海外不動産に固定資産税はかかるのか
海外不動産を購入した場合、その国や地域の法令に基づいて固定資産税が課されます。日本国内にある不動産に対しては、市区町村が課税する固定資産税や都市計画税がありますが、海外にある不動産に対しては日本側で固定資産税は発生しません。代わりに、その不動産が所在する国や自治体の制度に従って課税される仕組みです。
例えばアメリカでは、州や自治体ごとに不動産評価額を基準に固定資産税が算出され、住民や所有者に納付が求められます。シンガポールでは「年間評価額(Annual Value)」を基に課税され、フィリピンでは「Real Property Tax」と呼ばれる制度があり、自治体が評価額と税率を決めています。このように各国ごとに呼び方や評価方法が異なりますが、基本的に「不動産を保有している限り現地で課税される」という点は共通しています。
なお、日本に居住している人が海外で不動産を所有する場合、その不動産から得られる収入や現地で支払った固定資産税は、日本での確定申告に反映する必要があります。投資用不動産であれば、現地で納付した固定資産税を経費として計上できるケースもあります。つまり、課税は「日本ではなく現地」で行われますが、税務上は日本でも申告義務が発生する点に注意が必要です。

固定資産税の計算方法と評価基準
海外不動産の固定資産税は、国や地域ごとに制度が異なるものの、多くの場合は「不動産の評価額」に基づいて課税されます。投資家にとっては税額の算出方法を理解しておくことが、将来のキャッシュフロー予測に直結します。
評価額を基準にした課税方式
一般的には、不動産の市場価格や公的機関が定める評価額を基準に税率を掛けて算出します。アメリカやヨーロッパ諸国では市場価格に近い評価額を採用することが多く、評価額は定期的に見直されます。一方で、新興国では実際の取引価格より低めに設定されるケースもあり、投資利回りにプラスに働く場合があります。
面積や用途別の算定方式
一部の国では、評価額ではなく不動産の面積や用途に基づいて課税されます。たとえば、商業用地と住宅用地で税率を分ける、あるいは平米単価を基準にするなどの方式です。この場合、立地や建物の種類によって大きく税負担が変わるため、購入前にシミュレーションを行うことが欠かせません。
都市部と地方での課税率の違い
同じ国の中でも、都市部と地方で固定資産税率が異なるケースが少なくありません。大都市圏は財源確保のため税率が高く設定される傾向にあり、地方都市や農村部は低い税率に抑えられる場合があります。投資対象エリアによって長期的な維持コストが変動するため、立地と税率のバランスを比較することが重要です。
評価基準の更新タイミング
評価額は数年ごとに見直されるのが一般的で、更新のたびに税額が変動します。経済成長が著しい国では不動産価格の上昇に連動して評価額も上がるため、投資当初は低税率でも将来的に負担が増えるリスクがあります。逆に、市場低迷時には評価額が下がり税額も軽減される場合があります。
投資判断への影響
固定資産税の計算方法を理解することで、購入後のランニングコストを正確に見積もることができます。評価基準の仕組みを把握していないと、予想外の増税や費用増加に直面する可能性があるため、購入前に現地専門家や税理士に確認することが推奨されます。

