ベトナムでは、外国人はもちろんベトナム人であっても「土地そのもの」を買うことはできません。土地は全人民の所有に属し、政府の管理下に置かれているためです。売買の対象になるのは、政府が付与する土地使用権と、その土地に付属する資産(建物など)です。

ハノイやホーチミンのコンドミニアムを検討するとき、この前提を知らないまま「所有権を買う」つもりで進めると、契約段階で話が食い違います。この記事では、ジェトロが公表している内容をもとに、制度の枠組みと契約前の確認手順を整理します。

土地は買えない。買えるのは何か

ベトナムでは土地そのものは所有できず、土地使用権と土地に付属する資産が権利として扱われることを対比した図
土地と権利は別物として扱われます

ジェトロは、ベトナムの土地制度について次のように説明しています。

ベトナムでは、土地は全人民の所有に属するとともに、政府の管理下に置かれている。政府が土地を使用する者に土地使用権を付与する。

外国の組織は、外交の機能を営むもの(領事機関、国連に属する組織の代表組織など)を除き、土地使用権の付与の対象にはならない。外国の組織が土地使用権者から転借することは可能である。

出典:ジェトロ「ベトナム 外資に関する規制」(2026年9月4日確認)

つまり「土地の所有権」という商品はベトナムに存在しません。日本の不動産と同じ感覚で「土地付き」を探しても見つからないのは、制度がそうなっているからです。

対象 扱い
土地そのもの 全人民の所有。売買の対象にならない
土地使用権 政府が付与する権利。譲渡・賃貸・出資の対象になる
土地に付属する資産 建物など。証明書で登記される

権利を証明する書類

土地使用権と土地に付属する資産は、1つの証明書で扱われます。ジェトロは、この証明書について「土地使用権および土地に付属する資産の証明書(レッドブック)」と記載しています。日本の登記簿謄本にあたる位置づけの書類です。

関連する法令として、次が挙げられています。

  • 土地法31/2024/QH15:土地使用権および土地に付属する資産を譲渡・贈与・賃貸・資本拠出する場合、土地使用権者は地域の農業環境局に登録を行う必要がある
  • 政令151/2025/ND-CP(2025年6月12日発行):登録の申請書類として、申請書式、契約書、証明書の原本を定めている
  • 通達10/2024/TT-BTNMT:土地管理台帳と証明書(レッドブック)に関するガイドライン。証明書に記載される内容を詳細に規定している

また、海外在住ベトナム人やベトナム滞在外国人の土地使用権と関連する家屋の所有に関する情報は、農業環境省(2025年7月の省庁再編前は天然資源環境省)の公式ウェブサイト上で公表されるとされています。

ジェトロのベトナム外資に関する規制のページ。外国企業の土地所有の可否と土地使用権について解説されている
制度の説明はジェトロのページで確認できます。出典:ジェトロ「ベトナム 外資に関する規制」(2026年9月4日確認)

契約前に確認する順番

権利証明書、登記の状況、外国人が買える物件か、税と送金の4段階で確認する順番を示した図
権利の所在を先に押さえます

金額や利回りの前に、権利の所在を確認する順番で進めると、判断を誤りにくくなります。

順番 確認すること 見るもの
1 権利証明書があるか 土地使用権および土地に付属する資産の証明書。名義は誰か
2 登記の状況 譲渡・賃貸・出資には地域の農業環境局への登録が必要
3 外国人が取得できる物件か 住宅法の枠組み。物件ごとに条件が違う
4 税金と送金 購入・保有・売却・賃貸収入それぞれの扱い

とくに1と2は、価格交渉に入る前に済ませてください。証明書が未発行の物件は、権利の所在を書面で確認できません。当サイトではベトナム不動産のピンクブック確認|未発行物件の契約前チェックと購入見送り基準で、未発行物件を見送る基準を整理しています。

外国人の取得枠について

外国人がベトナムの住宅を取得できる範囲は、住宅法で定められています。棟ごとの上限や取得後の期間など、条件が細かく決まっている領域です。

この記事では具体的な戸数や年数を書きません。制度改正が続いている分野で、時点によって数字が変わるためです。実際の判断では、次の方法で最新の条文を確認してください。

