かつての「ゴールデンパスポート」市民権取得スキームは、2020年に廃止されました。その後は、不動産投資を通じた「ゴールデンビザ(永住権)」プログラムが主流となっており、2024年までに累計約7,000件超の永住権が発給されたとされています。規制当局は近年、デューデリジェンスや実際の居住実態の確認を強化しており、投資家にとってはコンプライアンス対応コストも考慮すべきポイントです。
投資家への示唆(セグメント別)
- 住宅(自用・長期賃貸)
- 価格は全国平均で年+4〜6%程度の緩やかな上昇ペースに落ち着きつつあり、「バブル的な急騰は一服、ただし下がりにくい」局面です。
- 地元需要と外国人需要の両方を取り込みやすいのは、ニコシア・ラルナカの中価格帯アパートで、ローン利用もしやすく、賃貸需要も安定しています。
- 海沿いリゾートのヴィラ・高級アパートは、価格水準がすでに高く、入退出コスト・維持費・短期賃貸規制を加味したうえでの選別が必要です。
- 短期賃貸・リゾート物件
- パフォス、アイアナパ、プロタラス、ラルナカ沿岸エリアは、季節性は強いものの高い日別単価と稼働率が期待できるエリアです。
- 一方で、Airbnb等の短期賃貸には登録・ライセンス取得が必要であり、規制強化や観光税の導入が収益性に影響し得る点に留意が必要です。
- オフィス・リテール・物流
- コアなオフィス・物流施設は、5〜6%程度の利回り+ユーロ建て安定収入という観点から、分散投資先としての魅力があります。
- リテールは、モール内プライム区画と二等立地路面店で収益性の差が大きく、テナントリスクの見極めがとくに重要です。
- 小規模海外投資家にとっては、現地での運営・リーシング実務が必要なため、信頼できるパートナーやREIT・ファンド経由での参入が現実的です。
リスク・留意点
- 政策・規制リスク
非EU投資家向けの購入制限強化や、ゴールデンビザの条件見直しなど、外国資本に対する規制環境が変化しつつある点は最大の注意ポイントです。将来的に「複数物件の保有が認められない」「農地取得が不可」といった制限が実務に影響する可能性があります。 - 地政学・マクロリスク
東地中海地域の地政学リスク、EU全体の成長減速、金利の不確実性などは、観光需要や投資マインドに波及し得ます。特に、観光依存度の高い沿岸リゾートは、外部ショックの影響を受けやすいです。 - 気候変動・水資源
干ばつの頻発とダム貯水率の低下により、水道料金やインフラ負担の増加が中長期リスクとして意識されています。ホテル・プール付きヴィラ・ゴルフリゾートなど、水消費の多い資産では、自治体の規制や追加投資の可能性を事前に確認する必要があります。 - 施工・タイトルリスク
キプロスでは過去に建築許可・タイトル不備、デベロッパー破綻が問題となった経緯があり、現在も個別案件ではリスクが残ります。物件選定時には、 - タイトル(所有権)の有無
- 抵当権・差押えの有無
- 建築確認・用途変更の状況
を、独立した弁護士を通じて必ずチェックすることが重要です。
まとめ
2025年12月時点のキプロス不動産市場は、
- マクロ環境は安定成長+低インフレ+緩やかな金利水準、
- 住宅価格は「上昇ペース鈍化だが、なお右肩上がり」、
- 取引ボリュームは2025年も二桁増と活発、
- 賃貸利回りはアパートで概ね5〜6%台と、欧州内で見ても競争力のある水準、
というのが全体像です。
一方で、非EU投資家への規制強化の動き、水資源・気候リスク、タイトル・建築関連の個別リスクなど、慎重なデューデリジェンスが求められるポイントも多く存在します。
総じて、キプロス不動産は「急騰を狙う投機市場」というより、
観光・居住ニーズに根ざした中長期のインカム+緩やかな値上がりを狙うマーケットにシフトしつつある、と整理できる状態です。
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トルコ不動産
トルコ不動産最新動向/2025年12月時点
マクロ環境・金利
