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海外不動産相続の基礎知識

海外不動産の相続は、日本国内の相続と比べて適用される法律や手続きが異なるため、事前の理解が欠かせません。特に、どの国の法律が優先されるか、税務や名義変更のルールがどう違うかを正しく把握しておく必要があります。

海外不動産が相続対象になるケース

海外不動産が相続対象となるのは、被相続人(亡くなった方)がその国で不動産を所有していた場合です。投資用、別荘、移住先の住居など、利用目的にかかわらず、所有していれば遺産の一部として相続対象になります。
近年は海外不動産投資が広がり、家族が亡くなった際に初めて海外の資産の存在を知るケースも珍しくありません。

国際相続に含まれる主な資産の種類

海外不動産に加えて、次のような資産も国際相続の対象になります。

  • 海外銀行口座の預金
  • 海外法人の株式や持分
  • 海外に所在する動産(車、絵画、宝飾品など)

これらは現地法や国際私法に従って手続きが進むため、日本国内資産とは取り扱いが大きく異なります。

国内不動産相続との根本的な違い

最大の違いは「適用される法律」と「手続きの場」です。
国内不動産の場合、日本の民法や相続税法に基づき、家庭裁判所や法務局など日本の制度内で完結します。
一方、海外不動産の場合は、不動産が所在する国の法律が優先されることが多く、その国特有の制度(例:アメリカやイギリスのプロベート)が適用されます。結果として、現地裁判所の関与、現地の弁護士の起用、書類の翻訳や認証などが必要になることがあります。

法律適用の考え方

海外不動産の相続では、「相続統一主義」と「相続分割主義」という法制度の違いが重要です。

  • 相続統一主義:全ての遺産に被相続人の本国法を適用(例:日本、ドイツ)
  • 相続分割主義:不動産は所在国の法律、その他の資産は本国法を適用(例:アメリカ、イギリス)

このため、同じ相続でも不動産と金融資産で別々の法律が適用される場合があります。

海外不動産相続をスムーズに行うためには、まず「どの法律が適用されるか」を把握することが第一歩です。国内と同じ感覚で進めてしまうと、現地手続きの壁にぶつかりますから、早い段階で現地法に詳しい専門家へ相談しておくと安心ですよ

どの国の法律が適用されるかを判断する方法

海外不動産を相続する場合、まず重要なのは「どの国の法律(準拠法)が適用されるのか」を正確に把握することです。国ごとに国際私法の規定や相続制度が異なるため、誤った法律を前提に手続きを進めると無効や遅延の原因になります。

国際私法と準拠法の基本

国際私法は、国境をまたぐ相続や契約などの法律関係について、どの国の法律を適用するかを定めたルールです。準拠法とは、このルールによって最終的に適用される国の実体法を指します。

日本の「法の適用に関する通則法」第36条では、相続は原則として「被相続人の本国法」によると定めています。本国法とは、その人が国籍を有する国の法律のことです。二重国籍の場合は常居所国、さらに密接な関係国が基準となる特則があります。

相続統一主義と相続分割主義

各国は大きく二つの方式に分かれます。

  • 相続統一主義
    すべての財産に一つの国の法律を適用する方式。
    日本、韓国、ドイツ、オランダ、イタリアなどは被相続人の本国法を基準とします。スイスやデンマークは最終住所地法を基準とします。
  • 相続分割主義
    財産の種類によって準拠法が異なる方式。特に不動産は所在地の国の法律が適用されるのが一般的です。
    アメリカ、イギリス、フランス、中国などがこの方式です。

不動産とその他資産の違い

不動産はその所在国の法律を優先する国が多く、投資先の国が相続分割主義を採用している場合、日本の本国法ではなく現地法が適用されます。一方、預金や株式、動産などは原則として被相続人の本国法が適用されます。

判断のステップ

  1. 被相続人の国籍・常居所を確認
    国籍や居住実態から本国法を特定します。
  2. 対象財産の種類を分類
    不動産か、それ以外の資産かを区別します。
  3. 所在国の相続制度を調査
    相続統一主義か相続分割主義かを確認します。
  4. 適用法の優先順位を確定
    本国法と所在地法のどちらが優先されるかを判断します。

専門家の活用

国際相続は複数国の法律が絡み、相続税や手続きにも影響します。現地法と日本法に詳しい弁護士・税理士の協力は不可欠です。特に不動産の場合は登記制度や相続手続きの流れも国ごとに異なるため、早期に準拠法を確定させることがスムーズな承継の鍵となります。

海外不動産の相続は、まず「どの国の法律で動くか」を押さえることがスタートラインです。国際相続の判断ミスは後の紛争や費用増につながりますから、早めに専門家と一緒に適用法を確定させるのがおすすめですよ