国別に見る海外不動産の固定資産税の目安
海外不動産の固定資産税は、国や地域ごとに課税方式や税率が大きく異なります。投資前に各国の特徴を理解しておくことは、キャッシュフロー計画や利回りの試算に不可欠です。以下では代表的な国・地域の固定資産税の目安を整理します。
アメリカ
アメリカでは不動産の市場価値に対して課税され、州や郡によって税率が異なります。一般的に0.5〜3%の範囲で、平均すると1〜1.5%程度が目安です。ニューヨーク市やカリフォルニア州の都市部は税率が比較的高めで、年間家賃収入の1か月分以上を固定資産税で支払うケースもあります。
中国
中国では全国的な固定資産税制度はまだ整備されておらず、一部都市で試験的に「不動産税」が導入されています。将来的に全国展開される可能性がありますが、現時点では多くの地域で実質的な固定資産税はありません。代わりに登記税や契税などの取得関連税が重視されています。
ドイツ
ドイツでは「不動産税(Grundsteuer)」が課され、帳簿評価額に基づいて算出されます。実効税率は0.98〜2.84%の範囲で、自治体による加重税率が上乗せされるため地域差が大きいです。農地や居住用など、用途ごとに税区分も異なります。
インド
インドの固定資産税は市や州が決定し、1〜5%程度と幅広い水準です。都市部ほど税率が高く、デリーやムンバイなどの大都市では3%前後が一般的です。外国人は土地を直接所有できないため、法人経由での保有が中心となります。
東南アジア諸国
- タイ
2020年から「土地建物税」が導入され、住居用は最大0.3%、農地は最大0.15%、商業用は最大1.2%です。近年は減免措置も実施されているため、実効負担率は下がることもあります。 - フィリピン
不動産評価額に対し、都市部で1.5〜2%、地方で1%程度です。さらに教育基金として1%が加算されます。首都圏マカティ市やパシグ市では1.5%が標準的です。 - ベトナム
日本のような固定資産税はなく、代わりに土地使用税や土地リース料が課されます。税率は0.03〜0.15%程度と低いですが、土地の所有権は国に帰属するため「使用権」としての契約となります。 - シンガポール
不動産の「年間評価額(家賃相当額)」に対して課税されます。居住用の場合は累進税率(4〜16%)、非居住用や商業用は一律10%が適用されます。高額物件では税負担が重くなるため注意が必要です。
固定資産税が存在しない地域
モナコ、マルタ、ケイマン諸島、アラブ首長国連邦(UAE)など一部の国・地域では固定資産税が存在しません。ただし登録税や不動産取得税、年会費など他の形でコストが発生する場合があります。

納税の時期と支払い方法
海外不動産の固定資産税は、国や地域ごとに納税の時期や支払い方法が異なります。日本のように毎年春にまとめて支払う方式ではなく、年に数回の分割納付が一般的な国も多いため、投資家は事前に把握しておくことが重要です。
納税時期のパターン
多くの国では「年1回」または「年4回(四半期ごと)」の納税方式が取られています。アメリカでは州や市によって異なりますが、4回分割での請求が主流です。シンガポールは年1回、毎年12月に翌年分が請求され、1月末までに納付する必要があります。フィリピンでは年4回の分割払いが可能で、期限を守れば遅延利息を避けられます。
早期納税による割引制度
一部の国や自治体では、納税を早めに行うことで割引を受けられる制度があります。フィリピン・マカティ市では1月20日までの一括払いで約10%、四半期の初めまでの支払いで5%の割引が適用されます。こうした制度を活用すれば、キャッシュフローを圧迫せずに節税効果を得ることが可能です。
支払い方法の選択肢
支払い方法も国によって多様です。従来は現地の市役所や金融機関での窓口払いが中心でしたが、近年はオンライン決済や銀行振込の利用が増えています。たとえば、マカティ市では専用のオンラインサイトで納税が可能で、アメリカ各州でもオンラインシステムが普及しています。遠隔地に居住する投資家にとっては利便性が高い仕組みです。
管理会社や代理人を通じた納付
日本に居住しながら海外不動産を保有する場合、自ら現地に出向いて納税手続きをするのは現実的ではありません。そのため、現地の不動産管理会社や信頼できる代理人を通じて納税するケースが一般的です。管理委託契約の中に「税金の代理納付」を含めることで、期限切れによる延滞税のリスクを避けられます。
納税遅延のリスク
どの国でも納期限を過ぎると延滞税や利息が課されるのが通常です。フィリピンでは未納額に対して月2%の延滞利息が発生します。アメリカでも自治体によっては高率の延滞金が課されることがあり、投資収益を大きく損なう可能性があります。

