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2025年10月17日、インドネシア政府は「優先50都市(50 Priority Cities)」の開発計画を公表しました。これはプラボウォ・スビアント大統領が掲げる「2029年までに経済成長率8%」の実現に向けた都市政策で、公共事業・国民住宅省(PUPR)のドディ・ハンゴド(Dody Hanggodo)大臣が中核方針「PU608」を提示しています。
短期(2026年)の重点は、食料・水・エネルギーの自給体制を支えるインフラ整備で、財政の持続可能性を確保するためPPP(官民連携)の積極活用を明言しています。PU608は投資の効率性を高め、貧困ゼロへ近づけ、成長率8%を目指す「量から質」への転換方針です。
あわせて、アジア開発銀行(ADB)は同日、インドネシアの競争力強化・グリーン成長・貿易加速を支援する政策ベース融資として5億米ドルを承認しました。外部資金の後押しが確認できる動きとなっています。
政府説明上、都市は機能別カテゴリに分類されています。同一都市が複数カテゴリに重複して登場するため、カテゴリ件数の合計と都市数(50)は一致しない場合があります。最終版は政府の一次資料で今後微修正される可能性があります。
メトロポリタン地域(10)
メダン、パレンバン、ジャカルタ、バンドン、スマラン、スラバヤ、デンパサール、バンジャルマシン、マカッサル、マナド
提案メトロポリタン(4)
プカンバル、ジョグジャカルタ、スラカルタ、マラン
産業都市(9)
チレゴン、バタン、グレシック、モロワリ、コナウェ、ルウ・ティムール、ハルマヘラ・テンガ(ウェダ)、ムンパワ(キジン)、ビトゥン
観光都市(10)
トバ(バリゲ)、ビンタン、タンジュンピナン、ブレレン(シンガラジャ)、マタラム、マンガライ・バラット(ラブアンバジョ)、ブキティンギ、ブリトゥン、ゴロンタロ、アンボン
貿易都市(8)
バンダルランプン、サマリンダ、バリクパパン、ソロン、ブンクル、スラカルタ、ジャヤプラ、マナド
教育都市(5)
デポック、スメダン(ジャティナゴール)、サラティガ、マラン、バニュマス(プルウォケルト)
小規模・特性都市(4)
タナトラジャ(マカレ)、マルク・テンガ(バンダネイラ)、プラウ・モロタイ(ダルバ)、ペグヌングアン・アルファク(アンギ)
背景:なぜ今「50都市」か
急速な都市化と人口増により、交通・上下水道・エネルギー・住宅などの基盤需要が膨張してきました。一方で投資効率の低さが課題であったため、政府はPU608で「効率的・包摂的・持続可能」な投資へのシフトを宣言しています。ジャワ島とジャワ外の均衡成長を図るため、50都市を面的に整備し、メガシティ偏重の是正を狙います。
重点分野:食料・水・エネルギー×インフラ
2026年は、灌漑・送配水網の更新、地下水依存の是正、洪水・渇水対策のダム・ため池、送配電網の強化、分散型電源、廃棄物処理・資源循環といった「レジリエンス×自給力」を高める案件が優先されます。
実施手段:PPPと外部資金
財政負担を平準化するため、政府はPPP(官民連携)案件の拡大を進めます。制度整備やESG要件の強化と並行して、ADBの政策融資が制度面・資金面での追い風となる見込みです。入札・契約プロセスの透明性やバンカビリティの改善が期待されます。
地域配分と都市タイプ(例)
優先都市は「メトロポリタン圏」「準メトロ」「地方中核」「特性ある小都市」などの層で構成される想定です。メダン、パレンバン、ジャカルタ、バンドン、スマラン等の大都市圏に加え、ジャワ外の中核都市も対象となる見込みです。
用語解説
- PU608:PUPR省が掲げる投資方針です。投資効率の改善、貧困削減、年8%成長を柱に、量より質・持続可能性を重視します。
- ICOR(Incremental Capital Output Ratio):1単位の産出増に必要な投資額を示す比率です。低いほど投資効率が高く、PU608ではICORを「6未満」に下げることを目標としています。
- PPP(Public–Private Partnership):公共インフラの整備・運営を官民で分担する枠組みです。財政負担の平準化や民間ノウハウの活用を目的とします。
投資家が注目すべきポイント
- 需要の見える化:50都市への優先配分は、中長期のインフラ・都市拡張ニーズのシグナルになります。住宅(中間層・学生・ワーカー)、商業、軽物流、産業用地、データセンター用地に波及需要が生じやすくなります。
- ESG適合の重要性:水資源・エネルギー自給・グリーン成長が政策目標に据えられるため、省エネ・環境配慮建物は資金調達や評価で有利になります。
- 制度・資金の追い風:ADBの政策融資は規制・制度整備を加速し、PPP案件の透明性・資金調達可能性を高めると見込まれます。
ニュースの見解
日本人の海外不動産投資家にとって、本件は①都市選定の指針と②ESG起点の差別化テーマを同時に示す材料といえます。とくに、水・エネルギー効率と都市レジリエンスを重視するエリアでは、賃貸住宅(中間層・学生・労働者向け)、ワークフォースハウジング、近隣型商業、軽物流、インダストリアル、データセンター関連用地に連動需要が見込みやすくなります。
一方、PPP起点の大規模開発は**入札・承認・環境影響評価(AMDAL)**などのプロセスに時間を要し、為替(IDR/JPY)・金利・建設コストの管理が成否を分けます。初期段階では、
- 公式発表に基づく**優先都市の細目(用途・容積・インフラ時程)**のトレース、
- 水・エネ効率仕様やグリーン認証による差別化、
- 現地パートナーのPPP/ESG実績の重視、
が有効です。総じて「50都市×ESG×PPP」の交点に位置するアセットは、中期的に賃料の安定と出口の流動性が期待できます。一方で情報の非対称性が大きい初期ほど、一次情報のモニタリングとデューデリジェンスを徹底することが超過収益の源泉になります。