海外の物件を買って民泊に回せるかどうかは、物件の造りや運用会社の力量より先に、その都市が1年に何泊まで許しているかで決まります。日本の住宅宿泊事業法は年180日、ロンドンは暦年90泊、パリは2025年1月1日から年90日、シンガポールに至っては連続3か月未満の貸し出しが認められていません。利回りの試算は、この上限を入れてからでないと意味を持ちません。各国の法令と公的機関の案内で、上限と手続きを並べます。

先に要点

  • 日本の住宅宿泊事業法は、人を宿泊させる日数が年180日を超えないものを住宅宿泊事業と定義している(観光庁 民泊制度ポータルサイト)。
  • ロンドンは、同じ暦年の宿泊数の合計が90泊を超えないことを条件に、用途変更の許可を不要としている(2015年規制緩和法第44条)。
  • パリは2025年1月1日から、主たる住居の観光用賃貸を年90日に制限した。それ以前は年120日だった(パリ市)。
  • シンガポールの民間住宅は、全入居者が連続3か月以上滞在することが条件で、日単位・週単位の貸し出しは認められていない(都市再開発庁)。
  • 日本では家主不在型の場合、衛生確保措置や苦情対応などを住宅宿泊管理業者へ委託することが義務づけられている(観光庁)。
  • 上限を超える運用には、都市ごとに別の許可が要る。ロンドンは地方自治体の planning permission がその例。

可否を決めるのは物件ではなく、その都市の規則

海外物件の民泊運用でつまずくのは、たいてい「買ってから規則を調べた」ときです。販売資料の想定利回りは満室稼働を前提にしていることが多く、法令上の上限日数が反映されていない場合があります。上限が年90日なら、理屈のうえでも稼働率は25%が天井です。

ここで見るべきなのは国の法律だけではありません。パリのように、国の原則とは別に市の議決で上限を下げている例があります。国 → 州・市 → 建物の管理規約の順に、3段階で確かめる必要があります。管理規約で短期賃貸を禁じている集合住宅は、法令上は可能でも運用できません。

日本:住宅宿泊事業法は年180日。届出は都道府県知事へ

比較の物差しとして、まず日本の制度を押さえます。観光庁の民泊制度ポータルサイトは、住宅宿泊事業を「旅館業法第3条の2第1項に規定する営業者以外の者が宿泊料を受けて届出住宅に人を宿泊させる事業であって、人を宿泊させる日数が180日を超えないもの」と説明しています。観光庁は、民泊新法が「住宅宿泊事業者」「住宅宿泊管理業者」「住宅宿泊仲介業者」の3者を位置づけ、それぞれに役割や義務を定めているとしています。

観光庁の民泊制度ポータルサイトの画面。住宅宿泊事業法(民泊新法)とは?の見出しの下に、民泊新法の対象は3種類の事業者として住宅宿泊事業者・住宅宿泊管理業者・住宅宿泊仲介業者が条番号つきで並んでいる
観光庁 民泊制度ポータルサイト。3種類の事業者と、それぞれの根拠条文が示されている(2026年10月21日に表示)。
住宅宿泊事業法が定める3者(観光庁 民泊制度ポータルサイトより)
呼び方 根拠 内容
住宅宿泊事業者 住宅宿泊事業法第3条第1項 届出をして住宅宿泊事業を営む者。届出先は都道府県知事、保健所設置市の長、特別区の長
住宅宿泊管理業者 住宅宿泊事業法第22条第1項 登録を受けて住宅宿泊管理業を営む者。家主不在型では委託が義務づけられる
住宅宿泊仲介業者 住宅宿泊事業法第46条第1項 登録を受けて住宅宿泊仲介業を営む者。予約サイトなどがこれに当たる

家主不在型についてはさらに踏み込んでいます。観光庁は、住宅宿泊事業者に対し、衛生確保措置、宿泊者に対する騒音防止のための説明、近隣からの苦情への対応、宿泊者名簿の作成・備付けを住宅宿泊管理業者に委託することを義務づけていると書いています。海外物件はほぼすべて家主不在型になるので、日本の感覚で言えば「管理会社を必ず挟む形が標準」だと考えると理解しやすくなります。

