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2025年10月10日にモロッコの英字メディア「Morocco World News」が報じたところによると、国際的な生活費データサイト「Numbeo(ヌンベオ)」の最新ランキングで、モロッコの3都市が「アフリカで家賃が高い都市トップ20」に入ったとされています。
Numbeoの「家賃指数(Rent Index)」にもとづくアフリカのランキングでは、モロッコの3都市は次のような順位です。
- カサブランカ:アフリカ5位、世界271位(391都市中)
- ラバト:アフリカ8位、世界283位
- マラケシュ:アフリカ17位、世界339位(前回より9ランク上昇)
アフリカ全体で見ると、家賃の高さ1位はエチオピアの首都アディスアベバ、続いてケープタウン(南アフリカ)、ウィントフック(ナミビア)、キガリ(ルワンダ)、そしてカサブランカが並んでいます。
世界ランキングの上位は、依然としてアメリカの都市が支配的で、ニューヨーク、ボストン、サンフランシスコ、サンディエゴなどが高い家賃水準で並び、シンガポールもトップ5に入っています。
このニュースにより、モロッコの都市型賃貸市場がアフリカの中でも「高家賃ゾーン」に入ってきていることが、改めて数値として示された形です。
Numbeoと家賃指数とは何か
海外不動産投資のニュースで頻繁に出てくる「Numbeo」や「家賃指数」を、簡単に整理しておきます。
- Numbeo(ヌンベオ)
世界各都市の「生活費」や「家賃」「購買力」などを、ユーザー投稿データにもとづいて指数化しているプラットフォームです。 - コスト・オブ・リビング・インデックス(Cost of Living Index)
食料品、外食、交通、光熱費など「生活費(家賃を除く)」を数値化した指標です。 - レンタル・インデックス(Rent Index)
住宅賃料だけに焦点を当て、「家賃の高さ」を相対的に示す指標です。ニューヨークを100とした場合、指数80なら「ニューヨークより家賃が約20%低い」というイメージになります。 - Cost of Living Plus Rent Index
生活費+家賃をまとめて指数化したもので、居住コスト全体の高さを見るのに便利です。 - ローカル・パーチェシング・パワー(Local Purchasing Power)
その都市の住民が、現地の平均収入でどれくらいモノやサービスを購入できるか、購買力を指数化したものです。
いずれも「ニューヨーク=100」をベンチマークにした相対指標なので、
ニューヨークを基準にした“物差し”で世界の都市を比較するツール
と理解しておくと、実務で使いやすくなります。
モロッコ3都市の家賃水準とアフリカ内での位置づけ
Numbeoのデータによると、モロッコ主要都市は「生活費」「家賃」の両面でアフリカの中では高水準グループに入っています。
- カサブランカ
モロッコ最大の経済都市であり、企業・金融機関・港湾関連ビジネスが集中しています。生活費指数・家賃指数ともに国内トップクラスで、駐在員や中間層以上のローカル需要が厚いエリアです。 - ラバト
首都として行政機能が集中し、大使館や国際機関も多い都市です。生活費自体はカサブランカよりやや低いものの、家賃は一部エリアでカサブランカより高くなる傾向が指摘されています。 - マラケシュ
観光都市として世界的に知られ、リヤド(伝統的な中庭付き住宅)を改装したブティックホテルや短期レンタルの需要が増えています。2025年のランキングでは、アフリカ内順位が9ランク上昇しており、観光・デジタルノマド需要などで賃料が押し上げられている可能性があります。
アフリカ全体の中で見ると、これら3都市は「ハラレ・ヨハネスブルグ・アクラ」といった他の物価高騰都市と同じグループに入っていると報じられており、モロッコがアフリカの中でも比較的“高コスト国”として認識されつつあることがわかります。
家賃が高騰する背景。インフレと都市化の影響
モロッコの都市部で家賃が高くなっている背景には、いくつかの要因が重なっています。
- 物価上昇・インフレの影響
- 近年、モロッコでは食料品など生活必需品の価格が大きく上昇しました。
- 2023年には食料インフレ率が一時18%台まで高騰したと報じられており、多くの世帯が食費を削らざるを得ない状況となりました。
- 生活コスト全体の上昇は、住宅コストにも波及しやすく、賃料の上昇圧力となります。
- 都市化と人口集中
- カサブランカ、ラバト、マラケシュは、雇用・教育・医療・行政機能が集中した「国内の受け皿都市」です。
- 地方からの人口流入に対して、賃貸住宅供給が追いつかないと、家賃はじわじわと上がりやすくなります。
- 観光・外国人需要の増加
- 特にマラケシュは、欧州からの観光客や長期滞在者が多く、短期〜中期レンタル市場の拡大が家賃相場を押し上げる要因の一つとなります。