固定資産税以外にかかる関連税金
海外不動産の購入・保有にあたっては、固定資産税だけでなく、国や地域ごとに多様な関連税金が課されるケースがあります。これらを理解していないと、想定外のコストが発生し、投資収益に大きな影響を与える可能性があります。ここでは代表的な関連税金の種類と特徴を整理します。
都市計画税・教育基金などの付加税
一部の国や地域では、固定資産税に加えて都市開発や教育資金を目的とした付加税が課されます。
例えばフィリピンでは、固定資産税(Real Property Tax)に加えて「SEF(Special Education Fund)」として評価額の1%が上乗せされます。これらは地域インフラや教育施設の整備に充当されるため、実質的な税負担率は固定資産税単独よりも高くなります。
土地使用料やリース料
ベトナムや中国の一部都市などでは、土地を私有するのではなく「使用権」を国から借りる仕組みとなっています。この場合、土地使用料(Lease Fee)が毎年もしくは一定期間ごとに発生します。
土地使用料は立地や用途によって大きく差が出るため、事前に長期的な支払額を試算しておくことが必要です。
登録税・登記手数料
物件を取得した際には、所有権や使用権の登録に伴う税金や手数料がかかる国もあります。
たとえばベトナムでは、登記税(Registration Tax)が土地や建物に対して課され、税率は評価額の0.5%程度とされています。マレーシアやタイでも類似の税制があり、初期費用の一部として把握しておく必要があります。
不動産の種類による課税区分
国によっては居住用と商業用で税率や課税方式が大きく異なります。
シンガポールでは、居住用は累進課税方式が採用されており、オーナーが自ら居住しているか賃貸しているかで税率が変わります。一方、商業・産業用不動産は一律課税となり、投資スタイルによって負担額が大きく変わるのが特徴です。
その他の関連税金
国によっては固定資産税に加え、以下のような税金が導入される場合があります。
- 環境保全税:建築物や土地利用による環境負荷に対して課税
- 不動産維持管理料:マンションやコンドミニアムで管理組合を通じて徴収
- 地域開発税:新興都市や観光地でのインフラ整備費用として導入されるケース
これらは法律や条例の改正で新設されることも多いため、現地の税制改定には常に注意が必要です。

固定資産税の節税方法と経費計上のポイント
海外不動産を所有していると、現地の固定資産税だけでなく、日本での確定申告や税務処理にも影響します。正しい知識を持っておくことで、不要な税負担を避け、投資効率を高めることが可能です。ここでは節税の考え方と経費計上の実務的なポイントを整理します。
日本での経費計上の基本
海外不動産の固定資産税は、日本の居住者であれば確定申告の際に経費として計上できます。特に投資用物件として賃貸収入を得ている場合、固定資産税は「必要経費」に算入可能です。これにより課税所得を減らし、最終的な納税額を抑えられます。
ただし、自己居住用として使用している場合は経費には算入できません。用途による区分を明確にすることが大切です。
損益通算による節税効果
海外不動産の収益が赤字の場合でも、日本での給与所得や事業所得と損益通算できる場合があります。これにより課税対象となる所得を全体的に減らすことができるため、投資初期の赤字を有効に活用できます。
ただし、税務上の取り扱いは国や物件形態によって異なり、損益通算の適用が制限されるケースもあるため、事前確認が欠かせません。
減価償却との組み合わせ
節税効果を高めるためには、固定資産税とあわせて減価償却費を活用することが重要です。海外不動産の建物部分は日本の税制に基づいて減価償却が可能で、これも必要経費に算入されます。土地部分は対象外となるため、購入時の価格配分を正確に行うことが求められます。
現地の節税制度を利用する
一部の国や地域では、早期納税による割引制度や減免措置が設けられています。たとえば、期日前の一括納付で税額の数%が割引されるケースがあります。現地の制度を把握して活用すれば、直接的に税負担を軽減できます。
また、用途変更による優遇措置(居住用・農業用など)や、現地の特別控除制度がある場合もあるため、現地専門家の情報収集は欠かせません。
実務で気をつけるポイント
- 経費算入には支払いを証明する領収書や納税証明書が必須
- 為替換算は支払時点のレートで行うのが基本
- 国ごとに税金の名称や仕組みが異なるため、固定資産税と似た性質の税金も対象になるかを確認する
- 税務署から指摘を受けやすい分野のため、帳簿や証憑を整備しておく