ロンドン:暦年90泊を超えると用途変更の許可が要る

ロンドンの90泊という数字は、条文に直接書かれています。2015年規制緩和法(Deregulation Act 2015)第44条は、1973年グレーター・ロンドン・カウンシル(一般権限)法を改正し、第25A条を加えました。

英国legislation.gov.ukの2015年規制緩和法第44条の条文画面。第25A条として、同じ暦年の一時的宿泊利用の夜数の合計が90を超えないことと、カウンシルタックスの納税義務者であることの2条件が並んでいる
legislation.gov.uk に掲載された2015年規制緩和法第44条。90泊とカウンシルタックスの2条件が書かれている(2026年10月21日に表示)。

条文は「グレーター・ロンドンの住居用建物を一時的宿泊施設として使うことは、2つの条件が満たされる場合には用途の実質的変更に当たらない」と定めます。その第1の条件が、同じ暦年における一時的宿泊としての利用夜数の合計が90を超えないことです。第2の条件は、宿泊を提供した者が1992年地方財政法第1編に基づくカウンシルタックスの納税義務を負っていることです。

ウェストミンスター区は、この仕組みを区民向けに「許可なしで年90泊まで」と案内し、90泊の暦年上限の違反が通報された物件を調査すると書いています。英国の条文は、90泊を超えた利用を禁じているのではなく、超えた場合に用途変更として地方自治体の planning permission を要求する構造になっています。

90泊は「1人あたり」ではなく「物件あたりの合計」。

条文は、当該の利用夜数と、同じ暦年におけるそれ以前の利用夜数の合計で数えると書いています。短い滞在を積み上げても合算されるため、1泊の予約を90回受ければそこで上限に達します。

パリ:2025年1月1日から年90日。フランスの原則は120日

フランスは国の原則として、主たる住居を観光用家具付き住宅として貸せるのは年120日までと定めています。そのうえで、市町村は議決によって下限90日まで引き下げられます。パリ市は2025年1月1日から、主たる住居の観光用賃貸を年90日に制限しました。それ以前の上限は120日でした。

フランスの制度で見落としやすいのが、対象が「主たる住居」だという点です。経済・財務省の案内は、主たる住居を年8か月以上は本人などが住んでいる住宅と説明しています。日本から投資目的で買った住戸は主たる住居に当たらないため、この120日・90日の枠組みとは別の扱いになり、用途の変更や市町村の許可が問題になります。

フランスとパリの上限日数(経済・財務省およびパリ市の案内より)
区分 上限 補足
フランスの原則 年120日 主たる住居を観光用家具付き住宅として貸す場合
市町村が下げられる下限 年90日 議決によって原則より厳しくできる
パリ市(2025年1月1日から) 年90日 それ以前は年120日
届出 市町村への申告が必要 受理証に記載された番号を、貸し出しの広告すべてに表示する

シンガポール:連続3か月未満では貸せない

上限日数ではなく、下限で止めている国もあります。シンガポール都市再開発庁(URA)の賃貸に関する案内は、民間住宅について「すべての入居者は連続3か月の最低滞在期間を満たさなければならない」と書き、続けて「日単位や週単位など、短期宿泊施設として物件を貸し出すことは認められていない」と明記しています。

シンガポール都市再開発庁の賃貸に関する案内の画面。Minimum stay durationの見出しの下に、全入居者が連続3か月の最低滞在期間を満たすこと、日単位や週単位の短期宿泊としての貸し出しは認められないことが書かれている
シンガポール都市再開発庁の案内。最終更新は2026年6月15日と表示されている(2026年10月21日に表示)。

この書きぶりは、日数の上限を設ける日本・英国・フランスとは発想が逆です。シンガポールでは「何泊まで」ではなく「3か月未満では貸せない」という形で短期宿泊が封じられているため、民泊運用という選択肢そのものが成り立ちません。コンドミニアムを買って賃貸に回す場合も、契約期間を3か月以上で組む必要があります。

