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2025年10月24日、キプロス内務相コンスタンティノス・イオアヌ氏が国会に提出したデータによると、2024年9月から2025年9月までの1年間で、海外買主による不動産売買は合計1,669件に達しました。内訳は住宅が962件(EU圏買主385件、非EU圏買主577件)で、国際需要が強いパフォスが価格上昇を牽引しています。
同期間に売却された土地(区画)は350件(EU218件、非EU132件)、農地に相当するフィールドは357件で主に欧州籍による取引でした。国籍別の傾向では、ニコシアではギリシャ人が403件で最多、次いでルーマニア人112件、ロシア人80件、レバノン人79件でした。ファマグスタでは英国人が220件で主導し、ラルナカは地域投資家の集積地となり、イスラエル人が850件、レバノン人が723件、英国人が302件を取得しました。
リマソールではロシア人が846件で最多、次いでイスラエル人571件、ギリシャ人261件、パフォスでは英国人が890件で首位、続いてイスラエル人683件、ロシア人327件でした。ホテルの売却はゼロで、区分所有登記が未整備の開発案件についてはビル単位の統計が取れないため、個別ユニットの登録後に戸別で把握されると説明されています。
市場規模と取引額の推移
土地測量局(Department of Lands and Surveys:DLS)によれば、2024年の全国の移転ケースは19,155件で、個別物件は21,469件でした。申告額(Declared Value)は39.4億ユーロ、移転税計算に用いられる受入額(Accepted Value)は43.0億ユーロでした。地区別では、リマソールが活動量・金額ともに首位で、ケース数5,054件、移転物件5,624件、申告額14.3億ユーロ、受入額15.1億ユーロ。ニコシアは取引5,395件、物件6,092件、申告額8.52億ユーロ、受入額9.50億ユーロ。パフォスは3,727件/4,288物件、申告額8.97億ユーロ、受入額9.83億ユーロ。ラルナカは3,775件/4,154物件、申告額5.73億ユーロ、受入額6.37億ユーロ。ファマグスタは1,204件/1,311物件、申告額1.83億ユーロ、受入額2.14億ユーロと最小でした。
買主属性と地域別の特徴
英国、イスラエル、ロシアの買主が上位を占め、EU圏の買主は主にリマソール、非EU圏の買主はラルナカを選好する傾向が見られます。特にパフォスでは英国人の定住・長期滞在需要が強く、価格形成に影響を与えています。一方、ラルナカは近年インフラ整備や新規開発の進展を背景に、非EU投資家の流入が加速しています。
季節性と契約動向
DLSの「Foreign Buyers – Sales and Contracts of Sale 2024」データセットでは、2024年の海外関係取引は6,754件(EU2,785件、非EU3,969件)でした。月次では7月が最も活発で、非EU買主による売買契約の提出が703件と年間最多でした。夏季の現地視察・契約集中、開発業者のプロモーション強化の時期と重なったことが背景です。
用語の解説
「申告額(Declared Value)」は売主・買主が当局に申告する取引額です。「受入額(Accepted Value)」は移転税や手数料を算定するため当局が認定する評価額で、申告額と乖離する場合があります。「フィールド(Field)」は都市部の宅地とは異なる農地・原野を指し、開発ポテンシャルや用途制限が価格に影響します。「区分所有の水平分割登記(Horizontally divided title deeds)」はマンションや複合ビルの各ユニットを独立した資産として法的に登録する手続で、未整備の新築プロジェクトでは建物全体での統計把握が難しくなります。
背景:投資先としてのキプロス
キプロスは地中海東端の戦略要地として、英国・イスラエル・中東からのアクセスが良く、英語使用環境、コモンロー系の法制度、企業・税制上の利便性が海外投資を呼び込んでいます。2019〜2020年の市民権付与スキーム終了後も、居住・長期滞在ニーズ、セカンドホーム需要、観光・IT関連の雇用流入が需要を下支えしています。特にリマソールは高付加価値サービスや金融・テック人材の集積で高価格帯が形成され、パフォスとラルナカは相対的に手頃な価格帯と生活利便性で国際需要が拡大しています。
ニュースの見解
本件データは、キプロス不動産市場で外国人需要が依然として厚いことを示しています。価格帯の高いリマソールは今後も流動性が高く、再販・賃貸の出口が比較的取りやすい一方、取得価格と賃料利回りの逆ザヤに注意が必要です。パフォスは英国人主導で自用・長期滞在需要が堅く、空室リスクが相対的に低い傾向があります。ラルナカは非EU資金の流入が続き、インフラ・開発計画を起点とするバリューアップ余地が見込まれますが、プロジェクトの登記(区分所有権の発行時期)と引渡しリスクの精査が重要です。
日本人の海外不動産投資家にとっては、①地区別の買主層と需要の質を踏まえた出口戦略、②申告額と受入額の差や諸税・移転コストの見込み、③ユニットの区分登記の進捗、④季節性(夏季の価格上振れ・在庫圧縮)を織り込んだ交渉タイミングが鍵になります。利回り重視ならラルナカやパフォスの賃貸実需エリア、安全性重視ならリマソールの一等立地か完成済み・登記済み物件に絞るのが現実的です。新築のオフプランは為替と金利、建設遅延のリスク管理を前提に、開発会社のトラックレコードとタイトル発行の見通しを必ず確認することをおすすめします。