- インフレと金融政策の方向性
2024年に一時年率70%台まで達したインフレ率は、2025年夏以降は30%台前半まで低下し、ディスインフレの局面に入っているものの、依然として高水準です。
中央銀行(CBRT)はインフレ抑制を最優先としつつも、景気とのバランスを取りながら利下げに転じており、2025年10月に政策金利を40.5%→39.5%に引き下げました。 2026年末のインフレ目標は16%とし、「時間をかけたディスインフレ」を掲げています。 - 通貨リラと投資環境
リラは2025年も対ドルで40リラ前後の水準で推移しており、依然として過去数年の大幅な下落の影響が残っています。 その一方で、名目金利の高さとインフレ鈍化により、短期的には「リラ建て資産でインフレヘッジを狙う投資家」にとって一定の妙味がある環境です。 - 景気の足取り
2025年第2四半期の実質GDPは前年同期比約4.8%増と、まだプラス成長を維持しており、建設・商業不動産・観光が依然として重要な牽引役です。 ただし、政治リスクや観光客数の伸び悩みが投資マインドの重石になっています。
住宅(分譲・賃貸)
- 価格動向:名目上昇・実質調整
中央銀行の住宅価格指数(RPPI)は、2025年7月時点で前年比+32.8%と引き続き高い伸びを示していますが、インフレを控除すると実質ベースでは約0.5%のマイナスとされています。
つまり「名目価格は上がっているのに、インフレ率ほどは上がっていない=実質的には調整局面」という構図です。過去2〜3年の急騰の反動で、一気に割高感が修正されている最中といえます。 - 販売ボリューム:高水準で推移
・2025年5月の住宅販売件数は13万0,025戸(前年同月比+17.6%)と好調。
・2025年1〜9月累計では112万戸超(前年同期比+19.2%)と高水準で、ほぼ2022年並みの活況に戻っています。
・2025年10月も新築・中古合計で過去2025年のピーク水準に達しており、新築はやや減速する一方、中古の伸びが支えている状況です。
主要3都市では、イスタンブールが販売件数トップ、次いでアンカラ・イズミルという構図が続いています。 - 賃貸市場:急激な賃料上昇と規制強化
・家賃の実勢は、CPIの「住居・家賃」項目で2025年8月時点+74.3%/年と依然高い伸びですが、2024年夏の+120%超からは鈍化しています。
・2025年の家賃改定上限は、原則として「直近12か月CPI平均」を上限とする方式に移行しつつあり、2025年5月時点では上限が約+48.7%、10月時点では約+38.4%と発表されています。 それでも実勢家賃は過去数年で500%超の上昇となっており、イスタンブールの中間層家庭で「2018年に1,300リラだった家賃が現在1万5,000リラ」という事例も報告されています。 住宅ローン金利が依然として高く、「借家暮らしのまま家賃負担だけが急増」という世帯が増加し、自宅所有率は低下傾向です。 - 実務感:自宅取得・投資のスタンス
- 現地居住者:ローン金利負担の重さから、頭金を厚く入れてローン期間を短くする慎重な借入が主流です。
- 投資家:インフレヘッジを目的とした現金一括〜短期レバレッジでの取得が多く、「実質価格調整が一巡しつつある中古物件」への関心が強まっています。
- 地震リスクを意識して、新耐震基準に沿った築浅・構造評価済み物件のプレミアムが拡大している点も重要です。
外国人投資・市民権プログラム
- 市民権(CBI)と不動産投資
トルコは依然として40万ドル以上の不動産取得で市民権取得が可能な国であり、2022年に25万ドル→40万ドルへ引き上げられて以降もこの条件が維持されています。
CBI向けマーケティング資料では、主要都市の不動産価格が年15〜25%上昇していると訴求されており、実際に外国人投資家の需要は依然として強いとされています。 - 実務のトレンド
- イスタンブール・アンタルヤ・メルスィンなど、地中海沿岸リゾート+大都市の新築レジデンスが主な投資対象。
