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2025年11月21日、日本の外務副大臣・大西洋平氏は、在日モロッコ大使モハメッド・ラシャド・ブフラル氏と東京で会談しました。
日本側が強調したポイントは次の通りです。
- 日本はモロッコとの「パートナーシップ強化」を重視している
- モロッコが共同開催する「2030年FIFAワールドカップ」を、経済関係を強める大きなチャンスと見ている
- 皇室とモロッコ王室の友好関係も含め、二国間関係は「強固」であると評価
一方、ブフラル大使からは、次のような説明がありました。
- モロッコ政府は投資・ビジネスの促進に力を入れている
- 文化・スポーツ分野で日本と協力を深めたい
- 日本企業の進出や協業を歓迎している
さらに、2026年に日本とモロッコの外交関係樹立70周年を迎えるにあたり、両国は
- 要人(VIP)の相互訪問の活性化
- 経済・文化など幅広い分野での協力継続
を確認しています。
表向きは「外交ニュース」ですが、中身は「投資・ビジネス、とくにインフラやスポーツ関連産業を一緒に伸ばしていこう」というメッセージがかなり強い内容です。
日本とモロッコ経済関係の背景
今回の会談は「単発の良い話」ではなく、ここ数年積み上げてきた流れの延長線上にあります。
代表的な動きは以下のようなものです。
- 2020年前後:日本とモロッコの間で「投資保護・促進協定」が採択
- 日本企業の対モロッコ投資を保護し、投資環境を整える枠組みです
- 2024年12月:日本の経産大臣・斎藤健氏(※現職は変動し得ます)が、モロッコの投資担当相カリム・ジダン氏と「日本企業の投資と貿易を支援する覚書(MOC)」に署名
- 日本企業の対モロッコ投資・貿易活動を、両国の担当省庁がサポートする内容です
- 2025年:日本・韓国向けの「モロッコ投資プロモーション・ロードショー」など、モロッコ側からのアピールも活発化
これらを踏まえると、今回のニュースは
- 「外交70周年を前に、日本企業にもっと来てほしい」モロッコ
- 「アフリカ・中東の安定した投資先としてモロッコを重視したい」日本
という双方の思惑が、ワールドカップという”大型イベント”をきっかけにさらに噛み合ってきた段階と言えます。
日本人投資家にとっては、「モロッコは日本政府も正式に関係を深めたいと考えている国」と再確認できる材料です。
2030年W杯とモロッコのインフラ・不動産投資
2030年のFIFAワールドカップは、モロッコ・スペイン・ポルトガルの3カ国共催となることが決まっています。
この決定を受け、モロッコではインフラ・不動産分野に大規模な投資が進行中です。
- ベン・スリマーヌ(カサブランカ近郊)に約11万5,000人収容の新スタジアム建設計画
- 投資額は約50億ディルハム(約5億ドル規模)の見込み
- ラバト、タンジェ、アガディール、マラケシュ、フェズなど複数都市の既存スタジアムの拡張・改修
- 空港キャパシティを2030年までに「3,800万人→8,000万人」へ倍増させる計画
- カサブランカ、マラケシュ、アガディールなど観光都市の空港拡張が含まれる
- 高速鉄道(TGV)のマラケシュ・アガディール方面への延伸計画
- アフリカ開発銀行(AfDB)からの大型融資(最大10億ユーロ規模)で、港湾・鉄道・空港などインフラ整備を後押し
これらは、海外不動産投資家にとっては次のような需要につながりやすい分野です。
- スタジアム周辺のホテル・サービスアパートメント
- 観光都市(マラケシュ、アガディール、タンジェ等)のリゾート開発・別荘・バケーションレンタル
- 空港・鉄道の要所における商業施設、ロジスティクス倉庫
- 中長期的な都市再開発エリアの住宅・オフィス・複合用途不動産
なお、W杯関連だからといって短期のブームだけを狙うとリスクが高くなります。
- W杯需要は「開催前後数年」がピーク
- その後は「観光地として定着できるか」「インフラ整備が日常的な需要を生むか」がポイント
モロッコはすでに観光立国としての地位が高く、アフリカと欧州をつなぐ物流拠点としても注目されています。W杯は、既存のポテンシャルを一段押し上げるイベントと見るのが現実的です。