遺言書の有効性と各国の要件

海外不動産を相続する際、遺言書の有効性は国際的な法制度の違いによって大きく左右されます。国ごとに遺言方式や効力要件が異なるため、作成時には適用される法律を正確に把握することが重要です。

遺言が有効と認められる主な基準

国際相続では、以下のいずれかの法律要件を満たすことで遺言書が有効とされる場合があります(「遺言の方式の準拠法に関する法律」等に基づく)。

  • 被相続人が遺言作成時または死亡時に国籍を有していた国の法律
  • 遺言作成時または死亡時の住所地の国の法律
  • 遺言作成時または死亡時の常居所国の法律
  • 遺言が作成された国の法律
  • 不動産がある国の法律(不動産の場合)

このため、日本法で無効な遺言書でも、所在地国や作成地の法律に適合していれば有効になることがあります。

国ごとの遺言方式の違い

日本では「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3方式のみが認められていますが、海外ではさらに多様な方式があります。

  • 録音・口述遺言:音声録音や口頭での意思表示を認める国も存在
  • ビデオ遺言:映像による意思表示を証拠とできる地域あり
  • 簡易書式遺言:署名と証人のみで成立する場合がある
  • 電子遺言:電子署名やオンライン登録による方式を採用する国も増加

これらの方式が有効かどうかは国ごとの民法や相続法によって異なります。

日本と海外で効力が異なる事例

  • 日本では無効だが海外で有効:録音遺言、証人1名のみの遺言、公証人不関与の電子遺言など
  • 海外では無効だが日本で有効:日本方式の自筆証書遺言をそのまま使用した場合(現地法に適合しない場合)

実務上の注意点

  • 不動産は所在地国の方式要件を優先的に確認する
  • 二重国籍・居住歴のある場合は複数国の法制度を照合する
  • 各国の証人要件や署名・押印形式の違いに留意する
  • 多言語翻訳が必要になるケースでは、誤訳による無効化リスクを防ぐため専門家に依頼する

海外不動産を相続する場合、遺言の形式や有効性は国によって細かく違うんです。日本で作った遺言がそのまま通用するとは限らないので、必ず現地法と日本法の両方を確認しておくのが安全ですよ

海外不動産相続の手続きフロー

海外不動産の相続手続きは、日本国内の相続とは異なる法制度や書類が関わるため、国ごとに流れを把握しておくことが重要です。ここでは検認裁判(プロベート)が不要な国と必要な国、それぞれの大まかな手順を解説します。

検認裁判が不要な国での手続き

日本や一部の国では、裁判所の関与がなく、相続人間の合意で遺産分割が可能です。海外不動産の場合でも、現地法で検認が不要な場合は以下の流れで進みます。

  1. 相続人と相続財産の確定
    戸籍謄本や現地の登記簿などを確認し、相続人と対象不動産を特定します。
  2. 遺産分割協議の実施
    相続人全員で分割方法を決定し、合意内容を遺産分割協議書にまとめます。
  3. 必要書類の準備
    実印・印鑑証明書、または在外公館発行のサイン証明書を用意します。
    海外在住や外国籍の相続人がいる場合は、署名証明の取得が必須です。
  4. 名義変更手続き
    現地の不動産登記所に申請し、相続人名義へ変更します。必要に応じて翻訳文の添付や現地公証人の認証を行います。

検認裁判(プロベート)が必要な国での手続き

アメリカ、イギリス、オーストラリアなどでは、裁判所の監督下で手続きが進みます。

  1. 裁判所への申立て
    相続人または遺言執行者が、プロベート開始の申立てを行います。
    裁判所は遺産管理人(パーソナル・レプレゼンタティブ)を任命します。
  2. 資産・負債の調査と確定
    管理人が不動産やその他の資産、債務を洗い出し、評価額を算定します。
  3. 負債・税金の精算
    現地の債権者への返済や、相続税・固定資産税などの納税を行います。
  4. 遺産分配計画の裁判所承認
    分配案を裁判所に提出し、承認を得ます。この段階で相続人間の争いがあれば、調停や審理が行われます。
  5. 相続人への財産移転
    裁判所の許可後、不動産の名義を相続人へ移転します。
    手続き期間は平均1〜3年、費用は遺産評価額の3〜10%程度かかる場合があります。

手続きに共通して必要となる主な書類

  • 被相続人の死亡証明書(現地言語翻訳付き)
  • 相続人の戸籍謄本または関係証明書
  • 不動産登記簿謄本や評価証明
  • 遺言書(ある場合)
  • 各国が要求する身分証明書や納税証明