- CBI目的の投資家は「数年保有→値上がり+為替差を見つつ売却」という戦略が多く、短期売買が価格ボラティリティを高める要因にもなっています。
- 政府はCBIを通じた資本流入を維持しつつも、不正な評価書や名義貸しなどへの規制を徐々に強化しています。
オフィス
- イスタンブールのAグレードオフィス:賃料急騰+空室率は1桁台
2025年第2四半期時点で、イスタンブールのオフィス供給量は約718万㎡、空室率は約9.9%と、ほぼ横ばいながら低位で推移しています。
一方で、金融・IT企業を中心にグレードAオフィスの賃料が前年から大きく上昇しており、賃料水準の上昇が新規開発のインセンティブとなっています。 - 投資・取引動向
2025年前半には、イスタンブール・ファイナンスセンターの大型オフィスビル(約3.5万㎡)がREIT間で取引されるなど、コアオフィスへの機関投資が続いています。
ただしトランザクションボリュームは前年同期比で約15%減少しており、金利の高さと政治リスクを意識した選別投資の色合いが強まっています。
リテール・商業
- 商業不動産全体の拡大余地
トルコの商業不動産市場規模は2024年時点で約927億ドルと推計され、2033年には約1,720億ドル規模まで拡大する予測が出ています(年平均成長率6.8%)。
都市化の進展と消費支出の増加を背景に、大都市の旗艦モールやハイストリート立地のリテールは賃料水準を維持、地方都市や二等立地ではテナント誘致のために歩合家賃や内装支援など条件調整が行われています。 - 観光鈍化の影響
2024年は6,227万人の外国人観光客(前年比+9.8%)と過去最高でしたが、2025年はコスト高や「物価が高い国」というイメージから、1〜7月の訪問者数が前年比▲2.1%、7月単月では▲5%と減少しています。
そのため、観光客依存度の高いリゾート地の路面店・モールでは、賃料の据え置きや短期契約へのシフトが見られます。
ホテル・観光関連不動産
- 稼働は「横ばい〜やや弱含み」
2025年春時点では、ホテルの平均稼働率は4割強と前年より改善していましたが、夏場以降は観光客数の減少で伸び悩んでいます。
大都市のビジネスホテルは国内出張・イベント需要で比較的安定している一方、地中海・エーゲ海沿岸のリゾートホテルは価格競争に直面し、スペイン・ギリシャなどとの競争が激化しています。 - 投資の視点
- シティホテル:インフレに合わせたADR(客室単価)の引き上げは進んでいるものの、稼働を維持するために法人・団体向けの割引が増えており、実質利回りは読みづらい状況です。
- リゾートホテル:好況時のキャッシュフローは魅力的ですが、足元は観光指標の悪化でボラティリティが高く、慎重なストレステストが必須です。
物流・工業
- EC成長と倉庫需要
トルコの倉庫サービス市場は約61億ドル規模とされ、ECの拡大・都市化・コールドチェーン需要の増加が成長ドライバーになっています。
特にイスタンブールは、人口集中+EC需要+用地制約を抱えるロジスティクス拠点であり、ハイキャパシティ倉庫・自動化センターのニーズが高まっています。 - 実務トピック
2025年には、中国系ECプラットフォーム「Temu」がトルコロジ企業Horoz Lojistikと提携し、国内配送網の強化を進めています。 こうした案件は、大都市近郊の現代型倉庫の稼働・賃料押し上げ要因となっており、インフレ環境下でも安定したキャッシュフローを求める投資家に注目されています。
REIT(GYO)・資本市場
- GYO市場の位置づけ
トルコでは、REITに相当する「GYO(Gayrimenkul Yatırım Ortaklığı)」が多数上場しており、大型複合開発・ショッピングモール・オフィス・物流パークなどの主要アセットを保有しています。
GYOは法人税の一部免除など税制上の優遇を受ける一方、収益の大部分を配当に回すことが求められ、高インフレ下のインカムゲイン商品として個人投資家からの人気も高いです。 - 注意点