  • 売主やデベロッパーに、その物件が外国人枠の対象かを書面で確認する
  • ベトナムの法律事務所や、日系不動産会社の現地法人に条文を示してもらう
  • ジェトロの国・地域別情報で、最新の制度変更を確認する

「外国人でも買える」と口頭で言われただけで進めないでください。枠が埋まっていれば、代金を払っても自分名義で登記できません。これは他の東南アジア諸国でも共通して起きる問題です。

他の国と比べたときの位置づけ

東南アジアの主要国は、それぞれ違う形で外国人の不動産取得を制限しています。制度の型を知っておくと、比較しやすくなります。

土地の扱い 当サイトの解説
ベトナム 土地は全人民の所有。土地使用権を付与する仕組み この記事
タイ 外国人は土地を原則取得できない。コンドミニアムに外国人枠がある タイのコンドミニアム購入ガイド
カンボジア 土地は取得できない。区分所有の建物に条件がある カンボジア不動産投資ガイド
マレーシア 州ごとに最低取得価格などの条件がある マレーシアのコンドミニアム購入ガイド

共通しているのは、「土地」と「建物・区分所有」で扱いが分かれる点です。ベトナムはそのうち、土地の所有という概念自体を置いていない国にあたります。

ハノイとホーチミンでは何が違うか

同じベトナムでも、都市によって物件の性格が変わります。どちらを見るかで、確認すべき点の重みも変わります。

比較軸 ハノイ ホーチミン
都市の性格 首都。行政機関が集まる 商業の中心。企業活動が活発
物件の探し方 行政区ごとの開発状況を見る 区ごとの用途と開発時期を見る
確認の重み 外国人枠と証明書の発行状況 同左。加えて供給量の多さから物件差が大きい

どちらの都市でも、確認する項目そのものは変わりません。証明書があるか、登記できるか、外国人枠の対象か。この3つを満たさない物件は、立地が良くても検討から外すのが安全です。

現地の生活コストの感覚をつかみたい場合は、ベトナム物価調査。ベトナム(ハノイ)の物価と日本(東京)の物価比較もあわせて確認してください。治安面の見方はベトナムの治安最新情報にまとめています。

投資として見るときの注意

権利の形が日本と違うため、出口(売却)の想定も変わります。次の点は、購入前に自分の言葉で説明できるようにしておいてください。

  • 誰に売るのか:外国人枠のある物件は、次の買い手も枠の制約を受ける
  • いつまで保有できるのか:土地使用権には期間の概念がある。物件ごとに条件を確認する
  • 賃貸に出せるのか:賃貸には登録が必要とされている。手続きの主体と費用を確認する
  • 資金をどう戻すのか:売却代金の送金について、事前に金融機関へ確認する

利回りの計算は、この4点が確認できてからで十分です。権利と出口が曖昧なまま利回りだけを比べても、比較になりません。

とくに保有期間は、日本の不動産と最も感覚が違うところです。土地使用権という権利を扱う以上、「永久に持ち続けられる前提」で収支を組まないでください。期間の条件は物件ごとに異なるため、購入前に書面で確認し、想定より短ければ売却時期の計画に反映させます。

まとめ

ベトナムでは土地が全人民の所有に属し、政府が土地使用権を付与します。外国の組織は、外交機能を営むものを除いて土地使用権の付与対象にならず、土地使用権者から転借する形になります。売買で扱われるのは土地使用権と、土地に付属する資産です。

権利は「土地使用権および土地に付属する資産の証明書」で確認します。譲渡・賃貸・出資には地域の農業環境局への登録が必要で、土地法31/2024/QH15と政令151/2025/ND-CP、通達10/2024/TT-BTNMTが関係します。

外国人の取得枠は住宅法の領域で、改正が続いています。数字は時点で変わるため、必ず契約前に最新の条文を専門家に確認してください。権利と出口を押さえてから、価格と利回りの話に進むのが安全です。

参考にした一次情報

2026年9月4日に確認しています。ベトナムの不動産関連法令は改正が続いています。実際の取引にあたっては、現地の法律事務所や取引金融機関に最新の内容をご確認ください。この記事は制度の説明であり、特定の物件や投資の成果を保証するものではありません。

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