4つの制度を並べて比べる

同じ「民泊ができるか」という問いでも、制度の作りが違うため答えの形も変わります。

主要4か所の短期宿泊の扱い(各国の法令・公的機関の案内より)
場所 制限の形 数値 超えたとき
日本 年間の提供日数の上限 180日 旅館業法の営業許可など別の枠組みへ
ロンドン 暦年の宿泊数の上限 90泊 地方自治体の planning permission が必要
パリ 年間の賃貸日数の上限 90日 主たる住居としての枠を外れる
シンガポール 最低滞在期間の下限 連続3か月以上 短期宿泊としての貸し出しは不可

表の右端の列が実務では効きます。ロンドンは手続きを踏めば超えられる制度、シンガポールは手続きで超えられない制度です。購入前に見るべきなのは上限の数字そのものより、この「超える道があるかどうか」になります。

買う前に確かめる4つのこと

販売会社の説明だけで判断せず、自分で確かめられる形にしておきます。

購入前の確認手順

手順1

国の法令で短期宿泊に上限や下限があるかを、政府機関のページで確かめる。日本なら観光庁、英国なら legislation.gov.uk のように、法令そのものを公開している場所を見る。

手順2

市・区の規則が国より厳しくないかを確かめる。パリのように、国の原則120日に対して市が90日へ下げている例がある。

手順3

建物の管理規約で短期賃貸が禁じられていないかを確かめる。法令上は可能でも、規約で止まっていれば運用できない。

手順4

上限日数を入れて利回りを引き直す。年90日なら稼働率の天井は約25%になる。満室前提の想定利回りはそのまま使わない。

費用はどこで発生するか

民泊運用は賃貸より手間が多く、その分だけ費用の項目が増えます。各項目の水準は国と物件で変わるため、ここでは「何に対して払うのか」を整理します。

民泊運用で発生する費用の種類
項目 何に対して払うか
運用会社の手数料 集客、予約管理、チェックイン対応、清掃手配。売上に対する割合で決める契約が多い
清掃費 退去のたびに発生する。回転が速いほど増える
家具・家電の初期費用 短期宿泊は家具付きが前提。賃貸より設備の負担が大きい
共益費・管理費 建物の共用部分の維持。稼働の有無にかかわらず毎月かかる
保有にかかる税 現地の固定資産税に相当するもの。国によって名称と計算方法が違う
所得にかかる税 現地での課税と、日本での課税。二重課税の調整は外国税額控除の問題になる
許可の取得費用 上限を超える運用をする場合の申請費用。ロンドンの planning permission などが該当する

税の扱いは国ごとに大きく違います。日本での申告と現地での申告の関係は外国税額控除の記事で、売却まで含めた流れは海外不動産を売ったときの税金の記事で扱っています。

よくある質問

年90日の上限がある都市で、1年中貸し出すことはできますか

ロンドンの場合、条文は90泊を超える利用を用途の実質的変更として扱い、地方自治体の planning permission を求めます。許可が得られれば上限を超えた運用はできますが、許可なしで超えることはできません。パリの90日は主たる住居についての枠なので、投資用物件は別の扱いになります。

上限は1人の宿泊者ごとに数えるのですか

ロンドンについては、条文が「当該の利用夜数と、同じ暦年におけるそれ以前の利用夜数の合計」と書いています。宿泊者ごとではなく、物件ごとの年間合計です。

シンガポールのコンドミニアムを週末だけ貸すことはできますか

都市再開発庁は、日単位や週単位での短期宿泊としての貸し出しを認めていないと明記しています。全入居者が連続3か月以上滞在することが条件なので、週末だけの貸し出しは条件を満たしません。

日本の180日は暦年で数えるのですか

住宅宿泊事業法の日数は、毎年4月1日正午から翌年4月1日正午までの期間で数えます。ロンドンの暦年(1月1日から12月31日)とは起点が違うため、両方の物件を持つ場合は混同しないようにします。

この記事で分からないことは何ですか

各国の罰則の金額、許可申請にかかる期間と費用、現地での税率は、今回参照した公的機関のページには載っていないか、確認できませんでした。実際の利回りや稼働率も、物件ごとに違うためここでは扱っていません。

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