手続きをスムーズに進めるためのポイント

  • 早期に現地の弁護士・司法書士・税理士など専門家へ依頼する
  • 必要書類は日本語と現地語の両方で準備する
  • 相続開始前から不動産の所有形態や遺言内容を整理しておく

海外不動産の相続は、現地の法律や制度を正しく理解し、早めに動くことが成功の鍵です。特にプロベートが必要な国では時間と費用がかかるので、事前の準備が将来の負担を大きく減らしますよ

プロベート制度の概要と課題

プロベート制度の仕組みと対象資産

プロベート制度とは、被相続人が残した遺言書や財産について、その有効性と内容を裁判所が確認し、相続人への分配を監督する手続きです。英米法圏(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、香港など)を中心に採用されており、遺産の種類にかかわらず、基本的にはすべての相続財産が対象となります。
手続きの流れとしては、裁判所が遺産管理人(遺言執行者や人格代表者)を任命し、その人物が財産と負債の調査・確定、税務申告、負債弁済、最終的な分配計画の作成と実行を行います。裁判所の許可が出るまで、相続人は財産を自由に処分できません。

日本との制度比較

日本では、遺言書や相続人全員の合意による遺産分割協議を通じて相続が完了し、裁判所が直接監督する制度はありません(遺言の検認を除く)。そのため、プロベート制度は日本の相続手続きに比べて時間的・費用的負担が大きく、かつ形式的な制約が強いのが特徴です。

プロベートの主な課題

  1. 手続き期間の長期化
    一般的に6か月から3年程度、場合によっては10年以上かかることもあります。この間、財産の売却や名義変更はできず、投資機会や資産価値の変動リスクが発生します。
  2. 高額な費用負担
    弁護士費用、裁判所手数料、不動産鑑定費用、会計士報酬、遺産管理費用などが発生し、総額は遺産価値の3%〜10%に及ぶこともあります。
  3. プライバシーの欠如
    遺言や財産内容、相続人情報は一定期間公告され、第三者も閲覧可能です。富裕層や著名人にとっては特にリスクが高い点です。
  4. 資産凍結による制約
    裁判所の許可が出るまで、相続財産の利用・処分ができません。不動産の売却や賃貸、口座資金の引き出しも制限されます。
  5. 国際相続における複雑さ
    海外不動産を所有している場合、その所在地国の法律でプロベートが義務付けられていれば、日本国内の手続きとは別に現地でのプロベートも必要になります。結果として、二重の手間と費用が発生します。

プロベート制度は、相続の公正性や債権者保護には有効ですが、資産承継の迅速性や効率性の面では大きな課題があります。海外不動産を所有する場合は、事前にこの制度の影響を理解し、必要であれば生前に回避策を講じておくことが重要ですね

海外不動産のプロベート回避方法4選

海外不動産を所有している場合、所在国がプロベート制度を採用していると、相続時に時間・費用・手間が大きくかかる可能性があります。事前に回避策を講じることで、相続人の負担を軽減できます。ここでは代表的な4つの方法と、それぞれの特徴・留意点を解説します。

TODD(Transfer on Death Deed/死亡時受取人指定)

所有者が生前に、死亡時の不動産受取人を公的に指定しておく制度です。所有者が亡くなった時点で、指定された人物に直接所有権が移転し、プロベートを経ずに相続が完了します。登記所での登録が必要で、所有者は生前いつでも撤回できます。

メリット

  • 作成手続きが比較的簡単
  • 生前に自由に撤回・変更可能
  • プロベート不要でスムーズに所有権移転

デメリット

  • 利用できる州や国が限られる
  • 受取人が先に亡くなった場合は効力を失う可能性

ジョイント・テナンシー(共同所有)

複数人で不動産を「全員が100%所有」という形で共同所有する方法です。共有者の1人が亡くなると、その持分は自動的に残りの共有者に移り、プロベートを経ずに所有権が移転します。

メリット

  • 共有者の死亡時に即座に所有権が移転
  • 相続手続きが不要

デメリット

  • 購入資金を一方が全額負担した場合、日本の贈与税が課される可能性
  • 共有者全員の合意なしに売却や処分ができない

トラスト(生前信託)

不動産を信託財産として、受託者が管理する仕組みです。委託者が亡くなった時点で、受託者が定められた受益者へ資産を移転します。裁判所を通さず、迅速かつ非公開で資産承継が可能です。

メリット

  • 相続開始後すぐに分配可能
  • プライバシー保護
  • 内容の修正が可能(可撤式の場合)

デメリット

  • 信頼できる受託者の選定が必要
  • 管理・運営に一定の手間とコストがかかる

法人所有

海外不動産を個人ではなく法人(日本法人または現地法人)名義で所有する方法です。個人の死亡によって不動産が直接相続対象になるのではなく、法人株式の相続となるため、プロベートを回避できます。

