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2025年11月6日、キプロスの主要不動産ニュースメディアは、外国人および外国資本系企業による不動産取得を厳格化するための法案が、同国議会(House of Representatives)に提出されたと報じました。提出は三本で、左派政党AKELが二本、DIKO・DISY・DIPAの共同提案が一本です。
報道はNigel Howarth氏によるもので、議会審議では市場規模の拡大と規制の抜け穴が焦点となっています。AKEL案は、外国人・外国支配企業の取得管理を近代化・強化し、最終受益者(UBO)の定義を反マネロン法制に基づいて拡大、キプロス法人やEU法人であっても最終的に外国人が支配する場合は「外国支配」とみなす枠組みを導入します。さらに、許可発給の条件を二次規則で詳細化し、大規模土地取得条項の曖昧さを解消し、森林・農地、緩衝地帯(バッファーゾーン)や重要インフラ隣接地の取得を禁止対象として強調しています。
一方で、個人が200㎡までの住宅・アパート、200㎡までの店舗、300㎡までのオフィスを購入する場合には、従来必要だった内閣承認を不要とする軽減措置も盛り込み、同様の免除は外国支配企業にも適用される見込みです。加えて、土地・測量局(Department of Lands and Surveys)長官が、外国人取得規制に抵触する譲渡・登録を受理できないとする改正案も提示され、割当契約や法人スキームを通じた間接取得を封じ、UBOの透明性を高める狙いが明確化されています。
DIKO・DISY・DIPAの共同法案は、いわゆる第三国(EU非加盟国)出身の個人の取得を「単一区画上の住宅またはアパート1件」に限定し、法人取得は所有権または議決権の少なくとも51%をキプロス、EU、またはEEA居住者が保有することを要件化します。森林・農地の取得禁止も明記され、共同提案にはZacharias Koulias、Panicos Leonidou、Pavlos Mylonas、Chrysantos Savvides、Christos Orfanides(以上DIKO)、Kyriakos Hadjiyiannis、Nikos Sykas(以上DISY)、Alekos Tryfonides、Michalis Giakoumis(以上DIPA)各議員が署名しています。立法の目的は、いわゆる「フロント企業」による代理取得を抑止し、農業・農村景観を保護しつつ、国家安全保障と住宅アクセスの両立を図る点にあります。
背景
近年、キプロスではアパート価格の上昇や販売件数の増加が続き、外国人需要が市場を下支えしてきました。他方で、投資経由の取得や法人スキームによる買い回り、沿岸・観光地での土地収用感の高まり、そして国家安全保障や住宅の手の届きやすさへの懸念が同時に進行しました。EU全体でも対内投資のスクリーニング強化が進み、キプロスもその流れに沿う形で外資受入の「選別」と市場の透明化を進めています。
今回の法案群は、過度な土地投機を抑え、UBOを透過化し、取得可能な資産タイプと面積を明確化することで、規制の予見可能性を高める試みといえます。
用語解説
最終受益者(UBO)とは、法人や信託を通じて最終的に利益・支配を有する自然人を指します。反マネロン関連法に基づき、名義上の所有者ではなく実質的支配者を捕捉する概念です。第三国はEU・EEA以外の国を意味します。
バッファーゾーンは、キプロス島内の政治状況に関連して設定された緩衝地帯で、近接地の取得は安全保障上の観点から敏感です。土地・測量局は不動産の譲渡・登録を所管し、違反契約の受理拒否権限の強化は、実務での迂回取得の抑止に直結します。
ニュースの見解
日本人投資家にとっての実務的インパクトは三点です。第一に、非EU居住者による取得上限の明確化と「単一区画・1物件」原則の導入により、複数戸の一括取得や土地の先行押さえといった戦略が取りにくくなります。特に森林・農地、バッファーゾーン隣接地、重要インフラ周辺は取得禁止の方向で、海沿い以外の内陸部や開発余地のある農地戦略は再考が必要です。第二に、法人スキームを用いた取得では、UBOの開示と51%ルール(EU/EEA保有要件)により、オフショアSPVの活用やノミニー構造の柔軟性が大きく下がります。共同出資の場合はEU居住パートナーとの資本・議決設計を早期に詰めることが必須です。第三に、200㎡までの住宅・アパート等に内閣承認免除の軽減策が併存するため、自己使用型や単一ユニットの賃貸投資は、適切なコンプライアンスの下で引き続き成立余地があります。
投資戦略としては、(1)対象を住宅・アパート単体に絞り、面積・用途要件に適合させる、(2)立地は市街地・再開発エリア中心に寄せ、森林・農地や緩衝・インフラ隣接地を外す、(3)法人スキーム利用時はUBO開示体制とEU/EEA比率の設計を先に固める、(4)売買契約から移転登記までの法務・KYC・AMLの審査期間を長めに見積もる、の四点が実務解です。市場面では、複数戸・土地まとめ買いの抑制で、中心部の完成or準完成レジの相対的強含みと、周辺部の土地投機の沈静化が見込まれます。なお現時点では「法案段階」であり、成立時期、施行日、経過措置、二次規則の細目(許可条件・面積計測方法・「隣接」の定義など)がリスク要因です。
既存契約の遡及適用や持分移転の扱いも重要な確認点となります。日本からの資本投下を継続する場合は、現地弁護士・測量士・税務アドバイザーと組成段階から動き、デューデリジェンスで用途地域、インフラ近接、UBO開示要件を先取りし、シンプルな取得形態(個人名義・単一ユニット)に寄せるのが安全度の高いアプローチです。
