最新ニュース
2025年1月1日より、オーストラリアにおける外国人資本利得税源泉徴収制度(FRCGW)が大幅に改正され、不動産売買に関わる外国人投資家および買主・借主に対する手続きが厳格化されました。この改正は、2024年12月10日に成立した「財務法改正法(2024年 税制その他措置第1号法案)」に基づくものです。
改正の概要と日付
- 成立日:2024年12月10日
- 施行日:2025年1月1日から
- 改正対象:FRCGW(Foreign Resident Capital Gains Withholding)制度
- 主な変更点。
- 従来は適用対象となる不動産の価格に一定の下限が設定されていたが、それが撤廃
- すべての不動産取引で15%の源泉徴収が適用される
- 賃貸契約の「リースプレミアム(一時金)」にもFRCGWが課税される
FRCGWとは?
FRCGW(Foreign Resident Capital Gains Withholding)とは、オーストラリアの不動産を外国人が売却またはリース契約(一時金あり)した場合に、その対価の一部(2025年以降は15%)を買主または借主が源泉徴収し、ATO(オーストラリア税務局)に納付する義務のある制度です。
実務における新たな手続きと注意点
クリアランス証明書の必要性(Clearance Certificate)
- 売主がオーストラリア税務上の居住者であることを証明するために、ATO発行のクリアランス証明書が必要です。
- 証明書は無償、有効期間は12か月、取得まで最大28日かかる可能性があります。
- 提出がなければ、自動的に15%の源泉徴収が実施され、ATOに納付されます。
買主・借主の義務
- 取引の決済時に、売主がクリアランス証明書を提出していない場合、買主は売却金額の15%をATOに納付する義務を負います。
- リース契約の場合も、リースプレミアムに対して15%の源泉徴収が必要です。
専門家の見解と警鐘
- Pinsent Masons法律事務所のDeanne Sevastos氏は、「全ての外国人売主との取引が対象となり、実務上の手続きが大幅に増える」と指摘。
- 同じくVanessa Scrivener氏は、「クリアランス証明書の取得を早めに行うことで、決済遅延や想定外の源泉徴収リスクを回避できる」とコメントしています。
- Angie Quan氏は、「証明書がない場合、買主が直接ATOへ納付義務を負う点を見落とすべきでない」と強調。
ニュースの見解
2025年1月1日より施行されたオーストラリアの外国人資本利得税源泉徴収制度(FRCGW)の改正は、単なる税制変更にとどまらず、実際の不動産市場価格や売買交渉の構造にまで影響を与えています。
なぜ価格に影響が出るのか?
1. 売主の手取り減により売値が上がりにくくなる
- 改正により、全ての取引で15%が源泉徴収されることになったため、外国人売主にとっては「確実に受け取れる金額」が減少。
- この減少分を売主が価格に上乗せしようとする動きが出てくる一方で、買主側は手続き負担を嫌い値下げを要求。
- 結果として、売買価格が膠着する・交渉が長引く傾向が強まっています。
2. 不動産売買の“決済リスク”が価格に反映
- クリアランス証明書の取得遅延や不備によって決済が遅れる・失敗する可能性があり、これは投資リスクとして価格評価に反映されます。
- 特にオフショアの日本人投資家にとっては、現地で即時対応できないことが価格の“ディスカウント要因”になる可能性があります。
3. 買主の事務負担とリスク負担増により価格交渉が買主優位に
- 買主は、源泉徴収の義務を負い、手続きミス時には高額な罰金のリスクまで背負うことになります。
- 結果として、買主はその事務リスクを価格に転嫁するため、値引きを求める交渉が増加。
市場構造への波及効果
外国人売主が売却をためらう傾向
- 税務・手続き面での負担増により、「売るくらいなら保有を続けよう」と考える外国人投資家が増え、市場に出回る物件数が減少。
- これは特に、個人投資家や中小規模の物件で顕著であり、供給の減少→一部地域で価格高止まりという結果を生んでいます。
投資回収までの期間延長
- 源泉徴収された15%は、確定申告後に還付される可能性があるとはいえ、数ヶ月単位でキャッシュフローが拘束されることに。
- 利回り計算や投資回収期間にも影響が出るため、「割高物件は避ける」という投資行動につながっています。
今後の展望と戦略的対応
売却を検討する日本人投資家へ
- 早めのクリアランス証明書取得が前提。時間的余裕がある計画を立てる。
- 買主の源泉徴収リスクを軽減するために、透明な情報開示と手続きサポートを提供することで、価格交渉を優位に進める余地があります。
物件購入を検討する日本人投資家へ
- 手続きの複雑さから、外国人売主によるディスカウント案件が増える可能性もあるため、逆に“買い場”として捉える戦略も有効。
- ただし、源泉徴収や税務処理に強い現地パートナー(弁護士・税理士)の選定は不可欠です。
結論:税制強化は「売り手市場の終焉」か?
FRCGW改正は、外国人売主にとっては厳しく、買主にとっては慎重な選別が必要となる制度です。中長期的には、売主が減少し、供給が絞られる可能性がある一方で、取引に積極的な買主は条件次第で有利な価格交渉が可能となります。
日本人投資家にとっては、キャッシュフローと手続きコストの両面を見極め、戦略的に動くことでチャンスを見出せるフェーズに入ったといえるでしょう。