ニュース内のキーワード解説
今回の報道で、日本人投資家にとって押さえておきたい用語を整理します。
- 外務副大臣(Parliamentary Vice-Minister for Foreign Affairs)
- 外務大臣を補佐するポジションで、実務レベルの外交交渉や各国大使との面会を担当します。
- 「副大臣との会談」は、形式的な挨拶に留まらず、具体的な実務協力の入口となることが多いレベル感です。
- 表敬訪問(courtesy call)
- 友好関係の確認や情報交換を目的とした公式訪問です。
- ただの「挨拶」だけでなく、今回のように投資やビジネスの話題が織り込まれるケースも多いです。
- 投資促進・投資保護協定
- 外国投資家の資産を守るための国際的な約束事です。
- 例:不当な収用をしない、公平な扱いをする、利益送金を制限しない等のルールを定めることで「安心して投資しやすい国」にする目的があります。
- VIP相互訪問の活性化
- 首脳・閣僚・皇室・王室などの要人が相互に訪問することです。
- 実務的には、経済ミッションや企業経営者の訪問団がくっついて来ることも多く、「投資プロジェクトの種」がまとめて動きやすくなります。
こうしたキーワードが並んでいるニュースは、単なる「友好アピール」ではなく、「投資・ビジネス案件を増やしていこう」という実務的な流れの一部と見てよいです。
ニュースの見解
このニュースを、日本人の海外不動産投資家の立場から整理すると、次のようなポイントが見えてきます。
- 日本政府がモロッコを「重要な経済パートナー」と位置づけている
- 投資保護協定や経産省レベルのMOCなど、制度面の下地がすでに整備されています。
- これは「日本人投資家にとってのカントリーリスクを、一定程度抑えてくれる材料」として評価できます。
- 2030年W杯に向けたインフラ・観光投資が加速している
- スタジアム、新空港、高速鉄道、ホテル増設など、大型インフラ案件は不動産需要と表裏一体です。
- 特に、観光・リゾート・短期賃貸・商業施設は、W杯後も観光需要や物流拠点としての機能が続くかどうかを見極めることで、中長期の投資ストーリーを描きやすくなります。
- 「日本×モロッコ」の組み合わせならではの強み
- 自動車・製造・再エネなど、日本企業が得意とする産業と、モロッコの地理的優位性(欧州・アフリカのゲートウェイ)が噛み合いやすい状況にあります。
- 産業集積が進めば、周辺の住宅・商業・倉庫などの不動産需要も増えやすく、エリア選定によっては「産業+不動産」のセットで狙うことも可能です。
- それでも慎重に見るべきリスク
- 通貨リスク(ディルハムと円の為替)、法制度・登記システムの違い、現地パートナーの信頼性など、日本国内とはまったく違うリスクがあります。
- W杯関連で「過度な期待」だけが先行しているプロジェクトも出てくる可能性があるため、
- ロケーション(既存の観光・産業需要があるか)
- 現地の賃貸実勢、売買実勢
- 開発主体・運営者の実績
を一つずつ確認することが重要です。
- 日本人投資家への実務的な示唆
- 日本政府・モロッコ政府が「日本企業に来てほしい」と明確に発信している国であり、
- 2030年W杯を軸にインフラと不動産需要が中長期で増えやすい環境になりつつある、
という点で、モロッコは「アフリカの中でも比較的入りやすい投資先候補の一つ」と考えられます。
まとめると、今回のニュースは、
- 「日本政府お墨付きで、日本とモロッコの経済連携が一段と深まる」
- 「2030年W杯に向けて、不動産需要が生まれやすい土壌が整ってきた」
という二つのサインを同時に含んでいます。
日本人投資家としては、「すぐに物件を買う」段階ではなく、
- 有望とされる都市(カサブランカ、ラバト、マラケシュ、タンジェ、アガディールなど)の
- インフラ計画
- 観光・産業トレンド
- 日本企業の進出状況
をウォッチしながら、「どの都市・どの用途の不動産が長期的に強いか」を見極めていくフェーズに入っている、と捉えるとよいと思います。