- 民泊・バケーションレンタルが一般賃貸と競合することで、「立地のよいエリアほどローカル住民には借りにくくなる」という問題も生じやすいです。
- 指標としてのNumbeoの限界
- Numbeoはユーザー投稿型データのため、「サンプルが偏る」「検証が限定的」という指摘もあります。
- そのため、絶対値としての家賃水準よりも、相対比較の“傾向”を見る指標として使うほうが実務的です。
投資家が押さえるべき指標と実務への活かし方
日本人の海外不動産投資家が、今回のニュースやNumbeoのデータをどう活用できるかを整理します。
1. 「家賃の高さ」だけでなく「購買力」とセットで見る
- 家賃が高いことは、
- 一定の所得水準を持つテナントが存在する
- 都市としての経済規模がある
ことの一つのシグナルになります。 - 一方で、現地住民のローカル購買力指数が低い場合、「家賃は高いが、実際には払える人が限られる」という状況もあり得ます。
- 投資判断では、
- Rent Index(家賃指数)
- Cost of Living Plus Rent Index(生活費+家賃)
- Local Purchasing Power(購買力)
をセットで確認し、「高級セグメント狙いか」「中間層向けか」を戦略的に決めることが重要です。
2. 都市ごとの“役割”に合わせた投資戦略
- カサブランカ:
- 経済・ビジネスハブとして、オフィス勤務のホワイトカラー層や駐在員向けの中長期賃貸ニーズが想定されます。
- 中心部〜ビジネスエリア近郊の中〜上級賃貸マンション、サービスアパートなどが主なターゲットになりやすいです。
- ラバト:
- 首都・行政都市として公務員や外交関連の需要があり、治安・環境を重視したファミリー向け賃貸のポテンシャルがあります。
- 学生・若手公務員向けのミドルレンジ賃貸も検討余地があります。
- マラケシュ:
- 観光・短期滞在の需要が強く、「日数単位〜数週間単位」のレンタル需要をいかに取り込むかがポイントです。
- 一方で、観光依存度が高い分、景気や治安、規制(民泊規制など)の影響を受けやすいリスクも意識する必要があります。
3. 指標は“入口情報”。現地調査と法制度チェックが必須
- Numbeoやニュースサイトは「入口情報」として非常に役に立ちますが、最終的な投資判断には、
- 現地不動産業者のレントロール(実際の賃料表)
- 公的統計(家賃指数、家計調査など)
- 税制・所有権・外貨規制などの法制度
の確認が必須です。 - 特にモロッコの場合、外国人による不動産取得自体は可能とされていますが、用途やエリアによって規制が異なる場合があるため、事前のリーガルチェックが重要です。
ニュースの見解
今回の「モロッコ3都市がアフリカ家賃トップ20入り」というニュースは、日本人の海外不動産投資家にとって、モロッコが“安い新興国”ではなく、“一定のコストと所得水準を持つ都市市場”へとシフトしているサインと見ることができます。
投資の観点から整理すると、次のようなポイントが浮かび上がります。
- プラス要因
- 家賃水準がアフリカ内で上位ということは、今後も安定した賃貸需要(中間層〜上位層)が見込める可能性があります。
- カサブランカ・ラバトは行政・経済の中枢であり、長期賃貸・駐在員向け物件には一定のニーズが継続しやすい環境です。
- マラケシュは観光地としてのブランドが確立しており、欧州からの需要を取り込めれば、短期〜中期レンタルで高利回りを狙える余地があります。
- 注意すべきリスク
- 生活費・家賃の上昇は、現地住民の負担増にもつながっており、購買力が追いつかない場合、家賃の上昇が頭打ちになる可能性もあります。
- 観光依存度の高いマラケシュでは、世界景気や航空路線、治安・政治情勢に左右されやすく、収益がブレやすい点に注意が必要です。
- Numbeoデータは便利な一方でサンプルの偏りがあり得るため、指標を「鵜呑み」にせず、現地の実データで裏付けを取ることが重要です。
日本人投資家にとって、モロッコ不動産は「高利回りのフロンティア」というよりも、
北アフリカの中で、比較的安定した政治・治安・観光ブランドを持つ中コスト市場
として位置づけるほうが現実的です。
したがって、モロッコへの投資を検討する場合は、
- カサブランカ・ラバトでは中長期の安定賃貸(中〜上級層向け)
- マラケシュでは観光・短期滞在需要を取り込む戦略
をベースにしつつ、為替リスク(モロッコ・ディルハム)、出口戦略(売却市場の厚み)、現地パートナーの選定を慎重に設計することが求められます。
今回のニュースは、モロッコ市場の「価格帯」と「ポジション」を客観的に把握するうえで非常に有用な材料ですので、他のアフリカ・中東諸国との比較や、欧州の地方都市との比較にも活用しつつ、ポートフォリオの分散先候補として検討していくとよいでしょう。