固定資産税が不動産投資に与える影響
海外不動産投資において固定資産税は、物件の購入価格や家賃収入と並ぶ重要なランニングコストです。国や地域ごとの制度や税率によって投資収益に直結するため、事前に把握しておくことが欠かせません。
キャッシュフローへの影響
固定資産税は毎年必ず発生する費用であり、家賃収入から差し引かれることでキャッシュフローに影響します。税率が高い国や都市では、想定よりも実質利回りが低下しやすく、投資計画の修正を迫られることもあります。特に複数物件を保有する場合、固定資産税の合計額が大きくなり、長期的な資金繰りに影響を与える可能性があります。
投資戦略の修正リスク
固定資産税の税率や評価基準は、各国の経済政策や不動産市場の状況に応じて変更されることがあります。例えば、経済成長に伴い税率が引き上げられると、それまで高利回りだった投資が一気に収益性を下げるケースもあります。こうしたリスクを想定し、複数国に分散投資する戦略や、節税制度が利用できる国を選ぶといった柔軟な対応が求められます。
不動産価格との相関性
固定資産税の引き上げは不動産価格に直接影響することがあります。税負担の増加は購入需要を抑制し、価格下落の一因となるためです。逆に、減税や特例措置によって市場が活性化し、資産価値が上昇する場合もあります。したがって、不動産投資では「税制改正が価格変動に与える影響」も分析に含めることが重要です。
長期的なリスク管理
固定資産税は短期的な収益だけでなく、出口戦略にも影響します。売却時点までの累積負担が大きければ、トータルの投資収益を押し下げるためです。投資判断の際には購入時点の利回りだけでなく、将来の税制変動や累積コストを見越して試算しておく必要があります。

海外不動産の固定資産税対策で失敗しないために
海外不動産に投資する際、固定資産税の負担を軽視すると、キャッシュフローに大きな影響を与える可能性があります。国ごとに税率や評価基準が異なるため、事前に具体的な対策を講じておくことが欠かせません。
現地専門家への相談体制を整える
固定資産税の仕組みは国や自治体ごとに異なり、制度改正も頻繁に行われます。現地で活動している税理士や会計士に相談できる体制を整えることは、最も効果的なリスク回避策です。特に複数の国に不動産を保有している場合、税務申告の漏れや二重課税を避けるため、国際税務に強い専門家に依頼するのが安心です。
最新の税制改正を常にチェックする
新法の成立や税率の変更は、投資利回りを直撃します。例えば、タイでは2020年から土地建物税が導入され、従来は非課税だった不動産にも新たに税負担が発生しました。投資対象国の税務当局や自治体の発表、専門ニュースを定期的に確認し、変更に即応できるようにしておく必要があります。
ランニングコストを投資前に試算する
購入時の価格や家賃収入だけで判断せず、固定資産税を含めた年間のランニングコストを試算しておくことが重要です。物件の所在地や用途によっては、予想以上に税負担が重くなるケースもあります。シミュレーションを行い、利回りにどの程度の影響が出るかを具体的に確認することで、投資後のトラブルを防げます。
支払い方法や納税代理の手配を事前に検討する
現地での納税を忘れると延滞税が発生し、資産価値や信用に悪影響を及ぼします。日本に居住しながら投資する場合は、管理会社を通じて代理納付を依頼するか、オンライン納付の利用を検討すると安心です。支払いサイクル(年1回か年4回か)や早期納付割引の有無も確認し、最適な方法を選びましょう。