ただし、GYOの収入は多くがトルコリラ建て賃料であり、外貨ベースで見ると為替変動リスクが大きくなります。 高金利局面では住宅販売が鈍る一方、オフィス・物流などの賃料が底堅く、ポートフォリオの用途分散・負債の通貨構成が銘柄選びのポイントになります。
制度・規制・地震リスク
- 賃貸規制とテナント保護
- 2025年以降、住宅賃料の上限は「12か月平均CPI」を基準とするルールへと移行し、短期的なインフレ急上昇をダイレクトに転嫁しにくい仕組みになりつつあります。
- とはいえ、オーナーが法的抜け道を使ってテナントの退去を迫るケースも報告されており、実務では契約書・更新条件の確認が必須です。
- 地震と都市再開発
2023年の大地震以降、トルコ政府は耐震住宅の供給拡大と「都市変革(Urban Transformation)」プログラムを推進しており、イスタンブールでは「Half on Us」キャンペーンで20万戸の建替えを目標に、すでに10,000棟の危険建物が解体されたとされています。
2025年4月にはイスタンブールでM6.2の地震が発生し、1.5百万棟のうち約3分の1が緊急に改築・建替えを要すると政府が認めており、耐震性の低いストックの淘汰が不動産市場の大きなテーマになっています。
投資家への示唆(セグメント別)
- 住宅(自宅用・投資用)
- インフレ鈍化+実質価格調整により、「インフレピーク後の調整局面で、築浅・耐震性の高い物件を選別買い」というスタンスが有力です。
- 賃貸投資は高い名目利回りが見込める一方、賃料上限規制・テナント保護・法務コストを織り込む必要があります。
- CBI目的の投資では、40万ドルの条件を満たしつつ将来の出口戦略(再販売需要・為替リスク)を十分検討することが重要です。
- オフィス
- イスタンブールのAグレードオフィスは、空室率1桁台+賃料上昇+新規供給の限定という三拍子が揃っており、中長期で安定したインカムを狙えるセグメントです。
- 逆に、Bグレード・老朽オフィスは耐震性・設備更新コストを踏まえると、リポジショニング前提の再生案件として見る必要があります。
- リテール・ホテル
- 内需中心の都市型ショッピングモールは、インフレ下でも売上連動賃料により名目キャッシュフローが伸びる余地があります。
- 観光依存度の高いリゾートホテル・リテールは、足元で観光客数が減少しており、稼働と単価の変動ストレスをかけたうえで投資判断を行うべき局面です。
- 物流・工業・REIT
- EC向けロジスティクス・冷蔵倉庫などは構造的な需要増が見込まれ、中長期では最も安定的なセグメントの一つと考えられます。
- GYO経由で投資する場合は、ポートフォリオの用途比率(物流・オフィス・リテール)と負債通貨、配当方針を確認し、リラ下落シナリオでも耐えられるかをチェックする必要があります。
リスク・留意点
- 高インフレ・高金利リスク:インフレ率はピークから低下しているものの、依然30%台と高く、金利・為替の急変でキャッシュフロー計画が狂うリスクがあります。
- 政治・制度リスク:2025年の抗議デモや短期的な市場混乱が示した通り、政治イベントが為替・株式・金利に大きな影響を与える可能性があります。
- 地震リスク:イスタンブールをはじめ、多くの都市で耐震性に問題を抱える既存建物が大量に残存しており、建替えや補強の進捗状況を物件ごとに確認することが必須です。
まとめ
2025年12月時点のトルコ不動産市場は、
- インフレ鈍化と依然高い金利,
- 住宅価格の実質調整と賃料の高騰,
- Aグレードオフィス・物流の堅調さ,
- 観光指標の鈍化,
- 地震リスクを背景とした都市再開発の加速
という複数のテーマが絡み合う局面にあります。
住宅は「インフレ相場の熱狂から、立地・耐震・開発者の信用力で厳しく選別されるフェーズ」に入り、オフィス・物流は堅調、観光・ホテルはボラティリティの高い環境です。外国人投資家にとっては、市民権プログラムや高い名目利回りの魅力がある一方、為替・政治・地震という3つのリスクをどうマネジメントするかが成否を分けるポイントになっています。