メリット

  • 不動産そのものの相続手続きが不要
  • 国境をまたぐ手続きが簡略化される

デメリット

  • 法人維持のための会計・税務・登記コストが発生
  • 現地法や税制に応じた管理体制が必要

海外不動産を持つ場合、まずは所在国がプロベート制度を採用しているか確認し、回避策を生前に検討することが重要です。方法ごとに利用可能な地域や税務上の影響が異なりますので、必ず現地法と日本法双方に詳しい専門家に相談して最適な形を選びましょう

税務・相続税対策のポイント

海外不動産を相続する場合、日本と海外の両方で課税対象となる可能性があり、税務面の準備は極めて重要です。二重課税を防ぐための条約活用や、正確な評価額の把握、申告期限の遵守が欠かせません。

どの国に納税義務が発生するかの判断

相続税や遺産税は、被相続人や相続人の居住地、国籍、不動産の所在地によって課税国が異なります。例えば、日本では被相続人または相続人が日本の居住者であれば、全世界の財産が課税対象です。一方、多くの国では不動産の所在地国で課税されるため、現地の税務制度も確認が必要です。

二重課税防止条約の活用

日米、日英など一部の国とは相続税に関する二重課税防止条約が締結されています。条約が適用される場合、同一資産に対する二重の課税を回避または軽減できるため、適用条件や必要手続きを事前に把握し、確実に申告に反映させることが重要です。

評価額算定の精度確保

相続税額は評価額によって大きく変わります。日本の税法に基づく評価額と、現地法に基づく評価額が異なるケースも多く、不動産鑑定士や税理士による二重評価の取得が推奨されます。特に市場価格の変動が大きい地域では、評価時期の選定が節税効果に直結します。

申告期限と納税準備

日本の相続税申告期限は相続開始から10か月以内ですが、海外では異なる期限が設定されている場合があります。両国の期限を逆算し、遅延による延滞税や加算税を防ぐための資金準備計画を立てる必要があります。

生前贈与・信託の活用

被相続人が生前に不動産を贈与する、または信託化することで、将来の相続税負担を軽減できる場合があります。ただし、贈与税や現地法による課税リスクが伴うため、事前のシミュレーションと専門家の助言が不可欠です。

海外不動産の相続税対策は、現地と日本の税制を同時に理解し、条約や評価方法、期限管理までトータルで設計することが大切です。税務は一歩間違えると余計な負担になるので、専門家と早めに動くのがおすすめですよ

専門家に依頼する際のチェックポイント

海外不動産の相続は、現地法と日本法の両方を理解し、税務や登記手続きまで幅広く対応できる専門家選びが成功の鍵となります。依頼前に以下の観点を確認しておくことで、不要なトラブルや追加費用を避けられます。

現地法と日本法に精通しているか

国際相続では、不動産の所在地国法が優先されるケースが多く、日本法との違いが手続きや税額に大きく影響します。依頼先が両方の法律に精通しており、準拠法の判断や相続スキームの最適化ができるか確認しましょう。海外資格を持つ弁護士や、現地の専門家と提携している事務所が望ましいです。

税務対応と二重課税対策の実績

海外不動産の相続では、現地と日本の両方で課税される可能性があります。二重課税防止条約の適用や、評価額算定、納税スケジュールの管理など、税務面での経験が豊富かを確認してください。弁護士と税理士が連携している事務所なら、法務と税務の両面から一括対応が可能です。

翻訳・通訳と現地ネットワーク

登記簿や契約書、裁判所書類など、正確な翻訳が不可欠です。また、現地弁護士・不動産業者・会計士などとのネットワークを持っているかも重要です。特にプロベート制度のある国では、現地専門家の協力なしでは手続きが進まないことがあります。

費用体系と契約範囲の明確化

相談料・着手金・成功報酬・実費など、費用体系が明確かを確認しましょう。見積もり時に「どこまでの業務が含まれるのか」を契約書で明示してもらい、後から追加費用が発生しないようにします。海外送金や現地手数料が別途かかる場合もあります。

実績と専門分野の確認

国際相続、特に依頼する国・地域での不動産相続案件の経験があるかを確認します。ウェブサイトや相談時に事例を聞き、類似案件での解決方法や期間、トラブル事例への対応を把握すると安心です。

海外不動産の相続は、相続法・税法・登記・通訳と多分野の知識が交差する複雑な案件です。依頼する専門家は、現地と日本の両面で動けるネットワークと実績を持っているかが決め手になります。費用と業務範囲を事前に明確化して、安心して任せられる相手を選んでください

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